ザイラス決戦 後編
ガキィィンッ!
火花が散った。
衝撃が石畳を割り、炎が揺れる。
だが、痛みは来なかった。
エルディアスの頬を、冷たい風が撫でる。
目の前で、巨斧が止まっていた。
ザイラスの腕が震えている。
鋼と鋼が噛み合い、わずかに軋む。
(……何だ……?)
視界の端に、何かが見える。
白い鎧。
百合の花の紋章。
見慣れた兜。
「……ヴェイル……!」
エルディアスが掠れた声で呟く。
ヴェイルが立っていた。
軍刀でザイラスの巨斧を受け止めている。
白い鎧が、炎の光を受けて輝く。
百合の花の紋章が、胸に刻まれている。
「戻って……きたのか……」
エルディアスの声が震える。
「はい」
ヴェイルが短く答える。
軍刀を押し返す。
ザイラスの巨斧が弾かれる。
ガキィンッ!
「……クソッ」
ザイラスが後退する。
ズシン――
体が右へ傾く。
左腰から血が流れ続けている。
ヴェイルはエルディアスを見下ろす。
兜の奥の瞳が、優しい。
「一人にはできません」
「……命令違反だぞ」
エルディアスが低く言う。
「承知の上です」
ヴェイルが剣を構える。
「ですが――」
ヴェイルの声が強くなる。
「あなたの傷を、見抜いていました」
エルディアスは息を呑む。
「……気づいていたのか」
「はい」
ヴェイルが頷く。
「動きに乱れはなかった。だが、呼吸が浅かった」
「鎧の隙間から、血が滲んでいた」
「そして――」
ヴェイルが前を向く。
「あなたが、一人で立ち向かおうとした時」
「確信しました」
エルディアスは何も言えなかった。
ただ、ヴェイルを見上げる。
(この娘は……)
(私を……見ていたのか……)
「それに」
ヴェイルが続ける。
「受け止められると、分かっていました」
「……何?」
「リリエンガルデが削った傷があります」
ヴェイルの声に、確信が滲む。
「みんなで負わせた傷が、確かに効いている」
「だから――」
ヴェイルが剣を握り直す。
「私でも、受け止められる」
その言葉に、エルディアスは息を呑む。
(そうか……)
(リリエンガルデの成果が……)
エルディアスは剣を拾い上げる。
ズシン――
立ち上がる。
血が口から溢れる。
だが――
立った。
「……ならば」
エルディアスが剣を構える。
「共に戦おう」
「はい」
ヴェイルが頷く。
二人が、並んで立つ。
傷だらけの老将と。
命令を違反した騎士と。
白い鎧と、血に濡れた鎧と。
ザイラスが巨斧を構える。
体を右へ傾けながら。
呼吸が荒い。
ゴホッ、ゴホッ――
血の泡が唇に弾ける。
「……二人か」
低く呟く。
「まあいい。まとめて斬り潰す」
「できるか?」
エルディアスが低く笑う。
「その傷で」
「……舐めるな」
ザイラスが一歩、前へ出る。
ズシン――
左脚が引きずられる。
だが、止まらない。
「来い」
エルディアスとヴェイルが、同時に駆け出した。
ダダッ、ダダッ!
左右から。
息がぴったりと合っている。
「右!」
エルディアスが叫ぶ。
「了解!」
ヴェイルが応える。
ヴェイルが右側へ回り込む。
シュッ――
エルディアスは左側から。
ダッ!
ザイラスの巨斧が振るわれる。
ブォンッ!
エルディアスへ。
だが――
エルディアスは盾で受け流す。
ガシュッ!
斜めに構えた盾が、巨斧を逸らす。
その瞬間――
ヴェイルが踏み込む。
「はあっ!」
軍刀が閃く。
ザイラスの左腰を狙う。
傷口へ。
ザシュッ!
「ぐっ……!」
ザイラスがよろめく。
体が右へ傾く。
エルディアスが追撃する。
「おおっ!」
大剣が唸りを上げる。
ザイラスの右肩を狙う。
ザシュッ!
鎧が裂ける。
血が飛ぶ。
「がっ……!」
ザイラスが後退する。
ズシン――
だが――
二人は止まらない。
「左!」
ヴェイルが叫ぶ。
「ああ!」
エルディアスが応える。
エルディアスが左側へ回る。
ヴェイルは右側から。
挟み撃ち。
完璧な連携。
言葉は少ない。
だが――
動きが語っている。
互いの呼吸が、読めている。
「はあっ!」
ヴェイルの軍刀が閃く。
「おおっ!」
エルディアスの大剣が唸る。
ザシュッ、ザシュッ!
二つの刃が、ザイラスを削る。
血が飛び散る。
ザイラスは防ぐのに精一杯だ。
体が傾いている。
左腰から血が流れ続けている。
バランスが取れない。
「くそっ……くそっ……!」
ザイラスが呻く。
「この……ガキどもが……!」
巨斧を振り回す。
ブォォンッ!
だが――
二人は躱す。
ザザッ、ザザッ!
息を合わせて。
そして――
再び踏み込む。
ダダッ、ダダッ!
「今だ!」
エルディアスが叫ぶ。
「はい!」
ヴェイルが応える。
二人の剣が、同時にザイラスを捉える。
ザシュッ!
ザシュッ!
交差する刃。
ザイラスの体が、大きく揺れる。
「ぐああっ……!」
ザイラスが膝をつく。
ドサッ――
巨斧が地面に落ちる。
ガランッ……
呼吸が荒い。
ゴホッ、ゴホッ――
血が口から溢れる。
「……くそ……」
ザイラスが呻く。
「こんな……こんなところで……」
その手が、腰の袋に伸びる。
何かを取り出す。
小さな瓶。
中に、赤い液体。
「……っ」
エルディアスの顔が歪む。
「まさか……!」
「ザイラス、それは……!」
だが――
ザイラスは瓶の蓋を開ける。
そして――
一気に飲み干した。
ゴクゴクゴクッ――
「……ハハハ……」
低く笑う。
「強人薬……か」
エルディアスが呻く。
「馬鹿な……あれは禁じられた……」
「禁じられた?」
ザイラスが笑う。
「知ったことか……!」
その体が、震え始める。
ビクンッ、ビクンッ――
筋肉が膨れ上がる。
血管が浮き出る。
目が、赤く染まる。
「うおおおおおっ……!」
咆哮が響く。
獣のような叫び。
ザイラスの体が、一回り大きくなる。
傷口から血が流れているのに。
まるで、痛みを感じていないかのように。
立ち上がる。
ズシン――
その姿は、もはや人ではなかった。
バーサーカー。
狂戦士。
「……くそっ」
エルディアスが剣を構える。
「ヴェイル、気をつけろ」
「はい」
ヴェイルも剣を構える。
「痛みを感じない。理性もない」
エルディアスが続ける。
「ただ、殺すためだけに動く」
「了解しました」
ヴェイルが頷く。
ザイラスが――いや、化け物が――
巨斧を拾い上げる。
ガシッ――
そして――
雄叫びを上げる。
「うおおおおおっ!」
ザイラスが巨斧を振り上げる。
ブォォォンッ!
振り下ろされる。
エルディアスとヴェイルが、左右に散る。
ザザッ、ザザッ!
ズドォンッ!
巨斧が石畳を砕く。
「今だ!」
エルディアスが叫ぶ。
二人が同時に踏み込む。
ダダッ、ダダッ!
ザイラスの巨斧を両側から挟む。
「はあっ!」
ヴェイルの軍刀が閃く。
「おおっ!」
エルディアスの大剣が唸る。
ガキィィンッ!
ガギィィンッ!
二つの刃が、巨斧の柄を叩く。
同じ場所を。
何度も。
ガキン、ガキン、ガキィンッ!
柄が軋む。
ミシミシミシッ――
「もう一度!」
エルディアスが叫ぶ。
「はい!」
ヴェイルが応える。
二人が、同時に全力で叩く。
ガギィィンッ!
ドガァンッ!
巨斧が、ザイラスの手から弾き飛ばされた。
ブンッ――
宙を舞う。
そして――
ズガァンッ!
石畳に突き刺さる。
刃が深く、地面に食い込む。
柄が、夜空に向かって立っている。
「……っ」
ザイラスは一瞬、動きを止める。
だが――
武器を失っても、止まらない。
「うおおおおおっ!」
咆哮を上げる。
両手を広げ、突進してくる。
ドドドドドッ!
素手で。
理性を失った獣のように。
「足だ!」
エルディアスが叫ぶ。
「足を狙え!」
「了解!」
ヴェイルが応える。
二人が散る。
左右から。
ザイラスはエルディアスへ突進する。
「おおおおっ!」
だが――
エルディアスは剣を低く構える。
ザイラスの右足を狙う。
「はあっ!」
ザシュッ!
大剣が右足を切り裂く。
血が飛ぶ。
だが、ザイラスは止まらない。
痛みを感じていない。
ヴェイルが左側から斬りかかる。
「はあっ!」
ザシュッ!
軍刀が左足を切る。
血が噴き出す。
「もう一度!」
エルディアスが叫ぶ。
二人が再び足を狙う。
ザシュッ、ザシュッ!
右足。
左足。
何度も、何度も。
血が流れ続ける。
それでも、ザイラスは止まらない。
「うおおおおっ!」
エルディアスへ手を伸ばす。
だが――
その動きが、わずかに鈍る。
足の傷が、効いている。
「今だ!」
エルディアスが踏み込む。
ダッ!
大剣が閃く。
ザイラスの右足の腱を狙う。
「おおおおっ!」
ザクッ!
刃が深く食い込む。
腱を切る。
ブチッ――
「――っ!」
ザイラスの体が、大きく揺れる。
バランスを崩す。
右足が、力を失う。
「うおお……っ」
前のめりに倒れる。
ドサァッ――
その先に――
地面に突き刺さった巨斧。
ザイラスの体が、斧へ向かって倒れ込む。
ズガァンッ!
刃が、首に突き刺さる。
ザイラス自身の体重で。
深く、深く。
ブシャァァッ!
血が噴き出す。
「……っ」
エルディアスとヴェイルは、息を呑む。
静寂。
ザイラスは動かない。
首に斧が刺さったまま。
血が流れ続けている。
「……終わった……か……」
エルディアスが呟く。
剣を下ろす。
ヴェイルも剣を下ろす。
だが――
その時。
ザイラスの指が、動いた。
ピクッ――
「……っ!」
二人が身構える。
ザイラスが――
立ち上がった。
ズシン――
首に斧が刺さったまま。
血が噴き出し続けている。
だが――
立っている。
「……嘘だろ……」
エルディアスが呟く。
ザイラスは首の斧など、気にもとめない。
痛みを感じていない。
死を理解していない。
ただ――
殺すために。
「うおおおおおっ!」
咆哮を上げる。
口から、血が溢れる。
首の傷から、血が滝のように流れる。
だが――
突進してくる。
ドドドドドッ!
二人へ。
「ヴェイル!」
エルディアスが叫ぶ。
「はい!」
ヴェイルが応える。
二人は、互いを見る。
言葉はない。
だが――
分かっている。
何をすべきか。
ザイラスが迫る。
あと数歩。
「今だ!」
二人が、同時に動いた。
左右へ。
ザザッ、ザザッ!
ザイラスの突進を躱す。
ザイラスは、二人の間を通り過ぎる。
その瞬間――
エルディアスとヴェイルが、振り返る。
剣を振り上げる。
ザイラスの首に刺さっている斧へ。
柄へ。
「おおおおおっ!」
「はああああっ!」
二つの声が重なる。
二つの剣が、同時に叩き込まれる。
ドガァァンッ!
ドガァァンッ!
強烈な一撃。
全力の一撃。
斧の柄が、首に深く押し込まれる。
ズガァッ!
刃が、首を引き裂く。
肉が裂ける。
骨が砕ける。
ブシャァァァッ!
血が、夜空に舞い上がる。
ザイラスの首が――
斬り落とされた。
ゴトッ――
頭が、石畳に転がる。
だが――
体は、まだ動いている。
一歩。
ズシン――
二歩。
ズシン――
三歩。
ズシン――
そして――
ドサァッ――
巨体が、地に倒れた。
動かない。
もう、動かない。
静寂。
炎の音だけが、夜に響く。
エルディアスとヴェイルは、剣を下ろす。
二人とも、荒い息を吐いている。
血と煤に塗れている。
だが――
立っている。
「……終わった」
エルディアスが呟く。
「……本当に、終わった」
ヴェイルも呟く。
二人は、ザイラスの亡骸を見る。
頭を失った巨体。
石畳に広がる血の海。
長い、長い戦いが。
ようやく、終わった。
エルディアスの膝が、ガクリと折れる。
「エルディアス様……!」
ヴェイルが駆け寄る。
エルディアスを支える。
「大丈夫ですか……!」
「……ああ」
エルディアスが小さく笑う。
「お前が……いてくれたから、な」
その言葉に、ヴェイルは何も言えなかった。
ただ、エルディアスを支える。
血に濡れた鎧が、重い。
白い鎧も、血に染まっている。
「……命令違反は、後で罰する」
エルディアスが低く言う。
「……はい」
ヴェイルが頷く。
「だが」
エルディアスが続ける。
「よく、戻ってきてくれた」
その言葉に、ヴェイルの兜の奥で、涙が滲む。
「……ありがとうございます」
掠れた声。
エルディアスは、ヴェイルの肩に手を置く。
「お前は、良い騎士だ」
「……っ」
ヴェイルは、涙をこらえる。
だが――
涙が、頬を伝う。
兜の下で。
誰にも見えないところで。
静かに、涙が流れた。
夜明けの光が、二人を照らす。
白い鎧が、朝日を受けて輝く。
百合の花の紋章が、優しく光る。
長い戦いが、終わった。
「行くぞ、ヴェイル」
エルディアスが立ち上がる。
ヴェイルに支えられながら。
「街の者たちを、助けに行く」
「はい」
ヴェイルが頷く。
二人は、ゆっくりと歩き出す。
ザイラスの亡骸を残して。
炎の中へ。
まだ戦いは終わっていない。
街を守る戦いが、まだ残っている。
足音が、夜に響く。
ズシン、ズシン――
重い足取り。
だが、止まらない。
炎が揺れる。
煙が立ち上る。
その先に――
リリエンガルデの姿が見えた。
白い鎧が、十人。
百合の花の紋章が、炎に照らされて輝く。
「エルディアス様……!」
サヤカが叫ぶ。
「ヴェイル……!」
マイが駆け寄る。
十人が、血を流しながらも立っている。
街の人々を守りながら。
「みんな……」
ヴェイルが呟く。
「無事だったか……」
「当たり前だ」
サヤカが笑う。
豪快に。
「私らは、リリエンガルデだからな」
「そうや」
スズカが短槍を握る。
「簡単には倒れへん」
エルディアスは、十人を見渡す。
傷だらけで。
疲れ果てて。
だが――
誰一人、欠けていない。
白い鎧が、十一人。
百合の花の紋章が、十一。
「……よくやった」
エルディアスが低く言う。
「お前たちの戦いが、ザイラスを倒した」
その言葉に、全員が顔を上げる。
「エルディアス様……」
ヴェイルが呟く。
「お前たちが負わせた傷が、決め手になった」
エルディアスが続ける。
「誇れ。リリエンガルデの連携が、あの化け物を倒した」
全員が、息を呑む。
そして――
笑顔が広がる。
「やった……!」
アンリが叫ぶ。
「私たちが……!」
「倒したんや……!」
スズカが跳ねる。
「みんなで……!」
レイが笑う。
銀髪が揺れる。
「よくやったわね」
ヒトミが微笑む。
包帯の下から。
「さすがですわ」
セイカが弓を下ろす。
「みんな、すごい……」
サオが涙を浮かべる。
「最高だ……!」
サヤカが槍を掲げる。
「道はこじ開けた……!」
サキが笑う。
「計算通りです」
マイが静かに言う。
だが、その目は笑っていた。
ヴェイルは、みんなを見る。
傷だらけで。
血を流して。
だが――
笑っている。
全員が、笑っている。
(私たちは……やったんだ……)
ヴェイルの胸に、温かいものが広がる。
「さあ」
エルディアスが声を上げる。
「まだ戦いは終わっていない」
全員が顔を上げる。
「街を守り抜け。最後まで」
「了解!」
十一人の声が、夜に響いた。
リリエンガルデ十騎と。
エルディアス伯と。
彼らは、再び炎の中へ駆け出した。
ダダダダダダダダダダッ!
白い鎧が、夜を駆ける。
百合の花の紋章が、炎に照らされて輝く。
街を守るために。
人々を救うために。
その背中を、炎が照らす。
夜が、彼らを包む。
だが――
彼らは、止まらない。
戦い続ける。
朝が来るまで。
街が救われるまで。
炎が消えるまで。
彼らの戦いは、続く。
---
数時間後。
ようやく、炎が鎮火し始めた。
街の者たちが、安全な場所へ避難した。
リリエンガルデは、血と煤に塗れながらも、全員無事だった。
エルディアスは、治療を受けながらも、指示を出し続けた。
ヴェイルは、エルディアスの傍らに立っている。
白い鎧は、血と煤で汚れている。
だが――
百合の花の紋章は、まだ輝いている。
「……よくやった」
エルディアスが呟く。
「お前たちがいなければ、この街は失われていた」
「いえ」
ヴェイルが首を振る。
「エルディアス様がいたから、です」
「……そうか」
エルディアスが小さく笑う。
二人は、夜明けの空を見上げる。
東の空が、わずかに明るくなり始めている。
長い夜が、終わろうとしていた。
「ヴェイル」
「はい」
「命令違反の罰は、後日言い渡す」
「……はい」
「だが」
エルディアスが続ける。
「感謝している」
その言葉に、ヴェイルは何も言えなかった。
ただ、頷く。
兜の奥で、涙が滲む。
「……こちらこそ」
掠れた声。
エルディアスは、ヴェイルの肩に手を置く。
「お前は、良い騎士だ」
「……っ」
ヴェイルは、涙をこらえる。
だが――
涙が、頬を伝う。
兜の下で。
誰にも見えないところで。
静かに、涙が流れた。
夜明けの光が、二人を照らす。
白い鎧が、朝日を受けて輝く。
百合の花の紋章が、優しく光る。
長い戦いが、終わった。
新しい朝が、始まろうとしていた。
---
街の広場。
リリエンガルデ十騎が、集まっている。
全員、傷だらけだ。
白い鎧は、血と煤で汚れている。
だが――
全員、笑っている。
「やったな」
サヤカが言う。
「ああ」
サキが頷く。
「やったで」
スズカが笑う。
「みんなで」
レイが微笑む。
「ボクたち、すごい……!」
アンリが跳ねる。
「計算通りです」
マイが静かに言う。
「ふふ……」
ヒトミが笑う。
「みんな、無事でよかった……」
サオが涙を浮かべる。
「さすがですわ」
セイカが優雅に微笑む。
ヴェイルは、みんなを見渡す。
傷だらけで。
血を流して。
だが――
誰一人、欠けていない。
白い鎧が、十人。
百合の花の紋章が、十。
(私たちは……守り抜いた……)
胸に、温かいものが広がる。
「みんな」
ヴェイルが声を上げる。
全員が顔を上げる。
「よくやった」
その言葉に、全員が笑顔になる。
「隊長もな」
サヤカが笑う。
「命令違反したんやろ?」
スズカがニヤリと笑う。
「……ああ」
ヴェイルが頷く。
「罰は、後日だ」
「ははは!」
サヤカが笑う。
「らしいな、ヴェイル」
みんなが笑う。
その笑い声が、朝の空に響く。
長い夜が、終わった。
新しい朝が、始まった。
リリエンガルデは、また立ち上がる。
傷を癒し。
力を取り戻し。
そして――
再び、戦場へ。
人々を守るために。
白い鎧を纏い。
百合の花の紋章を胸に。
彼女たちの戦いは、これからも続く。




