027、マロくんはツンデレ
ちょっと心がささくれつつも、やって来た治療院。
昨日、初めてここを訪れた時は兄姉のこと心配し過ぎて外観なんて気にしていなかったが、今よくよく観察すれば、上の方の窓は丸くステンドグラスがあり、屋根は尖っている石造りの建物である。
全体的に仄暗い雰囲気の建物だ。石の色が灰色だからだと思う。
しかし屋根の上、白い像が見える。像だけ白い。とても目立つ。きっと神様の像だ。治療院が祀るのだから治癒神様かな。
この国の人たちは信心深い。人それぞれに信仰している神様や精霊がいるという。魔法っていう、明らかに神様や精霊からいただいた奇跡があるから、信じやすいのだろう。
さてさて、治療院の前には馬車を留めておく場所、馬車留所なるものがあるのだけど、ふとそちらを見たら見覚えのある馬車がありまして……。
「ラグお爺ちゃんたち、来てくれたんだ」
私が今日、治療院へ行くことは確かにラグお爺ちゃんは知っていることだ。でも、まさか、兄姉のお見舞いに来てくれているとは思わなかった。
それも、私よりも早くに……。
治療院の中に入ったら、私のことを覚えていてくれた受付さんが居て、病棟へ行く前に手洗いの魔法をかけてくれた。
「両手を前に出して──【洗浄】──。はい、宜しいですよ」
これはお見舞いに来た人へ等しくやらねばならないことだそうで。しかし昨日は、慌てていたのか誰もやらなかったね。
私の【清拭除菌】ほど威力はないみたい。ただ、水で手洗いしたようにスッキリはした。
病室前──
「おお、嬢ちゃん。おはようなのじゃ」
──ラグお爺ちゃんがお爺ちゃんの格好で、爽やかな挨拶をしてくれた。
えーと、見た目が若いイケメンじゃなくて、お爺ちゃん姿ということだ。
お爺ちゃん姿は仮の姿らしいが、イケメン姿だと私、緊張するからお爺ちゃん姿の方で良かったかも……。
そう思ったらホッとして、「おはようございます」と挨拶を返し、また頭を撫でてもらった。
ラグお爺ちゃんに近づき上を見あげて目を瞑れば、直ぐになでなでしてくれるの。嬉しい。癖になるう。
そんな朝のスキンシップをしながら、ラグお爺ちゃんから話を聞く。
「父御殿もいらしたかの。此度のこと、心中お察し申し上げる。息子殿も娘御殿も、お嬢ちゃんの魔法で回復はしておるが、ちと奇跡を起こし過ぎたでの、それの埋め合わせを今しておるところじゃ」
ひえ、親父からまた睨まれましたよ。「まぁた、大それた魔法使ってやがったか」という顔ですよ、これ。
「そう睨まんでやって下されよ父御殿。エアリー殿がおらなんだら、貴殿の大事な息子殿も娘御殿も助からなんだろうて。それとも何かの? 大事な子供たちの命、潰えていた方が良かったとでも言うのかの? まだ年端もゆかぬ子供たちじゃ。事件に巻き込まれて疲弊しておる。病室に入っても良いがの、労ろうてやって下されよ」
「…………ちっ」
ナイスフォロー! ラグお爺ちゃんありがとー!
父にとったら兄姉の命は軽いものだ。なんせ托卵された子供たちだからねえ。大事に思っている筈もない。大事だったら成人するまで我が家で育てているよ。
兄は成人になる15歳以前から冒険者していたし、姉もまだ10歳なのに外で働いている。
未成年者には親の庇護が必要なのに、だ。
その点を他人から指摘されたら、さすがの父も気まずいのである。だからって舌打ちするんじゃありませんダメ親父。はしたないですわよ。
「あの、ラグお爺ちゃん、埋め合わせって何のことですか? 確か、昨日のことは口外しないよう治癒師さんたちへの口止めに、お爺ちゃんの権力をお借りしたと思っていたけど……」
「ふむ、それだけじゃと心許ないと思っての。箝口令を敷いたって人の噂というのは認識なく漏れたりするもんじゃからの。そんでの、身近に丁度良い人材が揃っておったんで、そやつらにお願いしてみたんじゃよ。エアリー嬢ちゃんの代わりに矢面に立ってくれんか、とな。で、今、そやつらが魔法行使中じゃ。そろそろ終わるかのう……どれ」
そう言って、ラグお爺ちゃんは病室の扉を開けた。ノック無しで。ノックはした方が良いんじゃないかなあ。
それと、行使中の魔法とやらの具体的な説明は無しですか。そうですか。
「ラグバルド様、予告無しで扉を開けないで下さいませ」
ほーら、怒られた。私知ってるんだ。昨日、従者の格好したミッダンテさんに、いきなり馬車の扉を開けて叱られていたもの。
本日も不意打ちで扉開けをかまして、メイド姿のミアさんに叱られるのは、当然のことだ。
「ミッダンテさんじゃなくて、えっと、ミア、さん……?」
「ふふっ、おはようございます。エアリーお嬢様」
「うん、おはようミアさん」
そう、ミアさん。金髪碧眼爆乳メイドの彼女である。心做しか今日のお胸は前よりも盛ってある気がする。
本来の姿は男性従者ミッダンテさんだが、なぜかメイドをしている謎の人である。
ラグお爺ちゃんもだけど、なぜに正体を偽るのかね。高貴な身分の人の遊びだとしか思えないよ。
……いや、きっと深いわけがあるのだ。私はつっこまないぞ。敢えて。
「お先に失礼をしております。ラグバルド様から説明があったかも知れませんが、あれだけの奇跡を起こされたお嬢様が他人の口の端にすら乗らぬよう、僭越ながら我ら兄弟の力を行使させていただいております」
相変わらずバカ丁寧な言葉遣いですねともつっこまないぞ。敢えて!
で、兄弟とな……?
ふと、ミアさんが体を横にずらした、その先には兄と姉──と、もう一人。
「お初に、エアリー嬢。私はマロウス・ル・トーチ・エンダニアだ。言っておくが、私はお前を信用していない。兄上の頼みだから私の力は貸してやるが、見るからに貧乏人なお前が、この貸しを返してくれることは期待しておらぬ」
ミッダンテさんにそっくりな金髪碧眼様の登場である。
口調は似ていない。ややツリ目で辛口な彼、端正な顔立ちと高貴そうなオーラも相俟って、まるで王子様のようだ。
そしてツンデレ属性のようだ。
信用してないとか期待してないとか否定的なことを言っているが、心の中では見るからにみすぼらしい私に同情しているとみた。
そう思ったら、微笑ましいものだ。ここで喧嘩腰になってはいけない。ツンデレには大らかな気持ちで対処すべし、だ。
ピシッと背筋を伸ばし、踵を揃え足の角度はやや斜めに、そのまま優雅に見えるようお辞儀をした。前世、社会人生活で身に付けた渾身の礼である。
ただし前抱っこしているので、両手はユリシスの頭を支えております。そこだけ勘弁して下さい。まだ新生児なんでね。首かっくんなったら可哀想でしょ。
「初めまして、マロウス・ル・トーチ・エンダニア様。私はエアリーです。名前を憶えていただいて光栄です。本日は私のためにお越し下さったようで、恐悦至極に存じます」
にっこりゼロ円スマイルも駆使する。
「……ふん、分かっているなら、それで良い」
「はい。本日はお忙しい中、お時間を頂きまして誠に有難う御座います」
引き続きアルカイックなスマイルで相手を見つめる。見つめる。じっと見つめる──
──おっと、顔を背けられた。
「兄上、何なんですかコイツはーっ!」
「面白い子でしょう? マロくんも気に入ると思って」
「妙な圧を感じました!」
「そこは頑張れ。負けるなマロくん」
「兄上?!」
兄弟仲、良いね。私たちも今日から仲良しだよマロくん。にっこり。




