表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末に向かう世界に希望なんて見つかるのだろうか?  作者: 早寝早起き
第1章:ヒッキ-で生き残る編
9/151

恐怖と現実を理解する日

 爽やかな朝。最近よく眠れる気がする。

 昨日の上下運動......いや肉体労働により太ももが筋肉痛。

 ええ。身体はまだ若人なので。


 毎朝の食事は、普段通りサプリメントとブラックコ-ヒ-。

 もう作業的に口に入れる。少し身体がだるい。

 でもまぁ。動けば楽になると信じて、今日も頑張りますかね。


「さて稲垣。そろそろ行くかね」

「ん? 先行っててよ。俺、ちょっと三階の例の蓋開けてみるから」

「そうか。なら取り敢えず102号室から始めるわ」

「OK! 俺も無理なら直ぐに行くし」


 何も起こらないと思うが、ヘタレな俺はしっかりフル装備。

 サウナ的に暑いから、無駄なぜい肉を駆逐するんだ。

 と馬鹿な事を考えつつ非常梯子をゆっくりと1階へ降りる。


 相変わらず騒がしいギャラリ-が居るけど、鋼の精神で絶対見ないんだからねっ。

 ベランダの壁は昨日、稲垣が108号室迄壊している。

 それを見て意外と気が利くなぁと思う。


 違う意味で罪悪感があったのかも知れないがな。

 さてさて。何時もの様にやりますか。

 この時の俺は完全に気が抜けていたと思う。




ゴシャアアアン‼




 は⁉ 突然爆発する様に割れる102号室の窓ガラス。

 咄嗟に顔を庇うが、身体はベランダの柵へ吹っ飛ばされた。

 え⁉ 何だこれ⁉ は⁉ ガハツ!



ドガッ!




 激しく背中を打ち付けた痛みと定まらない意識。

 朦朧とした目に映るのは、自身に迫る二本の腕だった。

 怖い怖い怖い! 恐怖でおかしくなりそうだ。

 だがそれでも無意識に身体は動く。


 顔の前で両腕をクロスし、頭を掴まれる事を防ぐ俺だったが、その行為も失敗だった。

 そのまま両腕を掴まれのだ。そしてもの凄い力で身体が引き起こされる。

 何なんだこれ⁉ なんでゾンビが部屋に居るんだ⁉


 状況を理解し今になってゾンビの存在を強く意識する。

 必死に抵抗するが、振りほどけないゾンビの腕。

 ミシミシと音が鳴るのは、俺自身の両腕の方だった。

 ヤバい。このままじゃ噛みつかれれる。


 そう考え両足で距離を取るように突っ張る俺。

 ガラスで頭を切ったのか、視界が徐々に真っ赤に染まる。

 くそっ! 死にたくない死にたくない死にたくない。



ドン! ドン! ドン!

 


 無我夢中でゾンビを蹴る。それでも引きはがせない腕。

 何でだよ! 離れろよ! 畜生!

 頭の中で叫び続けるが、恐怖で声が出ていない。


 その時だ。


「とうまを離せ! このクソゾンビが!」


 

 鬼気迫る表情でやって来た稲垣が、ゾンビに向けて何かを放つ。



グシャッ!



 ゾンビの顔に刺さったのは俺の家の包丁。

 しかしそれでもゾンビの力は弱まらない。

 おいおい! 完全に刺さってるだろうが!


 何故止まらない? あの情報は真実だったのか?

 クソッ! 死にたくねぇよ!



グシャ! グシャ! グシャ! グシャ!


 

 動きが止まらないゾンビに、何度も何度も包丁を突き刺す稲垣。

 もう顔も頭もぐちゃぐちゃで、緑色の液体が周囲に飛び散っている。

 それを見て俺の意識は段々と冷静になり始めた。


 離れねぇならこの腕を引きちぎってやる!

 俺は猛烈な勢いで、両足をゾンビの胸に蹴りつける。

 この時掴まれた腕を、自身へ引きつける様に力を込めた。


 そんな永遠に続くかと思えた格闘は、鈍い音と共に終わりを告げる。




ブチッ! ブチブチブチッ!




 掴む力は強いが、所詮は腐った肉体。

 力に耐えられなくなった両腕は、肩から無理やりに引き抜かれた。

 この時俺は、もろにその反動を受け、後ろの柵へ飛ばされた。




ガァアアアン!





 再びの衝撃に息が止まる俺。耐えられぬ痛みに歪む顔。

 背中がクソ痛いっつうの! 掴む握力もハンパねぇし!

 身体から離れても、ゾンビの手が掴む力を失わなかった。

 内側に雑誌を巻いているけどさ。手形が付いてんじゃね?


 むかついた俺はゾンビの指を折るように、1本1本剝がしていく。

 気持ち悪いし匂いがキツイし、最低最悪な気分だ。

 両腕を肩から失い顔と頭がザクロなゾンビは、先程までの動きが嘘の様にその場で倒れる。



「はぁはぁ。稲垣ありがとう。もう駄目かと思った」

「遅くなってすまん。武器を探したんだが、焦って時間掛っちまって」

「いや。俺が完全に油断していた。今思えばさ。昨日確認して無かったよな」

「ああそうか。102号室は後回しにしたんだっけか。外から入った訳じゃねぇから、此処で死んだのかもな。しかし焦ったぜ。スゲェ音聞いた時、とうまが梯子から落ちたのかと思ったし」



 部屋の中には居ないって決めつけてた。今の状況で気を抜くとか俺はアホかよ。

 それにしても......ゾンビってあんなに力が強いんだな。

 よくよく見たら、身体は細いし腐ってるはずなのに。

 何があったらあんな力が出せるんだろうか?


 ウイルスが身体を強化するのか? もしそうなら、腐れチ-ト野郎だろ!

 背中の痛みを我慢しながら考えたが、もう1秒でも早く横になって寝たい。



「悪い今日はちょっと休むわ俺。背中が痛すぎて無理」

「そりゃそうだろ。あんな勢いでぶち当たったらさ。よくベランダの柵が壊れなかったもんだ」

「激しく同意するわ。頑丈なのも良し悪しだ」

「ほらサッサと上に行け。俺はこの部屋だけ見てみるから」


 何時もの軽薄さは見せない稲垣。

 はぁ~。疲れた。

 たった1体のゾンビでこれだ。ドラマの主人公には絶対なれそうもない。


 サクッとナイフ1本で処理するとか無理ゲ-すぎる。

 フラフラしながら梯子を上り、這うように部屋に戻るとベットへ倒れ込む。

 稲垣が戻って来たら、背中に湿布貼ってもらおう。


 骨折れてないよな? 勘弁してくれよ。

 駄目だ。頭が回らない。


 俺の意識はそのまま途絶えた。

 




◇◇◇


 


 

 あれから何時間経ったんだろう?

 深い眠りから目覚めた俺は、見慣れた天井を見て安堵した。

 部屋の中は真っ暗だ。


 朝早くから動いたはずなのに、何時間眠っていたんだろうか。

 

「おっ。起きたのか? とうま」

「稲垣すまん。今何時だ?」

「午前2時だな。身体揺すっても起きねぇから心配したわ」

「アハハ。面目ねぇ。イタタタ」


 痛みを感じて背中を触ってみると、熱を持っている様だ。

 でも少しマシになった気がする。

 ん? 稲垣が湿布貼ってくれてたのか。


 しかしこんな調子じゃあ何日か動けないかもな。

 ゾクッ。不意に思い出す今日の出来事。

 今頃になって恐怖が蘇って来た。


 やっぱり俺は戦うの向かねぇな。

 怖い物は怖い。人間があのゾンビの群れに勝てるんだろうか?

 俺には勝つビジョンが浮かばない。


 情けない俺に笑顔を向ける稲垣が、この時ばかりは羨ましく感じたよ―――

状況に慣れても気を抜ける様な世界では無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ