第197話 セナのチュートリアル
うーん、セナの造った疑似的なモンスターの氾濫のチュートリアルが滅茶苦茶人気だ。まあ人気っていうのもおかしいのかもしれねえけど、一番人数をかけて調査されているのは確かだ。
そりゃ先日の氾濫でかなり被害が出たんだし、疑似的にそれを体感することが出来るんだから当たり前か。しかもスイッチ式で踏んだ瞬間に人形たちが出てくる仕様だから管理も簡単だし。
このチュートリアルを利用すれば効果的な防壁だったり、戦い方だったりの研究が出来るはずだ。もちろん出てくるモンスターの種類は他のダンジョンとは違うんだが、ある程度の訓練にはなるだろうしな。
確かにセナの言う通り、自衛隊とか警察とかが渇望しそうなチュートリアルだ。
「はぁ。途中で気づいたんだけどな」
「ふっふっふ。残念ながらせんべいパーティは覆らんぞ。クク、1枚追加だ」
「はい」
セナの注文ににっこりと笑いながら、ククがバーベキューで使用するようなコンロの網の上にせんべいの生地を乗せる。箸を器用に使ってくるくるとひっくり返し、膨らんできたせんべいをこてを使って潰したりしながら焼き目をつけ、箱に入れてしばらく冷ましてから刷毛でタレを塗って再び火にかける。
辺りに醤油ダレ特有の香ばしい匂いが広がっていく。食欲をそそるいい匂いではあるんだがな。
「まだ食うのか?」
「そういう透はもう食べないのか?」
「いや、もう40枚近く食べたし、わらじせんべいも食べたから腹がいっぱいだ」
マジで朝食からせんべいだったからな。いや、ククが目の前で焼いてくれるってのはなかなかに楽しかったし、味も申し分なかった。だが量が半端なかったんだ。
30種類のせんべいから始まり、メインの顔より大きなわらじせんべい。そしてデザートとして出たドライフルーツの入った変わり種のせんべい6種。合計すると37枚のせんべいを食べてるんだぞ。と言うかメインのわらじせんべいでちょっと心が折れそうになったしな。せっかくククが作ってくれたんだからと気合で食べきったが。
もちろんセナも俺と同じ量を食べている、と言うか追加はこれで7枚目なので俺以上に食べているんだが、このちっさい体のどこに入っているんだ?
そんな俺の視線を感じたのかセナがこちらを見上げながらニヤリとした笑みを浮かべた。
「せんべいは別腹と言うだろう?」
「そりゃ、セナだけだろ」
「どうぞ、醤油せんべいです」
「うむ。じっくりと味がしみこむように焼く方法も捨てがたいが、炭火焼き特有のこの焼きたてせんべいもなかなか乙な味なのだ」
「ありがとうございます」
セナの皿へとククがせんべいを置き、それをうまそうにセナが頬張る。せっかく炭火焼のコンロがあるんだから焼き鳥でも焼けば良いのにとは思うが、今日はせんべいパーティだから無理なんだよなぁ。でも目の前で調理してもらうってのは思った以上に面白かったし何かの機会にククにお願いしてみるかな。
よし、ちょっとせんべい以外のことを考えたら元気が出てきたし、ダンジョンの様子の観察に戻るか。と言っても見るべき場所はそこまで多くねえんだけどな。
「そういえばセナ。結局何か所作ったんだ?」
「6か所だな。パペットの数としては1つに5千体で合計3万体のパペットが働いている」
「あれっ、均等なのか? セナのことだから数を変えて難易度調整でもしているのかと思ったんだが」
セナの答えに思わず聞き返す。確かに今回問題となったおよそ10万体のパペットの働き場所については俺が6万体、新しいフィールド階層で働く用のパペットが1万体で残りの3万体がセナの担当だった。3万を均等に6で割れば確かに5千ではあるんだが、セナの性格からして同じ内容じゃ訓練にならないとか言いそうだと思ったんだがな。
もぐもぐと食べていたせんべいを飲み込み、満足げな笑みを浮かべたセナがニッと笑う。
「なかなか良い読みだが、まだまだ甘いな。パペットの数を変えてもそこまで難易度は変わらないぞ」
「いや、だってさっきの感じからすると人数を増やせば結構いい感じになりそうじゃねえか? 桃山でさえかなり苦労してたぞ」
モニターに映るバテバテの警官や自衛官を指さす。桃山たちに関しては多少余裕があるように見えるが、それでもその表情には疲労が色濃く出ているしな。
今回は5千だったからなんとかこの程度で済んだが、これが1万とかだったらもっと犠牲が増えていたはずだ。数次第によっては桃山でさえ倒せる可能性もありそうなんだが。
そう思って聞いてみたんだが、セナはあっさりと首を横に振った。
「今回は何も準備されていなかったからな。極端な話、周囲を防壁で囲んでその上や隙間から攻撃できるようにしてしまえば、パペットだけではいくら数が多くても完封されるぞ」
「いや……あー、まあ確かに言われてみればそうかもな」
とっさに反論しようとしたが、思い直して言葉を止める。
俺の人形師としてのレベルが上がった恩恵で強化され、ダンジョンが出来た当初の頃よりは動きがスムーズになったパペットたちだが、それでもやっぱ10DPの人形系最弱のモンスターだ。
ものすごい速度で走ったり、ジャンプしたりなんて出来ねえから高い壁を越えようと思っても難しい。組み体操みたいにして越えようとしても邪魔されるだろうしな。
でも地味だけどちゃんと強くなってるんだぞ。最近はあんま転ばなくなったし、瓶にポーションを詰めるって作業もちゃんと出来るようになった。まあ初めてダンジョンに入った奴らにさえぼこぼこにされちまう程度の強さってことに変わりはねえんだけどよ。
しかしセナの言い様からして、やっぱ難易度は変えているみたいだな。パペットの数で変えないとしたら答えはわかったも同然だ。
「他の人形たちを使って調整するって事か」
「うむ。標準となる今回の場所以外は近距離、中距離、遠距離、複合、そしてランダムというコンセプトになっている。それぞれに最適な対応パターンを模索することが出来るようにな」
「前の4種類はわからんでもないが、ランダムってなんだよ?」
「本番想定だ。決まったパターンだけでは緊張感が薄れるからな。実際にはどんなモンスターが出てくるかわからないんだし、研究や訓練成果の検証にもってこいだろ。たまには絶望を知るのも良い経験になるはずだ」
「とりあえず最初はほどほどにな」
一応釘を刺しておいたが、効果があるかは疑問だ。セナが結構楽しそうにしている様子からして、まず間違いなく近いうちに1度はひどい目にあうことになるんだろう。確かにその方が試練になってDPが多く入るようになるんだけどな。
まあ最悪生き返るんだし、警察も自衛隊も日本の平和を守るために頑張ってくれるはずだ。きっと。
とりあえずセナの造ったチュートリアルはこんなもんか。今後どんな感じになっていくか変化を観察する必要があるけどな。
で、次に見るのは俺の造ったチュートリアルと行きたいところだが、しばらくは変化がねえだろうし、先にお茶会の会場を見るか。1度は既に確認しているんだが何か変化はあったかもしれねえし。
そんなことを考えながらタブレットを操作して画面を切り替える。そこに映っていたのは……
「あぁー!!」
悲鳴を上げながら空を飛んでいく警官の姿だった。うん、やっぱこっちは全然変わってねえみたいだな。カオスすぎる。
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