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こんな悪女はお嫌いですか?  作者: フオツグ
番外編

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10/10

贈り物

「旦那様、欲しいものがあるのですが」


 夕食中、ローゼが徐に口を開いた。


「貴様がものをねだるなど珍しい。言ってみろ」


 俺はそう言って、ワインに口をつけた。


「指輪です」


 指輪、と聞いて、俺は婚約指輪も結婚指輪も用意していなかったことを思い出した。

 生まれてからこの方、公爵騎士の鍛錬しかしてこなかった俺には、物の価値というものが全くわからない。ローゼ自身が指輪を選んでくれるなら、それに越したことはない。


「良いだろう。好きに選べ」

「では、ブルーローズダイヤモンドの指輪を──」

「待て」


 俺は思わず制止した。

 ブルーローズダイヤモンドは高価な魔法石の中でも非常に希少なものだ。流石にぽんと買えるものではない。


「別のものにしろ」

「おや、『好きに選べ』とおっしゃったのは旦那様ではないですか」

「まさかブルーローズダイヤモンドを欲しがるとは思ってなかったんだ」

「では、どのようなものを想像していたのですか?」


 ローゼはくすくすと悪戯っぽく笑った。それを見て、ローゼが本気で欲しがっていた訳ではないと悟る。また俺はローゼの術中にハマったのだ。


「……はあ。俺に選んで欲しいなら最初からそう言え」

「ふふ。左手の薬指に似合う指輪をお願いしますね」


 ローゼは左手の薬指を指差して、にっこりと微笑んだ。


 □


 ローゼの願いを叶えるべく、商人を家に呼んだ。指輪をいくつか見せてもらった。

 複数の宝石があしらわれたもの、カーブしているもの、模様のついたもの……などなど様々だ。

 やはり、俺にはどれが良いかさっぱりわからなかった。ローゼが一番喜ぶのはどれなのだろうか。長考して、結局決められなかった。


「お、お気に召しませんでしたか……?」


 悩んでるうちに怖い顔をしていたのだろう。商人は俺を見て怯えていた。


「指輪はあとにする。他のものも見せてくれ」


 指輪以外の商品を見ている内に、考えがまとまるかもしれない。良い気分転換になるだろう。

 すると商人は笑みを貼り付け、部屋いっぱいに商品を並べた。商人のセールストークを聞き流し、俺は商品を見ていった。


「あれとこれを買おう。ああ、それとこれも……」


 俺は目につくものを次々に選んでいった。 指輪のように、一つに決めなくて良いというのは気が楽だ。

 ドレス、帽子、靴、宝飾品……。どれもローゼを引き立ててくれるだろう。

 ローゼはそんな俺を見て困った顔をしていた。


「旦那様、贈り物は大変嬉しいのですが……。私の身は一つしかありませんよ?」

「見ればわかるが」


 何を当たり前のことを、と俺は呆れた。


「貴様はツィノーバーロート公爵夫人だ。その肩書きに見合うものを身につけて貰わねば困る」


 俺がそう言うと、ローゼは笑みを消し、ため息をついた。


「旦那様、やはり頂けません」

「何故だ? 気に入らなかったか?」

「公爵夫人の役目を果たすだけなら、こんなにたくさん必要ないでしょう。今あるのだけで十分です」


「他に理由があるのなら別ですが……」とローゼはちらりと俺の様子を伺った。どうやら、俺に言わせたいらしい。

 その場には商人もいるから俺は躊躇った。しかし、このままだとローゼは今買ったものを受け取らないだろう。俺は覚悟を決めて口を開いた。


「……全て、貴様に似合うと思った。だから、贈らせてくれ」


 言ってて、だんだんと顔が熱くなってくる。やはり、人前で言うのは恥ずかしい。


「だ、旦那様……」


 ローゼは俺以上に顔を赤くした。


「貴様が言わせた癖に何故照れる」

「すみません……面と向かって言われると照れてしまって」


 ローゼは火照る頬に手を当てた。


「旦那様、たくさんの贈り物、ありがとうごさいます」


 ローゼは買い上げたものを見回して、嬉しそうに礼を言った。彼女は俺の言葉一つでこんなにも喜ぶ。愛とは複雑なようで単純だ。


「それで、指輪はいつ頂けるのでしょう?」

「……少し待っていてくれないか」

「ふふ。いくらでも待ちますわ。悩んでいる間、貴方の頭の中は私でいっぱいになるでしょうから。ですが、ちゃんと答えは出して下さいね。『忘れていた』はなしですよ? 楽しみにしていますね、旦那様」



 その後、俺は数週間ほど悩み、指輪を決めた。

 それから二月後、指輪が届いた。婚約指輪と結婚指輪の二つだ。この二つを選ぶのにもかなり時間がかかった。

 婚約指輪にはダイヤモンドが石座に嵌められている。ダイヤモンドには幸運のまじないがかけられている。それにより、希少なブルーローズダイヤモンドにも劣らない魔法石となっている。結婚指輪はシンプルなデザインのものにした。指輪の裏側にはそれぞれ俺とローゼの名が刻印されている。勿論、俺もペアのものを作って貰った。 

 ローゼは二つの指輪を見て目を輝かせた。その顔を見て、悩んで良かったと思った。少し待たせてしまったが、その時間にも価値があったと思えた。


「旦那様」


 ローゼは指を差し出した。嵌めて欲しいと、期待した目で俺を見ていた。望み通り、指輪を左手の薬指に嵌めてやると、ローゼはそれはそれは嬉しそうな顔で笑った。


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