⒉放送部
あのあと無事、双原を殴ることに成功した俺は現在、放送室に来ていた。
理由は......わからない、としか言いようがない。気がついたら誰かに手を引かれて、廊下を歩きここにきた。知り合いではなかったのは確かなため、こいつに関して男だということしかわからない。
「なぁ、何で俺を放送室に?」
「......。」
「俺ら知り合いだっけ」
「......。」
「あ!あんたここの部員?勧誘のつもりか」
「......。」
な ん な ん だ。え、これって俺が悪いのか?つかこいつホント誰だよ。話す気ないなら俺を巻き込むな。
「ちょ、先輩!立ちながら寝るの止めてくださいよ。先輩?......って、うわ!アンタ誰?」
放送室の奥の扉ーー恐らくその先の部屋が防音室だと思われるーーから慌てて出てきたのは、猫っ毛の少年。
多分一年生であろう真新しい制服をだらしなく着こなしている。......校則違反だよな、これ。つか、こいつ寝てたの。
「俺が聞きたいんだが。この男に急に連れて来られたんだよ。こいつ誰?」
「え......あ!もしかしてアンタ、アリスっすか」
誰だよそれと思ったが、HR中に双原が訳のわからない説明をしていたのを思い出す。そういやアリスが現れたとか言ってたっけ。やっぱあれ俺のことなのか。
「あ、オレ1-Aの小宮環っていいます。その人は2-Aの双原修夜先輩っす。」
「......2-A、有栖川潤だ。」
双原ってことは、こいつがアレの片割れか。あれ、2-Aにこんなやついたっけ。お前いい加減手を離せよ。......寝てたら無理か。
「あれ?アリスじゃん。どったのこんなところで。もしかして入部希望?」
双原の片割れに手を掴まれたまま(しかも寝てる)初対面の後輩と話すという地味に気まずい状況の中、急に俺の後ろから双原が顔を覗かせた。
「お前の片割れに連れて来られたんだ。こいつさっきから動かないんだが大丈夫かよ」
「え。兄ちゃんまた寝てんの?おーい、修夜起きろー」
「..................おはよう」
あ、起きた。声そっくりーとか思ってると、双原兄はのっそりと動き出し、大儀そうに奥の扉の先に消えていった。えぇ............。
「ごめんごめん。兄ちゃんちょっと変わってるからさ。」
「ちょっとどころじゃないと思うぞ、双原弟」
「え、俺の呼び方双原弟なの?!長すぎ。普通に名前で呼んでよ」
「嫌だ。お前らと仲良くなってはいけないと、俺の本能が切実に訴えている」
「普通に酷い!!!」
ギャーギャーうるさい双原弟は無視して、俺は所在なさげにしている小宮に話しかけることにした。
「なぁ、奥の部屋って部外者立ち入り禁止?双原兄に俺をここに連れてきた理由を聞きたいんだが。」
「あ、全然大丈夫っす。よかったらオレの放送も聞いてってくださいよ」
「放送?」
「オレら一人ずつコーナー持ってるんすよ。で、今日の昼はオレの『チェシャ猫さんの謎々コーナー』の日なんです。」
「へぇ。まぁ今日の昼は用事ないけど。双原弟、見学しても構わないか?」
「いいよー。あ、ミャー君ちょっと」
「なんですか?先輩」
簡単に見学を了承した双原弟は、小宮を手招きすると、角の方で縮こまって密話を始めた。落ち着きのない奴らだ。
「了解っすダム先輩!そうと決まれば早く行きましょ」
「おい、落ち着け押すな小宮!」
「アリス先輩ごあんなーい」
そして俺は、無駄にハイテンションな後輩に押されて放送室に足を踏み入れた。
「ただいまの時刻は、12時35分です。これから、お昼の校内放送を始めます。本日火曜日は、皆さんお待ちかね。チェシャ猫さんの謎々コーナー!」
軽快な音楽をBGMに、この学校では恒例らしいナゾナゾとやらが始まった。
ナゾナゾなんて小学校の給食で流れていた記憶しかないから、まさか高校生にもなって聞くことになるとは思わなかった。アリスといい、この学校の生徒はサムいことを好むのだろうか。
「パンはパンでも、食べられないパンはな〜んだ」
しかも恐ろしく古い。もはや聞いたことがなければおかしいレベルの問題を出して楽しいのだろうか。理解しがたい。
「最後にお知らせです。なんと、2年A組にアリスが転入してきました。」
全校放送で何を知らせてるんだこいつは。たかが一生徒の転校をわざわざ知らせる奴があるか。
「そして、この放送部に入部してくれるそうです」
「何言ってんのお前」
続けられたまさかの一言に、思わず声を出してしまう。放送中なのを思い出してあわてて声をつぐむが、もう遅い。確実に声が入ってしまっただろう。
「今の声聞こえました?彼女がアリスです。だいぶ格好いいアリスだけど、歴とした女の子ですよ。では、今後のアリスの活躍に乞うご期待!以上で、昼の校内放送を終わります。火曜担当、小宮環でした。」
唖然としている間に放送は終わってしまった。暴走した後輩を止めなくて良かったのかと双原弟の方を睨むと、爽やかに笑いながら親指を立てられた。……こいつ、謀ってやがったな。
こうして、半ば騙されるような形で俺は、放送部に入ることを確定されたのである。




