第227話 本来の仕事
巨大ロボ作製も一段落し、アームズについても宝箱からパーツを集めて交換用の人形を完成させて、それを持って最奥まで来て初めて本物と交換できるという仕様にしたおかげもあり、そこまで頻繁に造る必要は無い。アームズについてはそれなりに量産済みだしな。
という訳でいったんロボ人形作製チームは解散することになった。とは言ってもどっちにしろダンジョン内に全員いるからすぐに再集合できるんだけどよ。
ミニミニ人形シリーズの作製はセナの指示があるから続けているんだが、ちょっとぽっかりと時間が空いちまったな。あれだけ大きな人形を造り上げたっていう達成感はすごいんだが、その反動と言うかちょっと具体的に次は何を造るのかの構想がまとまらない。
別に何か新しい人形を造りださなきゃいけないって訳じゃねえんだが……あぁ、そういえば一応作製する予定のものはあるな。でも別に緊急って訳じゃねえし。
そんな風にまとまらない考えに机に突っ伏しながらだらだらしていた俺へ、せんべい丸の上に転がって思いっきりくつろいでいるセナがジロリと視線を向けてくる。
「暇ならたまにはダンジョンの監視でもしたらどうだ? 透は仮にもダンジョンマスターなのだからな」
「あー、そうすっかな。このままだらだらしても意味ねえし。たまにはちゃんとダンジョンを確認しねえとな」
「仮は否定しないのだな」
「ほとんどセナに任せているのに、俺がダンジョンマスターだ、とか言う奴はただの馬鹿だろ」
「うむ、透はただの馬鹿ではなく人形馬鹿だからな」
ニヤニヤしながら返してきたセナの言葉をさらっと無視して壁掛けのタブレットの画面へと視線を向ける。俺にとっては人形馬鹿は褒め言葉みたいなもんだしな。
初心者ダンジョンを本格的に見るのは久しぶりだ。もちろん人形造りの合間や食事の時なんかは確認しているし、大きな変化や異常なんかがあればセナが教えてくれるので全く知らないって訳じゃねえが。
とは言えやっぱ自分の目で見るってのは大事だしな。人形だってたくさんの話を聞くより、一目見せたほうが伝わることはある。それを受け取れるだけの目は必要になってくるがな。
まあ御託は別にいいや。早速見ていくか。
1から3階層までの本当のダンジョン初心者のためのチュートリアルはいつも通りだ。何人か罠などを確認しに警官や自衛隊の奴らが来たりもしてるが、基本的には一般の探索者ばかりだ。
初期に比べて格段に広くはなっているが、機能的には全く変わってねえしな。まあ広くなった分迷子になる奴は増えたらしいけど。ここは見るべき場所はあんまなさそうだ。
と言うか他の場所もそこまで変なことは起こってねえんだよな。そういうのが起こったらセナが教えてくれるはずだし。アームズ取得のチュートリアルに力が注がれている分、他の場所の警官や自衛隊の奴らがやや少ないくらいか。
それにしてもフィールドダンジョンが増えたせいか、外国人がめちゃくちゃ増えたよな。最初に来た4か国も相変わらず居座っているし。まあ俺達としちゃあDPが入ってくるから別にいいんだが、変な小競り合いが起きないように調整している付き添いの自衛隊の奴らはちょっと可哀想だ。
まあ国内で海外の軍隊が小競り合いなんて、自衛隊としては見過ごせねえんだろうが、本当にご苦労様だな。
それにしても……
「こうして見ると国ごとに戦い方の傾向があるんだな」
「うむ。自国のダンジョンのドロップアイテムが大きな影響を与えているようだぞ。やはり通常の兵器では効率が悪すぎるからな」
色々なフィールド階層で戦う外国の軍隊の姿を眺めていると、結構個性が際立った戦い方をしている国がちらほらと目に付く。前衛が構えたシールドの後ろから大人数で弓矢を射っていたり、大槌を持った集団がそれを振り下ろしていたり、変わったところだとスコップで戦っている国もある。
普通に人形たちにダメージが与えられているところを見るとセナの言うとおりドロップアイテムなんだろう。というかスコップを落とすモンスターってどんな奴なんだろうな。ちょっと気になるんだが。
「金属などを製造加工も試作しているのだろうが、うまくいってないのか、それとも秘匿しているのか。その辺りはまだ情報が不足しているな」
俺の視線から考えていることを察したのかセナが補足してくれた。まあ海外の情報でしかも秘匿されているものなんて無理だよな。国内でさえ大変なのに。
見たところ加工して武器を製造している国は日本だけだ。まあ俺たちが生産系のスクロールを渡したからこそ成功したんだけどな。
「やっぱ生産系のスクロールを出す奴は少ないのかね?」
「だろうな。そもそも敵の戦力強化に繋がるスクロールをほいほい出すのは私達ぐらいなものだと思うぞ」
「ちゃんと種類は選んでるだろ」
「まあな」
一緒に見ることにしたのか、立ち上がったセナが返事をしながらこちらへとやって来る。セナの椅子を軽く引いてやると、ピョンと跳ねたセナがそこに座った。相変わらず身軽な奴だな。
スクロールに関しては本当に結構な種類がある。俺達が出しているのは500DPのウォーターとかの最も安いやつだ。他にも手ごろなDPで得られるスクロールが無い訳じゃないんだが、それらは基本的に戦闘系のスクロールだ。
生産系のスクロールは最低でも1万DPだからな。他のダンジョンマスターが餌として宝箱などに設置する訳がない。もっと安いスクロールで十分に目玉になるからな。
そういや生産系の奴らって今はどうしてんだろうな。鍛冶の鉄工所の奴らが銃器を製造してんのは知ってるし、何人かの候補からスキルスクロールの正式な使用者が選ばれて、それぞれ仕事をしているのはわかっている。革職人で俺に挑戦状を叩きつけてきた凛もしっかり選ばれていたしな。
各分野の才能ある職人の仕事を見るのは面白いんだが、基本的に同じものを作っていることが多いので、それに見慣れた最近はちょっと放置気味だったんだよな。凛もあれから人形の服を造ったりする様子はねえし。
壁掛けの画面にはもくもくと作業を続ける職人たちが映っている。その姿を一言で現すならやはり格好良いだろうな。作品に一途に打ち込む姿は、どんな種類であっても変わらないからな。
しかしやっぱスキルを得た職人が1人だけってのはちょっとアレだよな。才能があるとは言え、切磋琢磨して成長してこそ良い物が出来上がるって面もあるだろうし。とは言え安易にお茶会の会場での生産系のスキルスクロールの交換レートを下げるってのは無理だしな。うーん。
「何を悩んでいるんだ?」
「んっ、ああ。ちょっと生産系の奴らを増やせねえかなって考えていただけだ。さすがに人数が少なすぎるしな」
「確かに現状としては鍛冶を除いてお試し程度だしな。鍛冶以外のスクロールに関しては交換する予定すら立ってなかったようだし、それにアームズが出てきたからな」
「そういや、それもあったな」
淡々と事実を挙げるセナの言葉に思わず苦笑いする。
確かに全身を覆うタイプのアームズを使うなら他の装備は必要なくなっちまうな。もちろん全員がアームズを着るようになるなんて無理だから装備の需要はあるはずだが、それにしたって遠距離攻撃できる銃を攻略の主体にするなら防御面は後で、となる可能性は高いだろう。
鑑定の奴はダンジョンのドロップアイテムの関係で結構忙しそうだから、もしかしたら優先順位は高いのかもしれんが、裁縫、木工、革工、石工に関してはちょっと微妙かもしれん。
その中でも最もやばそうなのが石工だ。裁縫とか革工はダンジョン素材で服とか作っているし、木工も武器の柄の部分など結構色んな仕事をしていた。
だが石工はコレ、と言う物がなかったんだよな。強度と加工の面では鍛冶に利があり、重さの面では木工に利がある。もちろん石独特の作風は惹かれるものがあるものの、戦いの道具となると決め手に欠けちまうんだよな。素材が限定されてるってのも問題かもしれねえけど。
そんなことを考えつつ石工の部屋を眺めるが、そこに人の姿はなかった。と言うか俺が用意した石工用の仕事道具も収納されたままで、まともに使われているような様子がない。
当然作品が置いてあるといったことも無く、そのがらんとした部屋はまるで火が消えてしまったかのように物悲しい雰囲気が漂っていた。
「もしかして石工の奴っていなくなっちまったってことはねえよな?」
不安を覚え、セナに確認する。仕事がないなら来ないってのは当然のことなのかもしれんが、せっかく縁があって俺達のダンジョンにやって来てくれたんだ。このまま消えちまうってのは悲しすぎるだろ。
いそいそとせんべいの用意を始めていたセナが「んっ?」と声をあげながら視線を俺へと向け、そしてタブレットを操作して画面を切り替える。
「はあっ!? 何してんだ、こいつ?」
そこに映しだされた信じられない光景に、俺は思わず声をあげたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。
ブクマ、評価応援、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。




