第2話 意気込みのままに!
鳴潮のフェス当たった!
試験二日前の夜
モナドは荷作りをしていた。
試験会場である学園国リュケイオスまでは数時間かかるため、試験前日に家を出発しリュケイオス内の宿に宿泊してから会場に向かう計画である。
「やれることは全部やった。けど、、、、、、
はぁ〜〜〜。やっぱ不安!」
部屋にそんな情けない言葉が溶けていく。
「不安になっても仕方ないか。さっさと寝て明日の朝復習しよう。」
二日前に悩んでも意味がないと自分に理解させるように言葉を吐き、眠りについた。
翌朝
「ついにこの日が来てしまった」
今朝はキリカの怒声を浴びることなくスッキリと起きれたのだが、気持ちはごちゃ着いているらしい。
「とにかく、支度と最終確認しよう。」
出発が遅くなると到着時間も比例して遅くなる。気持ちの整理は後回しにしてモナドは機械的に体を動かした。
支度を終えて自室から出てきたモナドを見てキリカはやれやれといった感じで言葉をかける。
「なんて顔してるんだい。気持ちは分からないでもないけどね。今更悩んでもじゃろ。」
「わかってる。」
キリカの言葉にモナドは了解の意を示す。無論、顔や態度は比例していないのだが。
(今は何を言ってもという感じじゃな。)
キリカは考えるのがめんどくさくなった。
「とにかくシャキッとしな。今朝の朝食は奮発して作ったミリタ牛ハンバーガーじゃよ!さぁ、食べた食べた!」
キリカに押されるがまま席につき、ハンバーガーをかじる。
うまい。
奮発したという言葉通り今までのどの朝食よりも豪勢だった。
3つの五感で応援されたからか、モナドは自然と心が少し軽くなったのを感じた。
入口のドアノブを握る。
「いってきます!」
モナドは心に残る焦燥をかき消すように別れを告げ、歩き出した。
「待ちな。」
不意に呼び止められ、モナドは振り返る。
「モナドよ。全力を出してくるのじゃ。」
モナドの目を見つめ、キリカは続ける。
「アンタは今まで全力を尽くしてきた。全力というのは自分が持つ全ての力。それ以上はないのさ。」
全力であったことはモナド自身が1番理解していた。モナドはそのままキリカの言葉に耳を傾ける。
「あとは試験で全力を出すだけさ。そうしたら目標・過程・実戦の全てをアンタが出せる最大の力で貫いたことになる。それでダメだったらどうしようもなかったと笑うしかないじゃろ?」
キリカはそう言って笑う。
「これは綺麗事じゃ。じゃが、綺麗事を現実に成すというのは、、、滅茶苦茶にかっこいいじゃろ!」
激励を終えたキリカは勢いよく背中を叩いてモナドを押し出す。
追い風がモナドの心を駆けた。
モナドは振り返らずに走り出す。大きく感謝の意を叫んで。
「ありがとう!勢いのまま貫いてくるよ!」
キリカは小さくなっていく背中を見ながら誇らしげに頷いた。
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試験が行われる学園国リュケイオスまでモナドは自らの足で移動しなければならない。
交通機関が使えないのはモナドの出発地点にあった。
異界化から100年。人類は策を尽くして量素の侵攻を抑えてきた。
だが白い絶望はじわじわと土地を塗りつぶし、人類が生活できる大地は1つの大きな大陸の他無くなってしまった。
その大陸は現在量素に対する意識の違いから3つの国で等分される形となっている。
【学園国リュケイオス】
学園国はその名の通り学園を中心とした都市国家あり、人体を介して量素を扱うことに長けている国である。
内部は旧時代のビルが立ち並び、量素機構が組み込まれたアイテムが使用されていたりとりと未来的な印象を受ける造りとなっている。
量界やプログラムの研究は最先端で量素を活用したアイテムや量界化への対抗策を生み出し続けている。
学園の目的は量素研究の成果を教え受け継ぐことによる量素理解の発展であり、卒業すると研究者や防衛隊という職に就くほか、優秀なものは量界化の調査隊に推薦されることとなる。
【武装国コロセオ】
量素を人体ではなく武器を媒介として用いる国。エンチャントという独自のプログラムを持つ。
学園国、宗教国を侵略し、三国を統合することが目的であるとか。
【宗教国ジュイキヒ】
量素を悪しきものと捉える国。量素化にはプログラムでなく、教皇の祝福というもので抗っているらしい。
人々の入国、並びに出国を禁じているため謎が多い
大陸の北西が宗教国、南西が学園国、南東が武装国という配置になっており、唯一宗教国のみが海を有する。
そして三国の間は不可侵領域となっており、T字型の領域には村が点在する形となっている
モナドの村は学園国と宗教国の間に位置している
宗教国の性質上学園までの交通機関というのが存在しない。
村から学園国までの整備されている道があるとはいえモナドは量素機構を組み込んだ移動アイテムなども持ち合わせておらず、かなりの距離を走って移動する必要があった。
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北の不可侵領域 学園国までの道のりにて
1人の商人が舌打ちをしながら荷車を引いていた。
(チッ、途中で車輪の量素機構が壊れちまって重いったらありゃしねぇ。この先の村まで地獄じゃねぇか。ついてねぇな、ちくしょう)
どうやら荷車の調子が良くないらしくフラフラと道を進んでゆく。
(それにしてもジュイキヒの連中はなんで入国を禁じてやがるんだか。交通網がありゃこうして苦労することもないってのによ。)
「ん?」
不幸の鬱憤が他の要因にまで飛び火し始めたところで商人はタッ―タッ―タッ―というリズミカルな音を耳にする。
(何だこの音?しかもどんどん近いて来やがる!)
つい先程聞こえてきた音が自分に近いていることに気がつき、商人は歩みを止めて荷物の横から後方を確認しようとした。
その直後、商人の隣を何かが猛烈な勢いで通り過ぎた。
「―――!」
驚きで腰を抜かしそうになったが何とかこらえ、リズムの正体であろう前方の何かへ目を向ける。
「なんだありゃ。人?」
遠くなってゆくリズムを耳に入れながら商人は最新型の移動系量素機構なのか?プログラムの1種なのか?などの思考を巡らせたのち、答え合わせもないため再び歩をすすめる。
ポツリと自らが感じた違和感を残して。
「リズムの間隔が早くなってないか?」
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学園国リュケイオス
モナドは昼頃にはリュケイオスに到着し、入国手続きを終えて宿に向かっていた。
(ここに来るのはばあちゃんと服を買いに来た時以来だな。毎回思うけど村とはえらい違いだ。建物はデカいし。人は多いし。)
そんなありきたりなことを思いながら少しテンションが上がってきたため、宿に荷物を置いたら学園の下見がてら街を少し観光してみようかなという気になっていた。
今朝の緊張はどこへ行ってしまったのやら。
「よし!これで全部だな。」
宿に着いたモナドは部屋で荷解きをして試験会場に持っていくものの最終チェックを済ませ、意気揚々と下見に出かけた。
数時間後
案の定調子に乗って観光に時間を割いてしまったモナドは日が落ちかけていることに気がつき、慌てて学園へ向かった。
「もうこんな時間!?俺としたことが。いや、俺だからかぁ、、、」
都会でワクワクするのは田舎者の抗えぬ宿命である。
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モナドが学園へと走り出して数分後、量子特化学園ミュトスにて。
少女が1人学園の前に立っていた。
金色の目を持つ整った顔立ち,
エメラルドを連想させる緑色の髪は頭部の高い位置で結ばれており、両手に鞄を下げている。
身にまとっている服からして裕福な家庭であるとうかがえる。
しかし、そんな煌びやかな第一印象は彼女から滲む雰囲気で打ち消されていた。
学園を見る目は虚ろ、整った顔に写っている表情は悲しみや絶望であろうか。恨みや妬み側面をも感じさせるようなその表情は言い表しようがない。
少女は立っている。
何かをを待っているという訳でもなさそうだ。1時間ほど前からこうしているのだから。
少女は小さく震えている。
諦めはついた。迷っているのかは自分でもわからない。
少女は静かに逡巡する。
何度目かの後悔の末諦めきれずに。
いつまでも続くと思われていた静寂は唐突に終わりを告げる。
少女の鞄がひったくられたのだ。
少女は一瞬、とられた鞄に手を伸ばす。
しかし、その手は無気力に降ろされる。追いかけることは愚か少女は声を上げることすらない。
悲鳴の代わりに少女の口から零れた言葉はひとつ。
「外的要因なら、、、、仕方ないよね。」
涙の代わりに流した自分自身への懺悔であった。
少女の夜は、悩みはここで終幕を迎え、、、、、、、
なかった。
少女の隣を猛烈な速さで駆ける何かがひとつ。
その進行方向は鞄を持って走り去るひったくり犯の軌跡と一致していた。
速い何かは黒い髪の青年であった。
青年は地を駆け、道の脇にある電柱を蹴って跳躍し、さらに加速する。
そして身を翻して路地に逃げ込もうとしているひったくり犯の前に立った。
「な、なんだお前、、バレット!」
犯人の指先が赤く光る。おそらくは防衛本能であろう。理解不能な速度で接近してきたものに対する臨戦態勢は自身の持つプログラムでも最速の〈火量素〉「バレット」であった。
前に立つ黒髪の青年に向けて火の弾丸が飛んで行く。それは青年の胸を貫くかに思われた。
「ガントレット」
少年を貫くかに思えた火の弾丸は厚い岩に変質した青年の腕によって阻まれ、甲高い音を立てて掻き消えた。
その事実をとらえると同時に犯人は顔に驚愕を滲ませつつ二発目を打ち出さんとする。
しかし、青年がワンアクション速かった
青年は何かを呟く。
その直後、何の変哲もない右ストレートが犯人の頬に直撃する。
ドスッという鈍い音と同時に犯人は投げられたボールのように学園前の広場を横切る形で勢いよく吹っ飛び、激突した木々が粉砕される
「え?」
一尾始終を見ていた少女は驚きを隠せない。最初の速さもそうだが、今の青年の攻撃にはそれ以上の大きな異常性を感じていた。
右手が岩に覆われているとは言えどあのモーションの右ストレートでで人がボールのように吹っ飛ぶなど想像もできなかったからだ。
(風量素で吹き飛ばしたわけでもなさそう。それとも何か別の量素?でも彼は岩みたいだし、、、量素による単純な肉体強化?あっ、もしかしてコ)
少女の思考は手を振りながら駆け寄ってきた青年によってシャットダウンされる。
「大丈夫だった?怪我してない?」
近づいてきた1本のメッシュが揺れる黒髪の青年は少女に声をかける。
そんな言葉に先程の暗い雰囲気を取り戻した少女は「大丈夫です」と淡々と答えた。
「ちょうどこの辺を散歩していたら君のバックが取られるのが見えてね。」
殴ると同時に回収していたのだろう。鞄を手渡しながら青年は苦笑いする。
(下見に来たらどんよりオーラの女子がいてなかなか出てこれなかったなんていえない。)
少女は鞄を受け取りながら「ありがとうございます。」と静かに返し、踵を返して歩き出す。家に帰るつもりだろうか。
「ちょっと待って!」
モナドは去りゆく背中を呼び止めた。下見を継続するつもりだったが自分の歩むべき道が定まっていないかのようにフラフラしており、すぐにでも砕けてしまいそうな背中を無視できるほど無神経でなかった。
少女は黙って振り返り、もう構わないでくれと言わんばかりの目でモナドを見る。
「辛いことがあったのか?誰かに話せば楽になるらしいよ。」
モナドには誰かを慰めた経験などない。なので、世間的に正しいと思われる方法を提案した。だが、目の前の少女の助けになりたいという心は本物であった。
「、、、ですか、。」
少女は呟く。
ようやく諦められると思った矢先、幾度も厚かましく構ってくる運命に嫌気がさした少女は爆発した。
「話を聞いてもらって何になると言うんですか!」
八つ当たりであるとわかっている。
だが、その考えもどうでも良くなったらしい。
「折角諦めようとしたのに!なんでこうも厚かましく立ちはだかるの!どれだけ頑張っても私はあの人になれない。私は一体なんなの!?」
憎悪の嵐は収まることなく言の葉という形で吹き荒れる。
「放っておいて!あの人には、、!姉さまになれない私に誰も何も望まないで、、!」
彼女の叫びは世界に、何より彼女自身に向けられているような気がした。
嵐を飲み込んだモナドはあっけらかんとした態度で涙を流す少女に言う。
「俺には君に何があったのかは分からない。ただ、自分以外の誰かにならなきゃいけないという部分には同意しないかな。」
自分の話が聞かれているか定かでないが、モナドは少女の目を見て続ける。
「俺にも憧れてる人がいるんだ。厳しくて、強くて、何より優しい。頼りがいのある人だ。俺の世界のほとんどはその人の知識であり、教えなんだ。その人は、憧れを目標にするなって言ってたよ。」
モナドは過去を思い返し、キリカの言葉をなぞる。
「間違ってもアタシを目標にして大人になるんじゃないよ。なんでも何もアタシが他人だからじゃよ。いいかい?どんなにすごくて憧る存在ができたとしても、それを目指すことはしない方がいい。なぜか?それは明白じゃ。憧れたらそれを越えられなくなるのは必然だからじゃな。あの人はすごい。だからそこを目指す!と言うのでは自分の限界を定め、成長に枷を設けるに同義じゃ。あの人はすごい!それを超えてもっとすごいやつに自分はなってやるんだ!と思うほうが何倍も伸びる。ライバル視というやつじゃな。人というのは自分を核に他人を吸収して育つものなのじゃよ。ってね。」
少女に自分の経験を伝えたモナドは急に足を大きく広げて両手を合わせ、「ガントレット・武装」と唱え夜空へ突き上げながら叫んだ。
「ん〜〜〜〜よいしょ!テトラポット!」
唐突にとったポーズのままモナドの全身は岩と化した。
少女が自分の叫びを飲み込み、さらに自分の意見を伝えてくれた青年に呆然としていると、唐突に奇行ともとれるギャグ?が叩き込きこまれた。
冷たくあしらうつもりであったが、状況的な面白さがあったのか、はたまた溜め込んだことを吐き出してホッとしたのか。
少女はクスリと笑みを零した。
テトラポット化を解いた青年は自分を見てうんうんと満足したように頷き、笑った。
そして言葉を紡ぐ。
「そっちの方が絶対にいい。笑っている方が君は何百倍も素敵だ。それだけは俺が保証しよう。まぁ、俺の保証は何の役にも立たないんだけどね。」
暗くて冷たい自分に戻ろうとした。しかし、1度笑ってしまえば完全な絶望には戻れない。なら、自分を素敵だと言ってくれたこの青年の前で笑い尽くしてやろう。困惑するまで笑い尽くしてやろう。と少女は思った
やけくそが裏返った。
「あーっはっはっははははははは!て、てと、、テトラポットって!」
ケラケラと笑いだしたエメラルドのような少女を見て、モナドは内心ガッツポーズを決める。(話を聞いたあとは笑顔にすべし!流石ばあちゃんの教え!)
落ち着きを取り戻した2人は会話を再開する。
「あなた、名前はなんて言うの?」
目に金色の光を取り戻した少女が問い、青年は素直に答える
「モナド・ニューフィスト。君は?」
「ナルーシャ・ソラマ。」
ナルーシャと名乗った少女は揚々と答える。
「ナルーシャさんは学園を眺めてたけどもしかして学園の生徒なの?」
モナドはずっと気になっていたことを聞いた。
「、、、違う。私は明日入学試験を受けるよ。今そう決めた。いや、踏み出せたんだ。後、さんはいらない。ナルでいいよ。」
ナルーシャは決意のこもった回答を返した。
「そうなんだ。実は俺も明日なんだよね。お互い、全力を尽くそう!」
そう言ってモナドはナルーシャに拳を突き出す。
ナルーシャは突き出された拳にコツンと自らの拳を合わせ、煌びやかな笑顔で返事をした。
その後ひったくり犯を警察へ引渡し、2人は別々に帰る。
モナドと別れたあと、ナルーシャは夜の街にポツリと呟いた。
「憧れを越える。か。」
そして過去を振り払うように頬をペチンと叩き、明日への覚悟を固めるのだった。
その後、帰ってからベッドでモナドから言われたことや自分のテンションの差を思い返して悶絶するのは別のお話。
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翌日 量素特化学園ミュトスにて
「これから、入学試験を始める!」
学園長によってゴングが鳴らされた。
どうも、試験編を書こうとしたら前日譚に筆が乗ってしまい、3話にまわした男、外街不義です。
次回こそは!きちんと試験会場します。たぶん。
ナルーシャちゃんとモナドくんの試験は果たしてどうなるのか。次回も読んでくださるとありがたいです。




