第228話 生産スキルの可能性
工事現場の作業員のようなつなぎとヘルメット姿をした石工職人がいるのは、フィールド階層の1つである廃都市だ。もちろん1人でいるわけじゃなくて周囲には護衛と思われる自衛隊の奴や警察官が顔に変なマスクを着けながら見守っているんだが、今はそんなことはどうでもいい。
石工職人がその目の前にあったスイッチを押した次の瞬間、少し離れた高層ビルの中から連続した爆発音とそれに伴う破壊音が響き、そしてその30階ほどある巨体が盛大な粉塵を巻き上げながら崩れ去っていった。石工職人は手に持っていた顔全体を覆うようなマスクを装着しながら満足そうに……って本当に何やってんだよ、こいつ!
「セナ、こいつ何やってんだ?」
「私が知る訳が無いだろう。毎度のことだが少なくとも私には爆破解体にしか見えん」
「だよなぁ」
倒れる方向を調整して爆破したのか石工職人たちがいるのとは反対方向にやや傾きながらビルは倒れていったし、身を守るために壁に隠れていたので怪我をしているような奴はいない。
しかし全員が顔全体を覆うようなマスクを身につけている姿はちょっと異様だな。
そしてある程度粉塵が落ち着いたところで石工職人が爆破されたビルへと向かって歩き始めた。がれきの山の中をきょろきょろと左右へと首を振りながら歩くその姿は、この中に何か目的の物があるかのように見える。
しばらくして、石工職人が2メートルほどの比較的大きなコンクリートの塊の前で足を止めた。爆破と落下の衝撃によっていびつに欠け、地面に突き刺さった姿で立つそのコンクリートを眺めながら、石工職人がうんうんと首を縦に振る。
そして腰に吊っていたノミととんかちを手に取ると一心不乱にそのコンクリートへと打ちつけ始めた。
俺は石工について特段詳しいわけではない。石製の人形なんかもあるから多少の知識はあるが、はっきり言って専門外だ。でも、それでも作品を造り上げる者としてわかることはある。
いびつなそのコンクリートの形が、少しずつ生まれ変わっていく。いや、そのいびつさがあったからこそ、この作品は創造されたことを考えればその言葉は正しくないか。
少しずつ、そう少しずつだがはっきりとその姿が現れてくる。胸の前で合わせられた両手、目を閉じたその穏やかな表情は全てを許しているかのように見える。名前はわかんねえがおそらく仏像だろう。
まだ仕上げもされていないから荒々しい部分も残っているにも関わらずそこまで創造させるとは……いやその荒々しさがこの作品の肝になってるのか。
「深いな」
「うん? あぁ、その像のことか。なぜかは知らんが毎回造っているぞ。攻略に使われるわけでもなく、持ち帰られるわけでもないから翌日には消えているがな」
「消える? そうか。このがれき自体も作品の一部なんだ。破壊、そこから生まれる希望、そして再生。造り上げる仏像だけでなくその一連の流れ全てがこいつの作品と言う訳か。やべえな、ちょっと震えてきた」
全身に電気が走ったかのような衝撃が襲ってくる。俺の予想が正しいのかどうかはわかんねえが、少なくともそう感じさせるだけの圧倒的な魅力がそこにはあった。実物大のロボット人形を造ってやりきった気に少しなっていたが、こいつに比べたら俺はまだまだだ。
技術を磨くのに終わりなんて無い。そして技術を磨くだけじゃあたどり着けない場所がある。それを再認識させてくれたこいつには感謝しねえとな。というかただ感謝するだけじゃあダメだよな。これだけの物を見せてくれたんだから。
何か、何かねえか?
「……おる、透!」
「おぉ! 急に大きな声を出すなよ。びっくりするだろ」
「妄想タイムに入って話を聞いていなかったのは透の方だろうが」
ずびし、とこちらを指差してくるセナの姿に思わず視線をそらす。セナが話していたことに全く気づいていなかったのは確かだからな。だが素晴らしい作品に心を奪われるのは当然のことだろ。まあそんなことを本当に言ったら、面倒くさいことになりそうだから言わねえけどよ。
よし、こういうときはちゃっちゃと話を変えるに尽きる。
「で、何の話だったんだ?」
話のそらし方がバレバレだったせいか、少しむっとした顔をしながらセナが話し始める。
「そいつの作品がどうかは知らんが、私が気になったのは別だ」
「んっ?」
そう言いながらセナが指差したのは爆破されたビルの残骸からがれきを運び出している自衛隊や警察の奴らだった。
「いつもの素材集めじゃねえのか? コンクリを運んでるのは確かに珍しいけどよ」
「まあ確かにコンクリートを運ぶのは珍しいな」
「んっ? その言い方だとコンクリのことじゃねえのか?」
俺の言葉にセナがこくりと首を縦に振る。
自衛隊や警察の奴らがフィールド階層の素材を収集するのはいつもの光景だ。廃坑のレールだったり、廃都市の車だったり金属の回収が主なんだけどな。武器や防具に使用することを考えれば当然なのかもしれんが。
しかし今回爆破解体されたビルのがれきの中で主に回収されているのはコンクリートの破片だ。ボロボロに崩れているし特に使い道があるようには見えねえのに何で回収するんだろうって疑問がまず浮かんだし、セナもそれが気になっていると思ったんだが反応を見るとそれは違いそうだ。
じゃあ他に何か気になることがあるかと言えば、俺には特に思い浮かばねえんだが。
「うーん、わかんねえな」
「まあ今回しか見ていない透にはわからないかもしれんな。このビルの爆破解体だがな、最初石工は関与していなかったのだ」
そう言って始まったセナの説明を簡単にまとめると、最初は自衛隊や警察だけでビルの爆破解体をしようとしていたらしい。しかし中途半端に崩れたり、そもそも崩れなかったりとその結果は芳しくなかったようだ。
で、そこで協力を求められてやってきたのが石工職人だった。最初はビルの柱へと爆発物を埋める用の穴を開けられないかという確認のためだったらしい。そして無事穴が開けられ、そしてせっかくなので爆破スイッチを協力してくれた石工職人に押させたところ無事ビルが解体されたという訳だ。
「問題はその後だ。翌日、同じように石工が柱に穴を開け、同じだけの爆薬をセットしたにも関わらずビルは崩壊しなかったのだ。そしてその翌日も、その翌々日もな」
「その1回がたまたまだったんじゃねえか?」
俺の予想にセナが首を横に振る。
「3日失敗が続いた翌日、何か感じるものがあったのか石工が爆破スイッチを押させて欲しいと言い、そしてそれは了承された。その結果……」
「ビルが崩壊したってことか」
「ああ。それ以来、石工が押したときには必ずな。だからスキルが影響しているだろう事は明らかだ。だが使っているのはダンジョン産でもない爆薬で、しかも石工がしたのはスイッチを押すだけだ。石工がスイッチを押すだけで爆薬の威力が強化されるのであれば、下手をすれば脅威にもなりうる。だから気になっていたのだ」
確かにそれをビルの解体じゃなくてモンスターの攻略とかに使われたら脅威だろう。ダンジョンのモンスターには通常の兵器が効きにくいという面があるからこそ、ダンジョンの攻略は難しいんだしな。
うーん、と考え込みそうになってふと気づく。セナの言葉が過去形だったことに。そうしてセナへと目をやると、わかっているとばかりにセナがうなずき微笑んだ。
「そうだ。気になっていた、だな。今ではその心配は無いだろうと考えている。あくまで予想でしかないがな」
「どうしてそう思ったんだ?」
「透が教えてくれたからな」
「俺が?」
うなずくセナの姿を見ながら首を傾げる。思い返してみるがそんなことを言った覚えは全く無い。このことを話し始めたのはついさっきだし、さすがにその内容を忘れるほどボケちゃいねえと思うんだが。
俺が全く心当たりがなさそうな事が伝わったのか、目を細めながら苦笑する。
「言ったではないか。このがれき自体が作品なのだと」
「確かにそれは言ったが……まさか!?」
「ああ。石工の認識ではこのビル自体が作品の元となる素材なのだろう。だからこそ、通常の爆薬程度で完全に崩壊したのだろうな」
「マジかよ」
それはあくまでセナの予想だ。しかし俺にはそれが間違っているようには思えなかった。俺が人形師として人形を造る時、堅い木がまるで粘土のように扱えるのと同じようなことが石工にも起こっているんじゃねえか、そんな気がしたからだ。
そのスキルに沿った物を造ろうとする時に、その素材となる物に干渉できる能力。それが生産系のスキルの本質なのかもしれん。だからこそ戦闘系のスキルスクロールに比べて、生産系のスキルスクロールが高DPだったのかもな。
「でもそれなら確かに安心かもな。モンスターと戦うのには使えそうもねえし」
「モンスターを倒すことを作品と考えるような変態が出ない限りな」
「いや、そんな奴いねえだろ」
「さあな」
セナが不敵に笑う。可能性は0じゃないと言いたいんだろうが、限りなく低いだろ。それがわかっているからセナも対策を挙げることも無く笑っているだけなんだろうし。
まあいいや。とりあえずは大丈夫ってことにしておこう。それより、感謝の気持ちの伝え方のほうが今は重要だ。さてどうしようかな?
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