役割
あの騒ぎの後、生き残った全ての村民は血液検査をした。
村民達も異常な状況に危機感を持ったようで、混乱する事も無く素直に従ったらしい。
俺はそんな状況でも周囲から距離を取った。
畏怖されていると言えば聞こえは良いが、実際は仲間からも気を使われる事にショックを受けたんだよ。
自ら進んで行動したとは言え、その結果がこうなってしまうとね。
俺はその気持ちを川口さんに相談したんだ。
そこで川口さんは俺に向ってこう言った。
「辛い役割を背負わせてしまってすまない。だが頼めるのは君しかいない。皆の団結の為、犠牲になってくれないか?」
もうね。流石は元政治に関わっていた人だと思ったよ。
感心すると同時に俺が思ったのは、俺って使い捨ての駒なのか? って事。
俺がそれを了承して団結するならすれば良いけど、俺の事は誰が守ってくれるんだ?
そんな風に思った俺っておかしいか?
でも俺はそれを了承したんだ。
だって今はここでしか生きられないから。
冬が終わるまで我慢するしか無いじゃないか。
◇◇◇
俺と川口さんの密約があった後、川口さん達と村民で話し合いが行われ、正式に別居状態は解消された。
中央の不干渉地帯も無くなり、徐々に交流も再開されたんだよ。
検査の結果、ウイルスが発見された村民の対応も必要だったし。
万が一新たな発症があれば、今度こそこの場所は崩壊してしまうから。
対応は丸川先生に一任され、治療の目的で感染者はクリニック近くに集められた。
そこで精神的なケアと栄養状態の管理がはじめられたようだ。
またウイルスの研究も並行して行い、解決の糸口を探って行くらしい。
俺も目立たない時間に、継続して検査は受けている。
もうかなり体内からウイルスが消えているので、完治も近いのかも知れないよ。
そうで無くても距離を感じ始めた俺に更なる追い打ちがあった。
助けを求めて飛び込んできた女性に恨まれているんだよ。
突然俺の元にやって来て、泣き叫んで糾弾されたんだ。
その場はマリコさんやミドリさんが仲裁に入ってくれたんだが、周囲からは憎悪の籠った目で見られて本当に怖かった。
後から判明した理由を聞いて、それなら仕方がないとは思ったけどさ。
最後に発症し皆の前で俺が処理した女性が、彼女の母親だったんだよ。
それを聞いたら俺へ向けられる感情も理解は出来た。
ああ。覚悟はしていたけど、やっぱりこう言う事になるのかとね。
俺も自分で恨んでくれていいと言ったから、何も反論せずに黙って話を聞いていたんだよ。
でも内心は絶望と後悔で押しつぶされてしまいそうだった。
聖人じゃ無いから理不尽だとも思うし、納得できない自分もいるんだ。
それでもこれが俺の役割なら、それを全うしようと思ったんだ。
まぁ問題は彼女だけじゃない。ゾンビ化した男性や彼女達家族と親しかった村民の感情もある。
だから俺の姿を見せない様にする必要があったんだよ。
俺に恨みを向ける事で皆が纏まるなら、俺のやった事も無駄じゃ無いだろ?
なんて自分に言い聞かせてさ。
俺って何の為にここに居るんだろうな。
◇◇◇
それからひと月が経ち、もう12月も半ばになる。
寒さは更に酷くなり、消費する薪もどんどん多くなる。
人口が減った分、食料にはまだ余裕はあるけど、ガソリンや薪はそろそろ怪しい。
薪が無いと暖房も温かい食事も摂れなくなるから、本当に死活問題なんだよ。
用意していた薪や燃料が少なくなった原因が1つある。
何時もより冷え込んだ日に、ダムの非常用発電機を使ったんだ。
ガソリンで動かせるタイプだったから、試験的に稼働させてみると言う体で。
皆のストレスを解消させたい意図もあったんだろう。
名実ともにリ-ダ-として認められている川口さんが提案し他の皆が了承。
生活が改善されない不満を交わし、感情の矛先を変えたかったんだと思う。
結果、問題なく電力が供給された。そこまでは良かったんだけどさ。
想像以上に燃費が悪く、消費する燃料も多くなったんだ。
だから結局1日で稼働は断念。
ただ久しぶりに暖房が入った空間は、もう天国そのもので誰からも文句が出なかった。
稼働を止めた後に寒さで、まいってしまう人が出た事は、予想外だったと思うけどな。
本当に文明社会は偉大だったんだなぁと思うよ。
話を戻すがこのままだと薪も足りなくなる。
ゾンビ化した人の分人数は減ったが、体調管理する為に薪の使用量は増えたんだ。
だから解決に動き出す必要があった。
ではどうするのか?
色々な意見は出たみたいだけど、入り口の雪を何とかしない事には、問題が解決できない。
そこで俺にも白羽の矢がたった。
正直に言うと便利使いだと思ったよ。
でも黙々と作業が出来れば、余計な事も考えなくても良い。
だから俺はそれを受けた。
別に皆の為じゃない。俺にも考えていた事があるからだ。
除雪作業は男性中心で行う事になったが、俺と一緒に作業したい人は居ない。
だから俺は1人で、皆と離れた場所から除雪を始めた。
1人で作業を行う事については、川口さんからも了承を得ている。
あちらから頼んだ事なので、文句も言えないだろうけどな。
◇◇◇
俺は作業を始める前に、自分のテントを移動。
表向きの理由は、いちいち行ったり来たりも面倒だから。
作業場は皆とは離れた場所に決めたから、本当に気が楽になったよ。
ザクザクザク。
無心で目の前の雪を掻き出す。
俺は裏側の出入り口を担当しているんだが、もう壁にしか見えないんだよ。
掘っても掘っても雪。
1日中掘って成果は1つ。
久しぶりに土を見たんだ。
かなり湿っていて、靴がドロドロになったけどな。
それに問題も1つ。
搔き出した雪がテントの周りにしか置けなかったんだ。
仕方ないよな。内側にしか置き場所が無いんだし。
そのせいでテント周りの気温が下がるから、夜は地獄のようだった。
それでも手は止めず、次の日も無心で雪と向かいあう。
精神修行でもしている気分になったけどな
3日後。
未だに空が見えない。
入り口の周囲は人が2、3人立てるぐらいスペースは出来たけどな。
奥に掘り進めるは、早々に諦めたんだ。
だから今は上を目指してるんだよ。
階段状に雪かきを進め、更に2日後。
とうとう頭上に光を感じた。
もうね。飢えた野獣の様に掘った。
ボコッ。
不意に手元が軽くなり、スコップが上に突き抜けた。
それと同時に落ちてきた雪に巻き込まれて落下。
怪我はしなかったが、かなり危なかったよ。
取り敢えず外に出られそうなので、俺は自分の荷物を纏めて再度雪の階段を上った。
......ああ。そうなるか。
やっと見えた空はぶ厚い鼠色の雲に覆われていた。
現在の時刻は午前10時。
平常時なら青い空も見えただろうに。
「とりあえず周りを歩いてみるか」
俺は約3ヶ月ぶりに外に出た。
気温はダム内より暖かく感じる。
雪も今は降っていない
これなら外で活動できるんじゃないか?
入口が塞がった時に、無理にでも外へ出れば良かったのかも知れない。
そうすれば......ってもう今更か。
まぁでも結構な積もり具合なのは間違いない。
大体5メ-トルぐらいかな。
ここに生活用の道を作るのは、かなりの労力と時間を必要とするだろう。
まぁ俺はやらないけどな。
もう帰るつもりが無いから、俺はこの提案を受けたんだ。
正直疲れた。
雪かきなら俺以外の人間でやれるし、外に出たら自分たちで何とかするだろう。
このまま離れれば、誰にも気を使う必要も無くなる。
俺が居なくなって困るのは誰だ?
ははは。
浮かばないよなぁ。
川口さんに悪者になってくれって言われた時さぁ。
俺は少し期待してたんだよ。
誰かが反対してくれるんじゃないかってさ。
それなりに交流もあったし、これまで一緒に仲良くやって来たはず。
でもそれは俺の独りよがりでしか無かったんだ。
向こうから声を掛けてくれる事も無いし、腫物扱いで交流も無い。
陰で川口さんがフォローしてくれるかも?
とか思った俺ってさ。
ただの道化でしか無いよな。
いかんいかん。
もう我慢するのも他人に期待するのも辞めだ。
俺は1人で絶対に生き残ってやる。
そんな覚悟と共に俺は一歩踏み出す。
そして1度も後ろを振り返らないまま、俺はダムから姿を消したんだ―――




