表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第四章 取捨の章
83/115

MOVE 11:前触れ

 とある狭い病室。

 依里茄は気に入らなそうにペンを手の上で遊ばせていた。

 遊びと言っても単純で、投げ上げするだけの遊び。どこかのお嬢様がそんな遊びをやっていた気がする(持っていたのはペンよりも恐ろしい物だが)。

 「聞いたか、夏香? 明日、ラズナ研究所に向けて出発だってよ」

 起こしたままの上体を夏香のほうへひねりながら、嫌そうに依里茄は言った。

 「初耳ですね。でも、どうして急にあのような“危険区域”を攻めようと考案したのでしょうか?」

 「分からんよ。なんでも、七香がそこに居る可能性が高いんだとよ。あんな場所、可能性だけで行かせるのは犬死と一緒だと思うけど」

 「確かに政府内でも厳重警戒区域に赤丸がついていました」

 政府にはいくつかの危険信号の区分がある。そのうちの1つが丸印の色分けだ。丸の色には黒、緑、青、赤があり、くだんの順番で危険度が設定されている。因みに黒が1番安全だ。

 「ああ、全くだ。“あれ”が出来上がってから政府の人間は不用意に攻勢ができなくて、慎重になった結果、停戦状態が続いたって言っても過言じゃないな」

 「ええ。それと、帝国に服従していた時に聞いた話ですが、あちらの研究所のオーナーは『ラズナ』と言ってかなりりょう的な人間だと聞きます。ノイローゼじゃないのかという意見も出ていたほどです」

 依里茄は移動して、パイプ椅子に腰かけた。依里茄は手に持っているペンを適当に投げた。すると、ちょうどよくペンはペン立てにぐさりと突き刺さる。

 依里茄は少し満足そうな表情を浮かべる。

 「気に入らないな、意外とおしゃべりだな。帝国の人間は……。洗脳主義、洗脳主義って言われてるから、私語厳禁のそくばく生活が習慣になってるもんだと思ってたよ」

 「依里茄さん。更に気に入らないと思いますが、“帝国の格上の人材は自由度が高い”のですよ。なんでも、洗脳兵には現地で支持を仰ぐ人材が必要なんだとか」

 夏香の発言に依里茄は眉をしかめた。

 「……本当に帝国はくだらない存在だ」

 大胆不敵に依里茄は足を組む。いや、足を組んで体操を始めていた。背伸びと前屈の繰り返しで、何の運動かは分からない。

 意味不明な体操をしながら依里茄はあることを思い浮かべた。

 「なあ、夏香。麗川大鉄橋で洗脳兵を指揮していたのは誰なんだ?」

 とうとつな疑問符に夏香はまゆを曇らす。

 「恐らく、ナイフ人間のマガ・ローターさんじゃないんですか?」

 「本当にそうか? あんな子供に軍隊を指揮できるとは思えないけどな」

 「そうですか? でも、意外とあの人は知能が高いですよ」

 依里茄は顔をしかめて考えている。

 寒い沈黙が周囲を囲んで少ししたとき、依里茄の口が動いた。


 「マガ・ローターは単独で行動してるだろう?」


 「……でも、たまには兵士を連れてるんじゃないんですか?」

 と言った夏香は心配ないと言い聞かせるように、依里茄に微笑みかけた。

 「でも、どうして突然そんな話題になったんです?」


 「妙に引っかかるんだ。麗川の奴ら……。あいつら戦闘機も使用して、誰かの指示に従って動いていたようだった。子供に貴重な空の戦力を預けた戦いをするか? だとしても、あの日、貴重な戦力を使ってきたのには何か理由があると思う。理由なしに貴重な戦力を投入するなんて、帝国はそこまで愚かではなかろう」


 依里茄の疑心に夏香も揺られ始めた。試行錯誤を繰り返して、2人の戦士は1つの答えを導き出そうと考える。

 「確かに、依里茄さんの言う通り、あの場には食えない指揮官がいたと思います。でも、マガ・ローターさん以外に誰が……?」

 夏香がいうと依里茄は体操をしながら、

 「私はこの村の男(冬馬)が怪しいと踏んでる。奴の態度、妙に白々しくないか? こんなに気前よく振舞って、変なタイミングで意味分からない機械までここに攻めてきた。つまり……」

 「『私達の居場所がすでに敵国に知れ渡っている』という事ですね?」

 依里茄と夏香は得意そうに笑った。

 「さすがは政府軍の策士。察しが早いな。あの中で帝国に指令を出せる人間は“あの男”しかいない」

 「確かに、それはありそうですね。この村は一応帝国の領土です。気前よく振舞うほうが不自然です」

 依里茄と夏香は窓から冬馬の拠点となっている家屋を見た。2階建てのせいな建物に、2人は厳めしい視線をぶつけた。

 「帝国軍め……。私達が政府の戦士であることを思い知らせてやる」

 「ええ。尊い犠牲の無念を晴らしましょう」

 いつもは少し熱いくらいに感じられる病室が妙に寒く感じられた。




 氷冷が大地に静寂をもたらす。

 零度を割る氷点下の中で、その橋はせきばくに駆られながら平然とたたずんでいる。

 ただ、雪だけを乗せて。


 寂しそうな橋のそばには5つの影があった。暖かそうな格好をした影はひっそりと、地面を見下ろしている。

 「やっぱり、遺体がないな」

 修二は呟いた。

 「まるで、前にもこんな事があったような口ぶりだな」

 鉛筆を耳に挟んでいる誠也が呟いた。誠也はどんな時でも機械の製図が書けるように鉛筆を持ち合わせているのだろう。

 「その通り。以前、労働場に攻め込んだときも遺体のない大惨事が起きた。人を食う生き物がいるのか、れいに労働者の遺体だけ無くなってた」

 億劫そうに修二は呟いた。

 最近は引っかかることが多すぎる。現場から死体だけが消えるなぞ。とてもじゃないが、帝国が遺体を片付ける印象はない。


 なら、どうして“死体”だけなくなるのだろうか。


 沈黙が覆う。

 すると、修二の隣で誠也は首を縦に振ってうなずいていた。

 「なるほど、この世で1番、こくはくなラズナのすることには似合ってるな」

 「ラズナ?」

 「ああ。残酷すぎることが評価されて、自分の研究所まで作ってもらった“いかれ女”だよ」

 「いかれ女? いったい何をしたんだ?」

 「実験のために我が子を犠牲にしたのだ」

 「自分の子を……?」

 想像しただけでもゾッとする話だ。愛する子を実験に掛ける心情なんて理解できない。いや、理解できたらむしろおかしいのだ。


 “無罪”の“処罰”に理解者は必要ない。

 「ゾッとする話だねシュウ君。小さい子供の体にむりやりメスを入れちゃうんだよ……。それを当たり前のように行えちゃうなんて、悲惨な世界だよね……」

 美来が悲しそうにそう言った。

 (はやく、帝国を倒さなければ……)

 修二は焦る気持ちが湧き上がる。拳を握り、その場に立ち尽くした。


 「四の五の言っても仕方ないですよ。戦争が当たり前なんですよ。猟奇的に子供を殺害する人間がいても、おかしくないじゃないですか」

 否定的なことを言うかおり。

 修二は横目で、かおりを睨み付けていた。かおりはその眼圧に気付いて、よそ見した。

 「修二はんよぉ、その世界を何とかして変えるのが俺たちの仕事なんだろう?」

 浩平が言った。

 「ああ、浩平の言うとおりだよ。すぐにでもこの世界を終わらせよう」

 修二は向き直ってそう言った。

 「となれば、明日にでも行動開始だな。七香は必ずラズナ研究所に居ることだし、一気に攻め込もう。そして、研究所を破壊すれば……」

 「帝国に大打撃を与えられる」

 そう言っただけで、気分が舞い上がった気がした。


 冷たい風が飄々ひょうひょうと大鉄橋の上を流れる。

 横殴りに吹き付ける風は、マフラーを不気味に揺らして遊んでいるようだった。

 凍てつく冬の風は目に染みる。

 「う~、さみぃ……。早く村に戻って暖炉の炎に当たりたいねぇ」

 浩平が呑気にそんなことを漏らす。

 静かで寒いこの場所に、浩平の声は異様なほど響き渡った。

 「皆おんなじ気分さ。もう少し頑張れ」

 「ていってもよぉ、あとどのくらいかかるんだぁ?」

 「もう少しだよ」

 そう言った瞬間、

 「ちょっと、静かにして……」

 と美来が何かに神経を注ぎながらそう言った。

 美来はライフルを抜き、壊れた橋からどこかを見つめている。

 「あそこに、何かいる」

 切り立った崖と、緩やかな陸地に囲まれた川を隔て、美来はある一点を指さした。

 指さす方向を目で追って行っても、何も見えない。

 「何も見えないぞ……」

 誠也の言う通り、美来の指さすところには何もいない。

 「カムフラージュしてる。みんな雪みたいに白い服着てる。銃も靴も頭もみんな真っ白。それに、こっちの存在に気づいてる……?」

 美来はやけに慌てているようだった。必然的に敵が攻めてきていると考えたほうがいいに違いない。

 「くそ、まじかよ。敵が攻めてきてんのか? よりによってこんな重要な時にかよ。ああくそぉ! 爆弾つくっときゃよかったぜ!!」

 「わめくな浩平! 声だけで我々の位置がばれてしまうぞ!」

 焦る浩平と冷静な誠也。

 こうしている間にも敵は一歩ずつ修二に接近しているのだろう。

 不気味に風が笑う。

 昨日の戦闘で骨組みがむき出しになった虚しい大鉄橋の上で、美来の様子を修二はうかがう。

 「シュウ君……どうしよう?」

 美来は不安そうにそう言った。

 その時だった。

 「あなたたち、そこで何をしていらっしゃるのですか?」

 修二たちが向こう岸に気を取られている間に、反対側から近づいていた敵に気付かなかった。敵は1人だった。それに、浩平に銃を向けている。

 「うわっ! 出やがった! しゅ、しゅしゅしゅ、修二ぃ! どうすんだぁ!」

 ひ弱にも浩平が修二の背中に隠れた。必然、敵の銃口は修二に向く。

 修二は白い服を身にまとった兵士を睨み付ける。兵士も同様に修二を睨み付けた。

 睨み合いのさなかに、風は冷たさを増した。

 「なんで、お前1人だけなんだ?」

 「1人? 違いますね? 大勢ですよ。後ろを見てごらんなさい」

 その時、修二は目を丸くすることしかできなくなった。

 男の遥か後方には無数の兵隊たちで埋め尽くされていた。

 浩平は情けない悲鳴を上げる。戦士としてはみっともない、と言いたい。

 他の仲間も少し戸惑っているようだ。

 「さあ、どうします? 大人しく手を上げて降伏しますか? その人数では、いくら“優秀な兵士”とて、無駄に命を切り捨てているだけですよ」

 余裕そうな兵士の表情に修二は歯をかみしめた。かつて、空奈にはめられたとき、美来は危険と承知したうえで抗いに行った。


 今度は修二がぼうに争う出番なのか。いや、ここは冷静に仲間の安全を第一に考えなければならない。


 「なにが目的だ?」

 「ええ、それはたった1つ質問に答えていただければいいのですよ。この付近にある“労働場”を知っている限り上げてもらえれば――――――――――」

 不審な点に気が付いた。

 「待て、もしかして帝国の兵士じゃないのか?」

 「はい? 何をおっしゃるのかと思えば、そんなせんなものと一緒にしてもらってはこちらが困りますよ。私は元政府軍、第四部隊隊長の『たく』と申します」

 元政府と聞いただけで修二の緊張が一気に解けていく。それは美来も同じだった。

 「元政府のじゅうぞくなのか」

 「左様。それと解せぬ質問をなさいましたが、なにゆえ?」

 「僕は政府と帝国に反抗するゲリラだ。元政府軍には危害は加えない。身近な人間でいえば“依里茄”と知り合いだ」

 その名前を聞いた瞬間、相手の反応が変化したことが分かった。かぶっていたマスクを脱ぎ、眼鏡をかけた素顔を現す。

 その瞬間、後方で待機していた兵士は騒然とする。すこしすると、困惑しながらも兵士は銃を下ろした。しっかりした意志を持っている。

 琢は素顔を現すと、ゆっくり銃を下ろした。

 「これは、大変失礼しましたね。もしや、あなたは……たくもなしに、政府軍の玄三さまの元で強引に直属させられた修二さま?」

 「なぜそれを? 僕はそんなに有名人なのか?」

 「ええ、政府軍の中では著名人ですよ。もっとも、玄三の大軍隊と勇敢に戦った第三部隊の智恵利さま程ではありませんが。……しかし、智恵利さまやその臣下の者は。とても残念でしたね」

 言って、琢は丁寧におした。修二はぜんとする。

 誠也とかおりは気に入らなそうに見ていた。

 「とりあえず、依里茄さまはどちらに?」

 「今は村で休んでる」

 「そうですか。依里茄さまにもよろしくお伝えください。では、私めらはこの辺で失礼させていただきます」

 そう言って、琢は忙しそうに白い目だし帽をかぶって、修二達を横切って行った。

 従属する兵隊たちも金魚の糞のように後から続く。

 物々しい軍勢だ。第四部隊の兵隊の数だけでも修二の軍の5倍近い数だった。


 「やっぱりシュウ君は凄いね。政府の偉い人にまでお辞儀されちゃうなんて……」

 美来は勘違いしているようだ。少し、修二は恥ずかしい気持ちになった。

 「やっぱり修二はんってすげえな。味方のピンチになったら敵側の軍勢に頭を下げさせるなんてなぁ」

 浩平も違う勘違いしている。

 「礼儀正しいってだけで、好感を持ったのなら死に直結しますよ。相手は信用できない政府軍出身なのには、変わりませんからね」

 「かおりの言うとおりだ。少し浮かれ気味だぞ。もう少し出会う人間には敵意を持ったほうが良い」

 かおりと誠也は政府を毛嫌いしているため、手厳しい言葉を掛ける。

 誠也はごうぜんとした態度で小さくなっていく背中たちを見つめていた。

 「じょうぜつに上辺だけの言葉をずらずら並べて……。ほうまんなのよ政府の連中は……」

 かおりは怒っていた。

 りゅうをつり上げて、足で雪を蹴る。しまいには横目で去りゆく勢力に怨みを注いでいた。


 修二たちは言葉を失うしかなかった。

 趣のある冬の景色には似つかわしくない寒さが時折、修二の体を掌握する。寒さに震えるというよりは怖さに怯えると形容したほうが良いだろう。

 「ま、まあ、とりあえず、帰ろう。これ以上ここに居ても何の収集にもならなそうだし」

 修二が勇気を持って切り出すと、かおりの怖い視線も修二に向けられた。威圧だけで吹き飛ばされそうになる。

 「こんな寒い中、つき合わせて悪かったね」

 苦笑いしながら言った。熱くもないのに修二の顔には汗がしたたり落ちてきた。

 反論はなく、2人のは早急に村へと向かって歩みだした。


 しばらくすると、

 「いやぁ、“怨み”って怖いねぇ。あんな目で睨まれたら、俺は1日中ふるえが止まらねえぜ」

 と浩平が言った。

 寒さの中に消えていく2つの影は会話もなかった。修二が帝国の皇帝カリバを許せないように、彼らも政府が許せないのだ。

 「私も……あんな風に依里茄さんを睨んじゃったんだよね」

 美来はいまだに“あの時のこと”を引きずっているようだ。

 「え? 美来もあんな目で人を睨んだことがあるのか?」

 初めて知った浩平は好奇心旺盛おうせいに美来の過去をかいさせようとした。顧みたくもない過去の話を切り出された美来は、人形のように固まって地面を見つめる。

 硬くなった雪の景色は、美来の心の闇を嘲笑っているようだった。

 「やめておけ浩平。興味を持つのは悪い事じゃないと思うが、これから美来に過去の話を切り出すのはこんりんざいやめてほしいんだ」

 「そ、そうなんか? “由紀殿と同じような”過酷な運命たどってるってことなんか? ならしゃあないな」

 すんなり受け入れる浩平。本当に彼が受け入れたのかは分からないが、分かってくれたのなら「よかった」とすんなり受け入れるべきなのだろう。

 修二は首振り人形のように縦にうなずいていると、美来は足元に何かを発見した。

 「シュウく~ん。なんか変なの見つけたよ」

 美来は銀色に光るそれを手に取った。怪しい輝きを放つそれは、鉄パイプのような筒状の何かだった。

 「それは、なに?」

 「分からない……。なんだかロボットの部品みたいだね」

 銀色の部品にとりとめのない違和感を感じた。

ご精読ありがとうございました。


活動報告には同時と言いましたが、独断でさすがに同時ではあれだろうと考え、次回話は明日に投稿することに決めました。

読者の皆様には本当に感謝の気持ちで一杯です。できるだけ早く完成できように書きますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ