㉝諍いと温かな夜
ジュノーから言われた事があれから頭から離れずにいた。
今は細かな瓦礫や木片などを1ヵ所に集めているのだが気が付くとその手が止まってしまう。
もう…何やってるのかしら…しっかり動かないと、と思ってはいてもつい考え込んで、また動くを繰り返していた。
「怪我はもういいの?」
突然声を掛けられて振り向くと、そこにはココさんが怪訝そうに立ってこちらを見ている。
「ココさん、ええもう大丈夫よ。ありがとう心配してくれて」
「べ、別に心配してないし…私の責任もあるから…」
「ココさんが悪いなんて事1つもないわ、悪いのはあの襲ってきた男だもの。一切責任なんて感じなくて良いのよ」
「そうは言っても、あなたが私と逆の立場だったらどうするのさ…罪悪感を全く感じない?」
「う…それは…感じるわ…。でもやはりココさんが悪いなんて思う必要はないと思う」
「……そう」
「ちょっと、何無駄話ししてるの?ちゃんと動いてよね!」
私とココさんが話しているとそこへアンリさんが話を割って入ってきた。
「話してる時間なんてないのよ、皆黙々と動いてるの。そんなにお喋りしたいなら2人で森へピクニックにでも行ってきたら?あ、でもエイルリスさんは森で暴行されたんだっけ?ひ弱な人間様は森へ行くのは怖くてもう無理かしら、プッ…」
本当にわかりやすい子だわ…でも、アンリさんの言ってる事は確かに間違っていないわね。
話したいなら休憩の時にするべきだったわ…
「そうね、ごめんなさい。すぐ作業に戻るから…」
「あんた、何?偉そうに」
ココがアンリへと言い返す。
「ちょ、ココさんっ」
私は慌てて止めるがココさんの勢いは止まらない
「村の再建を手助けしてくれてるのは有り難く思ってるけど、だからって人を馬鹿にしたり…何を言っても良いって事にはならないよ?彼女に謝りなよ」
「はっ??何なの??こっちは遠くから手伝いに来てんのよ?そんな口聞ける立場なの!?」
アンリに言い返せばこうなるとわかっていたので言わなかったが、その言葉は聞き捨てならなかった。
「アンリさん、遠くからここまで来て手助けして頂きそれについては本当に感謝していますが、ここに住む村の方達を軽視するような発言はどうかと思います。先程ココさんが仰ったように何を言っても良いという免罪符とはなりません…これからは言葉にはお気をつけ下さいね」
私がそう言えばアンリさんは顔を真っ赤にし怒りで震え出し獣のよう唸り声を発した。
更に体制を低くし今にも飛び掛かって来そうな緊迫した雰囲気を醸し出す…
しまった…ここは獣人の国なのだ。
何でも人間と接する時と同じでは危険を伴うというのに、思わず言い返してしまった自分の迂闊さにつくづく呆れる。ここでまたトラブルを起こせば迷惑をかけてしまう、どうしたら…
アンリさんがにじり寄ってきたので後ろへと後ずさる…
すると私とアンリさんの間にココさんが割り込んで来た
「自分の都合が悪くなればそうやってすぐ力で制圧しようとする…本当、虫酸が走るっ」
「なんですってぇ、あんた下等な小動物のくせに生意気なのよ!!」
驚いた…アンリの考えはあの人間達と同じなのだ。
獣人国では種族が違えどお互いをリスペクトし仲間を大切にすると聞いていたがやはり強さを誇示し差別意識を持つ者はどこにだっているのだろうか…そう考えると悲しくなる。
一触即発に空気を切り裂いたのはオリオンの一言だった
「アンリ、お前は今すぐに自分の領地へと帰れ」
ハッとしたアンリが我に返りオリオンを見る
「オリオン様!ごめ…違うの!」
「言い訳はしなくていい、早急に帰れ」
「待ってよ!違うのよ!この女…エイルリスさんが...」
「黙れっっ!!!!!」
オリオンの鋭い一声でその場がシンとなる…
「お前はこの村全体を侮辱したのだ。それでものうのうと此処へ留まるつもりか?恥を知れっ!」
「オリオン様っ、お願いです、私の話を聞いてよ!」
アンリはその美しい瞳から涙を流しオリオンへと懇願するがオリオンは聞く耳を一切持たなかった。
アンリの言った事は決して許されるものではない、だがあまりにも一方的なやり方につい口を出してしまう。
「オリオン様、アンリさんの言った事は差別的な発言でありこの村の方達への侮辱と思われても仕方のない言動でした。でもアンリさんがこの村に来て再建を助けるために尽力していたのも事実なのです。私はそれをこの目で見ております。それを踏まえて、少しだけでもお話を聞いてあげても良いのではないですか?」
その言葉にアンリさんが驚いたように振り返って私を見た。
「ただ、ココさんや村の方達が不快に感じオリオン様の意志に賛同なさると言うならばそれは間違いではなく私もそうするべきだと思いますし、それは致し方ない事だと…アンリさんの自業自得ですので」
付け足した言葉にアンリさんは俯いてしまう…
オリオン様は少し考えるとアンリさんを連れて行ってしまった。
ふう……私は一息つくと、よしっと気合いを入れ直し瓦礫を集め始めた。
周りの皆も手を止めてこちらをを伺っていたが少しするとバラバラと作業を再開しだした。
さっき、アンリさんをあの人間達と考え方が一緒だと思ったけど、私が獣人国へ来る前の思考と全く同じじゃない…何が人間達よ、自分だけは別みたいな。
今考えが変わったとしても偉そうに言える立場ではなかったわ…少し落ち込みながら作業していると、横に誰かがきて一緒に瓦礫を拾い始めた。
「この瓦礫は向こうへ運べば良いのね、私が持ってく」
「…ありがとう、ココさん」
「あいつ本当にムカつくけど、今は1人でも多くの手が必要だから…その代わり滅茶苦茶働いてもらうわ」
そう言いながら瓦礫を持って向こうへと消えて行った。
ココさんが去っていった方をぽかんとしながら見てたが急におかしくなって顔がにやけてしまう。
ふふ、とにかく過去に囚われていたらだめよね、前に進まないと…私が今出来る事を精一杯やろう。
それからエイルリスは日が暮れるまで村人や獣兵達と共に汗を流した。
終わる頃には誰もが汚れて真っ黒になっており勿論エイルリスも例外ではなかった。
指摘されたエイルリスは慌てて袖で顔を拭ったが更に広がりそれを見て種族も何も関係なく皆で笑いあったのだ。
夜は村の広場で火を炊き大きな鍋で色んな具材を入れ煮込み皆で分けあって食べた。
一日働き詰めで疲れているはずなのに村人も獣兵も私もリオンもみんな笑顔だった。
そのうち歌う者まで出てくると今度はその歌に合わせて踊り出す者まで、それを見て拍手したり囃し立てたりとても賑やかな夜となった。
しかし、その夜は最後までアンリさんの姿を見る事はなかった。
***
村が寝静まった頃、暗闇の中で1つの影が動く。
月明かりに照らされたその姿は白く美しいユキヒョウであった。しなやかな体を使い村の中を音もなく走り回る。
ユキヒョウは何かを探す
もう時間がないとばかりに懸命に探す
きっとこの村のどこかに必ずあるはず…
嗅覚を頼りに探し回るが中々見つからない
焦りがピークになろうとした時、フッと鼻腔をくすぐる変わった香りを嗅ぎ取る。
あぁ…この香り…きっとこれだ!
嗅いだことのない特別な香り、これこそ探し求めていた物に違いない。
ユキヒョウは匂いを辿り暗闇の中へとその姿を消した…
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