第99話 連れて行くという選択
ザックルは湯呑を置いた。
「条件がある」
アリューとユウが顔を上げる。
「村長が“行ってよい”と言うなら――」
ゆっくりと言う。
「一緒に行こう」
静かな一言。
だが、その意味は重い。
「……分かりました」
アリューはすぐに頷く。
三人はそのまま、村長の元へ向かった。
村長の家。
「村長」
アリューが声をかける。
「ザックル師匠の件で――」
その瞬間。
「え?」
村長が目を丸くする。
「ザックルさんが……」
一拍。
「いなくなる……?」
空気が変わる。
次の瞬間――
「そんなの困るんじゃあああ!!」
大号泣。
「えぇ!?」
ユウが驚く。
「ザックルさんがいなくなったら!」
村長は涙を流しながら叫ぶ。
「わしらはどうすればいいんじゃあああ!」
机に突っ伏す。
「この村の周囲はなぁ!」
顔を上げる。
「凶悪な魔物が多いんじゃ!」
「ザックルさんがおるから、なんとかなっとるんじゃぞ!」
「それが……それが……!」
また泣く。
その声は――大きすぎた。
外まで響く。
「どうした!?」
「何事だ!?」
村人たちが次々と集まってくる。
気づけば、家の中は人でいっぱいになっていた。
「ザックルさんが出て行くって!?」
「なんじゃと!?」
ざわめき。
そして――
「いかないでおくれ!」
一人が叫ぶ。
「わしらでは太刀打ちできん!」
「頼む!」
「残ってくれ!」
次々と声が上がる。
気づけば、村民全員での懇願。
「……ううむ」
ザックルが頭を掻く。
完全に困り顔。
「これは……困ったのう」
その時。
ぽつりとザックルが言った。
「……お前さんらも」
全員が見る。
「一緒に来ればいいんじゃないか?」
「え?」
村長。
「え?」
アリュー。
「え?」
村民。
「え?」
ユウ。
完全に止まる時間。
沈黙。
次の瞬間。
「……それ、いいな」
誰かが小さく言った。
「街ってどんなとこじゃ?」
別の声。
「若者はおるのか?」
さらに一人。
空気が変わる。
「いいな!」
「いいな!」
「それいいな!!」
一気に盛り上がる。
「行こう!」
「街だ!」
「新しい生活じゃ!」
一斉にコール。
村長も目を輝かせていた。
「アリューさん」
真剣な顔。
「国王なんじゃろ?」
「……はい」
頷く。
その瞬間――
「ええええええ!?」
村人たちが爆発する。
「国王!?」
「本物!?」
「金持ち!?」
「待遇いいのか!?」
「国王万歳!!」
カオス。
完全にお祭り状態。
「……ちょっと待ってください」
アリューが手を上げる。
「ここから……」
冷静に言う。
「二日くらいかかります」
「おお……」
少し静まる。
「ザックル師匠だけなら」
ブモーを見る。
「一緒に乗って帰れますけど――」
村人を見る。
「さすがに……六十人は無理です」
想像する。
空中で。
「……落としたら大惨事」
ユウがぼそっと言う。
「むう」
ザックルが腕を組む。
「それならば――」
顔を上げる。
「わしが引率しよう」
あっさり言う。
「え?」
アリューが驚く。
ザックルは机に地図を広げる。
「どの辺じゃ?」
ユウが指を差す。
「この辺です」
丸をつける。
「……ほう」
ザックルが頷く。
距離、地形、危険地帯。
一瞬で把握する。
「よし」
顔を上げる。
「明日、出発じゃ」
村人たちを見る。
「荷物をまとめておけ」
指を立てる。
「必要なものだけにしろ」
「おおお!!」
歓声。
「引っ越しだ!」
「街だ!」
「新生活じゃ!」
大盛り上がり。
ザックルは振り返る。
アリューに向かって言う。
「……ということじゃ」
軽い口調。
だが内容はとんでもない。
「……」
アリューは少し固まる。
(いきなり六十人……)
頭の中で計算が走る。
住居。
食料。
配置。
治安。
だが――
「……分かりました」
頷く。
覚悟を決める。
「俺たちは先に戻ります」
ユウも頷く。
「準備しないと」
「うむ」
ザックルが答える。
外へ出る。
ブモーが待っている。
アリューは振り返る。
「ザックル師匠」
「なんじゃ」
「皆さんを――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「よろしくお願いします」
真剣な声。
ザックルは笑う。
「任せておけ」
短く。
だが、絶対の安心感。
「じゃあ」
ユウが手を振る。
「怪我のないように、ゆっくり来てくださいね」
ブモーが羽ばたく。
風が舞う。
二人は空へ。
下では村人たちが、荷物をまとめ始めていた。
笑い声。
期待。
少しの不安。
だがそれ以上に未来への希望。
こうして一つの村が動き出した。
※100話以降はアルファポリスに無料掲載中です。
※赤翼の竜騎士ワイダーで検索してね。いつも読んでくれてありがとう。




