疑惑の鍵
夏休みの終わりが近づいてきて悲しい。
生徒会室を出た僕は、廊下の窓際で足を止めた。
スマホの画面には、さっき届いた深冬ちゃんからのメッセージ。
『先輩、今どこですか?』
その文字をしばらく眺める。
事件のことを話すべきか。
別に隠すようなことでもない。
それなのに、なぜか少し迷った。
『生徒会に呼ばれてた』
とだけ送る。
すぐに既読がついた。
『何かあったんですか?』
やっぱり聞かれるよな。
僕は少し考えてから、続きを打った。
『文化祭の売上金がなくなったらしい』
送信。
数秒後。
『また事件ですか?』
思わず苦笑する。
また、か。
確かに最近は事件ばかりだ。
『まだ詳しいことは分からないけどね』
そう返すと、今度は少し間が空いた。
『先輩、一人で調べるんですか?』
「……」
そのメッセージを見て、指が止まる。
どうして深冬ちゃんは、いつもこうなんだろう。
事件のことより先に、僕のことを心配する。
『たぶん』
そう送ろうとして、やめた。
少し考えてから、
『神谷って人に話を聞きに行ってみる』
と送る。
すると、
『私も行きましょうか?』
すぐに返信が来た。
思わず画面を見つめる。
……嬉しい。
そう思った自分に、少し驚いた。
事件の調査に付き合ってくれるから。
一人で行かなくて済むから。
きっと、それだけだ。
『いや、大丈夫。まずは一人で話を聞いてみるよ』
そう返す。
『分かりました。でも、無理はしないでくださいね』
『うん』
スマホをポケットにしまう。
そして、二年B組へ向かって歩き出す。
廊下を歩きながら、さっき生徒会室で見た紙を思い出す。
『文化祭の売上金を盗んだのは、二年B組の神谷です』
たった一枚の紙。
それだけで、一人の生徒が犯人として扱われている。
僕は、こういうものが嫌いだった。
証拠もないのに、誰かを犯人だと決めつけること。
……昔の僕も、同じことをした。
だからこそ。
今回は、最初から答えを決めつけない。
二年B組の教室が見えてくる。
僕は一度だけ深呼吸して、扉を開けた。
「神谷っていう人、いる?」
教室の中の視線が、一斉に僕へ集まった。
張り紙の件はやはりクラスの中でも広まっているようだ。
「神谷に何の用事?」
怪訝な顔をした男子生徒が聞いてくる。
「借りてた本を返しに来たんだ、
もしいないなら東雲が放課後に2A教室に来てほしいって伝えてくれない?」
「わかった」
そう言い教室へと帰っていった。
「東雲ってやついる?」
放課後になり、教室に一人の男子生徒がやってきた。
「君が神谷君?」
「そうだけど、金庫の件なら俺はやってないぞ」
苛立った様子でそう話す。
色々な人から犯人扱いされ苛立っていることがわかる。
「聞きたいのはその話だけど、君を犯人だとは思っていない」
「どういうこと?」
「生徒会から依頼されてね、君の無実を証明したい」
そう話したとき彼の目に光が宿った。
「……本当に?」
「ああ。だから、文化祭の日のことを最初から教えてほしい」
神谷は少しだけ黙った。
さっきまでの苛立った表情が、ほんの少し和らぐ。
「分かった。俺が覚えてる範囲でいいなら」
「それで十分」
神谷は椅子を引き、僕の向かいに座った。
「まず、売上金を入れてた金庫の鍵だけど、文化祭が終わるまでは俺が管理してた」
「朝から?」
「いや、それが違う」
神谷は首を横に振る。
「鍵は途中から俺が持ってたけど、最初からじゃない」
「途中から?」
「ああ。午前中はクラス委員の女子が持ってた」
「誰?」
「小野寺」
名前を聞き、僕は手帳に書き込む。
「どうして神谷君に変わったの?」
「昼過ぎに交代したんだよ。小野寺が他の仕事で抜けることになったから」
「そのことは生徒会に伝えてある?」
「知らない。でも小野寺が鍵の管理表に書いとくって言ってた」
そこで一つ目の違和感。
生徒会でもらった資料には、
『金庫の鍵を管理していたのは神谷』
としか書かれていなかった。
「じゃあ、文化祭が終わった時は?」
「俺が金庫を確認した」
「その時、金は入ってた?」
神谷は少し考える。
「……分からない」
「分からない?」
「ああ。金庫を開けたんだけど、その時は中身を確認してない」
「どうして?」
「先生に呼ばれたんだよ。片付けが終わったら売上金を生徒会室に持ってこいって」
「それで?」
「金庫を閉めて、教室を出た」
「そのあと戻った?」
「戻った」
神谷は少し眉をひそめる。
「戻った時には、金庫は開いてた」
「……誰かいた?」
「いや。誰も」
「金庫の中は?」
「売上金が入ってたはずだと思って、確認した」
そこで神谷は言葉を止める。
「でも――」
「なかった?」
「ああ」
教室に、静かな沈黙が落ちる。
僕は腕を組んだ。
「つまり、神谷君が最後に金庫を確認した時には、すでに売上金がなくなっていた」
「そういうことになる」
「でも、生徒会の記録では『神谷君が最後に売上金を確認した』ことになっている」
「……それ、おかしくないか?」
「うん」
僕は頷く。
確かにおかしい。
神谷が犯人なら、わざわざ金庫を開けたままにする必要はない。
それに――。
「神谷君」
「何?」
「金庫の鍵は、ずっと君が持ってた?」
「……いや」
神谷は少し考えたあと、答えた。
「一度だけ、金庫に忘れ物をしたとかで貸した」
「.....誰に?」
「確か.....」
教室の外から足音が聞こえた。
僕たちが振り返る。
開いたままの扉の向こうに、人影が立っていた。
「……話、終わった?」
知らない女子生徒だった。
神谷の表情が固まる。
「……小野寺?」
彼女は僕を見ると、一瞬だけ目を逸らした。
そして。
「神谷君」
小さな声で言った。
「その話、もうやめたほうがいいよ」
「……なんで?」
小野寺は答えない。
ただ、僕の方を見て。
「君も、これ以上関わらないほうがいい」
そう言い残して、廊下の向こうへ走っていった。
「……なんだ、あれ」
神谷が呟く。
僕は小野寺が消えていった方向を見つめる。
事件の鍵を握っているのは、神谷じゃない。
もしかすると――。
最初から、神谷を犯人に仕立てるために誰かが動いていたのかもしれない。
私事ではありますが最近、彼女寝取られました。
内容がグロすぎて昼ドラ作れるぐらいです。




