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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第四章 取捨の章
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MOVE 13:死と欲望と家族と……part1

 その場所はとても暖かい場所だった。


 丸く森におおわれた広い場所に1つの大きな施設が建っている。

 貧相なその場所にはからすの鳴き声が響いていた。

 烏たちが求めているのは、施設のそばに置かれた血なまぐさい黒いビニル袋。禍々しいまでにこびりついた血液が、烏たちの食欲を誘う。

 そしてまた、新しい餌が置かれる。黒衣をまとった人間が、餌を置いて消えると同時に、大量の烏は隕石いんせきのように上空から突進する。


 烏たちは餌をついばむだけで施設ここで何が行われているのかを知らない。


 そう、ここは研究施設。

 それも、人体を取り扱う愚劣ぐれつ残酷ざんこくな研究施設だ。

 その施設の地下の深層部には、恐ろしい人間が住み着いている。

 今日もそいつは人間を切り刻むのだった。


 「や、やめてくれ!」

 哀れな悲鳴。

 被験者は特性の手術用の手袋をはめている白衣の人物たちにおののいている。

 愚者の悲鳴などここに居る誰にも届くはずがない。

 だから、平気で銀の刃を頭に突き刺すことができた。


 施設の外にまで響き渡る轟音ごうおんに近い悲鳴に、烏たちは驚いて、一斉に飛び去った。

 バタバタと羽ばたく烏の焦燥しょうそうの後には閑静な施設だけが残った。


 「次の実験体をよこせ」

 人間の頭にメスを入れた非道な人間が女の声でそう言った。次に連れてこられたのは子供だった。

 ひどく怯えている。

 子供は血の付いたメスを見ただけで恐怖に泣き叫ぶ。


 その女は躊躇ためらわなかった。

 なぜなら、その女には“母性がない”からだ。


 もう1つの悲鳴が場外へとなげかれる。

 恐ろしいことに、女は恐怖にあえぐ被験者たちの顔を見て満面の笑みを浮かべる。


 「キヒヒ」と彼女は笑うのだった。


 「我ながら上々な出来栄え……。さて、そろそろ、自分の体を改造しようか?」

 女は再び満面の笑みを浮かべた。




 極寒の朝を迎える。

 静まり返った白い町の路上に、新しくできた大きな足跡が堂々と刻まれている。

 その足跡をたどると、大きな荷物を持った由紀が居た。

 「閑静な住宅街だな。本当に修二や浩平はこんなところに居るのか? 緊急無線通信は『ここぞ』というときに使えとあれほど言ったのに、世話の焼ける部下だぞ浩平」

 などと、1人でぶつぶつ愚痴をこぼしながら、とぼとぼと寒い町の中を歩く。

 「ぅ~、寒い村だ。バイクでわざわざ来てあげたのに、お迎えもなしとは図々しい奴らだ。こんな重い荷物を女である私に持たせるなんて言語同断だぞ!」

 鼻をすすりながら歩くと、丁度そこにベンチがあった。

 「お! ラッキー」

 疲れのたまっている由紀はその場に腰かけて、重荷をごっそりベンチの下に落とした。

 「あ~、いいベンチだぁ。ほんとに疲れたわぁ」

 ベンチの背もたれに思い切り寄り掛かって、体を芯から芯まで伸ばす。

 「火が欲しいな。そうだ、この爆弾、今ここで爆発させてやるか。丁度いい暖炉になるだろう。そうだな、ライター、ライター」

 誰と話すわけでもなく、独り言をつぶやいて、ポケットの中身をあさり始める由紀。

 その時、由紀の手が角ばった硬いものに触れた。

 「あった、あった。これだこれ」

 手中に収められていたのは、金属ライター。

 由紀は思い切ってふたを開け、火を灯そうとする。

 こうこつな表情浮かべて、指を動かした瞬間、ライターからは火ではなく、ワイヤーが飛び出した。

 「うげっ」

 慌ててワイヤーをよける。

 ベンチから転げ落ちて、白い絨毯じゅうたんに落下する。

 上まで飛び出したワイヤーは、しなびて雪と同化する。

 その間、由紀は理解できない、と表情を浮かべていた。幸いなことに、怪我をしないで済んだ。

 「おかしいな。なんで、ワイヤーを持ってきたんだ? 導火線がついてたから、違うライターを持ってきたはずなのに……」

 出しっぱなしになったワイヤーを戻して、改めなおしてポケットの中身を探る。しかし、ライターらしきものはもう存在しなかった。

 ポケットに手を突っ込んだまま、呆れてため息が出る。

 「武器用のライターと普通のライターを間違えるとはしょう無いなぁ……。だが、なぜ間違えたんだ? いや、そりゃ確かに徹夜だが……」

 立ち尽くしたまま自問自答する。要するに由紀はひまなのだ。

 「薄暗い大空の真下でこんな朝早く、こんなに退屈なんてな……。浩平が見張りでもしてると思って、夜中に出向いた私が間違いだったか……」

 ベンチに横になった。由紀のまぶたは徐々に重くなっていく。


 うとうとと寝始めた時だった。

 「動くな!」

 突然、銃を突きつけられておどかされた。大きな一声で、由紀のすいはどこかへ吹き飛んだ。目を皿にして、相手を見つめ返す。

 由紀に銃を向けているのは冬馬だった。むろん、由紀は冬馬を知らないし、冬馬も由紀を知らない。

 「どこの軍隊だ?」

 ちんな脅し文句に由紀は、少し呆れかえったような表情を見せた。

 「ふぅ、言っておくが銃を向ける相手は選んだほうがいいぞ? これは忠告だ」

 自信満々に由希は強気な対応をする。

 「そうかい? 試してみるか」

 冬馬がそう言った瞬間、由紀はするりとベンチから滑り降りた。不可解な行動に驚きながら、冬馬は慌てて由紀を追う。


 しかし、時すでに遅し。


 由紀は冬馬の銃をすでに抑え込んでいた。殊更ことさらに驚いた冬馬は無意識に何発が銃弾を発射する。

 雪をえぐる銃弾。抉られた雪の粉が宙を舞うとき、由紀の強烈な左フックが冬馬の脇腹に直撃した。

 冬馬の腹から声が漏れる。

 衝撃で冬馬が大勢を崩すと、由希はその隙に腕をひねり冬馬に銃を突き付けた。


 あまりにも早すぎる逆転劇だった。

 「言われた通り試してみたぞ」

 由希は屈強な表情を見せた。冬馬は卑屈な顔をして、由紀を睨んだ。

 「この状況でも、お前は足掻き続けるのか?」

 由希が静かな殺意を向ける。その時、

 「待て待て! 2人ともそこまでだ!」

 ようやく修二が姿を現した。

 呆れた由希は事情をそれなりに理解して、冬馬を解放した。

 「しかたあるまい、初対面なんてこんなものさ」

 由希はそう言って苦笑いした。



 修二は2人に事情を話した。

 事情を聞かされた2人はばくぜんとした表情を浮かべる。

 「な~んだ、仲間だったのか。って修二! もっと早く言わないか! 危うく殺しかけたじゃないか」

 由紀はその後もがみがみと文句を言い続け、修二は20分ほど由希の文句に付き合わされた。






 清き風が吹く。

 清々しい朝の陽ざしは、1人の男を照らし出す。

 男にとって、その朝の陽ざしはうらめしかった。

 「はぁ、情けない。いい年した中年男が、朝の陽ざしを前にそがれているとは」

 独り言。

 誠也は、七香が消えてまる1日と半分が経過した今、不安と戦い続けてきた。その戦いに白黒が付くとなると、なおさら落ち着いては居られない。


 「どうして、もう一度あいつの元に戻らなければならないんだ」


 誠也はこぶしを強く握った。

 不幸の起点となったあの場所。

 誠也にも拭い去れない過去があった。



 “もう、この研究所は必要ない”





 まるで、コンサートホールのような建物だ。

 双眼鏡を覗き込む修二はそう思った。

 「あれがラズナ研究所か。沢山の機械が巡回してる。このあいだ村を襲った機械と同じものだろう。……なんか、臭うな」

 周辺には生臭さが漂っている。

 「そうだね、シュウ君。入りたくないね」

 「まったくだ。それと、なかなか指示が出ないな」

 修二は無線機に目をやる。

 「とりあえず、観察してればいいんじゃないかな?」

 修二にそう言って一番退屈そうなのは美来だった。欠伸あくびまでしている。

 「大丈夫か? これから戦なのに眠そうだな?」

 「平気だよ。戦いになれば目が覚めるから……」

 修二は心配しながら、再び観察を開始する。

 建物の仕組みは、入り口や側面が半面硝子になっていて、こちらからは中の様子が見えない。加えて、入り口は大きめで、自動ドアがついている。

 もちろん、自動ドアはセンサーつきだ。恐らく、研究員しか入れない。つまり、修二たちがこのドアを通過するには破壊以外に選択肢はないのだ。

 「陳腐な仕組みだ。けど、やっかいだな……」

 「そうだね、シュウ君。機械を一掃しなきゃね」

 美来はもう放心状態になりそうだった。会話も少しずつ危うくなってきているような気がする。



 「知ってますか? 実験体は大人よりも子供のほうが成果が多いんですよ」


 急に後ろから声が忍び寄ってきた。

 敵に後ろを取られた、と思った修二は、持っていた拳銃を相手に向ける。素早い反応に、茂みの中の殺斬は茫然としていた。

 「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね」

 気を取り直して、殺斬は冷静に言った。

 「もう、脅かさないでよ、シュウ君……」

 なぜか驚いていたのは美来だった。

 「ゴメン、でも、目が覚めたでしょ?」

 「うん」

 美来は少し照れくさそうな表情を浮かべた。

 修二は銃をしまう。

 「殺斬さん、いいのか? 指示が出てないのに勝手に行動して」

 そう尋ねると、なぜか殺斬は愛想笑いを浮かべた。


 「はい。はっきりしない指示を待つよりも、自分たちは自分たちで行動するのが妥当だと考えまして、それに、私は一応修二さんとは別行動している形になっていますので……」

 「……そうか。冬馬め、一体いつまで待たせるつもりだ」

 修二は向こう岸の茂みを睨み付けてそう言った。

 「修二さん、本当にあの人に任せていいのですか?」

 「あの人に任せるといっても、一応作戦を立てたのはあっちだからな……」

 「確かにそうです。しかし、作戦は実行しなければ意味がありません」

 きっぱりと殺斬はそう言った。

 「それに、修二さん、美来さん。月滅つきほろぼしでの戦い、それと麗川大鉄橋での戦い。見事でしたよ。あの軍勢で生き残れたのは奇跡と言っても過言ではないでしょう」

 急に褒める殺斬に修二は赤面する。

 「やだなぁ、殺斬さんがいてくれたお蔭だよ。うん……」

 修二は美来に嫌な目で見られていることに気付いた。

 「そうですか? それはさておき、私は修二さんのグループは、修二さんの指示で動かしたほうがいいと思いますよ」

 殺斬は自信満々にそう言った。

 「でも……」

 あいまいな返事を返す。

 「殺斬さんの言うとおりだよ。シュウ君。私、あんな人(冬馬)なんかより、シュウ君の指示で戦いたいよ。だって、私はあの人(冬馬)のために戦うわけじゃないもん」

 美来の発言で修二はますます困惑した。

 「あんな人って、美来……。一応、僕らを助けてくれた人だぞ」

 「じゃあ、ぐずぐずして、七香ちゃんの命が無くなってもいいの?」

 「……」

 修二は何も言い返せなかった。美来の意見にきょうせざるを得ない。

 「決まりですね。やはり、そう決めてもらえると思って、連れてきましたよ」

 殺斬がそう言うと、茂みから隆と依里茄、誠也が現れた。

 「え? ちょっと待って、みんなで命令違反してたのか?」

 修二がそう言うと、みんな呆れたような顔つきになった。

 「ったりめえだぁ。暇すぎて小便がれちまう。お前の知り合いはもうとっくに動いてっぞ」

 隆がそう言って、左のほうを指さした。見てみると、左の奥のほうで、浩平と由紀はすでに突入準備を整えていた。銃を構えて準備万端ばんたん

 一方で、修二は足元にショットガンが転がったまま。

 「どうするんだ修二。早く指示を出せ」

 依里茄は酷なことを言う。

 修二は困ったように殺斬を見つめた。殺斬は決心の付かない修二にただ首を縦に振って見せるだけ。

 もう、指示を仰ぐしかない。

 「じゃあ、取りあえず、施設に突入する部隊と後方に残って援助する部隊に分けたいと思う」

 仲間たちはみんな嬉しそうに微笑み返した。

 「シュウ君。だったら、私はシュウ君と一緒に行動したいな……」

 美来はさりげなくそう言った。にこやかな笑みに修二は少しだけ罪悪感を覚えた。

 「とりあえず、内部に侵入するのは駆動力があったほうが良い、だから、足の速い依里茄と動き回れる隆のほうが良いと考えてる。けど、隆には……」

 「怪我の心配はいらねえ。ぶったたいても痛くもかゆくも感じねえぜ」

 隆は強がって見せた。よほど後衛こうえいに回されるのが嫌なのだろう。

 「そうか、なら、決まりだ。僕と依里茄、隆の3人で施設内部を破壊する。2人は後方で援護してくれ」

 そう言うと、美来は残念そうな表情を浮かべた。

 「フッ、賢明な判断だ。少しは見る目が良くなったんじゃねえか?」

 隆は得意そうにそう言った。

 「そう言ってくれると信じてた」

 調子に乗って依里茄は言った。

 「シュウ君と一緒じゃなくて、残念だなぁ……。でも、シュウ君がそう言うなら……」

 美来は納得していないようだった。

 「七香の事、頼む」

 誠也はそう言って、茂みの奥へ消えていった。

 「それでは、私たちも準備がありますので……」

 殺斬は足早に去って行った。


 「シュウ君、頑張ってね。私、一生懸命サポートするから」

 「うん、頼むよ美来」

 美来は修二に少し笑って見せた。


 「さて、行こうか」

 修二が意を決して切り出した。

 「早速か。取りあえず機械どもを蹴散らせばいいんだろ?」

 隆はいきなり本気モードで、ハンドガンを両手に装備した。


 「……そう言うことだけど。なるべく僕らは施設に張り付いてる敵には構わずに攻め込みたい。奴らを倒すのは必要最低限で、僕らは内部に侵入して早めに七香の安否を確認する。それと、浩平の護衛も行う」

 修二はキリッとした顔を2人に見せる。

 「無理だと少しでも感じたら後退してほしい。できるだけ今は戦力をかかせたくはない」

 「分かったよ。無理は禁物。少しでも負傷したら、負け犬みたいにとっとと戻ってやるよ」

 依里茄は退屈そうにそう言った。

 「よし、それじゃ、行くよ」

 修二は地面についた足に力を込めた。

 




 戦場が騒がしくなろうとする頃、密かに、会話を聞くものがいた。

 苦しそうに息をして、できるだけ物音をたてずにその小さい影は近づく。

 「あたしだって、役に立って見せるんだから……」

 影はただそう言って、戦場へと歩んだ。

ご精読ありがとうございました。


次回話に続きます。

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