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複雑な人間関係

 俺達が戻って来た事で、住民の不安は少し落ち着いた。

 まだベットに寝かしつけられているタケシに聞いたんだが、変異ザルの襲撃は数日に渡っていたらしい。

 

 最初に変異ザルに気づいたのは子供達。

 その時は襲って来る事は無かったそうだ。

 勿論、親にも話は行くが、子供の言う事だからと信じていなかったんだよ。

 

 ところが大人からも目撃情報が入り、そこでやっとタケシもその事を把握した。

 しかし変異ザルたちは、待ってくれない。


 ちょうど雪解けが始まった時期。


 住民が外に出る時を待っていたかの様に、初めての襲撃が起こる。

 この時は間一髪で、タケシ達が住民を守った。

 しかし、それから毎日の様に襲われる日々が続く。


 変異ザルたちの動きは早く、危険になると直ぐに逃げる。

 だが怖がる様子は無く、何度追い払っても駄目だったんだ。

 しまいには夜にも襲撃があり、タケシ達の体力は奪われて行った。


 そして俺達が戻った日。


 朝から襲撃を受けていたタケシ達だったが、遂に病院内まで侵入されてしまう。

 逃げ惑う住人達を警官達が必死で誘導。

 この時すでに犠牲者は出ていたし、病院内はパニック状態。


 もう警官の誘導もタケシの声も届かない状態になる。

 タケシは負傷者を運ぼうとしたから、服があんなに真っ赤だったんだろうな。

 

 こんなパニックの時、取り残されるのは子供達だ。


 タケシはそんな子供達を守る為、懸命に戦っていたんだよ。

 でもそんな時に現れる、ひと際大きな変異ザル。

 寝不足と疲労で、とても戦える状態ではない。

 

 だから力でも早さでも、太刀打ちできなかったらしい。

 

「にぃ。頼りない」


 妹ちゃんに追い打ちをかけられて、かなり凹んでたけどな。


 実際、あと1日俺達の到着が遅れていたら、全滅の可能性だってあった。


 それにしても、サルって頭良いよな。

 ウイルスに侵されていても、統率がとれるのが不思議だ。

 変異種の中では、ゾンビ犬よりも脅威になる。

 

 あの群れだけとは思えないから、監視も増やすべきだろうか?


 俺はそんな風に考えていたんだ。






◇◇◇





 襲撃から3日後。


 

 タケシも動けるようになったので、犠牲者の追悼が行われた。

 遺体もそのままにしておけないので、火葬して見送る事になる。

 変異ザルたちは既に焼いたよ。流石に使えないし。


「本当に残念な結果になり、申し訳なかったと思っている」


「ふざけるな!」 「私の娘を返してよ!」 「お前らのせいで!」


 タケシの言葉に、遺族と関係者から非難の声があがる。

 俺はやめさせようと動くが、ケンに止められた。

 タケシも俺の顔を見て首を振っている。


 被害に遭った事は、本当に残念だと思う。

 でもそれはタケシ達の責任じゃないだろ?

 確かに彼らはコミュニティの代表だ。


 だから命を懸けるのか?

 それは違うだろ。自分達が守れなかった事を、認められないだけだ。

 もう腹が立って仕方がなかったよ。


「おしかりのお言葉は、しっかりと受け止める。だが今は、皆で見送ってあげましょう」


 タケシは非難する人達にそう言い、黙とうを捧げる。

 それまで騒いでいた人間も、この時は静かになったよ。

 誰にも見送られずに、亡くなる人も居る世界だ。


 俺の最後は、誰かに見送ってもらえるんだろうか?


 もしそうなら良いなって思う。


 このあと数日間は、コミュティの立て直しに忙しく過ごした。


 警備の配置とか、考える事も多かったし。


 でもやっぱり、一度ついた火は治まっていなかったんだ。



 ある日の朝、タケシ達幹部の部屋に、住民代表を名乗る男がやって来たらしい。

 どうも遺族たちが、今のコミュニティ運営に不満があるらしい。

 

 なので住民会議の開催が決定。


 俺達も参加要請があったので、病院内の一室へ集合した。


 住民代表と名乗っている男は、亡くなった人の遺族らしい。

 でも別に多くの住民に支持されている訳では無かったよ。

 一定数の人間からは、一目置かれているみたいだけど。


「お前らが話を聞いていれば、俺の弟が犠牲にはならなかった。だからそんな代表には降りて頂きたい!」


「そうだ!」 「このコミュニティは民主主義だ!」 「早く辞任しろ!」


 なんて騒ぎ出したんだけどさ。

 はっきり言って論外だよな。

 俺も聞いてたけど、情報を遅らせたのって子供達の保護者だろうに。


「貴方の意見は分かりました。タケシ君。何か言いたい事はあるかね?」


 一応、会議の議長は片桐さんだ。

 会議中は警察官として中立の立場なんだ。


「情報収集は適切に行い、早い段階で動いています。これは書類にも纏めてありますから、確認してください。資料は今お配りします」


 タケシはそう言って、手書きの紙を全員に配る。

 そこに書かれているのは、目撃情報の詳細とそれに対しての動き。

 聞き取りを行った人物の名前も書かれていて、争点となる初動の遅さを否定する内容だ。


 多分、これには片桐さんが関わってるなと俺は思った。

 警察官だし、報告書関係は手慣れたものだろうしな。


「見ての通り、報告を受けてから、数時間で配置も完了。ですが相手の動きが予想以上に早かった事は認めます。どうされます? 代表選でも行いますか?」


「良いだろう。受けて立つ!」


「はい! 意見を言っても良いでしょうか!」


「えっと。貴女は内田さんでしたか。どうぞ」


 突然、手を挙げて話し出したのは、元(はやし)グル-プの女性代表だった女性だ。

 何だ? 暫く大人しくしてたのに、遂に本性を現したのか?

 まだ俺はあの女性達に対して懐疑的なんだよ。


 でも次の言葉で、ズッコケそうになった。


「代表選をするなら、私達女性はナツミさんを推薦します!」


「それは構わないが、女性代表と言うのは?」


「今の代表者は全て男性です。男性に従うのが当たり前なんて考え方は古い。女性のリ-ダ-でも、このコミュニティは運営できるはずですから!」


「確かに幹部にも女性はいない。分かりました。立候補は認めます」


 おいおい。

 片桐さん。勝手にそんなこと決めて大丈夫か?

 本人の意思を先に聞くべきでしょ!

 妹ちゃんは目を瞑ってダンマリだけどさ。


 まぁコミュニティ運営に女性が入るのは、俺も賛成だけどな。

 同性にしか分からない事ってたくさんあるし。

 

 さぁ直ぐにでも投票開始。


 かと思われたタイミングで、またあの男性が声をあげる。


「投票の前に確認したい事がある。そこにいる片桐さんや有志達が持って帰って来た武器を、我々住人にも使える様にして貰いたい! 武器さえあれば私達でも戦える!」


 俺は立ち上がろうとするが、ここでもまたケンに止められる。

 何でだよ! アイツらに銃なんて渡したら、碌でも無い事になるぞ?

 渡した瞬間に撃たれる可能性もあるのに!


「落ち着け。これについては片桐さんに考えがあるそうだ」


「その意見は悪いが却下だ。訓練もしていない一般人に銃は渡せない」


「警官だからってそんな横暴が許されるのか! ならそこの男とその仲間達は何故銃を持ってる!」


「彼らはこのコミュニティの人間ではない。だから、ここのル-ルは適用されない。以上だ」


 片桐さんはそれだけ言って、直ぐに投票準備を指示した。


 なるほど。確かに俺達は客人だからな。

 まぁ俺達で手に入れたものを奪うなら、警察とだって戦うけどな。

 文句言うなら、自分達で取りに行けばいいのに。


 一応後で仲間達にも注意する様に言っておこうか。

 暴走して襲われたら、たまったもんじゃないし。

 俺は投票準備の進む室内を、警戒しながら待つ。


 今このコミュニティには、警察官が15名。成人男性が28名。成人女性が12名。18歳未満の子供が7名。

 これに俺達6名が加わる。

 代表選は警察官が棄権するから、票は取り合いになるだろう。


 俺達は当たり前だが投票はしない。


 因みに投票は日本の選挙スタイルで、紙に候補者の名前を書いて入れ物に放り込むだけ。

 目の前で結果が分かるから、後からの文句は言いようも無いだろう。


 さて。


 どう言う結果になるんだろうな。






◇◇◇





 

 選挙の後、俺とタケシは病院の外にいた。

 何やら話があると呼び出されたんだよね。


「先ずはおめでとうと言った方が良いのか?」


「ありがとうと言っておく。まぁあんな代表選なら、負ける気も無かったけどな」


 投票結果は、タケシが28票、妹ちゃんが10票、住民代表が9票。

 まぁ圧倒的だったよ。

 何故か妹ちゃんは、悔しがってたけどな。


「それで? 何の用だ?」


「やっぱりお前たちはコミュニティに参加はして貰えないんだな?」


「ああ。今回の件でも分かったけど、揉め事も面倒だからさ」


「アハハ。お前らしいな。俺は諦めてないけど。それと助けてくれて、ありがとな」


 ......用事ってそれか。


 まぁありがとうなんて、面と向かって言われると恥ずかしいけどな。

 タケシはこの後、これからのコミュニティについて夢を語っていた。

 俺も世界が終わらなければ、楽しいかも知れないと思ったよ。


 でも釘はしっかりと刺しておいた。

 一度不満を持った人間は、忘れた頃に何かをするってさ。

 何時も片桐さん達がいる訳じゃないし、俺達もそれは同様だ。


 その話をした翌朝。


 俺の部屋を訪ねて来た警官から、とんでもない話を聞く事になる。

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