第一話「なんか家の奥がおかしい」
朝、教室。
誰もいないわけじゃない。ただ、自分に関係ある奴が一人もいないだけだ。
席に座る。特にやることもないから、前の席の背中をぼーっと見る。
笑い声。どこかでグループが盛り上がってる。
ああいうの、疲れる。
別に嫌いじゃない。ただ、自分が入ると一気にめんどくさくなるのがわかる。
「空気読めよ」とか「なんで黙ってんの」とか、そういうの全部込みで。
だったら最初から混ざらない方が楽だ。
授業は、いつの間にか終わる。
黒板の内容は見てたはずなのに、ほとんど覚えてない。
特に興味あることも教わってないし、役に立つかどうかもわからない。
じゃあ、何が知りたいのか、何がやりたいのか。役に立つことって何なんだと聞かれても、それもわからない。
なんか、そういうのを考えるのも違う気もする。
帰り道。
特に寄る場所もないから、そのまま家に向かう。
途中、後ろから視線を感じた気がした。
振り返る。
誰もいない。
いや、一人いた。
同じクラスの女子。名前は…知らない。
目が合った気がしたけど、すぐに逸らされた。
まあいいか。
家に帰ると、スマホの画面は17時を回っていた。
「あー」
特に焦る理由もない。制服を脱いで部屋着に着替えると、ベッドに寝転がる。
布団の上でしばらく天井を見て、やっと体を起こした。
「腹減ったな、さみっ」
適当に上着を羽織って、リビングへ行く。
この家は広い。やたら広い。
平屋なのに、妙に横に長い。しかも奥の方はほとんど使っていない。
俺が使うのは、玄関、リビング、自分の部屋。この三つだけ。
それ以外は、なんか行かない。
理由? 特にない。なんか行きたくないだけだ。行く用事もないし、なんとなく阻まれているような気もするし。
冷蔵庫を開ける。
「なんもねぇな」
牛乳が半分。あと卵が二つ。パンはない。
「足りんな」
外に出るか迷う。でも正直、外に出るのもだるいし寒い。
しばらく冷蔵庫を眺めたあと、牛乳をそのまま飲んだ。
「うん、まあ」
腹は満たされないが、死ぬほどでもない。
リビングのソファに寝転ぶ。テレビはつけない。スマホも見ない。ただ天井を見る。
「暇だなあ」
いつものことだ。
そのときだった。
カサ、と小さい音がした。
「ん?」
顔だけ動かす。音のした方向は、廊下の奥。普段行かない、家の奥側。
「ネズミか?」
この家、古いからな。ありえなくはない。寒くなってきたとはいえ、奴らも生きているのだ。活動くらいはするだろう。
でも、なんか違う。もっとでかい。
さっきから、微妙に音が続いている。
ヒタ……ヒタ……
「めんど」
正直、放置でもいい。でも、ずっと鳴っていると気になる。
「はぁ」
立ち上がる。スリッパを引っ掛けて、廊下に出た。
廊下は長い。昼なのに、奥はちょっと暗い。使っていないから電気もつけていない。
「こんな奥だったっけ」
歩きながら思う。普段ここまで来ないから、距離感が曖昧だ。なんか、妙に遠い。
カサ……
また音。確実に前から聞こえる。
「マジでネズミなら潰すぞ」
ぼそっと言いながら進む。
そして、そこに来た。
廊下の曲がり角。なんとなく嫌な場所。
「あれ?」
違和感。はっきりわかる。
ここ、こんな感じだったか?
目の前にあるのは、壁。…のはずなんだけど。
「なんだこれ」
近づく。曲がり角の先、空気がおかしい。見た目は普通。でも、なんかある。
手を伸ばす。
触れた。
「うわ」
感触が変だ。壁じゃない。空気でもない。なんか、膜みたいな。
ぐに、と軽く押し返される。
「は?」
もう一回押す。ぐに。でも、押し込める。
「なにこれ」
普通に考えたら意味不明だ。でも、怖くはない。ただ、よくわからん。
前にもこんな感じがあって、特に行く用事もなかったからなんとなく引き返した。
「まあ、いってみるか。俺んちだし」
深く考える気はない。とりあえず、ぐっと押し込んだ。
「うわっ」
一歩、踏み込む。体が抜けた。
膜を越えたと、思う。思うが、何も変わらない。
「なにこれ」
振り返る。さっきまでの廊下が、そこにある。普通に戻れそうだ。
戻ってみる。特に抵抗はない。普通に戻れる。
もう一度、曲がり角の先に進む。やはり何かの抵抗がある。でも、さっきより抵抗が少ない気がする。
「よくわからんな」
暫く空間をブニブニ触ってみる 突き破るとスカスカになるが暫くするとブニブニが戻る。
暫くブニブニスカスカとやってみたが結論よくわからん。
暫くやってみてからこれ身体に悪くないのだろうかと思ったがまあ今更だと思うことにした。ても汚れてないし大丈夫だろう大丈夫じゃないと俺んちが気持ち悪いと言うことになる。
それは非常に困る。
とりあえず、一歩進む。
その瞬間。
「にゃー」
足元から声。
「うおっ!?」
思わず飛び退く。
黒い。
黒猫、いや少し灰がかかっている? ロシアンなんとかいうやつか?
とりあえず黒っぽいので、足元にいるとよく見えん。踏んづけるぞ。
「なんだお前」
じっと見てくる。目が、妙に落ち着いている。普通逃げるんじゃないのか?
「いや、まあいいか」
猫だしな。理由とか考えるだけ無駄だ。
もう一度、周りを見る。
「これ、なんなんだ」
疑問はある。でも、わからんものを考えるような無駄なことはしたくない。
わからないことを、わからないまま抱えて生きていける。それが俺の良い所だ。
誰かに言われたことはないが、そう思うように努めている。
黒?灰?猫が歩き出す。ゆっくり、奥へ。
ちらっとこっちを見る。ついてこい、みたいな顔。
「俺んちなんだが?」
ため息。
「行くか、住み着かれても面倒だし」
どうせ暇だ。ネズミよりはマシだ。
俺は、そのままロシアっぽい黒猫の後を追った。
【ロシアっぽい猫】
対象:北爪陽太
状態:未接続
適性:確認済
境界反応:あり




