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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
47/115

PAST 47:影part2

 戦慄せんりつしていた。

 明るく元気な友佳が怯えだしたのは、政府の目論見もくろみに気づいての事だったに違いない。一体、客の饗宴きょうえんに力を注ぐ軍隊が何を企図きとしているというのか?

 陰謀いんぼうがあるに違いなかった。


 「どういうことだ? 政府の軍隊に殺されるって?」

 「わからない……」

 友佳は震えながら口にした。ふと、その友佳の状況が最初にこの地に来た時のメイドの顔を思い浮かばせた。

 確か、『かおり』と言う名前だった。

 彼女も現在の友佳と同じように怯えていた。この軍隊の将兵関係に修二は疑いを持つ。玄三とは一体何者なのか……。


 その時、隆に政府側の情勢を尋ねた時に言っていた事を思い出す。

 「政府側に行くのなら、『やめておけ』と言いたいね」



 まさか、隆の言っていた通り、帝国と政府はうり二つの存在なのだろうか。否定できない。しかしこれだけは、はっきり言える。


 今日の奇襲事件と政府軍隊は何かしら関わりがある。


 この世界に逃げ場があると信じていた修二は甘いことを痛感した。

 「シュージィ。確かめよう?」

 怯えていた友佳が口を開いた。

 「もしかしたら、政府軍わたしたちが(奇襲を)やった証拠があるかもしれない」

 友佳は意外な一言を言った。奸策かんさくに気がついたのだろうか?

 「良いの? そんな、目に障るような行動をして?」

 「いいよ。平気。もし仮に証拠が見つかったら、私、軍隊やめて、あなた達に付けばいいし」

 友佳は語尾を強く言った。そして、決然と立ち上がり、さっきまで見えない何かに怯えていたとは思えないほど猛々しく、凛然りんぜんと友佳は、

 「もしかしたら、これが『正解ルート』かもね」

 と修二に言った。

 友佳は本気だった。本気でこの軍隊をやめたいと思っている。

 友佳の蹶起けっきに押されて、修二は立ち上がる。しかし、もう一つ気がかりなことがある。

 「でも、勝手に行くのはまずいんじゃ?」

 「確かに三下が勝手に政府本拠地に足を運ぶのは禁止事項だよ。でも、(位が)副長以上の人間から許可を貰えば平気」

 「でも、生憎あいにく、第三部隊の副長は……」

 「『酔いつぶれてる』って言いたいんでしょ? 平気、ヘーキ、許可を出された前提で冒険しちゃおうよ。ね? シュージ?」

 友佳はいつもの友佳に戻ってそう言った。

 「そ、そうだね」

 答えると、友佳は嬉しそうに「ヤッター!」とはしゃぎだした。稚拙ちせつな態度だが、修二には恩恵のあるものに思える。自分に向けられた無邪気な笑みを見て、嫌忌けんきする人間なんていないだろう。



 案の定、泥酔でいすいしきったふたりはだらしなく眠っている。風邪をひいても自己責任だ。冷たい視線を投げかけて、外へ出ると、曇天のせいなのか外はいつもより暗く見えた。

 修二がバイクにまたがった時、

 「ちょっと、それはまずいって。奇襲行動と勘違いされるよ」

 と友佳に呼び止められた。修二は仕方なくバイクから降りて、ショットガンを抜き取ると、

 「それもダメ。武器の持ち込みは任意以外む・こ・お(無効)」

 修二は手厳しい政府のおきてが不満だったが、致し方なしとショットガンを戻した。そして、さっき来た道を徒歩で行こうとすると。

 「ダメ! 本道から行くと見つかって面倒だから。間道から行こう」

 友佳のダメ出しばかり喰らう。ややこしい奴だ。細かいことにうるさい。

 修二は黙って友佳のあとを付いていった。




 政府側本拠地が見渡せる草むらまで歩いてくると友佳が、

 「おやおやぁ? 今日はやけに騒がしいねぇ?」

 と言った。修二達が一番最初にここを訪れた時より、豪勢な機械がたくさん並んでいる。政府軍用ヘリも止まっていた。政府軍のヘリを基地内で見るのは初めてだ。と言っても、今回で訪れるのは二回目だが。

 「どういう―――――」

 「シーッ、伏せて」

 急に友佳が修二を草むらに押し込んだ。ここからは閑言かんげんしなければならないようだ。

 「なんなんだ?」

 「依里茄っちだよ」

 見ると、依里茄がパトロールを行っている。部隊長クラスなのに警備を任されるのが、政府軍の恒例行事らしい。

 「プフフ……相変わらずいかつい顔してるよね。女とは思えない。ププッ」

 友佳は依里茄の顔を見て笑っている。どうしようもない奴だ。と、思い込んでいると、頭上から依里茄が顔を出した。


 「おい、お前ら何してる?」


 「げ! い、依里茄っち!?」

 作戦を開始する前に修二達の行動は依里茄に見つかり、第三部隊本館に強制送還となった。




 あくる朝。

 昨日、無断行動で修二と友佳は依里茄にしかられ、行動できなくなった。

 依里茄に訳を話したが、結局、「政府側軍隊は襲撃事件に関与していない」と押し切られて終わった。あんなに昨日怯えていた友佳からも、

 「シュージのゲリラに手を貸した件はバレていないみたい。杞憂だったね」

 と言われてしまった。

 「第五部隊がうまく話を切り盛りして誤魔化してくれた」と依里茄が修二に証言し事態は収集した。無論、修二は納得いかなかったが。

 そして、修二は「服を着替えるように」と依里茄に言われて、寄付された服とは別に、また綺麗な服を提供してもらった。第三部隊は女性ばかりだから、衛生面にうるさいのだろう。



 現在は朝食の時間、食卓には朝ごはんにふさわしい目玉焼きを乗せた食パン、千切りキャベツ、ミニトマト、ベーコンに牛乳と洋風なメニューだった。

 部隊のメンバーも全員揃っての食事。人数は思ったよりも少なく、十二人ほどだった。テーブルは別々だったが、修二は依里茄たちのメンバーが座るテーブルに座っていた。

 咲希、智恵利に友佳といつものメンバーが座る席で、依里茄は食事に一切手をつけず、紙切れを読んでいた。

 「まっはく、きにょうみちゅかっちゃのがいりゅきゃでよかったにゃぁ?」

 昨日酔いつぶれて死んでいた咲希が食パンをモグモグ咀嚼そしゃくしながらしゃべった。何を言っているのかさっぱりわからない。


 全く、昨日見つかったのが依里茄で良かったな。


 と聞こえるものは一人しかいなかった。

 「うるさい咲希姉」

 友佳が公言し、食物を口に含む。

 「ホント。依里茄以外のメンバーに見つかってたら極刑だったよ?」

 「ちふぇりぃふぉうるふぁい」


 智恵理もうるさい。


 誰も友佳がそう言ったとは思っていない。

 「二人共、食べながらしゃべるんじゃない。行儀が悪いよ」

 智恵利は不服そうにいって、黙々と料理を食べる。

 「おい、修二? 食わねえのか?」

 食事を終えた咲希が言った。

 修二は食欲がなかった。精神と体は密接に関わり合っていると言うが、本当だ。

 「お腹、すいてなくて……」

 「なんだ? 具合でもわりいのか? まあいいや、じゃあ、あたしが食っちまうぞ?」

 「うん、どうぞ」

 咲希に皿を差し出す。

 「ウホッホォ! 修二からもらっちまったぜ!」

 咲希は興奮して友佳に向かってそう言った。相変わらず嘲謔ちょうぎゃく好きの咲希だった。

 「ああ! 咲希姉ずるい! アタイにもちょうだいよ!」

 「やだね~。これはあたしがもらったものだ」

 「咲希姉!!」

 二人は朝から言い争いを始める。

 本当に、四の五の言って愉快な連中だ。この動乱の世界に和やかな雰囲気があると、ひょんな事に、自然と笑いを浮かべて落ち着くものである。

 「ねえ、依里茄? 何読んでるの?」

 二人が口論している間に修二が依里茄に訊いた。

 「これのことか? これは、手紙だ」

 依里茄は封筒に手紙をしまう。ちょうど読み終わったのだろう。

 「こうして毎週届くんだ」

 「手紙には一体どんな内容が書いてあるの?」

 「お前も知りたがりなやつね。いろいろだわ。私たちに対する励ましの文章だったり、この混沌の世界に対する檄文げきぶんだったり、手紙を書いている人が住んでる場所の状況だったり」

 「へぇ、現世でも手紙はあるんだな?」

 「でも、配達員はいないよ」

 「え? じゃあどうやって?」

 「直接自分で出すか、使いを送るといったことをしないといけない」

 言って、修二にさっき読んでいた手紙の封筒を裏返しにして、修二の手元にスーっと置いた。時折、「おら! 相撲だ! 相撲で勝負して勝ったらこれをてめえにやるよ」「望むところだわ! 咲希姉!」。と奪い合いの展開になっている喧嘩けんかの罵声が蝸牛かぎゅうに届く。

 「なあ、お前。この手紙に書いてある『ナツハ』って人物知ってるか?」

 「いや、聞いたことないけど」

 「そうか。いや、特に聞いた理由はないのよ。興味本位で会ってみたいと思っただけ」

 依里茄はその手紙を大切そうに仕舞った。すると、

 「そうそう、支離滅裂しりめつれつな話だけど、お前が来たことを上に報告したら。今夜、私とお前の二人で任務に出かけることになった」

 「唐突だね」

 「私もそう思うが、決まったことは遂行しろとのことだ。変に逆らうわけにも行くまい」

 修二はあまり乗り気ではなかったが、

 「わかったよ」

 と答えた。

 「こらこら、喧嘩するなよ。私の分をやるから仲良く静かに食べなさい。他のメンバーの気を悪くするだろ?」

 依里茄が二人の取っ組み合いの喧嘩に仲介として入った。


 (こう見えても、準則じゅんそくな人達なんだよな。だから、ここまでまとまった楽しい部隊になれるのか……)


 修二は何かを学び、同時に美来と隆の姿を思い描いた。

 (無事だといいな二人とも……)

 心の中で無事を懇願こんがんし、修二は静かに席を外した。

 外に出る途中、依里茄の声で、

 「お前らも本拠地から召集がかかってるから忘れず行けよ」

 という声が聞こえた。




 何もしないまま夜が来た。

 二人の安否は不明のままここに来て丸一日以上経過した。

 突然の任務に疑念を積み重ねる修二は、気乗りしないという表情だった。依里茄はそんな修二の肩を叩き、鼓舞こぶする。

 見送りにはいつもの第三部隊メンバーが来ていた。

 すると、手に何か持った友佳が前に出た。

 「シュージ。はい」

 友佳はニッコリと清楚せいそな笑いを浮かべて、何かを修二に渡した。

 手渡されたのはキーホルダーだった。そのキーホルダーには綺麗な石が付いていた。すると、友佳はもう一つキーホルダーを懐から取り出してちらつかせた。同じものだった。

 見送りに来た二人も同じキーホルダーをちらつかせた。咲希に至っては「ニシシシ」といつものいやらしい笑いを浮かべている。隣にいる依里茄も同じキーホルダーをちらつかせた。

 「同じ、キーホルダー?」

 「そ。きっと、シュージは第三軍隊の一員と認められたってことだと思うから」

 「いや、ちょっとまって、そんな唐突にメンバーって決まるものなの?」

 友佳の発言に修二は疑問を投げかける。確かに仲間を失った修二にとって、第三部隊に所属してやっていくには嬉しい事情だ。しかし、知らない人間をいきなり軍隊に加えるなんておかしな話だ。入隊を志願したわけでもないのに。

 仲間を救出したら、仲間の側につくのは目に浮かぶはずだ。

 「言い方が悪かったかなぁ?」

 友佳は言って、途方にくれていると、

 「修二君が初任務だから、それを記念にって友佳が言いだしたの。ちょっと、窮屈な要求かもしれないけど、気持ちだけでもいいから受け取ってもらえないかな?」

 と智恵利が言った。

 相変わらずの誠実な話しぶりに修二は説得された。すると、友佳が手の甲をさし出した。それに合わせ、周囲にいた依里茄、咲希、智恵利の三人は友佳の手に、手を重ねてゆく。

 「ほら、修二。お前もやれよ」

 咲希に急かされ、修二はギクシャクしながら手を出すと、依里茄に強引に引っ張られ、手を置かされた。すると、

 「これは、第三部隊がかつて行っていた円陣だ。任務の成功を願ってやる事なんだ。久々に独立した任務につけたから、修二も一緒にやろう」

 依里茄は言う。修二は何が始まるのかおおよそ見当がついた。

 「順番に言っていくから、修二の番が来た時、『守りたい人のために』って言ってくれ、そしたら、私が台詞を入れるから、あとに続いて『オー』と言ってくれ」

 手短に説明を進めると、早速、儀式は始まった。


 「苦しむ人民のために」

 依里茄が言う。


 「大切な仲間のために」

 智恵利が言う。


 「死んでいった武人のために」

 咲希が言う。


 「かけがえのない家族のために」

 友佳が言う。


 修二の番だ。

 みんなの視線が修二に突き刺さった。


 「守りたい人のために」


 いざ、自分が口に出すと、深いセリフのように感じた。『守りたい人』を無意識に詮索せんさくする修二の脳裏に美来の姿が浮かび上がった。

 いつもと同じだった。記憶の断片がそうさせているのかもしれない。美来との思い出が蘇る。労働場から奇襲事件までの短い日々が……。

 (もう一度、美来の笑顔が見たい)

 修二は美来に会いたくなった。美来のことを考えると泣きそうになる。

 結局、何も分からずじまいで美来は消えてしまった。寂しかった。


 「大丈夫か? 修二?」

 咲希が言った。修二は無意識に涙が出ていた。ハッとなって、重ねていない別の手で涙を拭う。

 「じゃ、続けるね」

 優しい智恵利の声が響くと、みんなが重ねた手のひらを見つめた。


 「この世界の『闇』を断ち切るぞ!」


 依里茄が声に出す。

 一斉に「オー!」と叫んだ。重ねた手を崩す。心が生き生きとする。大声を出すことで、不安な気持ちが一気に吹き飛んだようだ。

 「頑張ってねシュージィ。それと依里茄っち!」

 友佳がニッコリと笑って。大きく手を振りながらそう言った。

 「気をつけてね二人共」

 智恵利が微笑んで手を振る。

 「怪我すんじゃねえぞ」

 咲希が腕を組んでそう言った。

 依里茄と修二は見送る三人に手を振りながら、第三部隊本館を後にした。


 本当にいい仲間たち『だった』。




 目的地は直接聞かされていないが、任務の内容は『悪人退治』だということだ。その悪人は帝国軍のスパイらしい。

 見つかると大変なので、ライトはつけていない。暗闇の林道を歩くのにかなり神経を使った。

 依里茄の背中について行って約二十分。明かりのついている不審な物件が見えた。

 「見えるか? あの明かりがついている小屋が今回のミッションポイントだ」

 依里茄が言った。

 修二はパーカーの上に、防弾チョッキ付きのタクティカルベストを来て、手にはアサルトライフルを持っていた。完全武装の修二はコクリとうなずき、覚悟を決めた。


 扉の前に来る。中はやけに静かだった。外部から盗聴しようと耳を傾けても何も音がしない。すると、内部から男の声で、

 「今夜はもう一仕事してから休養するかぁ」

 と疲れきった声でそう聞こえた。目標の大体の位置を把握する。すると、依里茄から突入の指示が出た。

 緊張する。

 修二は指示通り勢い良く扉をぶち破り、

 「動くな!!」

 と叫んだ。

 すると、そこには中年男性が一人、鉛筆を人差し指と中指に挟んで立っていて、修二の突入に驚いたのかポロリと挟んでいた鉛筆を落とした。修二が何も指示を出していないのに男は自然に両手を挙げて、大人しくしていた。

 「な、なんなんだ君たちは?」

 男は驚き固まっていた。すると、依里茄が、

 「政府側第三部隊の者だ」

 と言うと男は憎らしいような炯眼けいがんで依里茄を睨みつける。さっきまでの男からは想像もできないような視線だった。

 「政府側の軍隊、だとぉ? ここに何しに来た?」

 男は怖い声でそう言った。

 「帝国軍の間者スパイのお前を裁きに来た」

 修二は男を依里茄に任せて、周囲を見渡した。

 畳が六畳敷かれた狭い部屋と奥に続く扉。狭い部屋には貧相な電球一つと、小さなちゃぶ台が置いてあり、ちゃぶ台の上には鉛筆で何かを書いた紙があった。文字と直線の羅列。それは設計図のようなものだった。

 もしかしたら、この男がマガやあのデカ物(初めて見たのは隆と逃げていた時だった)を作った張本人なのかもしれない。

 「俺は根拠を知りたい。なにゆえ俺をスパイだと思っている?」

 目力からは想像もつかないような冷静な態度で、男は言った。

 依里茄がそれに答えようとした瞬間、男は背中からナイフを取り出し、依里茄に襲いかかった。

 「俗物! 今すぐ俺の目の前から消えてくれ!」

 依里茄は直ぐに男の行動を見抜き、素早く抜刀し、男の刃物を弾き飛ばした。弾かれたナイフは男の手を離れ、天井に突き刺さった。

 「これで決まりだな。お前は帝国軍のスパイだ」

 依里茄は言って、さやを取り出し、乱暴に男を座らせた。

 「フガッ」と男は痛そうな声を上げてひざまずく。

 「後ろで腕を組んで」

 依里茄は男に腕を後ろで組ませる。その後、修二の方に目をやり、

 「修二。私は奥の部屋を見てくる。こいつを見張っててくれ。抵抗するようだったら始末しても構わん」

 依里茄は続けてそう言った。

 修二はコクリと頷き、言われた通りの行動をすると、身動きが取れない男は修二を見て、

 「君たち政府軍は、人間のクズだ。俺から『大切なもの』を奪うだけでは飽き足らず、全てを奪い去るのか……。君たちは帝国と同じだ。殺せ……。俺を殺せ。殺したら君たちを、呪い殺す……」

 と低い声で言った。

 とてつもない殺気を修二は感じ取った。修二はこの時、政府と帝国に向けられた男の気持ちが、本物であることに気付かされた。肌寒いこの季節に下着一枚で、ゴツゴツした腕を露出する男の目は恨みと怒りで満ちていた。

 (なんだろう……僕と同じ憤りを感じる)

 修二は苦い表情を浮かべ、一心に睨みつける敵と火花を散らす。修司も自分の身の安全のために一歩も引けない。

 すると、依里茄が開けた扉から誰かが飛び出した。女の子だ。

 「パパァ!」

 怖さに怯え、泣き叫んで男に抱きつく。

 「馬鹿だな。敵が出ていくまで隠れていろって言ったのに」

 男は後ろで組んだ手を解き、女の子を抱いた。女の子はまだ幼く、見た目で判断すると、五歳くらいだろう。

 男は女の子の背中をさすり、女の子に安心感を与えている。こういうのを我々は「あやす」と言う。

 修二は幼い子がここに居るのかはよく分からなかった。

 「さて、修二。仕上げに入るか?」

 「仕上げ? 仕上げって?」

 「始末しろ」

 依里茄の冷たい言葉に修二は戸惑いを隠せなかった。幼い子供まで殺せと言っているのだ。そんなこと、聞いていない。

 「待って、そんなこと聞いてない! 殺せってどういうこと!?」

 「お前がやるんだ修二。これは上からの命令だ。実行しなければどうなるかなんて、わかりきったことだろ?」

 「……でも」

 「言葉を交わしている暇はない。さあ、撃て」

 依里茄は押し切った。

 「……」

 修二の手は震える。

 慄然りつぜんと泣き叫ぶ女の子を抱く父親。とてもじゃないが殺せない。

 「考え直せ。俺たちを殺してどうなると言うんだ?」

 男が言った。

 「そいつの甘言に耳を傾けるな修二。わかっていると思うが、そいつは悪人だ」

 依里茄が言う。

 修二が銃を少し上にすると、

 「止めるんだ! ……それができないと言うのなら、せめてこの子だけでも」

 男は女の子を強く抱きしめながらそう言った。可愛らしい服装で、幼稚な体を見ていると、修二は引き金を引けない。

 殺せ……。

 殺せ……。

 つぶやくことなら誰だってできる。でも……。

 「殺せ修二」

 「話を聞いてくれ。俺は間諜スパイじゃない。帝国に垂れ込みなんてしてない!」

 「話は聞いたぞ」

 「政府のぞんきは静かにしてくれ! 俺は少年と話しているんだ!」

 支離滅裂だ。

 何もかもが支離滅裂だ。

 錯綜した脳裏は整頓するのに時間がかかりそうだ。時間がない今、頼れるのは己の気性のみ。

 「……」

 修二は、男に向けていた銃を依里茄に向けた。


 依里茄は目を丸くして修二を見た。

 「どういうことだ? 修二?」

 「こんなに幼い子供の前で殺せ? そんなの、間違ってる。そう思わないの? 依里茄は?」

 「……そうか。ならこの子に見られないように親父は外でやるか? それとも幼児から始末するか?」

 「……ふざけんな」

 小さく呟く修二に依里茄は眉をしかめる。

 「ふざけんな!! 政府軍は、他人の家族を奪うような汚い仕事をしてきたのかよ!」

 「『善は急げ』とよく言うだろう? 正義のためなんだ。悪い芽は小さいうちに取り除かなければな」


 「依里茄は殺すことが正義だっていうの?」


 「そうだ。この世界だ。幼い子供であっても敵は敵。殺さなければ私たちがやられる。話に耳を傾けてすきを見せたら銃声と共にあの世行きだ。お前は敵に慈愛を見せて、しかばねになりたいのか?」

 修二は依里茄の言葉に呆れ、銃を下ろした。


 「こんなの正義じゃない」


 「お前にはできないか。そうか、なら私がやる」

 依里茄は刀剣を抜いた。

 「これも任務のためだ。失敗すれば私たちに命はない。もう、失敗は許されないんだ。だから、許せよ」

 依里茄は自分の意見を最後まで押し切った。道理なんてない。

 生き残るための選択。滑るように鞘からとびでた黒い刀剣が、即座に依里茄の手で振り上げられ、決まりきったように下ろされる。

 父と愛娘まなむすめは依里茄に殺されることを覚悟した。女の子は幼すぎて殺されること知らず、怖い形相を浮かべる依里茄を見て「ワンワン」泣き叫んでいた。子供は感受性が豊かな生き物だ。それだけ繊細で傷つきやすく、他人を理解している。



 僕には、傍観しかできないのか?


 この二人は殺されるしかないのか……?




 疼く精神が修二に「動け」と命令する。

 第三部隊に迎え入れられた孤独の戦士。死んでいった空奈が見たらなんて言うだろうか。

 隆や美来はなんて言うだろうか……。

 考えるだけ重くなってゆく。

 二人の死体を思い浮かべた。凄惨な事件現場のようなその光景に、修二は動揺を隠し切れない。




 殺されるのを見ている。

 いや、違う……。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


今のところ第三部隊といい、政府軍といい謎だらけですね。

誰が敵で誰が味方なのか?

二人の安否はどうなっているのか?

そして、修二の過去は……?

といった状況でしょう。


楽しんでいただけたら幸いです。

今後ともよろしくお願いします。

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