不敬さん?
皆が寝静まった頃、俺は夜の警戒をする為に部屋の外へ出る。
心配はしていなかったけど、念の為婦警さんも見に行く。
「貴方も大変ね。いつも夜警してるの?」
「そうですね。貴女も起きてたなら、聞きたい事があるんですよ」
「何かしら? 答えられない事もあるけど」
「公安警察の事です。貴女は同じ警察官として、彼らを支持してますか?」
この質問に対してどう答えるのかに興味があったんだ。
答え次第では警察組織が完全に敵になる。
「私は嫌いよ。公安警察は秘密主義過ぎて、こんな世界になる前から得体の知れない組織だったわ」
彼女はそう言ってから、公安警察に対する不満をぶちまけた。
同じ警察官として、一般市民を問答無用で虐殺する様なやり方に賛同は出来ない。
本当に国の指示で動いているなら、もはや日本は終わっているなど。
警察官から出る意見としては、かなりぶっちゃけた発言が多かったよ。
それに彼女は女性に対する扱いについても、不満を持っていた。
セクハラ行為の横行など、同じ制服警官に対しても放送禁止用語連発。
あまりにも色々喋るので、答えられない事って何だろう? って思う程だった。
もう婦警さんじゃ無くて、不敬さんじゃね? とか思っちゃたよ。
「はぁ。スッキリした。こんな事、普段言えないから」
「そ、そうですか。それだけ不満を抱えていても、警察官であり続けるんですか?」
「まさかこんな世界になると思わなかったから、警察官で居ないと自分が壊れちゃいそうだったのよ。でも、もうそれも無理だってわかったわ。あのクマにここが襲われた時に」
変異ヒグマの襲撃があった際、男性警官は我先に逃げ出したらしい。
彼女を含む女性警官は、誰に頼る事も無く散り散りに逃げた。
聞けば、公安警察は制服組に戦う事を指示したらしいが、例え警官でも化け物相手ではその気力も続かなかったらしい。
「もう地獄だったわ。私は外へ逃げることが出来ず、とにかく身を隠すために取り調べ室へ逃げたの。階下から聞こえて来る、悲鳴や獣の叫び声に震えながらね」
その時の事を思い出したのか、両腕で肩を抱きながら彼女はそう言った。
まぁ俺達も見たけど、あれだけ暴れられたら、どうしようもないだろうな。
でも彼女が無事だったのは何故だ? この階だって変異ヒグマが侵入しただろうに。
気になったので聞いてみた。
「この階にも変異ヒグマは来たんですよね? あの部屋が安全とは思えないんですが」
「それがね。同僚が建物内と外で、公安警察から渡された物を使ったんだと思う......」
内緒だけど、と言って彼女から聞かされた話。
公安警察がここの警察署へ来た際、渡された支給品があると言うんだ。
それはマリンホイッスルという、クマ避けに使われる笛だったらしい。
俺が今一番欲しい物だ。
元々米国の沿岸警備隊で作られたと言われる、高周波が出る笛。
アレならカラスにも効果があるし、変異種相手でも一定の効果が見込めそう。
自衛隊が持ってると思ってたんだけど、思わぬ話にテンションが上がる。
「それ残ってませんか? あれば譲って貰いたいんですが!」
「......あの部屋にもあったわよ。欲しいなら持って行っても良いけど、条件を言って良いかしら?」
「条件ですか。無理難題を言われても困りますよ?」
「私も一緒に連れて行って欲しい。ここに1人で残るのは、怖いし嫌なのよ」
う~ん。
これは予想していた発言だけど、皆に相談してからだな。
俺的には即、お断りしたい。
理由は簡単。警官の倫理観では、俺達と相容れないだろうし。
それに女性をこれ以上増やすと、面倒事も増えるだろうからな。
「即答は出来ませんね。ここに居たら、いずれ公安警察も戻って来ますよ? 武器も残ってますし」
「嫌よ。あんな奴らの言いなりになるぐらいなら、戦ってでも出て行くわ」
うん。
この人嫌いじゃ無いけど、判断は朝になってからだな。
◇◇◇
「このおねえちゃんは、だいじょぶ」
そんな姫の一声で、俺を含む仲間からの反論は沈黙。
俺は自分の考えを正直に話した上で、皆に判断を求めたんだけどね。
色々と騙されて来たし、直ぐに信用も出来ないだろ?
だからこれからも様子は見るつもりだ。
「じゃあ。これからよろしくお願いします」
隔離していた部屋から出たレイさんは、そう言って俺達に頭を下げる。
言いたい事言ったから、スッキリした顔してるよ。
俺はその分疲れてますけどね!
そんな挨拶の後、軽く朝食を食べた。
レイさんは人と喋り慣れてるから、場は明るい雰囲気だよ。
俺には出来ない事だから、ある意味助かる。
それが終われば出発準備だ。
「レイさんもご自分の装備を持って下さい。手ぶらで歩けとは、言いませんので」
どれだけ信用が出来なくても、外へ出るのに武器無しはマズい。
変異種が居ないのなら、それでも大丈夫だったけどな。
例の笛は人数分ゲット出来たし、良い事もあったと意識を切り替える。
防弾チョッキがあったのも、幸運だったよ。
銃撃戦もあると思うし。
「じゃあ出発するぞ。周囲の警戒は怠らない様に!」
ここからは地図でしか、安全な場所が判断できない。
だから変異種への警戒と、敵となる人間にも注意が必要だ。
歩く順番は、りょうた、委員長、レイさん、最後に俺とりさちゃんだ。
本当は委員長に殿を任せたい。
でもまだ経験の足りない、りょうたの補助を任せた。
レイさんを間に入れたのは、監視と実力を知りたい為。
「温泉楽しみです~」
「僕行った事無い」 「一緒に入る?」
皆、ウキウキしているが、本来の目的は温泉に入る事じゃないぞ?
今から向かうのは、一番近い温泉地なんだよ。
安全な水を確保したいのが一番の理由。
それと今後の事を考えて、一番農地として使えそうな場所だからだ。
今は山も平地も、この急激な気温変化で農作物が育ちにくい。
そこで少しでも可能性のある場所を考えたんだよ。
勿論、温泉の性質にもよるけど。
火山の近い地域と海に近い温泉地は、選択肢からは除外。
酸性泉、硫黄泉は有毒ガスや塩害などの問題があるし、農地には向かないからな。
本当は温泉なんてどこでも出るんだけど、1500メートル掘れる機械なんて無いし。
平地に整備されてある単純温泉なら、ミネラルウォーターとして飲める。
それだけでも向かう価値はあるんだよ。
本当は冬が終わるまで待ちたかったけど、もう水の確保が難しいんだ。
人数が増えたから、消費する量も多いし。
だから温泉地に向いながら、今まで通り物資の調達もする。
移動時間が限られるから、どれだけ早くても3週間はかかるだろう。
途中立ち寄る場所でレイさんにも戦って貰った。
分かってはいたけど、対ゾンビなら問題がない。
ただ柔道の技は、今のゾンビには厳しいと思うんだ。
腐ってるからさ。腕とか足とか引っ張たら......。
「うわぁ。変な匂い。制服に匂いついちゃったよぉおお。何でゾンビって、こんなに脆いの?」
「我慢して下さい。警棒を使えば良いじゃないですか」
「だって短いから怖いのよ! バット貸してよ!」
「嫌ですよ。住宅へ入って探してください」
とまぁ、ギャアギャアと煩い。
りょうたがレイさんを、可哀想な物を見る目で見てる。
キャラが変わっちゃてるよね。
そこを除けば今の所、問題行動は無いんだけどさ。
そんな俺達の旅は、まだ始まったばかりだ。
出来れば何事も無く目的地に着いて欲しいが、期待は出来ないだろう。
だから誰一人欠ける事が無い様に、俺は気を引き締めたんだよ。




