ヒッキ-生活の危機?
稲垣とグ-タッチで、ずっ友どっこいしょでウフフ。
なんて今のこの世界は甘くない。
もうね。完全にガラスが割れる音を聞いたんだわ。
やっぱりあの群れに対してマンションのガラスは負けたよね。
きっとなだれ込んできてるよ。
はぁ。どうするべ。
自室に引き籠ってる間は大丈夫。
これは自信を持って言える。
だって俺は角部屋で、廊下側に窓は無いんだ。
他の部屋の廊下側の窓には、ぶっとい面格子ついてるから多分大丈夫だしな。
俺の部屋の窓は壁側と裏手の二か所。
二階だし下から登れる程低くない。
それは良いんだけどね。問題は今後の話ですよ。
「稲垣さぁ。荷物何も持ってないよな」
「ん? 財布と携帯だけだぜ。持ち出す時間も無かったしな」
「あれ? でも避難所が襲われてから、10日は経ってるだろ? 何か話聞いた感じ逃げた勢いみたいに思ってたけどさ」
「ああ。一旦みんなと一緒に逃げて保育所みたいな場所に入ったんだよ。でも俺は他の人と折り合いつかなくてさ。とりあえず空き家を転々としながら、こっちに向かったんだわ。着替え何かはその時に拝借した」
小奇麗だと思って不思議だったけどスッキリした。
まぁ着替えは俺のを着れるし良いか。
それよりも問題は食料だな。
水は余裕あるけど、2人で計算したら5日で限界だ。
そうなると此処を出るか、或いは食料を調達する必要がある。
俺は稲垣を奥の部屋へ入れて、玄関ドアに耳を当てた。
「「「「ウゥウウウ」」」」
あちゃー。これもう廊下いっぱいに居るんじゃね?
玄関から出るのは不可能に近い。
完全にやっちまってるよね。詰んだのかな?
俺のヒッキ-生活の危機勃発。
「これは無理だな。普通に外に出られないわ」
「ん? とうま何言ってんだ? ベランダから下りられるだろ?」
「え......そ、そうか。避難梯子があるんだよな。普通なら」
「無かったら消防検査でアウトっしょ。何なら全部の部屋に移動できるじゃん」
あはは。完全に頭から抜けてたわ。
確かマンションのベランダって、火災や災害時に逃げる為に梯子設置されてたんだっけ。
あれ? これってチャンスじゃね?
時間もあるし安全に調べられるよね。廊下側から侵入はされないんだし。
ベランダからなら向こうの端まで一直線だ。上の階へ登れるか分からないけど。
さてさて。その気になったら即行動が若者の基本です。
男同士だとさ。こう言う時に動きが軽い。稲垣はベランダへ出るなり、隣の壁をバコバコ殴る。
いやいや。殴らなくて良いから。押せば割れるはずなんだって。
俺のそんな声はお甲斐なしに進む稲垣。
まぁ良いんだけどさ。もしまだ残ってる住人居たら怒られるかも?
因みに、このマンションは階毎に8部屋ある。
俺が201号室だから向こうの突き当りが208号だ。
もうね。止まらない稲垣は、あっという間に全ての壁を破壊しました。
「稲垣。とりあえずベランダから1部屋ずつノックするからな。いきなりガラスとか割らないでくれよ」
「とうま。流石に俺もそんな事しないって。怪我するじゃんよ」
「さっきまで壁を殴っていたお前からそんな言葉が出るなんて。お父ちゃんうれションしそう」
「誰がお父ちゃんやねん! せいぜいお兄ちゃんやろ!」
「ツッコミが雑! 小学校からやり直せ!」
「ななな......なんでやねんっ!」
ちょっと変なテンションになり、二人で腹を抱えて笑いあった。
どうしようもない現実を一時でも忘れたいんだよなぁ。
特に今の稲垣は精神的にまいってるだろうしさ。
この後一通りベランダからノックしてみたが、2階に残っている住民は居ない事が判明。
その内の2軒ほどが鍵も開いていたんだよね。
もしかして普段から閉めて無かっただろうか? ちょっと普通なら考えられないんだが。
空いていたのは205号室と203号室。2人なので手分けしてお邪魔する事にした。
俺は203号室を探す事にして、例のごとく土足で部屋へ入る。
残された衣類から男性が住んでいた様だ。少し派手目のス-ツもあるし。
冷蔵庫付近から異臭がするので、早い段階から留守だった可能性が高い。
早々に諦めキッチンへ移動する。するとあったよ食料品!
カップ麺が5個と缶詰が3個。焼酎の1升瓶もあったが、生憎俺は下戸なんだ。
稲垣が飲むなら持って帰っても良いが、まぁ後で良いだろう。
食料はこれ以上無さそうだし、後はやっぱりタオル関係かな。
クロ-ゼットを開けてみるが、衣類や何か分から無い雑貨ばかり。
持っていたのかな? と思ったが念のために見たユニットバスの室内にありました。
少し湿気てる感じもするが、嫌な匂いはしないので大丈夫だろう。多分きっと。
もう危険も無いので自分の部屋へ物資を運ぶ。
そしてゴミ袋を持って再び戻り、冷蔵庫の中の物を処分する。
ちゃんと軍手はしているよ。手を洗うのに水が勿体ないしね。
しかしこの部屋も水のペットボトルは無かった。
買い溜めする俺がおかしいのだろうか? ちょっと友人の言葉を思い出し、目から汗が......。
そんなこんなで203号室の探索は終了。自身の部屋に戻る前に205号室へ向かった。
「おおーい。何かあったか? って何エ〇本見てサボってんだよ!」
「ちっ。今良い所だったのに邪魔すんなよぉ。ほれ。そこに集めてあるぜ」
「結構あるじゃん。この部屋の人は俺と同じ感覚の持ち主かも」
「まぁ変態も色々だしな。ビ-ルもケ-スであるし。今日は宴会だぜ!」
「はいはい。って誰が変態じゃい! 俺はムッツリじゃ!」
「気持ちいい程の自爆ありがとございます?」
何だろう。稲垣と話すとお口チャック出来ない。くっそー。
ま、まぁ良かろう。それにしても欲しかった水が3ケ-スもあるじゃん。
大量大量。おっと冷蔵庫のゴミを始末しなきゃな。
という事で2部屋から、約2週間分の食料をゲット。
今日は物資も潤ったので探索終了。
本当なら節約しなきゃなんだけど、この日の晩は多いに食べた。
稲垣は弱いくせに、ビ-ルを浴びるほど飲んで早々と撃沈。
きっと疲れてたんだろうさ。今日ぐらいは贅沢も許そう。
降って湧いたヒッキ-生活の危機だったが、取り敢えずの猶予が伸びた。
結果オ-ライ!
あくまでも家宅捜索です(令状は無い逮捕-)




