拠点強襲
翌日は俺の奉仕日。
何時もの様に朝食を済ませた後、部屋の鍵が開けられる。
それと同時に罪人達が点呼を取られるんだ。
もう毎回の事だから、俺も慣れた。
経験は無いけど、刑務所みたいだと思ってる。
規律はそれ程厳しくないけどさ。
それが終わればチ-ム毎に移動を開始。
俺はこの時に、リーダ-扱いの男に声を掛ける。
昨日、あの立ち入り禁止区域を教えてくれた男だ。
「なぁ。今日は俺に先頭を任せてくれないか?」
「何故だ。後ろが気にならないのか?」
「少し感覚を取り戻したくてね。最後尾だと感覚が鈍くなってて」
「......まぁ。良いだろう。目的地は覚えてるな?」
「問題ない。地理は覚えが良い方だし」
無事に提案が通ったから、これで第一段階はクリア。
病院から出て、指定されている場所へ向かい始めた。
移動中は特に何も起きず、指定エリアまで到着。
俺は声を掛けてから、偵察目的で建物の中へ。
この時、俺は敢えて姿を隠した。
「やはりアイツだろうな」
姿を隠したのは数分だったが、他の4人の内の1人だけが俺を追う仕草を見せたんだ。
俺はそれを確認してから、皆の元へ戻る。
ゾンビの有無を確認すると言う前提だから、ちゃんと気配も探っているけどな。
因みに今いる建物は元学校だ。
教室のある校舎に用事は無い。
目的は体育館内にある倉庫に、非常用物資が残っているかどうかの確認。
でも体育館の入り口が雪で埋まっているから、校舎内には入らないといけない。
2階部分が渡り廊下で繋がっているんだよね。この学校は。
学校自体はそんなに大きくない。
温泉地だけど、街の大きさは川越町より少し大きいぐらいだしな。
目的の体育館は、地域指定の避難場所なんだよ。
俺は稲垣の事を思い出すから、体育館は好きじゃないけど。
「じゃあこのまま入るよ。入った部屋を出て右へ進むと渡り廊下へ出るはず」
俺の言葉に頷く4人。
もう慣れたけど、返事ぐらい欲しいなぁ。
まぁこれから少し驚いて貰うから、少しぐらい声は聞けるかも知れないけど。
俺は素早く建物内へ入り、ある仕込みをする。
仕込みと言っても難しい事はしない。
少し音を出して貰うだけだ。
ガシャン!
俺を追う様に入って来た男が、机の上に置いてあった花瓶を落とす。
落とした本人は苦笑を浮かべているけどさ。
ゴソ。
ズリズリ。
音に反応したゾンビが、教室の隅から這い出て来る。
数は多くない。
「おい貴様! 確認したんじゃ無いのか!」
その男はゆっくりと立ち上がるゾンビを、柔道技で投げ飛ばす。
はいはい。
流石は警察官だ。俺は今のアクションを見逃してないぞ?
今ゾンビに近寄る前に、腰に手を回した。
あるもんなぁ。そこに何時も使う警棒が。
柔道だけなら、特に疑わなかったけどさ。
その動作は訓練されてるから、どうしても身についてる。
上手く誤魔化してるみたいだけど、これで確信できたよ。
「すまん。こう言う事があるから、感覚を取り戻したかったんだよ」
俺は無理やり申し訳ない表情を作り謝罪。
直ぐに残りのゾンビの排除に向う。
校舎内だし子供のゾンビが出たら嫌だが、ここに居るのは大人のゾンビのみ。
体育館に入りきらなかった人を、校舎内へ受け入れたのかもな。
数分で排除が終わったので、俺にそれ以上文句は出なかったよ。
俺の目的は達成したから、後は真面目に調査を再開。
渡り廊下までは何も無く進む事が出来た。
しかし問題は体育館の中だ。
結構な数のゾンビが居る。
普通なら撤退する所だが、俺達罪人には撤退は認められていない。
だから当然、戦う事になる。
「じゃあいつも通り、各自で対処って事で」
俺はそう言った後、1人で2階から降りた。
動き自体は遅いから無理に戦わず、事前に教えられた倉庫の扉へ向かって走る。
残りの4人もそれに続いた。
少しでも走り込みしてて良かったよ。
体力無かったら捕まって終わりだし。
邪魔なゾンビをバットで払いつつ、俺は扉へ急いだ。
倉庫の扉は閉まっていたが、鍵はかかっていなかった。
ホッとしたが、扉を開けて中にゾンビが居たら堪らない。
出来るだけゆっくりと、押し開きの扉を開く。
他の4人は俺を守るように、ゾンビを牽制しながら待った。
「良しっ! ゾンビは居ないぞ!」
俺は素早く中へ。
続いて女男とガタイの良い男。
そして俺が唯一、注意している謎の男が続く。
え⁉
ブンッ!
「貴様⁉ 何を⁉」
何とその謎の男が後ろを振り返り、俺が警官だと思っている男を投げ飛ばしたんだよ。
それを見た女男とガタイの良い男が、倉庫の扉を閉めにかかる。
一体これはどう言う事だ⁉
もう阿吽の呼吸なんだよ。
表から扉を開けられない様に押さえ続ける二人。
万が一に備え、構えを取る謎の男。
扉の外からは悲鳴交じりの怒声が聴こえた......。
俺はその場で暫く惚けていたんだが、我に返ると扉を押さえる物を探す。
「おい。手伝ってくれ。このラックを扉の前に移動したい」
謎の男に声を掛け、二人で重たいラックを移動。
女男とガタイの良い男も手伝い、何とか扉の封鎖をする事が出来た。
このまま一息つきたいが、俺は3人に声をかける。
「どう言う事だ? お前ら3人は知り合いなのか?」
俺の問いに暫く無言だったが、ガタイの良い男が口を開く。
「俺の名はタケシ。元々この街の住民だ。そしてこの可愛いのが、俺の妹のナツミ。そっちの無口なのが、同じくこの街出身のケンだ。妹と同じ道場に通っている」
「なるほど。それで? 仲間を見捨てたのは何でだ?」
「何言ってんだ? お前も気づいてたんだろ? アイツが何者なのか」
「良く言うよ。あの警官? 監視員? もお前らの知り合いだろうが」
何度も一緒に行動していれば、例え喋らなくてもそれぐらい気づく。
その話以上に驚いた事もあるけどな! やっぱり女じゃん!
めっちゃ強いけど。
「アイツは裏切者」 「そうだ」
「はぁ。黙ってりゃ良いのに、こいつらはもう。そうだよ。警官の佐竹もこの街出身だ。年齢は少し上だけどな」
女男改め妹ちゃんとケンが俺の問いに答えたから、仕方なくと言った感じでタケシが認めた。
そして聞いてもいないのに、身の上話を始めたんだ。
彼らは幼馴染。
割と狭いこの街で育った彼らは、大人になっても付き合いが続いていた。
警官の佐竹は兄貴分。
面倒見の良い男だった為、皆から慕われる存在だった。
実際、パニック発生時は率先して住民を守り続けたらしい。
そんな佐竹が変わったのが、金森がこの街へ来てから。
あっという間にコミュニティの指導者に収まった金森。
佐竹を含む警官たちも次々に従うようになった。
例え知り合い同士であっても、殺傷事が起こるこの世界。
それまでは余程の事が無い限り、佐竹も黙認していた。
やむを得ない場合に限っては。
しかし金森の傘下へ入った途端、それまで親しくしていた人達を罪人扱いするようになった。
「佐竹は仲間を次々に売ったよ。もうどれだけの人数が、怪我も治療されずに逝っちまったか。だから俺達3人は、こんなチャンスを待ってた。とうまだっけ? お前が敵にならないかヒヤヒヤしたけどな」
「俺も良い様に使われたって事だろ。今の所、敵対する気は無いよ。お前ら相手に勝てる気もしないし」
現在の状況は好都合ではある。
でも監視員を殺してしまって大丈夫なんだろうか?
奉仕中だとは言え、俺達が殺ったと思われないか?
もしかしてコイツら、俺を売る気じゃ無いだろうな?
「とうまが何を心配してるかは分かる。でも心配するな。俺は他の警官とも懇意でな。今回は不幸な事故として報告すっから」
「他の警官と懇意? どう言う事だ?」
「あのコミュニティも一枚岩じゃないってこった。金森のやり方に不満を持ったメンバ-も居る」
「それはそうだろうけど。でもこれからどうすんだよ?」
「俺達は金森からこの街を取り返す。とうま。お前も協力してくれないか? お前の仲間も助けたいだろ?」
何の話だ。
話の流れは理解しているし、協力もしないでもない。
あくまでも金森の排除だけならな。
危うい計画だったら、俺は手を引くつもりだけど。
だが仲間を救う? 意味が分からん。
子供達も委員長もレイさんも既に俺の手を離れてる。
ゴボウ医師から穏やかに暮らしてるって......待てよ?
その情報が嘘なのか⁉
いや......ゴボウ医師は俺にそんな嘘はつかないはずだ。
アイツはこれまでも危険を冒して俺を助けてくれた。
ビッチの為だと言って、罪人扱いも受け入れた男なんだ。
「ど、どう言う事だ? 俺の元仲間達は穏やかに暮らしているはず。救うって何の話なんだ?」
「......やっぱり聞かされて無いか。とうまは、かなり警戒されてんだな。俺達罪人は、逃げられない様に人質を取られてんだよ。だから荒くれ者も暴れない。俺も家族を人質にされてるからな」
「人質? じゃあ俺が暴れたら、アイツらが何かされるのか? 教えてくれ! アイツらの現状を!」
「落ち着けよ。俺も詳しくは知らないが、状況は聞いてるから」
タケシは仲間達の置かれている現実を教えてくれた。
先ず兄妹の話だ。
りょうたは、年齢以上に危険視されていて、一日中監視されている生活。
りさちゃんとも会う事は許されず、再教育を受けているらしい。
この再教育って言うのも、聞けば洗脳に近い内容らしい。
りさちゃんは心を開かず、このコミュニティに来た時分は、ふさぎ込み衰弱していた。
そこで俺の提案が渡りに船だった訳だ。
委員長を側に置く事で、感情をコントロ-ルしようとしたんだろう。
その委員長も未だに黙秘を続けているので、りょうたと同じく監視付き。
りさちゃんと会う以外は、外出も認められていない。
だからゴボウ医師も言葉を濁したのか。
「ちょっと待て。ナミには俺の知り合いが付いてくれてるはずだろ?」
「ああ。あの医者の連れの女か。あの女も監視付きだ。何時裏切るか分からない女が信用されるか? 数少ない医者の枷だから、変な扱いもされてはいない様だけどな」
クソッ!
俺がグズグズしている間に、結局アイツらが理不尽な目に合ってる。
そんな事も知らずに俺は、のほほんとしていたのか!
もう許さんぞ金森!
絶対にアイツらを全員救い出す!
「分かった。俺はお前らに全面的に協力する。仲間を救い出すまで」
「いい顔も出来るのね」 「武者は嫌いじゃない」
そこからは今後の彼らの計画について話を聞いた。
怒りに任せて行動しても失敗するからな。
俺もそこまで馬鹿じゃない。
一通り打ち合わせた後、静かになった体育館から出る。
勿論、残っていた物資も持ち出す。
色々あって調べるのが遅れたが、少量使える物もあったからな。
出る時は今までと違い、4人で連携してゾンビから逃げる事が出来たよ。
ゾンビの中に佐竹が居たが、もう相手にしなかった。
他の3人は複雑そうな顔をしていたけどな。
◇◇◇
その帰り道。
俺は不自然な痕跡を見つけた。
これは轍? それにこの大きな足跡って......。
「おいタケシ! どう言う事だ! これもお前らの計画なのか?」
「何の話だ? 何を怒ってる?」
俺は状況を説明した。
俺のみつけた轍は、当たり前だが車の物だ。
それに続く様に大きな足跡。
大きさから連想されるのは、変異ヒグマ。
それらが進む方向は、俺達の拠点である病院なんだよ。
「嘘だろ⁉ 急いで戻ろう!」
タケシが焦った声で叫び走り出す。
俺は既に走り出してるけどな!
グォオオオオオオオオ!
ドォン! ドォ―――ン! ドォン!
パン! パン! パン!
遠くからでも聞こえる獣の雄叫びと銃声。
病院からは何箇所か白い煙が上がっている。
俺達はとにかく急いだ。
あの騒ぎの中に、兄妹と委員長が居る。
待ってろよ。絶対に助けて見せるから。




