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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第三章 信頼の章
33/115

PAST 33:邪謀part2

 航空機から降りて滑走路を移動し、ターミナルビル目前に迫った。ここまで異常は全く見られなかった。

 道しるべ通りに進んでゆくと、旅客機とターミナルビルを繋ぐ搭乗橋とうじょうきょう(ボーディング・ブリッジ)が根元からボッキリと折れて、「ここから入ってこい」と言っているようにターミナルビルへ続いていた。

 罠の可能性が非常に高いが、ここ以外に渡れそうな場所はない。

 「修二。ここから入って問題ないのだな?」

 一軍を率いる依里茄がそう言った。

 「うん、問題ないと思う」

 修二はぶっきらぼうに答えと怪訝けげんそうな視線を依里茄にぶつけられた。

 「わかった。ここから内部へ侵入する。咲希、友佳。先に行って様子を見て来てくれ」

 依里茄が言うと、二種二様の返事して、滑り台のように斜めっている足場の側壁を、蹴り飛ばしながら簡単に登っていった。

 少し経つと、依里茄の持っている無線機から、

 「異常ないよ~」

 と友佳の声が聞こえてきた。

 「よし、ここを登るぞ。みな、私に続け」

 依里茄は手本に忍者のように上がって行った。

 あんなことは修二にできそうもない。

 「ほら、次はあんただよ」

 智恵利が言った。そこには、嫌そうな顔をしている隆の姿があった。

 「あかってるよ!(わかってるよ)」

 億劫おっくうそうに隆は吐き捨てて、滑り台を登り始めた。三人と打って変わって隆はのっそりと壁を伝って、真剣に登っている。

 「修二君、あなたも行きな」

 智恵利が優しく言った。

 「あ、うん」

 修二は言って、隆の背中を追う。

 (何かこうやって登るのも面倒だ。僕も、依里茄みたいにポンポン飛んでいきたい!)

 妙な好奇心が湧いた。

 「どうしたの修二君? 行かないの?」

 立ち止まる修二に智恵利が尋ねた。

 「ウオオオォォォ!!」

 修二はいきなり叫んで、斜めっている足場を飛び跳ねながら渡り始めた。

 「修二君?!」

 智恵利が目を丸くして、驚いたように言った。

 意外にも簡単に依里茄の真似事はできた。のろのろと登る隆を追い越す。

 出だし好調。

 このままなら一気に登れると思った。

 (あれ? おかしいな? 全く勧めてないぞ?)

 その時、勢いが奪われ跳ねても、跳ねても前進できなくなった。すると、近くまでのろのろと登る隆が居た。登るのに真剣なのか、全くこちらに見向きもしない。

 「隆! 助けてくれ!!」

 修二が叫ぶ。

 「なんだよ修二?」

 隆が修二に気がついたとき、修二は隆の服を掴む。隆は不意にのしかかる重力に不信感を覚える。

 「何すんだてめえ! 落とす気か!? 遠足じゃねえんだぞ!」

 隆が叫んだ瞬間、修二の足が滑り、転ぶ。滑りやすい材質で、四十度くらい傾いているその場所で、横になれば立つことは不可能だった。

 「おい! 放せ! てめえふざけんな!!」

 隆が叫ぶ。体勢が斜めになる。

 「いやだ! もう少しで体勢が立て直せるから!」

 修二が言って必死に隆の服のすそを掴む。

 「放せバカやろう! てめえの体勢立て直すのを待つ前に、俺が落ちちまうだろうが!! 大人しく滑って最初から出直せよ!」

 「いやだ! 見捨てたいでくれ!」

 そして……。隆は限界を迎えた。

 「「ウワアアアァァァ!!」」

 二人は悲鳴を上げながら、搭乗橋を滑り落ちていった。

 搭乗橋からは二つの廃棄物が流されてきた。下では、冷めた視線が修二と隆に突き刺さる。

 「あら? まだ登ってなかったの? 早く登った方がいいんじゃない?」

 智恵利が冷たく言った。




 波乱を乗り越えて、修二と隆も何とか施設内部に潜入する。

 まず視線を向けたのは第三部隊の警戒態勢である。銃の変わりに刀を持ち歩き、真剣な目つきは侍とも言える風貌ふうぼう。いつでも抜刀できるように、手は常に刀の柄の部分を握りしめている。

 研ぎ澄まされた集中力が結集した視線が、周囲のほこりの状態さえも確認するように、飛び交っている。

 しかし、二人ほど刀を握っていないやつが居る。咲希と友佳だ。

 友佳は手榴弾を手で遊ばせ、しゃがみ込んでいる。腰にさしてある短ドスには目もくれない。咲希に至っては素手だ。腕を組んで、ただ前を見つめている。

 「おい、修二てめえ! さっきは良くも醜態しゅうたいさらしてくれたな!?」

 「あれは……」

 隆の怒りは最高潮に近い。ギラギラしたたかの瞳が修二を狙っていた。

 「すみません……」

 修二は弱気になってそう言った。

 「これからは気をつけろよ。命取りになりかねんからな」

 言って、隆はアサルトライフルを持って、済ました顔をしていた。その顔の奥には何か思い悩んでいることがあるようにも思える。

 修二もアサルトライフルを持って修二を確認する。




 一方で、こちらは管制塔内部。

 そこには窓の外を一心不乱に睨みつけるひとりの女兵士、殺斬がいた。

 「ようこそ。迷いと、惑いの世界へ……。これから一つ芸を見せて差し上げましょう」

 と殺斬は軍隊が登ってゆく様子を見ていた。

 「殺斬様。手はずが整った」

 殺斬に男が話しかけてくる。ボサボサの髪型が特徴のおっとりしたネイが立っていた。

 「そうですか」

 言って、殺斬は第三部隊の女兵士が登り終えた頃を見計らって、

 「では、分断しましょう」

 と言った。

 「御意」

 ネイは言って、何かのスイッチをポケットから取り出し、押した。




 衝撃音と共に搭乗橋が爆発した。近間で聞いていた修二は耳から血が出るかと思うほど、激しい耳鳴りがしていた。

 「グアアァァ!!」

 悲鳴が聞こえ、火だるまになった兵士が修二の前に飛んでくる。兵士は服は無残にも焼けたまま修二の目の前に倒れ込んだ。

 「グフッ」

 突然の出来事に、周囲は驚いた表情を隠せない。

 状況を理解するのに、二秒くらいかかった。そして、依里茄はいち早く上着を脱いで、消火活動に当たる。

 「急げ! 早く助けるんだ!」

 依利茄の号令が上がり、修二と隆の二人と、他三人くらいのメンバーが依里茄と共に消火活動に当たり、咲希と智恵利、他八人くらいのメンバーが敵の襲撃に備え、前衛の守りを固めている。その後ろで、友佳は分断された第五部隊と無線で連絡を取り合っていた。

 火だるまになった兵士の火はすぐに消し止められた。幸いにも、兵士は死なずに済んだ。

 「ふぅ……。ひやひやさせやがって。なんなんだこの橋はよ? いきなり爆発しやがって」

 言って、隆が黒い煙の上がる搭乗橋を見つめていた。立ち上る黒い煙が嫌な予感を募らせていった。闇色の煙幕はとどまることを知らない。

 「全員! 周囲を警戒! 敵を見つけ次第、始末せよ!」

 「了解!」と言う声がロビーに響く。と同時に、全員が散開する。これが第三部隊のやり方なのだろう。

 「おいおい、待て! 散開なんてさせちまっていいのか?!」

 「なにか不満でもあるのか? 囚人よ?」

 「……別に、ねえけどよ」

 隆は苦い顔をしてその場から立ち上がった。

 「憶測だが、お前、敵の術中にハマってるぜ」

 隆は続けて、ガラス張りのロビーから外を眺めていた。そして、大きくたたずんでいる管制塔を睨みつけていた。




 「敵は散開して敵の搜索にあたっている模様です。殺斬様」

 キャップを被った少女がモニター画面を見て言った。

 「くノ一部隊(第三部隊)も落ちたものですね。では、うたげを始めましょう。敵を誘導地点におびき寄せてください。到達したら更に分断し、部隊を孤立させ、慌てさせましょう」

 「了解です。殺斬様」

 少女は言って、キーボード操作を始めた。

 「ミノリ、わかっていると思いますが、くれぐれも、依里茄さんだけは危害を加えないでくださいね」

 「わかっています。殺斬様」

 キーボードを打つ音が管制塔内部に響きわたる。

 殺斬はずっと、依里茄の映るモニター画面を不気味な視線で見ていた。

 「早くあなたに会いたいです。依里茄さん」

 と殺斬は呟いた。




 第三部隊は内部の安危を確認するため、ロビーから各地点を偵察していた。

 警戒しながらことを進める智恵利の前に、日の光が差し込んだ普通の廊下が現れる。四角く区切られた光の模様が美しかった。

 「こちら、智恵利、何も見当たらないわ」

 智恵利は無線を入れる。

 そして、進行方向に目を向けると、人らしきものが立っていた。

 「敵か?」

 智恵利は戸惑いの声を上げた。人影は智恵利を挑発するように一瞬、廊下の角から顔を出した。

 智恵利の表情は一転し、憎いものを見るような目つきになる。智恵利は抜刀し、敵は壁の角に姿を隠した。

 「そこにいるのは誰?」

 少し、不思議に思いながらも刀を構える。

 アンブッシュ(待ち伏せ)している可能性がある。

 角を曲がると、暗闇だった。ゆっくりと警戒しながら近寄る。

 すると、一瞬、闇の中で何かが揺れたような気がした。

 「そこか!!」

 智恵利は高速で奇襲をかける。敵の肩を切り、敵に体当たりしながら、自分の刀を相手の胸に突き刺した。必然、相手は吹き飛ばされ、刀剣は相手の体から自然と抜ける。

 しかし、手応えがまるで感じられない。無機質な感じがする。

 「変ね? さっき切ったのは人かしら?」

 智恵利が懐から懐中電灯を取り出し、確認するとそこに居たのは人ではなかった。

 「デコイか……」

 突然、智恵利を閉じ込めるようにシャッターが、天から落ちてきた鉄格子のように勢い良く降りた。

 「しまった!」

 智恵利は思わず声を上げる。シャッターに向けて、刀を振りかざし、斜めに切る。

 しかし、歯が立たなかった。シャッターはダイアモンドのような硬い金属で出来ているらしい。

 「こちら智恵利、閉じ込められた」




 その事態は咲希にも起きていた。

 咲希は自分の他に三人の隊員を連れていた。果てしなく続く長い廊下を歩く咲希部隊の前を何かが通り過ぎる。瞬間、四人はいつでも交戦できるように構えた。

 「咲希さん。今のは?」

 ひとりの隊員が言った。

 「敵に違いねえな。追うぞ!」

 咲希は言って先人を切って高速で走り出す。その際に靴からナイフが突き出した。つま先とカカトに二本ずつ。

 追跡した結果、薄暗い廊下の一角にある無人の店の中に奴はいた。薄いガラスで覆われた店の壁を蹴り壊しす。ガラスの破片が飛び散り、的に突き刺さる。

 咲希は倒れこむ相手を蹴り上げた。

 無機質な音が響きわたり。マネキンは腰からボキリと空中で分別し、店内に置かれている商品のない商品棚に降り注いだ。衝突と同時に空虚な物音をとどろかせ、無残に転がる。

 まるで、凄惨なバラバラ殺人が起きたように。

 「なんだよ。ダミー?」

 「無事ですか? 咲希さん?」

 連れていた三人の兵士も合流した。

 「ああ、平気さ。さっき見たのは敵のダミーだったようだぜ」

 と言って、

 「ダミーですか? 妙な物を仕掛けてきますね」

 「全くだぜ」

 咲希は言いながら無線機を取り出す。

 「さ、依里茄にほうこ――――――――――」

 言った瞬間、何かが店内で爆発した。一つや二つではない。

 突然のことに兵士は四種四様の悲鳴を上げる。瞬間、とてつもない眠気に襲われ、四人は店内に倒れ込んでしまった。

 咲希に握られていた無線機は咲希の手を離れ床に転がった。




 智恵利の無線はきっちり依里茄の元に届いていた。依里茄は苦い顔をする。

 「何かあったのか?」

 修二が質問する。

 「分断されたみたいだわ」

 「分断?」

 「そうよ。まあ、でも智恵利だからなんとかなるでしょう」

 依里茄は呑気にそんな言葉を漏らしていた。

 「私たちも出発するか?」

 「出発って、どこに?」


 「敵の散策だ」


 風のないロビーにうっすらと風が吹いてきたような気がした。そしてまた無線が入る。また『分断された』と言う内容だった。

 「どうやら、敵の術中にハマっているようだな?」

 管制塔を睨みつける隆が言った。

 「さっきからなんなんだお前? ……何か知っているのか?」

 「いいや、以前こんな罠にはまっただけだ?」

 言って、隆は依里茄に向き直った。そして、

 「全員をかき集めたほうがいいんじゃねえか?」

 と言った。

 依里茄は隆のことが気に入らないようだ。眉間にしわを寄せて微妙な視線をぶつけている。

 「お前に指揮する権限はない。だいたいお前は囚人だ。私のやり方に口出しは無用だ」

 「そっか。意地っ張りな野郎だぜ。俺も言えねえけど」

 言って、隆はアサルトライフルを両手に持った。そして、

 「じゃあ、俺は管制塔に行ってくるぜ」

 と言って、単独行動を開始した。

 「まて、貴様の単独行動は認めん。同行させてもらう」

 依里茄が言った。隆は「ヘッ」と笑い、

 「ご自由にどうぞ」

 と言った。




 「殺斬様! 殺斬様!!」

 ネイが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 「どうかしましたか?」

 「一大事。滑走路にマガ・ローターが!」

 「……!?」

 殺斬は滑走路の様子を確認する。すると、そこには、第五部隊に接近する子供の姿があった。

 「あの子、何をしようとしているのですか?」

 「さあ、不明です」

 「邪魔が入っては困ります。なんとかならないのですか?」

 「無理です」

 「……このままいけば、マガ・ローターと第五部隊が交戦し、作戦が台無しになってしまいます」

 「早々に対処を?」

 殺斬は悩む。

 そして、一つの決断を打ち出した。

 「作戦を中止します」

 言って、キーボードを入力するミノリの元へ向かった。ミノリの肩にポンと手を載せる。

 反応して殺斬に視線を向けるミノリに殺斬は首を左右に振った。

 沈黙の空間が管制塔内部に広がった。


 「武器を取ってください。出陣します」

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