終わらない誰かの話
最近ジムに入りました。
朝活にドハマり中。
帰り道は、やけに静かだった。
さっきまでの会話も、
店のざわめきも、
全部が遠くに置いていかれたみたいだった。
隣を歩く深冬ちゃんは、何も言わない。
僕も、何も言えなかった。
ただ一つだけ、確かなことがある。
――もう、前と同じではいられない。
「お姉ちゃんからの約束を果たしたので、本題に入りますね。
私、先輩にやってほしいことがあるんです」
「ある人を、探してほしいんです」
「ある人?」
「水瀬という人を知っていますよね?」
水瀬という名前を忘れるわけがない。
夏蓮をいじめたグループの一人だからだ。
「その人、最近いなくなったんです」
「……は?」
高校に入ってからのことは知らなかったがそんなことになっていたとは。
「でもどうして君が探すんだ?
正直、僕は彼女を探すことについてあまり乗り気ではない」
「どうして探すのか、ですか?」
少しだけ考えて、深冬は言う。
「簡単ですよ」
「終わってないからです」
視線が、まっすぐ刺さる。
「お姉ちゃんも、あの人も、先輩も」
「誰も、ちゃんと終われてない」
一歩、近づいてくる。
「だから――終わらせましょう」
「それにここで何もしなかったら、あの日のお姉ちゃんの思いを踏みにじることになるのは嫌ですから」
そう言って微笑む彼女の姿は夏蓮にそっくりだ。
似ている。
見た目だけじゃない。
何かを背負ったまま、平気な顔で前に進もうとするところまで――そっくりだ。
「……終わらせる、か」
小さく呟く。
簡単に言うな、と思った。
でも同時に、そうしなければいけないとも思った。
あの日、途中で止めたままの何かが、
また動き出してしまっている。
「水瀬がいなくなったのは、いつ?」
「三日前です」
即答だった。
まるで、ずっとその質問を待っていたみたいに。
「学校にも来ていませんし、連絡もつかないそうです」
「警察は?」
「動いてません。家出扱いみたいですね」
……ありえない話じゃない。
でも、妙に引っかかる。
「手がかりは?」
「いくつかあります」
深冬ちゃんは、スマホを取り出した。
画面を操作して、こちらに見せてくる。
「これは、水瀬さんの妹さんから聞いた話です」
そこには、簡単にまとめられたメモが表示されていた。
・最近思い詰めている様子だった。
・常に何かに怯えていた。
・消える直前、常に謝っていた。
風が吹く。
さっきより、少し冷たく感じる。
「先輩」
名前を呼ばれる。
「今回は、“犯人探し”じゃないです」
一歩、距離が近づく。
「助けるか、見捨てるかです」
その言葉は、やけに重かった。
逃げ道を、完全に塞がれる。
「……ずるいな」
思わず漏れる。
「選ばせる気、最初からないだろ」
「ありますよ」
深冬ちゃんは、あっさりと言った。
「先輩は、“選べる人”なので」
その言葉に、少しだけ笑ってしまった。
買いかぶりすぎだ。
でも――
「……分かったよ」
小さく、息を吐く。
「探そう」
……今回は、逃げない
言葉にした瞬間、
心のどこかが、少しだけ軽くなった気がした。
「じゃあ、まず何をします?」
少しだけ、昔の感覚が戻ってくる。
「最後に関わった人に聞き取り調査にでも行こうか」
放課後の教室。
あの日と同じように、
何かが始まる場所。
「行こう、深冬ちゃん」
「はい、先輩」
並んで歩き出す。
もう止まらない。
これは、過去の続きだ。
そして――
今度こそ、自分で終わらせるための話だ。
アーカルム外伝で間に合うかな、ハーゼリーラ最終。




