襲撃者来たる
工場での生活も1ヶ月程経った頃、りさちゃんが立てるまで回復した。
いやぁ。ここまで本当に大変だった。
食べる物が缶詰と少量のお米だけなので、どうしても栄養が偏ってしまう。
そこで俺は周辺の住宅を片っ端から捜索。
サプリメントを探したんだよ。
未開封なら期限切れでも劣化が抑えられているし、足りない栄養が摂れると思ったんだ。
面白い事に結構多くの家で発見できたんだよ。
皆、普段から健康に気を使っていたんだなぁと感心した。
俺なんかコンビニ飯中心の生活だったし、健康に気をつけた事は無かったよ。
子供達には、骨が丈夫になって欲しいからカルシウム。
それと何となく緑黄色野菜のサプリを中心に与えた。
俺も一緒に飲んでたんだけどさ。
何故か兄妹は試しに飲ませた青汁がお気に入りになったんだよ。
不味い・苦いと言うイメ-ジがあったんだけどなぁ。
最近は色々な味があるみたい。
基本的に粉だから持ち歩けるし、数は揃えておいたけどね。
そうそう。
事務所棟にいた男女も、今は自分達で物資調達に出ているんだよ。
ゾンビとの戦いは危なっかしいけど、彼らでも何とか対応できているみたい。
暑い日が続いてゾンビの身体もかなり腐って来てるからな。
動きも鈍くなってるんだよ。
それでも上手く立ち回らないと、大量のゾンビに囲まれてしまうけど。
是非自分達で経験を積んで、自立した生活を送って欲しいものだ。
それは良いとして、俺はまた気になっている事がある。
少しずつ周辺の探索範囲を広げているんだけどさ。
嫌な視線を感じるようになったんだ。
ねっとりとした嫌らしい視線でさ。俺は碌でもない連中だと思ってる。
だから出来るだけ遠回りをして、拠点が分からない様に帰って来てる。
でも事務所棟の奴らは何も考えて無い。そこまで余裕もないんだろうけど。
後を着けられていれば、近々工場に襲撃があるだろう。
その時にどうするかを今、真剣に悩んでるところだ
りょうたは逃げるぐらいは出来ても、りさちゃんはまだ激しい動きは出来ない。
そうなると工場に立て籠もって戦うのか? 或いは子供達を連れて逃げるのか?
俺が1人なら各個撃破で戦う一択なんだけどな。
別に自分が強いとか思って無い。1対1でも負ける時は負けるし。
複数人を相手にしたら、あっという間に殺られるだろう。
でも戦って駄目なら仕方ないし諦めもつくだろ?
子供達は絶対逃がすつもりだけどさ。
「とうまお兄ちゃん。僕も戦うよ! りさを守るって約束したし」
「そうか。でも今回は見るだけだ。ゾンビなら立ち回り方を教えても良いが、相手が人間だからな。でもりさちゃんの事は任せるから」
「そうなんだ。分かった! 任せて!」
「わたしだいじょうぶだよ?」
「うんうん。りさちゃんはもっと食べて、元気になろうな」
最近の癒し成分は、りさちゃんなんだよ。
まだ幼いから無条件に可愛い。
外が殺伐としてるからさ。
精神安定剤的な? まぁ自分でもキモイと思ってるけど!
とりあえず癒し成分を守る為に、生き残る事を考えねば。
◇◇◇
俺は逃げるのを諦める事に決めた。
まだ体力のない兄妹を抱えて、ゾンビから逃げるのは難しいからだ。
じゃあ俺だけで戦うのか? それも厳しい。
相手が何人で、どう言う集団なのかも分からない。
もしかしたら食人集団の可能性もある。
そう考えると比較的防御力の高い、今の拠点を使う方が良いだろう。
だから事務所棟のやつらにも声を掛けた。
「アンタらも自分の命が大事なら、戦うしかないぞ」
「ど、どうして襲われるんだ⁉ まさか君が何かしたのか?」
「は? まだそんな事言ってんのか? 状況を考えろよ。今は食料を得るのも難しいんだよ。だから手っ取り早く、持ってる奴を襲う集団がいるんだ。そいつらは情け容赦ないぞ?」
「で、でもどうやってそんな奴らと戦うんだ? 私じゃあ戦力になりそうもない」
はぁ。
何時まで他人事なんだよ。このオッサン。
こんな世界で平和ボケしてる場合じゃないっての。
「それは自分で考えろ。と言いたいところだが、いきなり対人戦は無理だろうな。なら建物の出入り口をガッチガチに固めて、遠距離で戦うしか無いだろう。例えば......」
俺は自分の考えを話して、使えそうな案を提示した。
どうするかは自分達で決めれば良い。
俺も守る気は無いしな。
ただ頑張ってくれたら助かるかな? って言うぐらいだし。
何だか内輪で揉めてるから、俺はさっさと退散。
時間が勿体ないから、偵察に出たんだよ。
そしたら工場を出て、わずか5分で発見したよ。
人数は10人程度だろうか。
見るからにガラの悪い集団だ。
腕に刺青が入っていて、手には鉄パイプ。
何人かバイクに乗ってる。
よく燃料があったな。公安関係者?
流石にそれはないか。
この分ならあまり時間がない。
これが山ならトラップも仕掛けられるんだが......ん? トラップか。
別に足止めになるなら、敵にバレても良いんだ。
俺は直ぐに近くの住宅に入り、適当な袋に缶類を集めて行く。
そして相手のル-トを予想し、道路に缶をばら撒いた。
あの風貌の奴らなら、邪魔な缶とか蹴ったりするだろう。
バイクも踏むはず。その音でゾンビを集めてくれたら、待ち受ける時間が出来る。
罠って単純な方が引っ掛かりやすいからな。
カン! カン! カン!
「何だよこれ! 邪魔だ!」 「オラァ!」 「轢いちゃえよ」
アホだ。
見た目通りで助かるわぁ。
自信があるんだろうけど、襲撃前にゾンビと戦って体力使ってくれ。
俺は工場へ急いで戻った。
一応事務所棟にも、襲撃者が来る事は伝えた。
後は自力で生き残れ。
りょうたとりさに隠れるように指示し、俺は戦闘態勢で身を潜めた。
ブロロロロ!
来たな。
バイクは勢いよく工場の敷地へ入って来る。
ご丁寧にゾンビも引き連れたままだ。
本当に何も考えて無いのか? グルグルと敷地内を走り回っている。
じっくりとタイミングを計り、1台のバイクの側面から鉄の棒を突き出す俺。
コンベアの部品なんだけど、軽いし持って来たんだよ。
俺の狙いはバイクのホイ-ル。
「うわぁああ!」
ガシャーン!
良かった。
上手く倒れてくれた。
倒れたバイクの男にゾンビが群がる。
それを助けようと寄って来るもう1台のバイクにも、同じように鉄の棒を突き出した。
と言っても今回は身体を目掛けてだけどな。
運転している男の注意が、完全に倒れた男の方に向いていたんだよ。
ゴシャッ!
バイクから男は投げ出され、無人のバイクはゾンビへ突っ込んだ。
俺は冷静に倒れた男を鉄の棒で滅多打ち。
そこにゾンビが寄って来たので、素早く離れ距離を取った。
これで2人。
他のメンツも各々がゾンビと戦っているか、事務所棟に侵入を試みている様だ。
俺は人間と戦うには不向きな鉄の棒を捨て、右手にバット、左手にナイフを持って襲撃者へ走る。
そしてゾンビの攻撃に合わせるように、襲撃者に近づきナイフで足を斬りつける。
「てめぇ! 汚ねぇぞ! ゾンビ共、邪魔だ!」
そうそう。
ゾンビが邪魔だよな。
でも連れて来たのお前らだし。
俺もゾンビを注意しながら、何度も同じことを繰り返した。
地味に嫌らしいだろ? これ狩りでもやってたんだよ。
獲物の機動力を奪うには、地味な攻撃を繰り返すのが基本。
一撃で倒せる程、俺は強くないから。
あまり同じ場所に居ると、ゾンビに囲まれるから移動を繰り返す。
狙えそうなタイミングを計って、他の襲撃者にも攻撃。
もう見るからにイライラしているのが分かるんだ。
今の世界は食料を満足に食べられないから、体力がない奴が多い。
俺は結構スタミナがある方なんだよ。
1人で移動をして来たし、山で活動したおかげで鍛えられてるしな。
そんな俺よりも、事務所棟の奴らの攻撃がエグイ。
瓦礫をぶん投げてるんだよ。襲撃者に向ってさ。
俺が提案したんだけど、あれ当たったら痛そうだわ。
現に侵入しようとしていた男は血まみれだし。
出血で動きが鈍くなってる。
もう時間の問題だな。後始末はゾンビに任せればいい。
俺は念の為、もう一度斬りつけた襲撃者に攻撃。
動けなくなるのを見守ってから、一度兄妹の元へ帰った。
「ああ。疲れた。結局、奴らが何者か分からなかったな」
2階の窓から襲撃者の最後を確認しながら、行き当たりばったりな作戦を反省する。
今回はたまたま相手が馬鹿だから上手く嵌った。
でも組織的に動いてくる相手には通じないよな。
冬になるまで、こう言う襲撃はまた必ずある。
その時までにもっと色々考えないと駄目だな。
全てが終わった後、必死にゾンビを駆除した俺は本当に疲れたよ。




