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黒ノ十三~刃心千乱~



 人は絶望を見たことが未だない。

 何故なら真の絶望は必ず未明の先、途切れた果てにあるからだ。

 では、我々の感じる「それ」とは何か?


 だから「それ」を我々は「想像」した。



7、


 幻十郎の敗因は何か?

 彼は個々での戦いであれば間違いなく最強であったろう。断定的に確定できるほど、彼は超越存在だった。

 だが、その超越は、たかだかただの人間とビル一つを念力で容易く叩き潰せる超能力者ほどの差でしかない。

 能力としては圧倒的だが、例えば地球上の空気がなくなればただの人間と同じく窒息するし、腹が減れば食糧を摂取しなければいずれ飢餓するだろう、まして能力があっても使えなければ短刀一つを腹腔にねじ込むだけで致命になるだろう。そういった意味でただの人間の延長にしかすぎない程度の存在なのだ。

 だから、つまるところ、殺せるものは殺せるというだけの事実。その事実を強調されただけのことなのだ。

 幻十郎が忍者達が必ず一影になったところを確実に襲うようにしていたならばだ、大人と子供、それも武装した大人と子供が殺しあうようなものなのだから、負けはほとんどあり得なかったろう。

 逆に言えば、字塩はだから幻十郎をほぼ総員で待ち受けた。個々では絶対とは言えずとも、ほとんどありえないと言えるほどに届かないことを熟知していたからこそ。

 武装した大人を子供が殺すことは難しいが、武装した大人が子供を一人殺しているその瞬間ならば、たいして難度は変わらないかもしれないが、子供が武装した大人を害することが出来る可能性は微塵から微少程度には上がるだろう。

 ならば、さらに二人目の子供が殺されている間に三人目が向かえば?四人目が突撃すれば?もしかしたら五人目は?と、積み重ねれば、最後にはどうにか出来てしまっても、そうたいして不思議なことでもないだろう。

 だから百もの忍びが形振り構わず幻十郎に殺到し、文字通り圧倒することで最終的な結果へと導いたのだ。

 今も状況は同じだった。もっと明確だと言ってもいい。敵性体としての十三だけを除き、他を集めた理由など。

 しかし、それで十三が出てくるはずがない。幻十郎と違って、十三は馬鹿ではない、というよりもあまりに真面過ぎるからだ。

 「いずれこうなるとは、わかっていたはずだな?」

 衆目の視線を集めながら、中心に呼び出された二影、早雲と九斬に字塩が静かに言った。

 「俺達は、」

 「答えなくていい。協力すると確約してさえ無意味だ」

 九斬が硬い表情で字塩に弁明しようとするのだが、遮って字塩が続ける。

 「本当なら君達二人をすぐさま殺してもいいのはわかっているな?それをしないのは我々が今逼迫しているからに他ならない。敵の手でも借りたいほどにね」

 十三はあまりに真面だった。

 正面から戦いなど挑まない、複数人は確実に不意をつける状況でなければ相手にしない、戦闘時間は極力最小限に抑え逃走と隠遁に全力を費やす。個人で大勢を相手にするなら当然のことを実行していたのだから。

 理由や動機を把握出来ないことを除けば、あまりに至極真っ当だったのだ。

 だが、だからこそ下手な交渉も策も無意味だと知れる。これはテロではないからだ。要求も通告もない、ただの殲滅戦。それ以外に了解のしようがないのだから。

 そうなると敵対している忍び達の側としては、十三を見つけだし捉え息の根を止めるしかない。

 しかしそれが容易ではないにしろ、出来なかった。物理的な距離を一瞬で埋めることは十三にも出来ないはずなので、拠点内で活動していることに疑いはない。なのに隈なく洗っても見つからない。

 未知の密林でのゲリラ戦ではないのだ、これもまた真っ当に考えれば匿っている者がいると考えて当然だ。そしてそうした視点で身内を見れば、あっさりと早雲と九斬の二影が浮かんできたというわけだ。

 十三が真面でないならば、二影を人質に交渉も可能だったかもしれない。しかしあり得ないと字塩は切って捨てる。それならば二影にここまでわかりきった危険な橋を渡らせはしないだろう。

 逆に考えるなら二影からしても渡る理由がない、協力しているだけならもっと上手くやるだろう。ならば脅迫などで無理矢理だとしか思えない。だとするなら人質としての価値はない。

 そのため字塩は裏切り者等に躊躇なく死の制裁を下して、協力者を失くした十三を追い詰めて行けばいいだけだったが、そうはできない事情があった。

 人数が足りないのだ、端的に言って。これ以上忍者に減られるのは、根本的な現状を崩壊させかねないのだ。

 ましてやこの内輪揉めが普通の人間達に実際がどうであれ、どんな風に見えているのか考えれば言うまでもない。忍者は刃であって考えないのではない、「考えないものでなくてはならない」のだから。

 だからこそ殺してもしょうがない裏切り者等を今も生かしている。実際に協力者を奪うだけなら拘束だけで事は足りるのだし。

 問題はならば何か?これ以上犠牲を出さないことと、十三をこの場に呼び出す事だ。

 集団でいれば襲われないし、襲われても勝てるのだとしても、十三が近付かなければいいだけだ。この状態を維持しようとし続けても、時間がどちらに利するのかは考えるまでもない。

 ならば不利とわかっていても出て来るようにさせるしかない。

 「まぁ、話をしたいだけさ、俺達はな」

 字塩の後ろから加藤が三本杖をついて歩み出してくる。そして携帯用の折りたたみ椅子をその場に広げ、早雲と九斬の目の前で座る。

 「勝手に聞いてると思って話させてもらうが、断っておくとむしろ俺達にこそ衝撃的な話かもな。なんせ内緒だったもんでな。いや、むしろだから笑劇的なんぞと言い換えるべきかもな。笑い話だとな」

 「まず端的に言っておこう、我々は『精神寄生体などではない』」

 枕を置くように字塩が断定的にそう言い切るのを引き継いで、加藤が語る。

 「まぁ正確に言やぁな、意味不明なままだってことだ。つまりはなんにもわかっちゃいないのさ」

 早雲と九斬は呆気に取られた顔をしている。集まった忍者達も同様だ。

 内容が理解出来ないというよりも、いきなり何を言い出しているのか、と。

 「空鶴がシニョリアーナ・ベセルスカーフってな科学者に俺達という存在に対する調査を依頼した、その結果わかったはずのことが忍者は精神寄生体だって話だ。一応その根拠となる話は出ているし、正直もっともらし過ぎてな、それでいいとしか思えやしねぇわなぁ」

 「だが、事実は違う。立派な虚偽だ。つまりは虚言でしかなく、私達は騙されていたということだ。いや、もっと正確に言うならば、ベセルスカーフは我々を騙す気などなかった。ただ一人だけを騙せればそれでよかった」

 「十三、のこと、か?」

 察したように呆としながら九斬が溢し、早雲は表情を険しく眉根を寄せるが無言。

 「そういうことだな。あの女はまぁ有り体に言えばだ、あの坊主が欲しかったわけだ。惚れたもんだから、自分のものにしたかったってなわけだな。まぁそれだけなら、勝手にしてもらって文句はなかったんだがよ」

 「当然、それだけで済む話ではなかった。実質的な依頼者だった空鶴は当然として、稗田と、幻十郎がその筋を利用したわけだ。もっとも、空鶴は嘘を真実だと受け取った口であり、利用していた方とは言い難いのだが」

 真相解明不能の忍者の正体。それは仮定だけで辻褄を合わせれば、どのようにでも解釈できる度量があるということに他ならない。

 その度量を利用か悪用か、もしくは活用したシーナだったが、その目的が実際は何だったかなど本当のところは皆目わからない。

 端から見れば、十三を騙し手管に絡め取る以外の何でもないとしか思えはしなかったが、それがまた何かに繋がっていないとも言い切れない。

 だが、そんなことはどうでもよく、問題としてはその余波を当然のように受けた空鶴が動き、事実の封殺のためか、もしくは実のところ「虚偽だと知っているが故に、口を封じることで嘘であるという根拠をも封じた」のかはわからないが、シーナは空鶴の手に掛かったという事実があることだ。

 そして空鶴は周知の通り、幻十郎を動かすためにその身命を捧げて、この世を去った。

 シーナと空鶴の真意は実のところ知れない。が、そんなものなど度外視して解釈すれば、あまりにも底の見え透いた事実だけが残り、それでいいと出来る。

 真の問題は、そのことを幻十郎と稗田尊斗が認識していたことだ。つまり両影は空鶴の動きを監視し内偵していたのだ。だとするなら、忍者が精神寄生体であるとするその仮説が、本当に仮説どころか虚偽であったと知っていて一連の行動を起こしたことになる。

 「幻十郎については、言うまでもないだろうな。あいつにとっては手段が目的だったに違いない。面白がって事態を混迷に陥れたのだろう。問題は稗田の方だが、実際のところ彼女の目的もよくわかってはいない」

 「嘘のはずのことを信じていたとしても、俺は驚かねぇがな。ま、あの女に限ってはない話だと思うが・・・そんなこたぁどうでもいいわな」

 肝心なのは、そんな連中の言説に左右されて在る、今の現状だと字塩と加藤は言う。

 「当然疑問に思って然るべきだろうが、だとしていつから、そしてどうやって我々がその事実を知ったのか、そう思うだろうね」

 「ぶっちゃけて言うならな、最初からなんだよ。空鶴に幻十郎に稗田の動向は最重要監視対象だったから当然のことといやぁ、まさにだがな」

 言いたいことはわかると続けた言葉の内容は、驚きでもありながら誰も意外に思いもしない内容でしかなかった。

 「何故こうなるまで静観したのか。無駄な犠牲を強いたのか。そう言われるのももっともだ。だが、あえて聞くが今でなくその時点でこんな話をして信じただろうか?いや、掣肘出来たかどうかはともかく行動に移せばよかったかもしれない。それこそまともな反応というものだろうと思うよ」

 「だがな、よくよく考えてみりゃわからんでもないだろうが、嘘だと否定してどうなる?どうするっていうよ?」

 この世界に真実など一つさえなく、都合のいい嘘だけが跋扈している。何故なら我々は真実を真実だと証明する術を、最終的には持ち得ないからだ。

 考えないことで完成する、心と呼んでいる我々の何かと同じように。

 だが、そうしたり顏で言い出す輩に碌な者はいない。だから言わない、言えない、そんな暗黙の了解でこの世は出来ている。

 しかし時にはそうであることこそがもっとも馬鹿馬鹿しくなることがある。

 所詮は建前。しかし建前がなければ立つことは出来ない。だからあるべきとしても、その建前が優先されることは本末転倒だろうとしか言えないからだ。

 「何も変わらないだろうよ。いや、変わりはするかもしれねぇな。少なくとも状況は違ったはずだろうよ。たとえば幻十郎や稗田を排斥して全員で向こうに回し一致団結して万難排せば、そりゃあこんなになるまでにはならなかったろうな」

 「ただし、そうなっていれば我々は変わらず忍者のままだった」

 そして遂にと言うように、字塩の口が核心に触れた。

 「より正確に言うのなら、一時凌ぎのためだけに創り上げられた、虚像としての忍者で在り続けただろう」

 白影事変から後、滅ぼされた故国から世界に拡散した忍び達はそこで自らの事を「忍者」と呼称し、世界に後ろ手で刃を突き付けながら自分達の存在を承認させた。

 それは忍者という存在を認めさせ否定させないための行動だったと言えるが、同時に忍者とはそのような存在であるのだと自らの存在を縛ったとも言えた。

 実際に忍び達は自分達が忍者であるために通常ならば受け入れなくてもいいような、ある種理不尽な社会体制と生活を背負って来たと言っていい。

 力を持った者は同時にその力を持つことによる責任も背負わなければならない、とでも言えばいいのかと言えば当然そんな話はただの理想論だと一蹴できるほどに、普通に考えれば受け入れ難いことだろう。でなければ革命も暴動もテロリズムも、この世界に起きはしないだろう。

 字塩は、そして加藤は、そうしたある種の現世における奴隷階級のようでもある旧態の忍者という存在と制度を良しとしなかった。

 しかし、同時に忍者としてではなく、ただの人間として振る舞うのを否定したというよりは、出来るものではないと現実的に捉えていた。

 存在として明らかになっていず、自らでも知れない力が眠っているだけならともかく、厳然として明確に力があるのだからだ。

 なかったことにして、持っていないことにして、わざわざ振舞わなければならないのは、大方の場合苦痛だ。

 だとするならば、忍び達は忍者でなければいけないし、あるべきだと考えるしかない。

 だが、既存の概念としてのそれ、「忍者」では駄目だというのはもはや結論が出ている。

 ならば外側は変えず、その中身をどうにかするしかない、いや、すればいい。

 「皆には、騙して、いや、黙っていて悪いが、事態は想定より悪くもあるが、思惑通りに推移したとも言える」

 「ようするにだ、今の俺達は有り体に言っちまえば忍者をやめようと思えばやめられるところまできたってこった」

 もちろん、その後には「ただし」と付く。

 「実際のところな、今更一抜けたでやめられるはずもないし、俺達からしてもやめたいとは思っちゃいないわけだ」

 そこで加藤が初めて独断をやめたかのように、周囲を見回す視線を送った。字塩は早雲と九斬を見据えて視線を動かさない。

 「お前ら、明日、いいや、たった今から自分達の持っている力を決して使うな、どんなことがあってもそんなもんは端からないように振る舞え、なんて言われてその通りに出来るか?俺には出来んね」

 そのように育てられ、生きてきたせいであったとしても、とその態度で語る。

 「もちろん不可能なんかじゃねぇしやろうと思えば簡単に出来ることではあるだろうなぁ。だがよ、やりたいとは思わんだろう、そんなことはな。それはもう現代人が原子生活に戻れないのと同じようなもんだ」

 「推測にしか過ぎない事ではあるが、忍者と名乗ったことも、外に出て今に繋がる組織を作り上げてしまったのも、同じ理由を根にしていることだろう」

 現世界に不平不満を鳴らし、現体制を崩壊させてでも、現状を好き勝手にしたいと唱えるどころか実際に行動してしまう。いわゆる現世界や社会に対する反乱分子であるところのテロリスト達だが、彼等はそうして現在を否定し尽くしながらも決して別の関係のない世界で一から全てをとは言いはしない。

 今あるものは全て欲しい、否、今ある都合のいいものだけは全て欲しい。

 大前提としてそうなのだ。

 仮に社会を捨て自給自足だけで生きて行こうとしても、そうして生きて行くのが幸福だからであり。自給自足の対象が社会の利益の内にあるなどして、結局は社会などと敵対するならば、そのほうが都合が良かったからということに過ぎない。だから元よりのことなのだ。

 もちろん、誰でもであり、大前提であるが故に、競合が起こり、何事にも相手が出来る。社会とはそうした相手同士が袖擦り合うためのものだが、大前提であるからには、袖擦り合いながらも人は出来るだけ利益を得ようとする。

 ならば、どうなるか、どうするか。

 社会を変えたくはないが、己の立場を変えたいのならば、己が変わればいい?それで済んでいるなら、どんな不利益でも飲んでしまえばそれでいいと言っているに等しい。

 社会を変えたくはないが、己の立場を変えたいのならば、当然己が己の立場を変えればいいだけ、で済ますには、掴んでいる利益をも手放すということが大前提になる。だから利益を守るには立場を変えずに社会を変えるしかない。しかし多くの場合社会を変えれば立場そのものが崩壊してしまう。社会あっての立場だったのだから当然だろう。

 社会を変えれば、立場を変えれば不利益を被る。だからこそ強制力を持って人々に社会や立場は働きかけるのだからだ。

 ただし、社会そのものや立場そのものが、その社会や他の立場にとっても不利益となるようになれば、話は別だ。わざわざ飲み込み継続する理由がなければ、強制力よりも勝手で利己主義的な都合が勝つ。

 忍者と名乗った白影、というよりはその後に出て来た集団は、自分達の事を忍者であると宣言することで、社会での立場、それを振りかざした。

 しかしそもそもそんな立場は存在しなかった。存在していなかった存在、異物、もしくは新しきを受け入れるということは、社会もその内側にいる者の立場も根本から変わってしまうことになる。存在しなかったはずものが、存在して当然の形態になるということなのだから。

 仮にそれでも訪れる変化が大多数の利益に適っていればよかったろう。しかし予想される変化は、社会にとって、いや、すでに出来上がっていた多くの社会が形作る世界というものにとって、不利益、つまりは害悪でしかないと見なされたのだ。

 結果、ついでのような別の多数の利害によって、国ごと消滅させられる事態を引き起こした。

 だが、その時点で、害悪を取り除くために動いただけのはずだった世界は言うまでもないほどの変化を受け、当初の社会やそこに連なる人々の立場を思惑通りにさせはしなかった。

 有り体に言ってしまえば、変化しないと頑なになった時点で、それはもう変化しているのと同じであるというわけだからだ。思惑通りになるわけもない。

 世界はそうした様々な力学の絡み合う先の、ある種理不尽と不都合に塗れた結果を飲み込んで、良しとしていく。良しとしたいわけではなく、そうするしかないために。

 だが仮に、結果として落ち着いたその先を、それこそを意図的に指向していたとするならば?

 テロリズムとはテロル、恐怖を振りまき媒介として世界や社会構造に変革をもたらすための一手段である。暴力やそれによる破壊行為が中核でも実際でもないのだ。

 究極的には破壊活動者とその手によって引き起こされる破壊活動は恐怖を喚起させるための手段であり装置、駒でしかないと言って過言ではない。

 ただ単に多くの者にとってのテロとは「そういうものではない」という認識があるだけの話で。成功する前提の破壊活動による革命などを夢見て酔う様な者がいるだけの話なのだ。

 だから、大事な部分はそんな所にはないというだけなのだ。当たり前だが真の施工者が親切に説明して事態を開示するわけもないという、当然の話で。

 もちろん字塩も加藤も、そんなことまで言いはしない。

 「する必要はなかったはずだ。どこにも忍者などと名乗って、実際にそうであるように振る舞う必要はなかったはずだ」

 「ま、でもなぁ、あったわけだ。そうすりゃ俺達は忍者という存在になるからな。超能力を駆使して超人的に振舞っても、化物、怪物なんでもいいが、そうして排外される外れもののとしては扱われないようになったわけだ。今でもたいして違わない気も、俺にはするがよ」

 「そう、たいして違わなかった。しかし、それでは良くない、そうじゃあないか?」

 「・・・それで、今なら、と?」

 沈黙を破るように早雲が口を開いたことに、黙れと言い含めた字塩は頷いて返す。

 「ここまで犠牲を出したいわけではなかった、それは信じてもらいたい。弾頭使用等は特に予想外だった。しかし諸君も了解してきた事とはいえ、命を消耗品扱いしたことは紛れもない事実だ。それもいつものように納得の上での扱いでもない。さらに私達の目的がそういった我々が甘んじてきた立場からの脱却であるという矛盾があるならば、なおさらに怒りを買っても仕方がないだろう」

 「いやいや、綺麗事はもうな、いい加減どうでもいいだろ?そうだろ、わかってんだろうが、お前らも。ま、狡いとは思わんでもないし、罪悪感もないわけじゃないんだぜ?だがよ、ことここに至ってだな、今更どうこうしたいか?もっと言うならな、お前ら忍者をやめたいか?いんや、やめてどうする、どうしたいよ?」

 「そうだ、普通の人間達が作る下部社会、現代社会を動かす原動力を据え置いたまま、今の我々はかつて立場に座るために払った代償を減じて取り戻してさえなお同じ位置に座すことが出来るだろう。さらにはより優位に立つことさえも」

 「そうそう。んでだな、好き勝手やれそうだってわけだが、それなら忍者である必要もないだろうと、まぁ思うわなぁ。俺も出来るならやめたいもんだよ。しかしそいつは上手くない、言うなら悪手ってやつでしかないわけだ」

 「あえて言おう。我々が忍者でなければ、現世界は崩壊するし、何より我々自体がまとまりを失って体制崩壊するだろうと」

 「ようするにだ・・・お前らにはここで選んで貰おうってわけだ。この先も忍者でいるかどうかを、な」

 字塩が、加藤が、いつしかか、早雲と九斬の二影にではなくその場にいる全員へと問いかけていた。

 その証拠のように二影を見つめ続ける字塩とは違い、加藤は周囲を見回すように半笑いながらも睨め付けている。

 「・・・それで?忍者を選ばなければ、どうする?」

 騒然とさえ出来ずに問いに固まる忍び達の中、早雲だけが硬い表情を堅持したまま、すでに答えが分かり切っているが聞くしかない核心を問うた。

 「残念だが、全力を持って排除させてもらう」

 視線を逸らさず、早雲を一直線に見つめたまま字塩は言い切った。たとえ自分以外の全員が敵に回っても変わらないどころか、それでも一人になろうが実行出来ることなのだとでも言うかのように。

 実際のところ、そうした自信が大半の忍び達が心奥でどう思っているかは別にして、思惑通りの選択を選ぶとわかっているからだろう。

 なにせ、忍者でなくなってどうするのか?どうしたいのか?など、彼等には今まで考えることなどなかったことなのだから。最年長の加藤でさえ、生まれた時から忍者だったのだから当然とさえ言えるほどに。

 だからこそ当然か、早雲の視線が周囲を撫ぞってみても、もはや字塩に同調か同意しかしていない集団以外が映らない。

 「・・・俺は、お前達を認めない。忍者だと?笑わせる。思ってさえいないことをどうしようという?」

 九斬がそんな周囲よりも、隣で強行姿勢の字塩に向かって言い切った早雲に引きつったような表情を向けて、あきらめたように固まっている。

 肝心の早雲は柳に風のように、努めて怜悧な視線を目前の字塩に注いで動かさない。周囲の様子など意に介していないどころか、まるで最初からの敵を相手にしているように。

 「お前に認められなくても、問題ないどころか無意味だよ。早雲、いいや、黒子十三。そう、お前もまた、もう詰んでいるんだよ」

 そしてそんな早雲を、字塩は十三と名指しした。

 あるいは字塩と加藤の話よりもその指摘は周囲に動揺を広め、誰も声を上げていない静寂に近いというのに周囲が騒ついたように思わせる。

 だが、考えてみれば道理ではあるのだ。協力者がいたとして、虱潰しにされる最中どこに隠れていられるのか?普通に考えればそんな場所など無いも同然だ。

 隠れる場所はない、ならば隠れていなければいい。結局はそういうことになる。早雲に成り代わって堂々としていれば、十三が隠れる必要などなかったというわけだ。

 だが、隠遁は見破られた。幻十郎ですら数には敵わなかったのだ、十三が囲いの中心にいる以上、何故かこの期に及んでも余裕でいられる道理はないはずだ。現に隣の九斬の顔面は蒼白とは言わないが見事に強張って緊張を露わにしている。

 『っく、ははははは、っへは、くく、くくくはは、なぁ、おい、バレてんならもう我慢してなくても、っはは、いいよ、なぁ?ああ、なんだよ、ああ、もう、なんだ、本当に笑わせてくれるぜ、お前らはよぉ』

 一触即発のような空気の中、しかし文字通り笑い飛ばすかのように、耳障りで不愉快な嬌声が嗤いながら響いて通った。

 「この声・・・八名瀬、岩人、かよ?」

 『だぜぇ、覚えてたかよ、おっさん』

 眉根を潜め、唖然としながらも加藤が嬌声の持ち主の名を告げると、声の主は打たれて響くように意気揚々と答えてみせた。

 同時に十三の「変装」というよりも、もはや「変体」に近い偽装、岩人が成り代わっていた人皮が剥がれて血の塊に成り代わっていく。

 後に表れたのは、隻眼隻腕の十三と、その隻眼と隻腕を埋めている紅色。

 その紅は以前より体積を増したか、鎧のように十三を包んでいた分を移動させまとめると、わざわざデフォルメされた小さな人型、以前の岩人の似姿を十三の肩に生やした。

 その異形に少なからず以上の動揺が波紋と広がる。それはもう、どう見ても人間ではないからだろう。

 『なぁ、俺はなんだって思うよ、お前らはよ?』

 「何が言いたい?」

 肩から生える小人岩人に呆気に取られている周囲と違い、独り冷淡に対応するのは字塩鬼謀。

 『自分で言うのもなんだがよ、俺のこの姿はまぁ人間でも何でもねぇわな。普通こうなっちまえば生きてられんだろ。だってのに俺はこうして存在しているわけだ。脳味噌も糞もなく、意識だけの存在みたいになってもよぉ』

 「要は、精神寄生体だからだ、とでも言いたいわけだな?」

 『話が早ぇえなぁ、さすがだぜあんたは。頭の回転が違うんだろうな。んなら、わかるよな言いたいことはよぉ?』

 「たとえお前が常識を逸脱しているどころか、精神寄生体になっているとでも考えなければいけない存在になっていたとして。それが我々全員に共通する力を根源としている現象であると、幾つもの仮定を無理矢理事実として見て裏付けたとしても。それで、何を、どう証明出来ている?」

 人外の証明を目の前にして、事態を掴めない周囲を他所に字塩はあくまでも淡々と、毛ほどに動揺もなく不動の構えを示すように岩人に対峙する。

 『はは、関係ないってか?いいだろうぜ、そいつもイイだろうよぉ。まぁそれならよ、お前らの理屈も同じだわなぁ?そうだよなぁ?違うとは言わせねぇぜ、なぁ?』

 「同じではないな。御都合主義は同じでも、我々の主張は理ではなく、利に適っている。そして現実では、それこそが理として動く。それを覆す必要を私は感じないし、あえて代弁させてもらうが、皆もそうだろうね」

 字塩は辺りを見渡すこともない。見なくてもわかると、そう言わなくても確かにとしか言えない空気でその場は満ちて。実際に十三と岩人に対して敵意をその場のほぼ全員が向けている。

 『だよなぁ、そうだよなぁ。ああ、つまり話の内容なんざどうでもいいってのは言い過ぎなんだろうが、二の次なんだわなぁ。自分から都合の悪い話をして、あまつさえ通そうなんて馬鹿はいねぇに決まってるからな、そりゃそうだろうさ』

 しかし当然のように岩人は、だがな、と付け加える。

 『お前らはもういいから退場してろ、後はこちらがやっておいてやる。そう言われてもお前らは忍者なんぞを続けたいか?ああ、やりてぇ奴らもいるだろうな。例えばこの目の前にいる字塩と加藤のおっさんみたいな、取り仕切ってる奴らはよぉ』

 「はっ、なんだそりゃ?誰が代わりをやってくれるって?」

 岩人の言葉に加藤がわざとらしくも鼻で笑うが、覇気がなく鼻白んでいてらしくない。だからか、わかってんだろ?と言いたげに岩人はせせら笑う。

 『そりゃあ俺だ、なんてこたぁ言わねぇぜ。だが、わかるだろうが、こいつだよこいつ。なぁ、十三よぉ』

 「・・・やはりお前は黙った方がいい」

 『相変わらずひでぇなお前は、っへへへ』

 岩人という道化の意図はわからない、それでもその岩人どころか全周囲に冷たい視線を送る、岩人の寄生主、十三がはっきりと敵対姿勢であることは誰にでもわかる。

 話し合いになっていないとしか思えないなら、結局辿る道は一つのはずだ。そんな緊張がその場に高まっていく。

 「わざわざ私達が皆を集めてこんな話をした理由も、十三、君が早雲に成り代わっていると知っていながら諭したのも、何故か、わかっているはずだ。ここで戦ってどうなるというのか?わからない君ではないはずだ」

 それでも努めてか、冷静に淡々と字塩は目の前の影に説得を続けた。

 「意味など無いんだよ。立場や役職それ自体には。我々が生きていくための方便、便利な実態、そんな建前の変わり身に過ぎない。だから割り切るべきだと、そう思わないかい?」

 「・・・」

 十三はいつものように沈黙、いや、黙殺。

 字塩は気にもせず、さらに続ける。

 「呪縛。そう呼ぶべきものはある。社会の仕組み、人間としての欲求を満たすための需要と、供給することで得ようとされる対価の釣り合い。そこにはもうどうしようもないほど、私達が人間である限り平等など存在しないし、してはいけない、ましてや誰も心から許せはしないだろう。だからと言って、どうして我々が苦渋を甘んじる?わざわざ不平等の苦役を引き受ける?」

 「・・・」

 以前、十三に反応なし。字塩も同様。

 周囲だけが焦れたように焦燥している。

 「だから我々以外にその分の苦渋を受けてもらいたいわけでも、苦役を負えというわけでもないよ。配慮はしている、言い方は悪いかもしれないが慈悲を十分に掛けたはずだよ。社会を維持するという隷属を強いたと言うには、彼等は、我々以外の普通の人々は、選ぶ権利さえあったはずだ。選んだ上で我々の元に来て、荒廃した世界の中で再びの文明圏の暮らしを手に入れられるだけで、十分以上のはずだろう?世界が滅んだ原因も我々の存在以前に自業自得でもあるのだから、非難されるのも心外でしかない。間違っているかな?」

 「・・・何も」

 表情も変えず、微かに十三が呟き返した。それを良い手応えと取ったか、字塩は少しの微笑で受け答える。

 「では、我々が争う理由などないはずだ。違うかな?君の凶行を今更問いはしない。協力して貰えないだろうか?」

 そして言うと字塩は左手を差し出し十三に握手を求めようとする。

 対した十三は、笑った。珍しく、それも微笑ではなく明らかな冷笑で、鼻で笑うように。

 「・・・何も、間違ってはない、が、そんなことはどうでもいい」

 「あぁん?」

 告げられた台詞に言葉を失う字塩と虚しく浮かぶ左手を尻目に、加藤が疑問と恫喝のような唸りをあげた。

 「・・・まずだ。どうして俺がお前達を狩っているのか、考えなかったわけじゃないんだろう?なら、そんな話で済むとどうして思える」

 「知るか!!それこそどうでもいいってんだってんだよ。はっきりさせるべきはお前が俺達の敵でいるのか味方になるのか、それだけだ!!俺は別にお前みたいなのはさっさと始末した方がいいとしか思わんがな」

 敵意も隠さず、加藤は笑う十三に吠えたける。その手は知らずも知りつつだろうが、腰の刀に伸びている。

 「・・・そんなことはどうでもいいんだよ。お前達は忍者ではない。それだけの話だ。だから騙るお前達は排除される。それだけのことだ」

 「っな!?」

 だが、十三の放ったあまりの言葉に、加藤は呆気どころか愕然とその手を止めてしまう。

 字塩が一転、険しい顔で正面の影を睨む。そこにいるのは有体にいって常識の通じる存在では最早ないと認識して。

 「ならば、忍者とは何だ?我々が違うのだと、どうして断言出来る?」

 『っく、ははは、ぶっ、ははははは』

 そこに緊張感皆無に岩人がふきだし、大笑いに転げ回る。

 『いやぁ本気で大傑作だわ、お前らはどいつもこいつもよぉ。同じことしかマジで言わねぇんだな、まったくよぉ。善か悪か、そんな話のつもりじゃねぇのはわかるが、言ってるこたぁいつもそういうことなんだよなぁ、毎度毎度』

 加藤がこめかみをひくつかせ、怒気をちらつかせるが岩人は御構い無しに、むしろ一層煽るように続ける。

 『あーああ、別に馬鹿にしちゃあいないぜ?本当だぜぇ?自分達にとって良いか、悪いか、そう考えるのはあったりまえの判断基準ってやつだもんなぁ。俺だってそうするよ誰だってそうするよ。だがよ、だから駄目なんだわなぁ』

 「何が、だ?」

 硬い表情、それさえ印象に残さないような鋭利な視線を突き刺しながら、字塩が問うた。

 その時点ですでにその場の空気は沸騰どころか氷点下に達していたと言ってもいいほどに、どうしようもなくなっていたに違いない。少なくとも話が終わった瞬間どうなるかなど火を見るよりも明らかだったろう。

 『だーから言ってんだろ、そんなこたぁどーでもいい、ってなぁ』

 「・・・黙れと言っても無駄なら、俺が喋る。だから貴様は黙れ」

 一触即発通り越してすでに着火しているような最中で、平然と十三は言い放つと話を引き取った。

 「・・・お前達は俺に問う。忍者とは何か?と。それはどうしてだ?自明のことのはずだろう。どうして問う?」

 「お、前、は・・・」

 そして継いだ言葉に加藤が気付き、怒気をも滑り落として愕然と目を剥く。

 「だから・・・お前達は忍者ではないんだろう?俺は忍者だ、俺が忍者だ。だから俺はお前達を排除する。それだけ、たったのそれだけだ」

 至って真面目に言い放つ十三の横で、岩人が声にならないような笑いに転げている。

 「馬鹿な!!いや、馬鹿なのか君は!!そんな独断で勝手な話など!!っ・・・」

 字塩も理解し、冷静を崩して吠える。が、次の瞬間には自ら悟って口を噤んでいた。

 自分達の正当さなど、主張するだけ無駄どころか、すでに投げ打ってここにいるのだと。

 だとするならば最初から話し合いになるはずがない、ならば、と字塩が存在を忘れかけられていたような九斬に視線をやる。

 「ええ、まぁ取引しましたよ、俺達・・・早雲と俺はね。忍者なんぞはすっぱりやめて、まぁ生きてくとね。僭越でしょうけどね、オススメしますよ、皆にも。この馬鹿に任せりゃもういいでしょう?馬鹿らしいにもほどがあるでしょうが。実際こんなもんなんですから」

 空気が揺らぐ、根本から崩れる。

 怒りは収まっていない、者によってはより怒りを募らせた者もいる。それでも場の空気はすでに三々五々で、まとまりなどなく、完全に壊れていた。

 それでも、

 「それでもだ・・・だからなんだ。今更、今更そんな馬鹿げた話でどうにか出来ることではないっ!!」

 一喝し、ある意味当然に字塩は気勢を上げる。

 加藤もすぐさま刀の柄を強く握ると追随し、結局そのまま引き摺られるのに慣れ親しんだ彼等は包囲の輪を内向きに攻撃へと転嫁する体勢に移って行く。

 「そうだな、これは現実の厳しい社会の中でのお話だ。そんな酷い御託を通じさせてたまるか。おお、通じねぇんじゃねぇぞ?通じさせてやらねぇってんだぞ!!」

 怒気もどこかに、しかし吹っ切れたかいつもの調子の軽い加藤が顔を出し、そのまま発破を振りまいた。

 九斬は、まぁそりゃそうだろう当たり前だな、とでも思っているように白けつつも苦しげに後ずさるが、逃げ道は無論、どこにもない。

 「まさかだが・・・さすがに勝てるなどと思っていないだろうね?こうなってはどうすることも出来ない。あの幻十郎でさえもが。それならば君がいくら何を言おうとも現実は変えられないと知るべきだ」

 すでに決断は下され融和の道など露ほども有り得んと、そう言外に示しつつもわざわざ字塩は言い含めた。

 十三がたじろくとでも思ったのではないだろうが、おそらく言わずにいられなかったのだろう。

 だが、当の本人、十三は何一つ揺らがず、岩人の笑いを背に言い放つ。

 「・・・勝てなくても、それが関係あるのか?お前達が違うことに変わりはない。最初からそう言っている。俺がここにいるのは証明のためでも、承認のためでもない。・・・ただ、そうしなければいけないからだ。それだけのことに勝利も何も関係はない。意味もない。だが・・・ついでだ、負けもしない」

 「・・・・・・」

 何時ものように十三がでなく、字塩が無言。返す言葉もなく、言葉を返す意味がない。

 しかし字塩の表情に浮かぶのは軽蔑と嫌悪。まるで認めていた相手が子供と変わらぬと知ったかのように。

 「なら、証明して貰おうか」

 そして静かに加藤が呟いて、それを合図に口火は切られ、刀は鯉口から滑り出す。

 

 「忍者とは何かか?それすなわち儂のことに他ならぬよ」


 不破来道。名をそう呼ばれる老人がそこに居た。いいや、在った。

 「は?」「なっ!?」「・・・」

 『おいおい、なんだよ、そりゃ』

 加藤が抜き放とうとした刀の柄を作務衣姿の老人が片手で抑えている。

 それはいい、そんなことは問題ない。普通に考えて出来ることだ。そこに居て、手を伸ばし、柄を鞘から抜かれる前に抑えればいいだけの話で。

 ただ単に、何時、何処から、如何やって、そこに現れそんな行動を起こしたのか、誰も見えていなかった程度ではなく、認識出来ていなかったからだ。

 有り体に言えば過程を全て無視して、唐突に其処に現れたのだ、来道という名の老人は。

 「わかりやすく登場してみたんだがの。驚いてくれたようで何よりだが、ほれ、それよりも言う事があろうが?」

 来道が言うが早いか、抑えられていた柄を一歩後退することで外し、そのまま来道へと返す言葉もなく抜き打ちを放つ加藤。

 来道は飄々としたまま軽く動いて加藤の剣閃を避け、にやりと笑う。

 「さすがとでも言うべきかの?」

 「避けたってことは、一応生きてる人間ってことでいいのか、爺さんよ」

 ほとんどの影達が状況に理解が追いつけずに白黒している中、あからさまに仕留め損ねたと残念そうな態で加藤は憎々しげに吐き捨てる。

 「あまり驚いてもないかね?残念なことだが、仕方があるまいよな。慣れ親しんだ超常に過ぎんよって。して確かに、儂は幽霊なんぞではないよ。歴とした忍者、どころか偶さかにして儂だけが忍者とすら言えようよ」

 「それは・・・本当の、という意味か、唯一という意味か」

 道化ではないが戯ける来道に、字塩が疑念というよりも確信の確認のように問いかける。

 「どちらでも、然りよ。しかし唯一とする方が、話としては易いかね」

 「それは・・・つまりは・・・」

 返答に苦渋を飲み込むように顔をしかめ言い淀む字塩が真の二の句を次ぐ前に、音を置いて手刀が空間を引き裂く。

 加藤の抜き打ちはまだものの試し程度ではあった、しかし今度の一撃、十三の手刀は明確な殺意どころか、破壊の意思を感じさせるほどの本気も本気の壮絶なものだった。

 「まったく、危ない危ない、問答無用にも程があろうよ」

 しかし狙われた張本人、来道は空さえ切り裂いた手刀の軌道上から避けるも避けないもなく、忽然と姿を消して次の瞬間というほどの間さえなく、当の十三の背に立っていた。

 即座に後ろ回し蹴り、今度は普通に避ける来道。だが、そこで十三が唐突に驚愕を露わに追撃をやめて脚を下ろす。

 「・・・力の本体、だとでも、言う、のか?」

 そして唐突に十三は膝をつくと、苦しげに岩人との接合点を抑える。

 部屋の天井や隙間から、大量の血液が流れ出し周囲を紅に塗れさす。

 右腕と左眼、その代わりに成り代わっている岩人が形を上手く維持出来ずに崩れようとしていたのだ。そして施設を汚す大量の血は、おそらく十三が岩人を使って仕込んでおいたその分体を使った罠だったはずのものだろう。

 そもそも十三の後ろ回し蹴りはそのまま断空を放っているはずだった。それさえ無効化でも無ければ、ただ単に「出なかった」のだ。

 見れば棒と代わらないような二本の義足をまるで本物のように使って動いていた加藤が倒れそうになる身体を刀を支えに第三の脚にしてなんとか踏ん張っていた。

 他の忍び達も、大小の違いはあるが一影残らず実感していた。自分達が持っていたはずの力が、まるでではなくまさに借り物でしかなかったように自由に出来ないことを。

 「意地悪はこれぐらいにするかね。もう骨身に染みたろうしの」

 そして来道が宣言したと共に、「いつも」に戻り、岩人はその形を安定させ、加藤は棒の義足で体を支え、その場の全影が力が戻るのを実感する。

 「・・・お前は、何だ!?」

 理解しながらもある種その場の誰もが思う心の叫びを代弁したかのように十三が叫びを上げた。

 

 「忍者だよ。そう、人間ではなく」


 老人は表情を歪めながら、そう言い切った。



 続

 


まぁ一応、まだやる気はあるよ!!ということで


予定ではもう終わってるはずだったんだけどなぁ(遠い目

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