表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冴えない兄が妹の友達とシていることを、妹は知らない  作者: 川坂藍斗
柑奈ちゃん、俺なにか悪いことした?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

増えていく秘密

 夏希ちゃんが俺に恋をしている——柑奈ちゃんにそう断言されて、俺は何も返せなかった。


 結局、あの後は三人とも黙ったまま、カラオケ屋を出た。

 夏希ちゃんが何か言いたそうにしていたけれど、柑奈ちゃんの手前、俺も夏希ちゃんも、それ以上は何も言えなかった。


 吉祥寺の改札を通り抜けた先で、二人の背中が見えた。

 柑奈ちゃんが夏希ちゃんの手をぎゅっと握っている。夏希ちゃんは抵抗せず、されるがままに歩いていた。


 その後ろ姿は、俺の入る隙間なんてどこにもないように見えた。

 その繋がれた手と手を、手刀で上から下にぶった斬るなんてことは、到底できない。物理的にも精神的にも。


 夏希ちゃんは、本当に俺に恋をしているのか?

 柑奈ちゃんは、あの目で俺に何を問いかけたのか?

 夏希を傷つけたら許さない、という警告だったのか。

 それとも、夏希を私から奪わないでくれ、という懇願だったのか。

 あるいは、お前なんかに夏希は渡さない、という宣戦布告だったのか。


 どれなのかは分からない。全部だったのかもしれない。

 答えは出ないまま、俺は反対方向のホームへ向かった。





 その日の深夜、夏希ちゃんからメッセージが来ていた。


 「柑奈のご機嫌を取らないといけないから、しばらくは会えないと思う」とのこと。

 まあ、そうだよな。あれだけ怒らせたんだ。夏希ちゃんにとって柑奈ちゃんは小学校からの付き合いなんだし、俺より優先するのは当然だ。


 あと、「なるべく早くお兄さんとまた会えるように頑張る、来週中にまた会いたい」とのこと。すごくありがたいんだけど、こう積極的にされると、なんかムズムズしてくるな。


 最後に、『寂しいから、たまに電話してもいいですか?』と添えられていた。

 断るわけないだろと思いつつ、承諾した。やっぱりムズムズはするけど。

 

 でも、俺も少し頭を冷やした方がいいかもしれない。

 今日一日で、色々なことが起きすぎた。明美のこともある。妹の友達と密会して、その幼馴染に見つかって、詰問されて。

 冷静に考えたら、俺は何をやってるんだ。

 しばらくは、大人しく過ごそう。





 その翌々日のこと。


 時刻は、午後七時になろうとしていた。


 なんと今日は、俺と明美の幼馴染が久しぶりに家に来るらしい。

 天野あまの妃夜ひよ。懐かしい響きだ。

 小学生以来の再会。明美と妃夜は同い年なので、高校一年生だ。


 そろそろ着く時間だそうなので、俺はリビングで待っていた。


「ただいまー」


 玄関から明美の声が聞こえた。

 すると、もう一人の女の子が入ってきた。


「おにいー!」


 そう叫んだ声が、ドタバタとした足音とともに、リビングに近づいてきた。

 ドアをガチャッと開けると、とても背の高い女の子が入ってきた。


「え、本当に妃夜ちゃん?」

「そだよ、十年ぶりぐらいかなあ?」

「うわー、そうだっけ。大きくなったねえ」

「えっへん。妃夜と、おにいの背、あんまり変わんないね!」


 彼女の目線は、ほとんど俺と同じくらいだった。俺より少し低いだけ。


「そっか、でも、妃夜ちゃんは妃夜ちゃんだよ」

「えへへ。あのときみたいで嬉しい」


 「あのとき」というのは、俺が小学生、妃夜が幼稚園から小学校低学年までのころの話だ。

 妃夜とは当時お隣さん同士で、俺も彼女も両親が家にほぼいなかったので、幼い頃は一緒に過ごしていた。

 俺が親代わりみたいなものだった。


「妃夜ちゃん、日本に帰ってきてたんだね。あれから、ずっとイタリアにいたんだよね」

「うん! このまえ帰ってきたの! これから日本に住めるんだって!」

「そっか。それは嬉しいよ」


 彼女と話しているうちに、楽しかったあの頃がだんだんと思い出され、自己肯定感が少しだけ上がった気がした。


「また、おにいと遊べるよ!」


 無邪気な彼女は、急に抱きついてきた。

 昔はよく抱きつかれていたものだ。


 俺の脳裏に彼女の小学生のころの姿が思い浮かぶと同時に、身体のあちこちが当たって、むっちりとした弾力を感じた。

 不思議と嫌でもないし、変な気持ちにもなってこない。まあ、家族みたいなところもあるからかな。


 妃夜はイタリア人のクオーターで、イタリアの血が濃いめに残っているのか、身体も欧米仕様だ。胸には、スイカでも入ってるのかと思うほどの膨らみがある。

 服はベージュの襟付きシャツにジーンズという、イタリア感あふれるファッション、それをワイルドに着こなしている。

 金髪のボブな髪型は、当時から変わっていない。

 顔は日本人的だが、やや目鼻立ちがくっきりしており、瞳はやや青みがかった黒色だ。


 クオーターだと知らなければ、ギャルが金髪に染めてカラコンをしているように見えるだろうな。


「抱きつくなんてやめろよ、もう高校生だろ?」

「えー、関係ないじゃん」


 彼女とハグをし、当時を懐かしんでいると、リビングのドアがガチャっと開き、明美が喋りかけてきた。


「お兄ちゃん! 私、妃夜ちゃんの荷物とか整理してるから、妃夜ちゃんと話してて!」

「わかった!」


 俺の返事を聞いた明美は、バタンとドアを閉めて戻っていった。

 妃夜はしばらく家に泊まるそうなので、荷物が色々とあるんだろうな。


 明美は、俺と妃夜がハグしていることを、何も気にしていなさそうだった。まあ、小学生のころもベタベタされてたからな。


「なあ、ちょっと離れてよ」

「やだー!」


 彼女の勢いは止まらず、頬に軽くキスをされた。

 一瞬びっくりしたが、家族みたいな妃夜に対して、やはり嫌悪感などはなかった。


(あれ、子供のときはキスまではされなかったような……?)


 ああ、ヨーロッパの国って挨拶のときにキスするんだっけか。ただの挨拶ってことかな。


「あのな、ここは日本だぞ」

「えー、どういうこと? 妃夜となかよしじゃないの?」

「いや、まあ、仲良しだとは思うけど」

「よかったあ」

「でも、俺とか明美って家族みたいなもんだと思うけど、だからって、キスするもんじゃないと思うけどな」

「そんなの、わかってるよ」

「じゃあやめろよ!」

「だって、妃夜……おにいのこと好きだもん」


 俺は彼女に抱きつかれながら、目をぱちくりさせた。


 ええと、これが「恋愛的な好き」だったとしてだ。

 これは、ちょっとまずい状況なんじゃないか?

 

 まあ「家族的な好き」という場合もあるか……。


「妃夜ちゃん、それってどういう意味?」

「うーん……結婚したい、とかかな」

「ああ、小さい頃よく言ってたよな」

「そういうんじゃなくて、本当に結婚したいかも」

「なんだよ、急に。十年ぶりに会ったばかりだろ?」

「だって、日本に帰ってきて不安で。久々におにいに会ったら、あの頃の気持ちを思い出して」


「あの頃って……。今は高校生だろ?」

「おにいと結婚したいのは本当だよ? おにいは妃夜のこと、今も好き?」

「好きだよ、そりゃ」

「じゃあ、チューだってできるよね?」

「いや、俺の好きっていうのは、そういう好きじゃなくてな?」

「え? おにいと妃夜、おんなじ気持ちじゃないの? かなしいよ、そんなの……」


 長いまつ毛をふせる姿に、十年前の姿を思い出した。

 ろくに親に育ててもらえなかった妃夜は、よく俺に甘えていたのだ。


「うーん……困ったな。あと、もうちょっと静かに喋ってくれ。明美に聞かれたくないから」

「わかった。それで、おにいが本当に妃夜のこと好きなら、チューさせて」


 せつなく、さみしそうな顔をする妃夜に、昨日の明美の顔が重なって見えた。

 ああ、頭を冷やそうと思ったばかりなのに。まあ、頬までならスキンシップの範疇と言えなくもないか。過剰だと思うけど。


(……仕方ないなあ)

 

 妃夜は妃夜で、寂しいんだ。

 少しくらい、言うことを聞いてやるか。


「わかったよ。その代わり、ほっぺだけね。あと、明美にも、他の人にも内緒にすること、約束できるか?」

「うん!」

「じゃあ、指切りげんまんな」


 俺たちは小指を合わせ、小学生の頃によくした、お約束のルーティンをした。


「やっとチューできる。んちゅっ」


 愛情のこもった、可愛いキスだった。


「内緒だぞ、本当に……」


 妃夜のご機嫌を伺うため顔を見ると、頬が赤くなっていた。

 夏希ちゃんが俺に対して頬を赤めた記憶がよみがえる。


(……まさか、俺に恋を?)


 いや、俺に依存してるだけか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ