第31話:模型破壊
ギルドの広間に置かれた模擬討伐用の魔物模型を前に、アリュー、シリュー、ユウの三人は互いに視線を交わした。
受付で説明を受けた通り、これを攻撃すれば初めの試験は合格だ。
「これを壊せばいいのか?」
アリューが小さく確認する。
二人も頷き、緊張と期待が入り混じった空気が三人の間に漂う。
まずはアリューだ。
赤い翼のアルフェリスの背に跨り、鞍をしっかりと掴む。
ワイバーンの目が鋭く光り、翼を大きく広げると、三人の視線は思わず天井に吸い込まれるほどの速度でアルフェリスは加速した。
広間の高さに合わせて上空を旋回し、トップスピードで舞うその姿は、まるで雷光のように速かった。
見る者の心拍が上がるほど、恐ろしいスピードで空気を切り裂く。
「よし、いくぞ!」
アリューが声を上げると、剣に魔力を練り込み、帯電させた。
その刃先からは黄金の光が迸り、剣の先端に集中する。
アルフェリスの振動する羽ばたきと共に、空気が雷鳴のように鳴る。
アリューの視線は模型に一点集中。
体の感覚、風の圧、アルフェリスの呼吸のリズム、剣先に流れる魔力、全てを一点に集める。
深呼吸一つ、心を静め、魔力を最大限に解き放つ。
「雷撃!」
剣先から放たれた魔力の塊が模型に突き刺さると、瞬時に炸裂した。模型の木製の鎧はバラバラになり、土台ごと吹き飛ぶ。
破片が広間の床に散乱し、試験官や職員たちは唖然と立ち尽くす。
これまで誰も成し得なかった完全破壊――それを目の当たりにしたのだ。
試験官の目が見開かれ、思わず手を口に当てた。
「…これは…初めてだ…!」
職員が慌てて予備の模型を運び入れる。
アリューは空中で旋回を続けながら、余裕の笑みを浮かべた。
「次はお前たちの番だ」
とシリューとユウに目配せする。
スノウェルとブモーも翼を震わせ、訓練で培った三人の合図を理解しているかのように低く唸る。
シリューが次に立つ。例の植物魔法を使い、模型を成長させてしまった。
あちこちから生えた新芽が鎧を押しのけるようにワラワラと伸びていく。
そしてすべての鎧は地面に落ちて、原型をとどめない形になった。
そして新しい風魔法も試したくて最大限まで魔力を高める。
それを放つと風の刃が模型の周りでつむじ風を巻き起こす。
終わった後は、模型の粉が、床に散乱した状態だった。
チリしかない。
またもあわてた職員は、魔物模型を持ってきた。
ユウは最後に立つ。弓を構え、赤の魔石を装着した魔力の玉を放つ。
オレンジ色の光が瞬く間に模型に着弾し、バラバラに木片と鎧が粉々に吹き飛んだ。
広間は静まり返り、続いて歓声が巻き起こった。試験官は半ば呆れ、半ば感嘆した。
「こんな光景は初めてだ…!」
と声を上げる。
ギルド職員も目を丸くし、模型の破片を集めながら互いに顔を見合わせた。
三人は互いに微笑み合う。
ワイバーンたちも低く唸り、翼を揺らして誇らしげに彼らを包む。
これまでの訓練と努力が、この瞬間、形となったのだ。
心の底からの達成感と自信が、三人を包み込む。
アリューは剣を収め、シリューは風を鎮め、ユウは弓を下ろす。
胸に去来する高揚感を噛み締めながら、三人は次の試験――筆記や理論確認へと進む覚悟を固めた。
街道沿いの小さな街は、この日、勇敢な若者とワイバーンたちの姿で満たされ、ギルドの試験会場は熱気と興奮に包まれたままだった。
三人は互いに力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられると確信していた。




