ク-デタ-?
その日の朝も俺は夜明け前に起床し、日課のトレ-ニングをしていた。
夜警は当番制なので、俺は気分的にゆっくり出来ていたんだよ。
俺の部屋のドアがノックされるまでは......。
コンコン。
「とうま殿。起きておられますか?」
「はい。起きてますよ」
ドアを開けると、そこに居たのは1人の警官だった。
顔見知りの人物だった為、俺は部屋の中へ招き入れた。
自衛隊基地へ、一緒に言った人なんだよ。
「村井さん。どうしたんですか? 何かありました?」
「それが......」
村井さんが語った事に、俺は本当に驚いた。
事が起こったのは、皆が寝静まった深夜。
最上階の執務室に、一部の住民が押し掛けたらしい。
そこには昨夜の責任者である片桐さんと、他に警官1名。
たまたま村井さんも、定時報告の為に居たみたいだけどな。
押しかけて来たのは、選挙に負けた例の被害者家族達。
この時は夜中に文句を言いに来たのだと、村井さんも思っていたそうだ。
だがその想像は外れる。
片桐さんの隣にいた別の警官が、銃を向けたんだよ。
住民にではなく、片桐さん達に。
慌てて庇おうとする村井さんを、片桐さん自身が止めたらしい。
選挙の時も言っていたが、彼らの要求は銃を手に入れる事。
だが片桐さんは断固拒否の姿勢を崩さない。
そこで実力行使に出たと言う所だろう。
本来ならこう言った手合いにも準備が出来ていて、他の警官が動く手筈になっていた。
でも今回は、それを知る警官がグル。
仕方なく銃の保管庫へ案内する事になった。
だがこの時、被害者家族の男が別の要求をするんだ。
保管庫へ行く前に、元林グル-プの男達を解放しろと。
言い分は、彼らも虐げられた人間だかららしいよ。
一体誰に何を聞いたんだろうな。あり得ないんだが。
片桐さんは、要求通りに男達を解放する。
村井さんは片桐さんの、この行動を不思議がっていたらしい。
警部補は何を考えているんだ? ってさ。
解放された男性達も困惑していたそうだよ。
まるで接点のない男女から、楽しそうに話しかけられても、普通は警戒するよな?
それが終われば、いよいよ武器保管庫へ向かうんだが、ここで意外な人物が登場するんだ。
解放されたのは男達だけじゃない。
あのフロアには彼女が居たんだよ。
そう......レイさんだ。
ここで村井さんも、片桐さんの意図に気づいたらしい。
彼女は片桐さんに銃を向ける警官に背後から忍び寄り、一気に拘束したんだ。
腐っても元警察官だから、無防備な相手を抑える事は簡単だったみたい。
それをチャンスと見た他の警官も応援に駆け付け、被害者家族達も捕まえたんだってさ。
「やっぱり片桐さんが、彼女の部屋の扉を開けたんですか?」
「ええ。アイツも警官としての誇りが残っているだろうと」
片桐さんは凄いなぁ。
俺ならどうしただろう? 解放は躊躇っただろうな。
彼女の心境に何か変化があったんだろうか?
「それでその後は? 村井さんがここに来たのは、俺に報告だけですか?」
「いえ。片桐警部補と夏川レイ巡査がお会いしたいと申しております」
ああ。
予想はしてたけど、俺に用事かぁ。
片桐さんは何となく予想が付くけど、レイさんが俺に話?
今更何を聞かされても、失った物は取り戻せないと思うけどな。
俺よりも委員長や、りさちゃんに話すべきでは?
とか、この期に及んで悩む俺。
まぁ行くんだけどさ。
◇◇◇
村井さんと2人で執務室へ向かう間に、拘束された被害者家族の事を聞いた。
片桐さんからも話はあると思うが、彼らは追放処分になるだろうとの事。
処分について異論はない。危険分子を置いておく必要は無いし。
コンコン。
「入れ」
執務室に入ると、疲れた顔の片桐さんとレイさんが二人だけ待っていた。
村井さんは中には入らず、俺が入室したのを確認して持ち場へ戻ったよ。
何か変な緊張感があるな。
「とうまさん! 本当に申し訳ありませんでした!」
開口一番、そう言って頭を下げるレイさん。
予想はしていたが、こういうのは好きじゃない。
「頭をあげて下さい。俺に謝る必要はありませんから」
それでも暫くは頭を下げたままだったが、片桐さんが声をかけて元の姿勢に戻ってもらった。
久しぶりに見るレイさんは、血行も良くて健康的だったよ。
閉じ込められている以外は、快適だもんなぁ。あのフロア。
「それで片桐さん。俺に御用と言うのはこの件ですか?」
「いや。とりあえず座って話そうか」
俺達は対面でソファ-に座り、改めて話を聞く事になった。
先ずは片桐さんから処分の件を聞く。
一番重い処分は騒動に加担した警官だ。
実際に表だって行動したのは1名だが、執務室まで誘導した警官も居たみたいなんだ。
その警官も既に拘束されているみたいだけどな。
俺をここに呼んだのは、タケシへの報告前に片桐さんの考えを聞かす為だったみたい。
女性がコミュニティ運営に参加する事は異論はない。
だがその代表は、今の所妹ちゃんだ。
そうなると兄妹でコミュニティ運営に関わる事になる。
それは住民の反発を生む事になるんじゃないか? と言う事らしい。
まぁ良く思わない人間もいる可能性はある。
ああ。そう言う事か。
「それでレイさんが出て来るんですね? でも彼女は住民に嫌われてますよ?」
「それは自業自得ですので、しっかりと皆さんに私から謝罪します」
「えっと。その喋り方疲れません? 無理に警察官しようと思うから、精神を病むと思いますけど」
「え......」
「とうま君は相変わらずハッキリと言うんだな。君の立場が羨ましいよ」
「どうせなら、警察官辞めたらどうです? だって今の状況で誰の命令で動くんですか? もう国も守ってくれないのに」
俺はここで思っていた事を言う。
警察官と言う存在は、一般人からすれば安心感をもたらす。
まぁ一部には反発も招くけどな。
でもそれって職業だろ?
別に今の状況なら、無理に警察官やらなくても良いんじゃん。
1人の人間として、このコミュニティを守りたいのか?
それとも仕事としてやるかの違いだけだ。
一線を引いたところで、同じ警察組織から狙われるし。
そんな事を2人に話したんだよ。
2人とも呆気に取られていたけどな。
それにさぁ。
もうすでに俺とか委員長を見逃してるから、警官として駄目でしょ?
と、言ったら苦笑いしてたけどな。
「俺はレイさんの処遇はノータッチで行きます。それを決めるのは、タケシ達と住民だろうし。受け入れられれば、それも良し。否定されれば、どうする? そこで諦めるなら、そこまでの人間だぞ? 誰かと一緒に生きて行くなら、自分の生き方は自分で決めないと。その上で、相手がどう思うかだよ」
そう言い残して、俺は自室へ帰った。
◇◇◇
騒ぎがあってから、1週間が経過。
この間で変わった事と言えば、先ずは女性達が本格的にトレ-ニングを開始した事だ。
新しく加わった7人だけじゃなく、元々の住人からも希望者が出たらしいよ。
それと追放処分についてはもう終わった。
タケシが大激怒でさ。
直ぐに住人を集めて説明して、不満があるなら出て行って貰うという結論を出したんだ。
でもこの件で他の住民の意識も変わったけどな。
率先して仕事を探す様になったし、男性陣もケンと警官達に護身術を習ってる。
今のところ良い変化だとは思う。
後は......レイさん。
彼女は皆の前で謝ったが、やはり否定的な意見が多かった。
それでも諦めず、今は警官と言う身分を捨ててやり直すそうだ。
片桐さんは、住民と警官の懸け橋になれば良いと言ってたけど。
俺としては複雑だ。
少し喋り過ぎたかも知れない。
「とうまさん。まさかあの女の事考えてませんか?」
「ナミ。何言ってんだよ。それよりも仲直りしたのか?」
「謝罪は受けました。でも仲良くする気はありませんから」
「そっか。ならもう言わないよ」
委員長、鋭いし怖ぇよ。
そう言えば今、タケシや片桐さん達と相談しててさ。
もう住人全員に、武器を使った訓練をしようと考えているんだ。
常時持たせるわけじゃ無いが、緊急時に使える様になった方が良いから。
この前の変異ザルもそうだけど、公安警察の動きも分からない。
襲撃されたら、逃げる事さえできない可能性もあるしな。
追放された奴らも、こういう考え方なら受け入れる事も出来た。
でもアイツらはここを支配しようとしたから、追放処分になったんだよ。
銃の扱いは本当に難しいし、持てば気も大きくなる。
TVやアニメみたいに簡単に撃てないしな。
手入れを怠れば、暴発して大怪我するし。
弾が貴重だから、実弾を使った訓練は頻繁には出来ないけどさ。
......さて。
そろそろ委員長の件を終わらせないと駄目だろう。
トラブルが続いたから、あの件が有耶無耶になってたんだよ。
でも彼女は仲間だから、黙ってる訳にもいかないし。
「ナミ。俺と一緒に最上階へ来てくれ」
委員長にとっては身内の事だ。
どんな結果であれ、俺は今分かる情報を隠せなかったんだよ。




