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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第四章 取捨の章
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MOVE 2:波乱

 風の勢いが激しくなってきた。

 風は砂を空中へ散布させている。これで煙霧えんむの完成。月滅の町でこの現象は珍しくない。冬は寒くなるだけで、乾燥していることには変わりない。

 「依里茄の奴、まだ外でああして……」

 修二が心配そうに依里茄を見つめていた。地上から3階層離れたその場所で、修二は徐々に濁っていく視界を不安そうに眺めていた。このまま放っておいたら依里茄が危険だ。

 「放っておけ修二。あの女はお前がどうこう言ったところで、すぐには意見を曲げねえだろうよ」

 「隆、でも……」

 「あいつなら大丈夫だ。修二が思うように簡単にへばる相手じゃなさそうだぜ。たかが天候くらいであいつは死なねえだろ」

 隆は屁理屈へりくつだけをごねていた。修二は納得なっとくいかないように窓の外を眺めていた。

 強風にあおられてなびく黒いコートが物寂しく揺れる。まるで飛べないコウモリが地面を這いずり回っているようだった。

 「それにしても、すごい風だよね。まるで嵐みたい……」

 七香と積み木で楽しそうに遊んでいる美来がそう言った。現在修二の居る部屋には依里茄以外の仲間が集っている。そこで、お茶会じみたことをやっているのだ。

 「しかしまあ、ほほえましい光景だな。お姉ちゃんが年の離れた妹と遊んでるみてえだ」

 戦争を忘れた空間で、ふと戦争のことを思い出す隆が軽々しく語った。それでも、戦争を忘れていることには変わりない。なんせ乱世は珍しく1ヶ月の休憩を与えてくださったのだ。いや、1ヶ月以上だ。悲しみから逃れられることは、修二たちにとって十分な幸せだった。

 「ああ。出来ればこんな日常がずっと続けばいいのだが……」

 誰もが願うおもいを誠也が口にした。

 すると、積み木が倒れた。一室に大きく響く倒壊の音楽は、嫌な予感を思い出させた。

 美来は残念がる七香を優しく慰め、また0から積み木を始める。テーブルに座ってお茶を飲んでいる2人の男は微笑んでその光景を眺めていた。どうやら、嫌な予感を思い浮かべているのは修二だけのようだ。

 再び修二は外を眺める。さっきよりも窓の外は濁っていた。平和からかけ放されているのは修二と依里茄だけのようだ。

 「やっぱり僕、依里茄のところに行ってくる」

 「あ、シュウ君、待って、外は危ないよ?」

 「でも、放っておけないよ」

 修二は部屋を飛び出した。大人たちは互いに顔を見合わせて、やれやれとため息をついた。美来は不安そうに閉じられた扉を眺めているだけだった。




 外はすごい風だった。漆黒の鎧をまとう女性の名前を呼んでも、風の唸りにかき消されてしまうほどだった。

 「依里茄! 危険だから戻ろう!」

 修二は反応のない依里茄の手をつかんでそう言った。

 「放せ修二。私は待つんだ」

 依里茄は修二の手を振りほどき、なかなかいうことを聞いてはくれない。いつも以上に依里茄はいらだっているようだった。

 凍てつく寒さと風が一体になって修二たちを襲う。まるで槍で突かれているような感覚だった。

 やがて、戻そうとする修二と戻らない依里茄でもみ合いが始まった。

 「いい加減にしろ修二! “嫌だ”と言ってるだろう!」

 「そういう訳にも行かない。無理にでも依里茄を家の中に押し込む!」

 服や手をつかんでくる修二の手を、依里茄は力で引き離す。それの繰り返し。




 でも、忘れてはならない。

 ここは戦争の世界だという事。

 混沌の世界はいつ、どこで、何が起きてもおかしくないのだ。




 その時、遠くのほうで何かが爆発して、壊れる音がした。

 一瞬にして2人の動きが静止する。

 うっすらと遠くのほうで黒い煙が発生しているのが見えた。。

 「修二、今の音は……」

 「紛争?」

 そうつぶやいた瞬間、依里茄が何かに気付いて刀を抜いた。依里茄の目は敵を見る目になっている。

 「修二、仲間を呼べ。大事が始まるぞ」

 修二は少し躊躇ちゅうちょした。敵が近くに居ると知らされた今、仲間をここに放置しても大丈夫なのだろうか。1秒目を離したすきに殺されないかと。

 「……わかった。依里茄、注意しろよ」

 修二は依里茄を信じることにした。大急ぎで仲間を呼びに部屋へ戻る。


 扉を開けた瞬間しゅんかん、視線が修二を突き刺した。『平和のひと時』に流れる『波乱はらんのひと時』へのシフトチェンジには抵抗ていこうがあるようだ。

 「どうしたのシュウ君? そんなにあわてて」

 きょとんとした美来が修二に訊いた。

 「みんな、戦闘準備だ。敵が攻めてきた!」

 平和の団欒だんらんは一瞬にして崩れ去った。


 修二が再び依里茄の元に戻ったときは死体が3つ出来上がっていた。既に戦争は始まっているのだ。

 「やっと来たか修二。こいつら帝国の兵士だ」

 依里茄は1つの死体を刀剣の腹で叩いてそう言った。死体にはゴーグルがはめられていて、この嵐を予期したような格好かっこうだった。

 「やろう、この嵐を狙って攻めてきやがったな?」

 隆は不服そうにそう言った。だれしも混沌より平和がいいに決まってる。

 「くだらないことで会話している暇はない。敵はまだまだ来るぞ」

 依里茄は黒煙が薄ら見える方向に目線を向けていた。依里茄の刀をにぎる手は震え始め、今にも攻め入ろうとしている。

 「数的にどれくらいいると思う?」 

 「そんな事私に聞いてどうする。取りあえず、安全な場所はないとだけ言っておこうか。あくまでも私の推測だけどな」

 修二は悩ましい表情を浮かべた。敵は修二が居る場所を把握しているに違いなかった。それに、目的は修二の部隊を消滅するだけでなく、市民ゲリラもろとも葬り去ろうという大胆な目的なのだろう。奥の煙はさらに大きくなっている。

 「どっちにしろ、ゴーグルのない僕らは不利だ。敵は僕たちと市民ゲリラを攻撃している。だから、ここは部隊を2つに分けようと思う。僕と依里茄と隆の3人でゲリラ側の軍勢に加勢する」

 「やっぱそう来ると思ったぜ。いろいろと市民ゲリラのおささんにはお世話になってるからな」

 隆は面倒くさそうに言った。隆とゲリラは直接関係ないのと同じだ。

 「ちょっと待ってシュウ君。私も前線に……」

 「ダメだ。美来は前線に出て戦う人間じゃないだろう。美来には誠也と七香を守ってほしい。できるよね?」

 美来は「うん」と小さく返事をした。


 「よし、じゃ、行くよ」

 修二の合図で、3人は嵐の中へ飛び込んでいった。

 「チェッ、こんな嵐の中、やりずれえったらありゃしねえ。帝国のやろう」

 「そうだね。敵は中々の策士だ。この嵐が来ることをあらかじめよんでいたに違いない」

 「帝国の策士は天気をもよめるってのか?」

 走りながら隆と修二が会話する。

 そこへ、兵士が現れた。

 煙霧のせいで、その兵士が敵か味方かも分からない。判断に苦戦を強いられる修二と隆とは打って変わって、戦闘スタイルの違ったもう1人は躊躇なく突っ込んでいった。

 グリップにロープの付いた刀を投げ、刀を敵の肢体に突き刺すと、もう1本刀を抜き振り向き様の敵2体を一瞬にして薙ぎ払った。

 刀に付着した血を、刀を振って拭うと死体に突き刺した刀を抜いた。

 「依里茄、いつの間にその刀を使いこなせるようになったんだ?」

 修二の驚いたような言葉に依里茄は、

 「ひそかに練習をしていた」

 とだけ言った。

 「奥へ進もう」


 必死に中央へ向かう修二たちの背後には2人の戦士が付いてきていた。

 「敵襲だ! 攻撃しろ!!」

 敵は目に防具をつけているため、修二たちが敵の姿を確認する前に発見する。無謀にもほど遠い叫び声につられて、無数の銃声が修二に『死なないか?』と問いかけた。でも、無視して走る。


 瞬間、金属音と共に激しい火花が飛び散った。そして、銃声が鳴りやむと同時にストンと依里茄が刀を収める音が鳴った。修二に襲い掛かって来た無数の銃弾は無残にも一刀両断されて、依里茄の足元に転がり落ちていた。

 単調な銃声が鳴り、今度は兵士たちが地面に倒れてのたうち回っていた。隆はため息混じりに、銃口から吹き出す青い硝煙を息で振り払うと、空のマガジンと満タンのマガジンを交換した。

 「コンビネーション・プレイってところか?」

 「ふん、お前なんかと組む気はなかったけどな」

 「相変わらず素直じゃねえな」

 隆が言った瞬間、修二たちがやってきた方角から無数の足音が聞こえてきた。戦場の爆発音よりもうるさいその足音の数は相当なものと思える。

 「ん? 修二のやつ、どこへ行った?」

 「……」

 修二は2人の前から姿を消していた。

 足音はどんどん隆たちに近づいてくる。

 「どうやら、敵さんは俺たちに休む間を与えてくれないみたいだぜ」

 「そのほうが都合がいいだろう。ちょうど退屈しのぎに誰かを切りたいと思っていたんだ」

 「辻斬つじぎりか? 怖い女だなお前も……」

 「私はお前のように情けを掛けないだけだ。殺さなきゃ私たちがやられる。お前が情けをかけた敵を見てみろ」

 隆が残念な姿になっている敵を確認すると、敵の1人が無線機を所持していた。

 「これが、情けをかけた結果だ。戦場じゃ、情けは墓穴を掘ることと同じこと。お前はありがたい教訓を得たぞ」

 「そこまでして人を殺すことを正当化するのかてめえは? 悪いが俺はお前の教えには従わねえ」

 言うと、隆は無線を持っている1人の兵士に銃口を向けた。

 弾丸を1発、発射する。


 銃弾は兵士の頭を狙いに行ったかのように見えたが、無線機を粉々に打ち砕いただけだった。

 隆の“人を殺さない”意志の表れだった。


 「全く、お前も曲げない奴だな」

 「昔から頑固と呼ばれた男なんでね」

 「まあ、いい。前方から来る敵軍に突っ込んで、バッサリ斬り倒すとするか」

 「突っ込まねえよバカ」

 「どういう事だ?」

 「やり過ごすんだよ」

 隆は依里茄をむりやり建物の中に押し込んだ。

 「ちょっと待てお前! 何をする?! ここは戦場だぞ!」

 「いいから黙って中に入れよ。俺が入れねえだろうが」

 その




 覚悟を決めた。

 スティーラは新人隊員のかおりを連れて、砂嵐の中に茫然とたたずむ家屋に目をやった。

 家屋の入り口にはライフルを護身用の銃として扱う少女の姿があった。風に優しく揺れる髪とは裏腹に、彼女の視線は恐怖そのものだった。狙った獲物は命果てるまで追い回す猛犬のようだった。

 「相変わらずの忠犬っぷりだな、あの女。意志っつ~大切なものはとうの昔にかなぐり捨てたか?」

 ゴーグルを上下に動かして、スティーラはゴーグルのフィット感を微調整する。調節し終えると、魔法の猟銃を大切そうに持つかおりの肩に優しく触れた。

 「行くぞ」

 言って、スティーラは建物の上から降り立った。かおりはスティーラについていけず、建物の上であたふたしていた。

 美来は即座にスティーラの存在に気付いて銃口を向ける。勢いに任せて銃弾を発射して、容赦なくスティーラの命を奪おうとする。

 「いきなり撃ってきやがった!」

 スティーラは美来の弾丸をぎりぎりでよけた。崩れた体勢を整えなおす。

 「お前に用はねえんだよくそ女」

 スティーラはハンドガンを手にして美来に向けて発砲しようとする。しかし、その動作を行ったときには既に回り込まれていた。

 スティーラの柳眉りゅうびがつりあがった。

 美来はナイフでスティーラを襲う。

 「あぶねっ!」

 スティーラは体をずらしてナイフの斬撃ざんげきを回避する。とっさの判断で変にねじった体は、体重を保てず石畳の上に転落した。

 美来は短い悲鳴を上げて隙を見せたスティーラにとどめを刺そうとする。

 「けっ! 予測通りの戦法をするな」

 スティーラはナイフを振り下げて攻撃する美来の足を蹴った。突然の痛撃つうげきに美来は「あぐっ」と声をらし、前のめりになった。

 スティーラはその隙をついて、別の足で美来を蹴り上げた。美来からくぐもった声が漏れ、スティーラを大きく飛び越えていった。

 美来は背中を壁に打ち付けて、そのまま倒れる。

 倒れている隙にスティーラは体勢を立て直す。諦めの悪い忠犬美来は果たすべき役割を果たすべく、壁に打ち付けられた体をすっと立ち上がらせた。

 「相変わらず、タフネスな女だ」

 「スティーラ……」

 美来はナイフを強く握った。意地でもスティーラを殺したいのだろう。


 それは彼女に怨みがあるから。


 スティーラは美来に銃を向けた。そして、「クヒヒ」と笑った。

 「それで勝ったつもりなんて、詰めが甘すぎだよ」

 どうでもいい存在を見るかのように、スティーラは言った。

 殺すべきは目の前の敵。美来はナイフを逆手にとってスティーラに突進した。砂嵐をもろともせず、銃を向けるだけのスティーラに切りかかる。

 「喰らええぇぇぇぇええ!!」

 ナイフを斜めに振り上げる。でも、スティーラの笑いは止まることを知らなかった。というか、むしろ得意げになっている。

 美来のナイフがスティーラの体に触れたとき、美来のナイフが砕け散った。折れたナイフの先端がはかなく石畳の上に投げ出された。

 美来は愕然がくぜんとした表情を浮かべたが、その一瞬後にはいつもの表情に戻って、体を返して折れたナイフをスティーラの心臓に叩き込んだ。

 血が飛ぶ。


 しかし、傷ついていたのは美来だった。


 グローブの防御さくは刃物のようなものでこじ開けられ、守るべき美来の手を守れずに砕けた。

 美来は突然の痛みに悲鳴を上げて、ナイフを捨ててスティーラから離れた。

 スティーラは「クヒヒ」と笑う。

 「悪いな。私の身に着けている鎧は防御的な役割はもちろん、攻撃的な役割も果たしてくれるんだよ」

 言って、スティーラは普通の金属のよろいを美来に見せつけた。刃物の飛び出す仕組みなんてどこにあるのか分からない。

 しかし、美来に考えている暇はない。

 美来は傷ついていないほうの手でライフルの引き金を握り、スティーラに銃口を向けた。

 「そんなものであたしを壊せるのか?」

 頭にアングルを向けても、スティーラは余裕の笑みだった。美来が引き金を引こうとした瞬間、スティーラの後ろに影がある事に気が付く。

 「動かないで!」

 影は猟銃りょうじゅう(ライフル)を向けて美来を威嚇いかくする。美来が驚いたのはその影の正体が“かおり”であることに気が付いた時だった。美来は唖然あぜんとして握りしめていた銃を地面に落とした。

 かおりはスティーラの横までやってきて止まる。


 「かおりちゃん……。そんな、まさか……」


 失望と驚きにくれる美来にかおりは冷たいまなざしを向ける。

 「あんた達なんて大嫌いよ。私はあんた達につくくらいだったら帝国の軍隊になる」

 「そんな、悲惨なこと言わないで……。帝国に味方したら、殺される道しか残されていないよ……」

 「殺されないもん! あんたは嘘つき。私の敵だ! 死ね!」

 かおりは一人前になったつもりで引き金を引いた。美来は悲しい表情を浮かべた。この子も美来と同じような運命を辿ることになると、悲惨すぎて目もむけられない。

 しかし、閉じたまぶたに弾丸が飛んでくることはなかった。かおりの猟銃には安全装置が付いたままだった。

 瞬間、スティーラはかおりの頭をつかんで、かおりの足を銃で撃ちぬいた。かおりの哀憐あいれんな悲鳴が雷帝らいていのようにとどろく。

 硝煙が漏れ出した銃は、砂嵐と共に熱を失っていく。

 かおりはスティーラに銃を突き付けられて動揺していた。スティーラの銃は至近距離でかおりの頭を捕らえる。愕然とした表情でかおりはスティーラを見上げる。

 「悪いね。お前のことは利用してた。仲間の事、教えてくれてありがとよ。おかげであたしは帝国からとばっちりをくらわずに済みそうだわ」

 本気で満足そうな表情だった。

 「スティーラさん……そんな……」

 「忘れたか? あたしは帝国軍であり、この地を任された特別な人間だ」

 悦楽に満ちたスティーラの表情はかおりへ死のカウントを綴ってゆく。

 「動くな美来。お前が動けばこいつの命はない。こいつの命が欲しけりゃ大人しくしていることだな。お前が1ミリ動いただけでこいつの命は即終了だ」

 美来は口を何か言いたげに少し動かした。

 その動作を見てスティーラは「クヒヒ」と笑った。

 「残念だ。こいつの命は終わりだ」

 瞬間、スティーラは引き金を引く。



 銃声がとどろいた。



 驚くかおりに血がどっぷりと付着する。

 スティーラが引き金を引く前に美来がライフルでスティーラを撃ったのだ。スティーラの重い体は砂嵐に吹かれながら崩されていった。

 「かおりちゃん、早く」

 美来がかおりの手を引いて建物の中へと向かう。かおりの抱えていた猟銃を美来は強引に取り上げて、スティーラのほうへ投げた。



 スティーラは「ククク」と笑った。




 その頃、修二は戦友のもとへ駆け付けていた。戦車と民兵が入り乱れて、銃声と爆風で埋もれていた。由紀はコンクリートのがれきを盾にして、片手にグレネードランチャーを持ていた。

 「由紀ねえ! 無事か?」

 修二の声に反応して、由紀は上目遣いで駆け寄ってくる修二を見た。

 「しゅ、修二じゃないか。どうしてここに?」

 「由紀ねえが心配だからに決まってるからじゃないか?!」

 当然のように口走ったその言葉に由紀は鼻で「フフッ」と笑った。何がおかしくて笑ったのか分からない。

 「全く、お前は余裕な奴だな。たった1人で他人様の軍隊を守ろうだなんて……」

 この一言で修二はようやく仲間を置き去りにしてきたことに気付いた。風の轟音と、無我夢中で走っていたために全く気付けなかった。口をぽかんと開けて唖然としている修二の頬に、由紀はそと手で触れた。不意に来た由紀の手を払いのけようとしたが、修二はそこで思いとどまった。

 「変わらんな。窮地に追い込まれている仲間を全力で助けようとするところ。お前はいつもそうだ」

 由紀は少し、がっかりしているようだった。

 「私はこの戦いに負けてしまうほど愚かな人間だと思っているのか? 昔のように簡単に敵の人質になる女だと思ってるのか?」


 由紀は昔、困窮こんきゅうおちいっていた場所に居たと聞く。質素しっそな生活と、素朴そぼくな食事しかできなかったらしい。

 初めて会ったとき修二は由紀の手足の細さに驚いたほどだった。


 修二は茫然ぼうぜんとする。

 「そう思っているならその固定観念かんねんは捨てることだな。私は昔のようにおろかで何もできない人間じゃないんだ。現に、お前が居なくてもきっちりこの町を守ってきた。私は戦える。この体を見てみろ、昔より肉付きが良くなっただろう?」

 「……」

 「お前は傍観してくれていても構わない。加勢するなら勝手にしろ。ただ、救援には素直に感謝するよ」

 言って由紀はコンクリートのがれきから顔を出して、グレネードランチャーで1台の戦車を仕留めた。

 今は昔と違って大きいモノを仕留められるようになったという戒めなのだろうか。しかし、修二の意志は変わらなかった。おいてきてしまった仲間は、修二が居なくてもきちんと危機を打開してくれるはずだ。そう信じて、修二は立ち上がった。

 「僕だって、こう見えても昔は帝国に恐れられた兵団の兵士だ。そして、僕は亡き者の意志を継いで戦うと決意した」

 言うと、地面に落ちていた銃を2丁拾った。その銃は2丁とも、絶命した民兵が落としたものと思える。

 「『ありふれたショットガン』と『ありふれたアサルトライフル』か。戦うにはこれくらいでも十分だな」

 独り言をつぶやいて、修二は再び由紀に目を向ける。由紀は久しぶりに見た戦闘の修二に目を奪われているようだった。

 「じゃ、行ってくるよ」

 修二はそれを言い捨てて、激戦区ともいえる前線へ全力疾走した。


 由紀はやれやれとため息をつく。

 「どうしようもない弟(戦友)を持ったものだ」

 由紀は金属コーティングされたライターを取り出しふたを指ではじくと、何かを確認してふたを閉じた。そして、銃(グレネードランチャー)を持って、修二の後に続いていった。

ご精読、ありがとうございました。

引き続き、ガバエンをお楽しみください。

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