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GOVERNMENT EMPIRE  作者: Lirenoa
第二章 反撃の章
22/115

PAST 22:悲況の再会part2

 異常な威圧を放つ古城。奥に入れば「死」のみが待っているようだった。

 「遅いじゃない」

 先回りしていた空奈が言った。普通の言動を取る空奈とは対照的に、美来はうつむいて乾いた地面を見つめていた。

 「わりいな……」

 隆の語気は一気に撃沈げきちんした。

 一方の修二は隆よりも先に入口の壁にもたれかかっている兵士の姿を見て固まっていた。その兵士はここの労働場の兵士だった。一見しただけですぐにわかった。

 左胸には金の刺繍で『ES』のマークが不思議なデザインの中に刻まれているワッペンがあった。

 その不思議なデザインというは、『ES』の左右に弾道や斬撃を表しているよな直線の模様が入っている。恐らくこれらが表すのは『侵略』だろう。更に、『ES』の下には銃弾から天使と悪魔の羽が生えている。修二の感性から言わせてもらえば『銃の使い方で世界が決まる』と言っているような気がした。


 そんな、神羅万象、ありとあらゆるものの権力を奪い去るほどの力がある国の兵士が目の前で横たわっている。それと、人気がなく重々しい雲域からして……


 『ここは既に襲われている』


 殲滅せんめつされたようだ。

 「な、なんだよ……これ?」

 修二は普通に声をだしているつもりなのに、震えた。憎き者の死にその時の修二はなんとも言えぬ恐怖を感じた。

 「来た時からこうなってたわ」

 空奈は淡々としゃべる。この状況には慣れているらしい。

 修二はついさっきの戦闘を思い出した。あの集団がここの兵士を皆殺しにしたのだろうか。考えにくい。まともにやり合ったら絶対労働場ここの兵士の方が強い事は目に見えていた。

 「取りあえず中に入りましょう? きっとこの奥には何らかの情報があるに違いないわ」

 言って、空奈は一人でズンズン進んでいく。

 「なあ、修二?」

 隆が声をかけてきた。

 「女って怖いな……。なんでこんな惨劇さんげきの当たりにして平然としてられんだろうな?」

 隆はそう言って、空奈の背中を見ていた。不思議そうな目で修二に見られながら。

 修二はこの奥にある何かに恐怖を覚えて、胸騒ぎが止まらなかった。




 乾いた風が入口の周りを殺伐さつばつと流れている。気流が安定しないのか、風の強弱が安定していない。強い風が吹くときに揺れる木々のざわめきが不気味なハーモニーを奏でていた。

 入ることを躊躇ちゅうちょする。

 入口には軍人のマネキンであるデコイの群れが存在した。敵の目をあざむくことを目的に作られたデコイでも、入口にあるような配置では欺瞞ぎまんの効果は発揮できない様に思える。

 「デコイ……だよな? あんな使い方ってあるのな?」

 隆が正面ゲートをくぐって真っ先に言った。入口も甚だしく荒らされている。

 「嫌な予感がする……。さっきから目にする光景がどれもこれも変だ」

 「全くだな。労働場なんだろ? ここ? なんたってこんなことになってんだ? 政府側の軍隊に攻め込まれちまったかぁ?」

 「分からない」

 一歩踏み出すのにかなりの勇気が必要だった。ざくりと死地の乾いた土を踏みしめる。その時、なんとも言えぬひんやりとした冷たさ感じる修二は不安げに隆を見た。

 隆はモニター画面を見ていた。

 「ダメだ。画面にヒビが入ってらぁ。さっきの戦闘でやられたか……」

 「じゃあ、マナ・ソフィアは?」

 「追えねえな……所在も分からねえ」

 「つまり、ここが外れたら終わり、って、こと?」

 「そうなるな、あいつは出来たてほやほやの仕留めるなら今しかない奴だ。放置すればでかくなって帰ってくるに違いない」

 修二は唾をゴクリと飲んだ。思えば、隣に居る美来がまだ一言も言葉を発していない。さっきから修二の服の裾を掴んで怯えているように離さない。

 「美来……?」

 「へ? あ、何?」

 「大丈夫か?」

 「あ、うん……」

 元気がなかった。きっと大丈夫じゃないのだ。どこか重圧に押される。

 「三人とも? 速めに仕事を済まして帰るわよ!」

 三人は空奈の声に互いに顔を見合わせた。

 「こんなところに長く居たく――――――――――――」

 すると、

 「ァァァアアアアアアア!!」

 屋根の上から人が飛んできた。人は修二の目の前に落ちる。落ちてきたのは労働場の兵士だった。

 「なんだ? どうなってる?」

 隆が驚いたように声を漏らす。警備兵はぴくりとも動かず、倒れた場所を血で染め上げる。

 「あ、ああ……」

 と美来が口を抑えて恐怖感を隠しきれないでいた。


 「ギャルルルル!!」

 その時、野獣の咆哮ほうこうが労働場に響きわたる。鳴動とともに、労働場の入口の屋根から大きな獣が飛び出した。飛行機の翼のような銀色の刃物、四本の足。見るからにマナ・ソフィアだった。

 「なんでこいつが出てくるんだよ!?」

 と隆が言って、釈然しゃくぜんとしない様子でマナ・ソフィアを見上げていた。

 「なに? あれ?」

 美来が修二に寄り添って震える。

 「畜生! 調子に乗りやがって! 獣野郎!」

 隆はマナ・ソフィアを追い始める。

 正面ゲートの外にマナ・ソフィアは着地してこちらを見ていた。

 隆はすかさず二丁のハンドガンを持ってマナ・ソフィアに攻撃する。マナ・ソフィアは銃弾を無効化している。排莢はいきょうであふれ出たハンドガンの薬莢やっきょうが乾いた地面の上に散乱する。

 修二は薬莢が落ちた音を耳にすると、

 「あの機械獣の名はマナ・ソフィア。最近できた驚異的殺人兵器だ」

 美来に言い聞かせた。

 「まな・そふぃあ? へいき?」

 美来はオウム返しする。マナ・ソフィアは何もせずじっとこちらを見ていた。修二も隆に加勢して、ハンドガンを撃つ。

 しかし、マガジンを装填した隆は修二の援護射撃の射程圏内に入り、射撃の邪魔をした。

 「修二! 手ぇ出すんじゃねえ! お前達は早く先に行け!」

 「今回の目的はこいつを――――――――――」

 「てめえらはリゲルだろうが! こいつは俺が引き受ける! 空奈と一緒に内部を捜索しろ!! 労働場ここの尋常じゃない空気はどう考えてもおかしい」

 隆が叫ぶとマナ・ソフィアは美来に向けてミサイルを発射した。衝撃音をあげてをミサイルは容赦ようしゃなく美来に直進し、牙をく。

 「あ……ああ……」

 と美来は目の前の脅威に棒立ち状態。

 「美来!」

 修二が慌てて美来を抱きかかえ、横合いにダイブする。

 「キャッ」

 美来は悲鳴をあげる。ミサイルは機動を変えようと弧を描く。だが、労働場の障害物に着弾しミサイルは爆発した。

 空虚な爆発が黒い雲の下で吸い込まれる。思った以上に爆発音は小さかった。

 「マナ・ソフィア!! お前の相手は俺だ!!」

 隆が叫び、前進しながら攻撃を仕掛ける。そのすきに修二と美来はデコイの門をくぐり抜けて内部へと侵入した。

 修二は美来を中に入れると引き返そうとする。

 「どこ行くのシュウ君!?」

 美来が修二の腕を掴んだ。

 「放せ、美来! 隆の救援に向かう! あんな機械と隆を一対一で戦わせるわけにはいかないだろ!? それに、今回の目的はあいつを――――――――――」

 「ダメ! シュウ君!」

 と美来は修二を止める。

 「何故だ!?」

 「そんな事したらシュウ君が死んじゃう!」

 「何言ってんだよ隆はどうでもいいのか?」

 「隆さんなら、大丈夫だよ」

 美来は言って、無表情の目を修二に向ける。吸い込まれるような目だった。異常なまでの何かが修二にも伝わる。

 「シュウ君じゃ……『今のシュウ君』じゃ、あんな機械の兵器に『勝てないから』」

 「……」

 「シュウ君は私が守るもん」

 と美来は言った。寂しいような一言だ。前世からの因縁のように淡々と言葉をつづる。

 「いこうよ……。最悪、シュウ君が無事なら私はそれで……」

 残酷な一言をぶつけ、美来は修二の手を引いて奥へと向かった。

 修二は何も言い返せなかった。


 笑っている気がする。

 「イ~ッヒッヒッヒッヒッヒ」

 と、リゲルが……


 思い出される辛辣しんらつの日々が修二の胸の中を蹂躙じゅうりんした。




 廊下には兵士の遺体と血液が沢山、付着している。修二は難敵なんてきの惨劇が広がる中、いかい事が行われていると感じる。

 「なんで、襲撃を受けているんだ?」

 修二は思慮しりょ深い空奈に歩きながら訊く。

 「分からないわ。少なからず、帝国の仕業でしょうね」

 「どうして? ここの兵士は味方だろう?」

 「そうだね。でも、奴らは例え味方であっても、ヘマをやらかした奴には制裁を下す連中よ。恐らくここの兵士もヘマをやらかしたのね」

 修二は周囲を見渡し、脱走者を出してしまったからこうなってしまったのだと悟る。


 『なら、罪なき人を一人でも多く救わねば……』


 体がそう言った気がする。修二は無意識に走り出す。

 「ちょっと、どこへ行くの?」

 「労働者を救出しに―――――アグッ!」

 発言の途中、ほおに衝撃が走った。何かに衝突したと言うよりは殴られたといったほうが妥当だとうのような痛覚だ。

 スケート場の上を滑るように転がる。

 「いってて……」

 「シュウ君!? 大丈夫!」

 目を開けると心配そうにこちらを見つめている美来の顔がある。そのかたわらには前方を凝視したまま止まっている空奈がいた。

 「大丈夫? シュウ君? 立てる?」

 今日の美来はやけに親切だった。何があったのか訪ねたくなるくらい。

 修二は美来の優しさに包まれた手を取って立ち上がると、妙な激痛を受けた場所を見つめるが、特に変わった様子もなく、ただ廊下が続いているだけだった。

 (何だったんだ? 透明なバリアでも張ってあるのか?)

 そう思っていると、ある空間に歪みが生じた。紫電の雷霆らいていを唸らせながら、奴は姿を現す。

 黒いスーツとリーゼントの金髪。不良じみた顔に、耳と鼻にピアスをしていた。痛そうだ。

 「よお。雑魚こぶた共。てめえがここを脱走した雑魚こぶたって訳か?」

 とリーゼントは慢心まんしんに修二達を不敵な笑みで迎える。美来の目が鋭く尖った。

 「レクラム……」

 「おやぁ? 誰かと思えば、苛められっ子じゃねえか? とうの昔に自害したと思ったんだけどなククッ……フハハハハハハ!」

 と男は傲慢な笑いを浮かべ、美来を嘲謔ちょうぎゃくする。

 高慢に思い上がった笑声しょうせいで、みにくい下等種族を圧倒するレクラム。

 修二は美来を嘲笑あざわらうレクラムを見ると、不思議なことに、今にもリミッターが解除されてしまいそうだった。無意識にだ。

 「知り合いなの?」

 と空奈が美来に訊いた。すると、美来は一旦修二を見て、

 「いいえ、直接会ったことはないです……、私が軍隊にいたときは帝国側の第二位としてその名をとどろかせていた実力者です」

 「あなたのことも知っているみたいだけど……?」

 「……」

 美来は空奈の質問にこれ以上答えなかった。

 「ったぁく。お笑いだよなぁ? 帝国に忠誠を誓っておいて、自治体を一つを滅亡させちまったんだからな?」

 とレクラムは美来に言う。そして笑っていた。

 「やめて……」

 美来は今にも壊れてしまいそうに両手で耳を塞いだ。

 修二は可憐かれんな美来を見て、感情が暴走しそうだった。繰り返すが無意識にだ。

 「美来? そりゃそうと貴様、労働もしないで何やってんだ? 折角、カリバの旦那が情けをかけてくれたのに――――――――――――」

 「止めろ!!」

 叫んだのは修二だった。

 「っああ?」

 修二の励声れいせいにレクラムは気に入らなそうに睨む。

 修二は自分の励声に驚いていた。まるで、美来の悪口あっこうに体が反応しているようだった。

 「おやおや? 貴様、修二か?」

 とレクラムは一発で修二の名を当ててきた。

 瞬間、修二は目を丸くした。面識はないはず。修二の脳は錯綜さくそうに包まれる。

 「なっ、なぜ僕の名を?」

 と修二は驚いた表情を浮かべてレクラムに恐る恐る尋ねた。

 「おっと? 何かな自治体で――――――」

 「止めてええぇぇぇえ!!」

 レクラムの言葉を美来の大声がかき消した。すごく大きな声だった。美来は顔を伏せたまま修二を連れてレクラムの方へ走る。

 「み、美来?」

 突然の行動に動揺を隠せない。

 (まさか、無謀にも突っ込むのか?)

 不安を感じる。

 しかし、美来に抵抗すれば、その隙に二人共レクラムに殺されるのが目に浮かんだ。

 「おやぁ? 何をしてるんだ貴様? どうやら、ついに頭が逝ちまったって話も本当だった見てえだなぁ!!」

 とレクラムは背中からマシンガンを取り出し、美来に銃口を向ける。美来は右手にナイフを持ってレクラムに向かって突っ走る。無謀すぎた。

 レクラムが引き金を引こうとしたとき、マシンガンが独りでに狙いを変えた。

 レクラムは慌てて引き金を引くのを止める。反射スピードの速さは異常で銃弾は、一発も発射されないまま動作は中断された。

 その隙に美来はレクラムの横を通り過ぎて、レクラムの背後にある逆L字の角を折れた。レクラムは逃げた鼠を追うことはせず、

 「チッ……貴様の存在を忘れていたぜ」

 と空奈に向き直る。

 空奈は持ち前のリボルバー式のハンドガンをレクラムに向けていた。銃口からは冷たい青色の煙が出ていた。レクラムは空奈を見るや否やニタリと笑って、

 「その面がまえ、覚えているぜ。市街戦の代名詞『月滅つきほろぼしの街』にいた奴だな」

 「だから、なんだって言うの? そう言えば『ダサい仮面』は今回は付けていないようね?」

 「なんだと貴様? 『ダサい仮面』だと!? 舐めてんのか!!」

 とレクラムは高性能のヘルメットマスクを『ダサい仮面』と揶揄やゆされたことに腹を立てていた。挑発に乗ったレクラムはいきなり空奈にミサイルをぶっぱなそうとする。

 挑発で怒らせ、相手が冷静さを掻いたところを一気に攻めるの空奈流の戦い。

 「おっと、危ない危ない」

 しかし、思いとどまった。

 「こんな窮屈な場所でミサイル撃ったら俺も怪我しちまうなぁ?」

 「へえ、案外冷静なお方なのね? 意外だわ」

 「そういうてめえも、中々に狡智こうちにたけた牝狐めぎつねだな。どうせ、ミサイルを撃ってくると見越して俺を爆死させようとしたのだろ」

 「そうよ……」

 空奈は不敵な笑を浮かべて、銃弾をレクラムの頭に向けて撃った。レクラムは剥き出しになった頭を防御するように手で銃撃を防いだ。

 「おっとっと、女に銃を持たせたら危ないよなぁ」

 レクラムは一気に空奈に突進する。踏み出した瞬間、床がえぐれた。殴りかかろうと拳を上げる。瞬間、何かが振り上げた拳に当たった。銃弾だ。

 「何っ!」

 しかも、スーツに司令を下す『アーム・オペレーティング・ディバイス』に当たっていた。不幸なことに銃弾がめり込んでおしゃかになっている。

 これではスーツを着ている意味がなくなる。武器の重みでレクラムはひざまずく。

 「貴様ぁ!」

 「フフフッ。どうしたの? 何か問題でもあった?」

 空奈は跪くレクラムに得意げに微笑んだ。だが、駆動力を失ったはずのレクラムは拳を握りながら、スーツと多数の武器を背負ったまま立ち上がる。

 空奈は意表を付かれ、目が点になる。計算上では立てないはずだった。

 「ケヘヘ、驚いた目つきしやがって、覚悟はできてんだろうな?」

 レクラムは言って、空奈と互いに睨み合う。

 「喧嘩けんか上等! 貴様を木っ端微塵みじんに切り裂いて刺身にしてやらぁ!!」

 レクラムは背中から刀を抜く。空奈から少し余裕の表情が消える。

 「どうしたぁ? 怖気おじけ付いたか? 牝狐?」

 空奈は一発銃弾を打ち出す。しかし、レクラムは銃弾を刀剣で弾く。弾かれた銃弾は、レクラムの後方の側壁に着弾し、煙を上げていた。

 空奈の顔から余裕の表情が消える。

 「おやおや? さっきまでの威勢はどこへ行ったのかなぁ? 子豚ちゃん。銃弾弾かれちゃいましたよ~。か・な・さ・ま」

 「っ! この!」

 空奈はマグナムを投げ捨て、ナイフを取り出し手で巧みに回すと、レクラムと対峙たいじした。

 「そうこなくちゃな? やっぱり軍人。接近戦で力量を語るのが礼儀。銃器より己の身体能力のみを信ずるはつわものの定め」

 「いい気にならないで……あたしの力量でもあなたを倒すくらいの実力はあるわ」

 「面白い奴だ。さっきの『アレ』を見ても全く動じぬその精神。褒めてやろう」

 レクラムが言ったところで、事は動いた。先に仕掛けたのは空奈だった。まずはアッパスイングでレクラムの喉元を狙う。

 「ハアアァァ!」

 雄叫びとともに突き出される強力な攻撃。

 レクラムはそれをけ反って回避する。

 続いてナイフを巧みに手でまわし、逆手に持つと仰け反ったレクラムの首に振り落とす。

 「ヤッ!」

 レクラムは刀剣の鞘で受け止める。

 「中々いい腕をしているな貴様。だぁが、まだまだ俺と争うには力が足りなすぎるぜぇ」

 レクラムは空奈のナイフを払いのける。その衝撃で空奈は後ろに仰け反る。

 「クッ……」

 空奈は態勢を立て直し、再び睨みをきかす。

 「女にしては惜しいな。男で生まれていればもっと強くなれたのに、な?」

 「女を、舐めないで!」

 空奈はレクラムに猪突猛進する。レクラムは守りの姿勢をとった。刃と刃が混じり合う。弾き合う音と共に、外では閃光と共に雷霆らいていが轟いた。




 外は激しい横殴りの雨になった。

 労働場の周囲を縦横無尽に駆け回って銃弾を回避するのは、まともに実力を発揮すれば核兵器並みの力を持つマナ・ソフィア。

 対するはどんな劣勢でも、どんな大群でも、敵の壁をぶっ壊す特攻戦士、隆。

 「逃げてんじゃねえ! まともの勝負しやがれ!」

 機械に向かって吠える隆。

 銃弾を発射する度にマナ・ソフィアは軽いステップを踏みながら足場から足場へと素早く移動し銃弾をよけた。あるときは建物の上に、あるときは装甲車の上にと。

 隆にとってはそれが挑発以外のなにものにも見えなかった。天の涙で地面は泥濘ぬかるんでいる

 「野郎! ふざけんな!」

 言って地面を踏み付けると、隆の足に何かが触れた。見るとそこには『ロケットランチャー』が転がっていた。攻撃を中止してそれを手に取る。残弾があり、まだ使える。

 隆は「フッ」と鼻で笑い、ロケットランチャーをマナソフィアに向ける。しかし、スコープをのぞき込んだ瞬間、マナ・ソフィアは火炎放射を吹いてきた。

 「なっ!」

 隆は慌てて、横合いにローリングして危機を脱した。榴弾りゅうだんが燃やされたらとんでもないことになる。

 更に、追い詰めるようにマナ・ソフィアは背中の装甲から先端にナイフが付いた触手を開放する。それを、隆に向けて伸ばし、攻撃。

 「あぶねえ!」

 隆は無我夢中で走る。

 隆の後方で触手が地面に刺さる音が響く。泥濘でいねいを帯びた地面は隆の足を取ろうとする。

 「ウワッ!」

 雨でぬかるんだ地面に足を取られ、隆は大胆に転ぶ。衝撃でロケットランチャーが手元を離れた。上空からは、触手が迫っている。

 「やろうっ!」

 触手の攻撃を転がってよけた。

 「畜生……」

 隆の腹部はかすり傷を受けた。即座に立ち上がり、触手に向かって銃弾を撃つ。しかし、遠くにある細い触手には中々当たらない。

 「グギャルルルルル!」

 マナ・ソフィアは飛び跳ね、隆の目の前に迫る。


 着地と同時にマナ・ソフィアは力を込める。あっと驚いた隆は怯んだ。生命は危機を感じると、生体反応で体が動かなくなるらしい。

 「ギャルルルルルル!!!」

 吠える。途轍とてつもない大声に呻き声を上げながら隆は耳を塞ぎ、歯を食いしばった。マナ・ソフィアは一回転し、前足を巧みに扱い、隆を労働場の中に蹴り飛ばす。

 「ウアァァ!」

 砲弾のように勢い良く飛ばされる隆。背中を強打し、廊下を滑っていく。

 「グッ!」

 ようやく止まったかと思うと、隆は上半身だけ起こして銃でマナ・ソフィアを追撃しようとする。しかし、肝心のマナ・ソフィアは隆に背中を向けて、正面ゲートから出ていった。隆の相手をしている暇など無いように。

 隆には追える自信はなかった。

 「待ちやがれ……この、クソ・ソフィア」

 隆は倒れた。荒く息をして、切られた傷にハーフフィンガーグローブを外して、清潔なてのひらを当てる。生ぬる感触と腹部に疼痛が走る。

 「クッ……」

 予想以上に出血が酷いようだ。掠り傷だと思っていたが、さっきの打撃で大きく傷口が開いたようだ。

 隆は息を荒らげ、傷口を抑えながら立ち上がる。そして壁に身を寄せて、壁を支えに、労働場の奥へと向かう。

 「あの獣野郎……次にあったときは必ず……ぶっ潰してやる」

 と隆は言って、奥へと歩みを進めた。

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