知ってから思う事
戦闘が終われば移動を再開。
誰も言葉を発しないから、逆に緊張感が出る。
俺はこう言う関係が心地よく感じてしまうんだ。
気を使うのも苦手だし、話題を提供できる自信も無いからな。
病院を出てから思っていたけど、俺達の向かってる方向に高い建物が少ない。
ここって実際、何処なんだろうな?
場所に関して誰も教えてくれないんだよ。
脱走者に覚えさせないためか?
そんな想像をしている時、先頭をあるくガタイの良い男が右腕を挙げた。
何か言えよと思うが、止まれと言う指示なのは分かってる。
男は俺の方へ向きを変え、クイクイと手招き。
他のメンツは思い思いの方向を見て、その行為に興味を示さなかった。
特に反発する理由も無いから、俺は男の元へ向かう。
「あの赤いコ-ンが見えるか?」
そう言われて指差された方向を見ると、100メ-トルほど離れた位置に三角のコーンが見えた。
俺は頷いて返事を返す。
すると今度は別の方向を指差して言う。
「もう一つ同じものがあそこにある。それを繋ぐラインの範囲には、絶対に立ち入るな」
そう言われたので、同じく確認を行う俺。
まぁまぁ広い範囲を指定されたもんだ。
入るなと言われたら入らないけど、指定された範囲に特別何も見えない。
一面が雪に覆われていて、何箇所か突起物が見えるだけ。
置かれたコ-ンだって、吹雪いたら見えないんじゃねぇのか?
「悪い。立ち入り禁止なら入らないが、一体ここは何なんだ?」
「そうだな。落ちたら面倒だ。ついて来い」
男は少し考えたようだが、俺の問いかけには応じた。
俺は言われるまま、男に続き進入禁止エリアへ向かう。
落ちるってなんだろうなと疑問を浮かべながら。
進入禁止エリアの間際まで来て、男はその場にしゃがみ込む。
そしておもむろに雪を掘り出したんだ。
俺もただ立っているのも暇なので、一緒に掘る事にする。
特に礼も言われないけどな。
そのまま30センチほど掘った際、コツンと固い感触が手に伝わる。
何だろう? ガラスか?
「絶対に割るなよ。強化ガラスだが、この気温では何時割れてもおかしくない」
「こんな場所に強化ガラス? なぁ。これ何なんだよ?」
男は返事の代わりに、黙々と雪を除けて行く。
すると、そこに驚くような光景が広がったんだ。
「なっ⁉ どう言う事⁉」
思わず声を出してしまう俺。
ガラスの下には広い空間が広がっているんだが、そこに大量のゾンビが群がっていたんだよ。
何でこれ程の数のゾンビがここに⁉
こんなの落ちたら助からないじゃん!
「これで分かっただろう。落ちればあの連中の仲間入りだ」
「どう言う場所かぐらい教えてくれよ。いくら何でもこんな群れは見た事無いぞ」
「まぁ良いだろう。この場所がどう言う経緯で出来たかを教えてやろう」
男が話すには、俺達がさっき歩いて来た雪の下は駅らしいんだよ。
ちょうど2階部分に駅のホームがあり、そこから商店街に向けて続く直通の通路があるんだ。
屋根も含めて前面ガラス張りで作られている為、通路から下を覗けば商店街が見える仕様。
この歩道が商店街の屋根代わりにもなってる。降りる階段も複数付いてるし、雨の日も安心。
『駅から直通で駅前の商店街に行ける空中歩道!』
なんて愛称まで付けられていたらしいよ。
でも住民からの評判は最悪。
かなりの工事費を掛けて作られた物だが、上を歩けば下から丸見えだから女性は激怒。
更に夏になれば通路内が高温になり、とても歩けたものじゃない。
観光の目玉として期待されたんだが、結局使用される頻度は低いままだったんだ。
何故こんな物を作ったのかと聞いたら、ここの市長が視察で関西の有名水族館へ行った際に、感銘を受けたとかなんとか。
あれは水中だから成り立ってんだよなぁ。
今は魚代わりにゾンビの群れが見えるけど。
「でもそれとゾンビが集まってる理由は別だろ?」
「俺もそれは分からん。ある日突然、移動したとしか」
ん?
俺はここである事を思い出す。
ちょうど会いたくない人間と会ったから、当時を思い出したんだけどな。
長谷川村から高原ダムへの移動の際に、ゾンビが集団で移動してた事があったよな。
あれも原因は分からなかったが、集団で移動する要因はあるだろう。
あの時はダム付近。今回は......あれ? あの看板って⁉
俺は考え事をしながらゾンビを見てたんだが、その際に知りたくなかった情報が目に入ったんだ。
『ようこそ! 鞍馬温泉へ! 美容に良いお湯をお楽しみください!』
何て言う言葉の入った看板をさ。
ここって俺達が目指した温泉地かよ!
叫びたい気持ちをグッと堪えるのに苦労した。
ああ。色々と夢見て歩いた先にここはあったのか。
なら兄妹達も委員長やレイさんも無事に辿り着いてたんだなぁ。
考えれば納得できるんだよ。
飲み水は普通に出て来てたし、食べる物も罪人以外は野菜とかも食べてるのかも?
遠目で見た住人は小奇麗にしてたし、風呂とか入れるのかも知れない。
もしそうなら、子供達も委員長も喜んでるだろう。
温泉楽しみにしてたし。
ピシッ。
「おいっ! 何してる! 早くそこを退け!」
その叫び声で俺は意識を戻した。
俺さぁ。知らないうちにガラスの上に立ってたわ。
今、俺の足元は蜘蛛の巣みたいにひび割れている。
こんな時ほど焦っちゃ駄目だ。
ゆっくり移動すれば大丈夫。
ピシシ。
頼む。流石にここ落ちたら、もう助からん。
動こうとはするんだけどな。
今動いたら割れるのが分かっちゃうんだよ。
だから体重の移動が出来ない。
アカンて。こんな映画みたいな危機はいらない。
その時だ。
ブンッ!
突如、俺の身体が空中に浮いたんだ。
もう誰かにぶん投げられたみたいに。
......って投げられてる⁉
ドスンッ!
受け身も取れずに、雪の上へ叩きつけられる俺。
もっとこう優しく出来ないもんかね⁉
恨みがましく見上げた俺を、女男君が冷たい目で見てた。
「つまらない男」
どう言う意味だ⁉ ちゃんとお礼を言うつもりだったのに!
そして何事も無かったかのように、俺を置いて移動を始めるメンバ-達。
俺も慌てて立ち上がり、後ろを着いて行ったけどな。
案外優しいとこあんじゃんって思ってるけど、口に出せないと言う関係性。
初めての調査は、そんなトラブルがありながらも、無事に病院へ帰る事は出来た。
この後に入った住居で、無事に新しい金属バット君ゲット出来たけどな!
◇◇◇
もう事実が分かってから1週間。
俺は同じチ-ムで数回の奉仕活動をしている。
身体が本調子に戻るまで、どうするか考える時間が欲しかったんだよ。
正直、罪人の扱いを除けば、このコミュニティに不満は無い。
訓練された制服警官もいるし、武器もそれなりにある。
変異種や公安警察相手でどう戦えるかは不安だが、話によれば金森の賛同者も多いらしい。
だから川口の様に合流してくる人数も増えて行くだろう。
対人戦は人数が多い程良いし、制服警官など戦える人間が増えれば、より安全性も増すだろう。
勝手に心配していた兄妹も、ゴボウ医師の話ではかなり馴染んでるみたい。
委員長の事は口を濁すんだけどな。俺には知られたくない事もあるのかも知れないが。
レイさんは姿を見たよ。
こっちは一切見なかったけどな。
仲間に知り合いだと思われたくないからだろう。
別に俺は気にしてないから、無視されても良いんだけどな。
一応知り合いだし、元気な姿を見て安心はするけど。
でもなぁ。
居心地が良いのと、納得できるかは違うんだ。
俺は集団生活が苦手だし、このままここに居るつもりはない。
それに政治家は嫌いだ。
大を生かす為に、小を切る。そんな判断が出来るのも政治家だから。
この考えは自体は、おかしくは無いよ。必要な場面も、こんな世界だからあると思うし。
でもそれを勝手に決められるこっちは、到底納得出来んよ。
誰かが決めないと、コミュニティを存続できないのも理解してるけどさ。
衣食住なら、俺は何とでも出来る。
水源さえあればだけどな。
じゃあ俺は何を悩んでるんだろう?
口では逃げると言っているけど......。
やっぱり気になるんだよなぁ。兄妹や委員長の事。
本当に満足できてるか? もう俺の事は忘れたのか?
なんて柄にもなく思っちゃうんだ。
でも今の状況じゃ会う事も出来ないんだよ。
ゴボウ医師だって、多分無理をして情報を聞いてくれてるし。
駄目だ。駄目だ。
考え込んでも答えなんか出ない。
とにかく逃げる前提で情報収集しよう。
先ずは監視員が誰かを、見極めるって決めてたじゃないか。
一番簡単なのは今一緒に動いてるチ-ムだ。
あの4人の中に監視員は居る。
一応の目星は付いているが、どうやって尻尾を出させるかが問題だ。
考えてる事が、上手く行けばいいんだけどなぁ。
それを明日、必ず暴いてやるんだ!




