7 聞き込み
「こんにちは、子猫ちゃん。何か、教室うるさくない?」
おっとびっくり。
隣のクラスのロマンスが、後ろのドアから私に話しかけてきた。
ルーズっぽいのにまったく乱れない、その髪型すごいな。
ロマンスは苦笑いした。
「ノーリアクション。俺のこと、忘れちゃった?」
「いえ、すみません。おぼえてます。びっくりしてます。何かご用ですか?」
私は慌てて尋ねた。
横からガイドが言った。
「自分のクラスに帰れよ」
また、びっくりした。
ガイドは冷たい顔をしていて、口調もきつかった。
アイスブルーの目が本当に冷たい。
私の無愛想なんて、かわいいもんではないか。
ロマンスはいたずらっぽく笑って言った。
「すれ違った子猫ちゃんが、あんまりきれいな水色の髪をしていたから会いに来た。子猫ちゃん、ガイドなんか信用するな。そいつが親切なのは、案内をする最初だけだ。がっかりするぞ」
髪。
まさか、向こうもこちらの髪に注目していたとは。
いや、大事なのはそこじゃない。
昨日、失敗したので、今日は大事な点を間違わないように話そうと私は意気込んだ。
「最初だけ親切なのは普通のことです。みんなそうです。大丈夫です。そういうものです」
ロマンスが目を見張った。
プーッと隣でふき出す気配を感じた。
どうしよう。
若干やらかした雰囲気だ。
血の気が引いた。
ガイドが上機嫌に言った。
「帰れ、ロマンス。子猫ちゃんの名前を誰一人おぼえていないお前に、ものを言う資格はない」
「帰るな、ロマンス。依頼だ」
ガイドの言葉を遮ったのはシキだった。
シキは机に腰掛けて長い脚を軽くクロスし、腕組みをしたまま言った。
「たらしこめ。子猫ちゃんたちに聞き込みだ」
クラスの女の子たちから、キャーという歓声が上がった。
うれしそうだ。
いいぞ…!
私の失態は黄色い歓声にまぎれて消えた。
ガイドはロマンスを見ながら、チッと舌打ちをしたようだった。
そこからのロマンスはすごかった。
「みんな、おいで」
ロマンスの甘い声に誘われるように、10人くらいの女の子たちがフラフラと教室の後ろにやってきた。
ロマンスが微笑んだ。
キャーッと歓声が上がり、あ、一人腰砕け。
ロマンスは座り込んだその子のところへ行って手をとった。
キャーッと周囲の女の子から悲鳴が上がった。
「立てるかい?」
ロマンスに聞かれ、座り込んでいる女の子はプルプルと首を横に振った。
ロマンスはフッと笑うと、自分も座った。
すると、周りの女の子もみんな座った。
「何があったか、俺に教えてくれる? それから、この件について、役に立ちそうな情報があったら、それも俺だけに教えて」
俺だけって。
みんな見てるけど。
分かってます。
そういう問題じゃないのだ。
女の子たちは口々に、私とロマンスだけの秘密、を話し出した。
「サツキのステディリングが盗まれたの」
「イケてないピンクのポーチに入れて、机の中に隠してたけど、バレバレでね」
「あれじゃ、盗まれても仕方ないよね」
「そんな言い方、ひどくない?」
「何あんた、ロマンスの前だからって、いい子ぶる気?」
女の子同士、やや険悪ムードに。
そこでロマンスが一言。
「正直な女の子、好きだよ」
女の子たちがそろって正直になった。
「サツキの自慢がウザいから、盗まれていい気味とか思ってて、黙ってるつもりだったけど、実は、あのイケてないポーチ、猫がくわえて走っていくの見た」
「あのポーチ、サツキのかー。その猫、私も見たよ。ワルサ団でしょ。裏山、洞窟方向」
「あそこにキラキラしたもん貯め込むもんね、あいつら。あんたさ、猫がポーチ持ってたら、取り上げなよ、それ」
「猫に手かじられたら嫌じゃん。ところで、あのポーチ、かわいくない? 私好きだよ、結構」
「私も。ポーチじゃなくて、サツキの自慢がヤバかったよね、今回」
「てかさ、あのポーチって防水? 裏山の洞窟って、かなりジメジメしてんじゃん」
女の子たちの話が別の方向に行きそうになった時、ロマンスがパンパンと手を打った。
女の子たちがハッとして黙った。
ロマンスがささやいた。
「みんな、ありがとう」
それを聞いて、泣き出した女の子がいる。
ロマンスがその子の頬の涙を人差し指ですくい上げた。
キャーッという歓声が上がった。
ロマンスは少し厚い唇にその人差し指を当てて言った。
「今日のことは忘れない。みんな愛している」
キャーッというひと際大きな悲鳴が女の子たちから上がった。
ロマンスはチラッとシキを見た。
シキが頷き返すと、ロマンスは立ち上がり、ラストスマイルのサービスをして教室から出て行った。
女の子たちは、いやー満足、やっぱロマンス最高、やめらんないね、など口々に言い合いながら、各々の席に戻って行った。
批判交じりの女の子のおしゃべりを聞いていたサツキ本人は、さすがに少し怒った顔をしていた。
隣に立つミクが気まずそうであった。




