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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第四章 取捨の章
64/115

PAST 64:侵撃


 とある山の奥でスズラン達が仲良く咲いていた。

 雨が降る時も、風が吹く時もずっと一緒だった。


 ところが、ある日1本のスズランが黒く変色してしまった。

 その後、スズラン達は次々と枯れていったそうだ。





 1つ笑う。

 2つ笑う。

 3つ笑う。


 夕映えに染まる戦場を見下ろす集団は一斉に笑っていた。

 「カリバ様。これでてはずが整いましたね」

 装飾品だらけの女が言った。

 「本当に哀れなブタだ。滑稽こっけいすぎるな」

 カリバは笑う。悪人をかたどった黒いマントに覆われたその影はいつまでも笑い続けている。笑いすぎて呼吸困難に陥りそうになりながら、

 「しめに参ろうか。生き残りを皆殺しに行くぞ。二度と息を吹き返せぬよう、残酷に痛めつけて殺せ」

 カリバ軍は前進した。




 負傷者の治療に追われる第三部隊本館にロキ(依里茄の愛犬)が1通の手紙をくわえてやってきた。差出人は『ナツハ』という謎の人物。

 内容には今後の絶望を予期した内容が書かれていた。帝国軍の今後の動きが鮮明に書き出されたその内容に、一同は絶句していた。

 「どこまで汚ねえんだくそ野郎!」

 足に包帯を巻いた隆が壁を殴った。

 手紙によればもうじきこの第三部隊本館を奇襲部隊が送られてくるという。

 「このまま、全滅を待てというのか?」

 依里茄は悔しそうに手紙を潰した。

 「すんません! おいらたち、実家に帰りますわ!」

 「急用を思い出しました!!」

 「母が病気になって……」

 怖気おじけづいた兵士は適当な御託ごたくを並べて、修二たちの前から次々と姿を消していく。

 「おい、てめえら! 敵を目前にして逃げようってのかよ!?」

 隆が叫ぶが誰も耳を傾ける者はいなかった。隆は唇をみしめた。

 「丸腰どもが、生半可な気持ちでゲリラを語りやがって」

 重い空気が流れる。修二は何を語ればいいのかもわからない。

 先ほどのアメガニ戦で瀕死ひんしになった利き腕を見て、何とも言えぬはかなさを身に感じていた。

 「負けだ。私たちの負けだ」

 依里茄は死んだようにそう言った。

 「勝手に決めつけんじゃねえ! まだ負けたと決まったわ―――――――」

 「どうやったら勝てるというのだ!」

 隆の言葉を遮って依里茄は叫んだ。

 「なんだと唐辛子女!」

 「口で言うのは簡単だ! でも、周りを見ろ! 負傷者だらけ、まともに戦える奴がいるか?! いないだろ!?」

 依里茄は無謀むぼうな隆を叱責しっせきするように辛く言った。

 「この状況でどうやって戦えと?! かといって逃げ出しても相手は図太い追跡者。怪我人が逃げても捕まるだけだ。もう、勝てないんだよ……」

 依里茄の不遜ふそんな態度を、気に入らない目で見る男は一人しかいない。

 「ふざけんなよ!! 唐辛子女ぁ!」


 「私だって勝ちたいよ!!!」


 隆は次の言葉に詰まった。依里茄は潰した手紙をさらに強く握りしめた。

 「あいつらを潰せるなら、潰したいよ。でも、一筋縄ではいかないからこうやって言ってるんじゃないか。お前たちが少しの望みでもそれにかけようとする心構えは分かってる。でも、無理なものは無理なんだよ。現状をもっと分かってくれよ……」

 沈黙が覆った。

 この沈黙を覆せる者なんていなかった。

 曇天に満ちる一室の雲行きを嘲謔ちょうぎゃくするように笑う宿命。

 心の空は台風の目に覆われていた。

 「このまま、死ぬのを待つより、戦ったほうがいいんじゃないのかな?」

 頭部に包帯を巻いた美来が言った。

 「戦ってどうする? 討死がいいってだけの話か? 私はその話には乗らない」

 「じゃあ、依里茄さんはどうしたいの?」

 「こんな時になれなれしい口利きやがって、小娘。そんなに討死したいなら、お前が残って敵と戦えよ。私たちを逃がせたらお前の勝ちだ」

 神経がおかしくなっている。

 美来はムッとした顔で依里茄を眺めていた。

 「仲間を堂々と捨てられるてめえはどうなんだよ唐辛子。てめえが残ってもいいんじゃねえか?」

 「なんだと?」

 依里茄は敵に向ける視線を隆に向けた。

 この時、美来は修二に目線を映していた。悩んでいる修二を見ると、切なく感じられた。

 「お前が残れよ、いつまでも絶望に浸るんだな」

 「この……」

 「いい加減にしてよ!!」

 美来が怒鳴った。

 大人しい美来がこんな姿を見せるのは初めてだった。

 「喧嘩してる場合じゃないよ。もう、ここはシュウ君に決めてもらおうよ。1番この中で冷静な判断を下せそうだから……」

 美来の意見に2人は納得し、修二に視線を投げた。

 注目を集めた修二は少し戸惑いながらも口を動かす。

 「もう1度、みんなの力を借りたい」

 「怪我人の私たちのか?」

 皮肉を言うように依里茄は口を動かした。

 「うん。このまま帝国の軍勢に進軍を許すわけにはいかない。これが僕たちの“最後の戦”になるかもしれないけど、のこのことやられるより、一縷いちるの望みにかけるべきだと思う」

 依里茄は嫌だといいたそうな顔つきをする。この選択は依里茄にとっては苦痛だった。

 「お前は今まで何を見てきたのだ? 私たちが智恵利たちの二の舞になれと?」

 「違う、智恵利たちは僕らにチャンスを残してくれた。今はそのチャンスを使うべきだ。ここで戦って、帝国に見せしめるんだ。“僕たちは強い”と」

 依里茄は納得いかない顔をする。

 「なるほどな、守りを固めるより真正面からぶつかりに行こうってんだな? 俺は賛成だ」

 「シュウ君が言うなら私も賛成かな?」

 「私は言語道断、反対だ。かっこつけて死ぬより、ほかの手を考えたほうがいい」

 「俺は依里茄の意見に異論はない。衝突するほかに選択肢は存在するはずだ。もっと思考を練ろう」

 腕を組んで退屈そうに話を聞いていた誠也がそう言って、4人の意見がそれぞれ出そろった。

 結果、3対2に分かれることとなった。5人はそれぞれの思考に走る。

 「これじゃ、行動できないよ……」

 修二が残念そうに言った。

 「生死を分ける深刻な選択だ。そう簡単に全員一致できるはずもなかろう」

 誠也がそういうと、修二は飛び出した。仲間たちが呼ぶ声を背にして。




 本館を飛び出して、別館の影に人がいることに気が付く。小柄の人間にその周りには20人程度の兵力が居座っている。

 「おす、どうやら残った軍隊は俺のだけっぽいな」

 男の子がそう言った。肩にサブマシンガンで腰ぐらいまでの高さ、いわゆる子供の戦士、チャイルドソルジャーだ。

 しかし、アメガニ戦の時、子供の姿なんてなかった。

 「あなた方は?」

 「強いゲリラの味方。とだけ言っておくよ」

 「……」

 「アメガニをぶっ倒すなんてすげえ奴だよなぁ。まじですげえって思ったわ」

 言うと、修二を追ってきた仲間たちが姿を現した。

 「なんだ? この餓鬼がきは?」

 隆が言う。チャイルドソルジャーはムッとした顔を返し、

 「俺を子ども扱いすんなよ! こう見えてもな立派な戦士なんだぞ!」

 「そうかい、そうかい。餓鬼は大人しく母親の下で飯でも食ってな」

 隆の聞き捨てならない台詞せりふにチャイルドソルジャーはキーキーわめいていた。

 「あの二人は放っておいて、この人たちは何者なんだ?」

 依里茄が修二にく。

 「あたしらは、その坊ちゃんの兵隊さ。坊ちゃんの命令により、お主たちに加勢することになったのさ」

 明るそうな声で軍の中から出てきた女性がそういった。

 「ふ~ん。お前の名は?」

 「残念、名を名乗るわけにはいかんのさ。あたしらは匿名の軍隊で活動する身分なんさ」

 女性がそういうと、依里茄は興味なさげに顔をそむけた。

 「僕たちに協力してくれてありがとう。これで、少しはまともに戦える」

 「修二、お前まさか!」

 依里茄は腕のない人間を見るような目で修二を凝視する。

 「うん、このまま特攻する。やられるだけなら、少しでも抗うだけ」

 言って、修二は足早にその場を去り茂みの中に消えていった。

 美来と隆はそれを追う。少数のゲリラ軍隊も追って、茂みの中に消えていった。

 残ったのは依里茄と誠也だけになった。

 「結局、お前と私だけが残ってしまったな。反骨精神とは世話が焼けるな」

 「そうだな。俺たちも修二を追跡して帝国軍と矛を交える以外に選択肢はなさそうだ」

 言って、依里茄と誠也もその後を追った。



 消えゆく人間の残像を見て、ひとり笑うものがいた。

 かたわらに依里茄の愛犬ロキを連れて亡霊は笑う。





 《何もしなくても、第三部隊は消えてくれそうだね。復讐ふくしゅうって本当に気持ちのいい役柄やくがらだよね》


 亡霊はいつまでも笑っていた。






 茂みを突き進み、林道を進む。繁茂した邪魔くさい枝をなぎ倒しながら出たその先に、帝国軍が進軍する様子が見えた。修二は急いで茂みに隠れ、敵情視察を行う。

 修二の後を追ってきた他の人たちも駆け付け、修二と同じ作業をする。修二の隣には美来がいた。

 「この小隊は一体なんなんだ?」

 「シュウ君、これはまずいよ」

 美来の声が震える。

 「まずいって、何がだ?」

 「あのマントを羽織ってる男……」

 呼吸を整える。




 「『カリバ』だよ」




 修二の目が丸くなった。

 その言葉を聞いた瞬間、修二はいてもたってもいられなくなる。湧き上がる衝動は激昂げきこうを彩った。染め上げられた修二の身体は烈火に包まれたように、熱が込み上げる。

 「あいつが、カリバ」

 「うん、この世界の創造者。カリバは自分が神様の地位にたったと思い込んでる」

 激越げきえつした修二の柳眉りゅうびはつり上がり。心情はコントロール不可能になった。

 「あいつが、僕の大切なものを……」

 もう少しで飛び出しそうになったところを美来が止めた。

 「シュウ君、落ち着いて。このまま、やり過ごしたほうがいいよ」

 「そんな事できるわけないだろ!!」

 修二の後方についている軍隊は皆、目を丸くした。空気が一瞬にして浄化され、凍てつく氷山の一角に立たされるような雲行きになった。


 「この辺にいるぞ!! 探してぶっ殺せ!!」


 高々に号令が下った。

 部下たちは捜索を開始する。



 もう、後へは引けない。




 修二は地面を蹴り、出撃した。それに合わせ、けがを負った衛兵たちも飛び出した。怪我の痛みに耐えながら勇者たちは攻撃を仕掛ける。

 「いたぞ!! 殺せ!!」

 残酷な言葉を吐き捨てながら、敵は怪我人だろうと容赦しょうしゃなく発砲する。

 その時、カリバ軍の前線を固めていた兵士が次々と吹き飛んだ。カリバは茂みの中から顔を出す銃口を見逃さなかった。

 「美来のくそ女までいやがる。おい! お前らも行け!」

 カリバはそばに使える装飾品だらけの女と、刀剣を持つ金髪リーゼントを向かわせる。


 各個で厳しい戦闘が繰り広げられる。

 依里茄の元に、金髪リーゼント男が立ちふさがった。

 「同じ刀剣使いの身分として捨て置けない人間がいるとはな」

 男は刀を抜いた。

 依里茄は不機嫌そうな顔を男に向けた。


 「貴様の力を見せてもらおうじゃねえか?」




 修二はカリバに向かって特攻する。

 怨敵えんてきの名前を叫び、修二はショットガンのトリガーを引く。射出される銃弾をカリバは味方の兵士を盾にして防いだ。

 「ほう、てめえか? そこらじゅうで邪魔ばかりしてる阿呆あほうは」

 カリバは銃を取り出して、修二を攻撃する。射出した銃弾は大きく修二を外れて、隆の足に当たった。両足の機能を失った隆は悲鳴を上げて倒れた。

 「どこまでも卑怯な……」

 修二の台詞にカリバは笑う。

 「卑怯なんてくだらねえ言葉は誰が作ったんだろうな? どうせクソなやからが作ったんだろ」

 更に笑った。

 修二の脳裏に見覚えのない記憶までもが交差した。

 沢山の悲劇を生んだ目の前の男を許すわけにはいかない。



 「カリバ、お前だけは……。お前だけは必ずこの手でぶっ倒す!!」


 修二はカリバに銃口を向けた。

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