第80話 裏切りの名
店の中は相変わらず賑やかだった。
だが四人のいる席だけ、別の世界のように重い空気に包まれていた。
アリューはうつむいたまま、ゆっくりと口を開く。
「……正直、あまり覚えてないんです」
絞り出すような声だった。
「叔父のこと」
顔を上げる。
「小さかったから……」
少しだけ苦笑する。
「ただ……よく追いかけ回されてました」
シリューとユウがちらりと見る。
「泣くまで、しつこく」
あの時の恐怖が、ぼんやりと蘇る。
「怖いおじさん……って印象しかないです」
沈黙が落ちる。
そして。
「……その叔父が」
アリューの目が鋭くなる。
「裏切ったんですか?」
男は静かに頷いた。
「ああ」
短く、重い肯定。
「元々な……タイリューが一番上だった」
スプーンを置く。
「それが気に入らなかったんだろう」
遠くを見るような声。
「ずっと……ねたんでた節があった」
アリューの拳が震える。
男は続ける。
「その後だ」
淡々と。
「ガイリューは王国のワイバーンライダー隊長になった」
シリューが息を呑む。
「今じゃ……将軍だ」
空気がさらに冷える。
ユウが小さく呟く。
「そんな……」
男は構わず続ける。
「あいつはな……村でも嫌われてた」
思い出すように言う。
「結局、自分のためだけに動いた」
言葉にわずかな怒りが滲む。
「連れてこられたワイダーの捕虜……」
一拍。
「皆殺しを指示した」
ユウの手が震える。
シリューの歯が食いしばられる。
「ワイバーンには卵を産ませてな」
冷たい現実。
「新しくワイバーンライダーを育てた」
アリューの視界が揺れる。
「それで軍功を立てて……出世だ」
吐き捨てるように言う。
沈黙。
その中で、シリューが声を出す。
「……じゃあ」
喉が詰まる。
「父さんと……母さんは」
ユウも同じ想いで見つめる。
男は目を伏せる。
そして。
「ギンリューとアイも……」
短く息を吐く。
「全員、処刑された」
言葉が落ちる。
重く。
深く。
ユウの目から涙があふれる。
シリューは俯いたまま動かない。
アリューも、何も言えない。
男の声だけが続く。
「王国が欲しかったのはな」
静かに。
「ワイバーンと……騎乗の技術だ」
アリューの頭の中で、点と点が繋がる。
「だからガイリューが全部教えた」
冷たい現実。
「全部だ」
そして。
「もう用なしってわけだ」
テーブルの上の料理は、もう誰も手をつけていない。
男がゆっくりと顔を上げる。
「生き残りは……」
一人一人に向ける。
「ここにいる四人だけだ」
その言葉に、全員の呼吸が止まる。
その時。
横から小さな声。
「……ひどい」
ラ・セレールだった。
目に涙をためている。
「そんなの……ひどすぎる」
静かに泣いていた。
その姿が、逆に現実の残酷さを際立たせる。
男は少しだけ表情を緩めるが、すぐに戻る。
「最近の話だがな」
ふと思い出したように言う。
「ガイリューの野郎が……帝国の空軍を圧勝したらしい」
アリューが顔を上げる。
「圧勝……?」
「ああ」
男はうなずく。
「街じゃ大騒ぎだ」
皮肉の混じった声。
「英雄扱いだな」
シリューの拳が震える。
ユウの目に怒りが宿る。
アリューは静かに呟く。
「……許せない」
その一言に、全てが込められていた。
そして。
ふと気づく。
さっきの違和感。
街の人々の反応。
「……だからか」
ユウが言う。
シリューも頷く。
「ワイバーン乗りが歓迎されてた理由」
アリューも理解する。
この街の人々は、英雄に感謝していた。
だがその英雄は。
自分たちの全てを奪った張本人だった。
四人の中に、同時に同じ感情が芽生える。
怒り。
そして。




