㉜リリアンとエディ
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「カーマイン団長とモーブ副団長が行方不明!?」
帝国の魔法騎士団に所属する女性魔道師のリリアンは怪訝に思いながら声をかける。
「はい、それと数名の隊員も共に…」
「彼らが何処へ行くか聞いた者はいる?」
「一応記録が残ってます、団長達一同はルーンの森へ魔物の調査の為3日前に森へと向かいました」
「魔物調査…?ルーンの森に魔物なんていたかしら?」
「報告には上がっておりませんが、近隣の者が遭遇したとの情報があったと…ですが遭遇した者は不明だそうです」
「不明…?何だか怪しい情報ね」
「それは自分にはわかりかねますが、リリアン様がそう仰るならそうだと思います」
「エディ、前から言ってるけど私の言う事全て肯定するのはお止めなさい」
「私はこの国の皇帝よりもリリアン様の言う事を信じます。それは何があろうと変わりません」
「エディ!不敬よっ!誰かに聞かれたらどうするの」
「失礼しました、リリアン様を困らせる事はいたしません」
「はぁ…エディは昔から全く変わらないのね」
「当然です。リリアン様は私の全てです。それは不朽不滅です。私の細胞1つ1つがリリアン様を求めてやまないのです」
「やめてっ、そんな気持ちの悪い…はぁ…もういいわ、それより団長達の行方よ。とにかくルーンの森へ行くわよ」
「リリアン様が行くのですか?指示を待てば良いのでは…行くのなら他の団員も連れていきますか?」
「いいえ、先に行って少し調べたい事があるわ。私事で他の団員を危険に晒すわけにはいかないし」
「承知しました。勿論私は絶対にお供しますが」
「…わかってるわ、エディが付いてくるのは。では行きましょう」
「御意」
そう言って2人はルーンの森へと向かった。
***
森へと着くとリリアンは魔法で魔物探知を発動する。
間近にはいないとわかり、更に広範囲へと魔法を広げてみたが何も探知しなかった。
「思った通りね、小さな魔物の気配すらないわ」
「ですね、いったいどういう事なんでしょうか」
「その情報が偽だったか…あるいは団長が意図的に偽情報を流したか」
「団長がですか?何故そのような意味不明な工作を?」
「それは私にもわからないけど、何か目的があったのでしょう。前から裏で何か動いてたのはわかっていたけど、まだはっきりとはわかっていないのよ…何より証拠が掴めないの」
「リリアン様、危険な事に首を突っ込むのはお止め下さい。危険な仕事は俺に全てお任せを」
「何を言ってるの?危険なら尚更自分で動くわ」
「それは断固阻止します!!!」
「阻止されたってやるわよ、エディを危険な目に合わせる方が嫌だわ」
「……リリアン…様。あなたは女神…いえ、私の全能の神です」
「エディ!いい加減私を変に神聖視するのはおやめなさいなっ。私はただの人間、平凡な魔道師よ」
「いいえ、リリアン様は誰よりも美しく光輝いております。私はその神々しい光に包まれなんたる幸運を…ーー」
「エディっ……………………。もういいわ、森へ入るわよ」
話が止まらないエディの言葉を遮りリリアンは森へさっさと入って行った。
「お待ち下さい!リリアン様!お一人では危険です」
「何を言ってるの、エディ。私は強いわよ」
「それはわかっておりますが、いったい何を調べると言うのです…」
「…あなたには言うわ、私個人で気になってるのもあるけど、これは正式に頼まれている事でもあるの」
「頼まれるとは…いったい誰に」
「団長が秘密裏に獣人に手を出してると、あくまでもまだ噂よ」
「いくら獣人とはいえ隣国の者に勝手に手を出すなど、もしそれが本当ならただの処罰では済みませんよ?一族郎党処刑でもおかしくない程です…そんなリスクを負ってまでやる事ですかね?」
「だけどね、一族郎党出来ない訳があるのよ」
「は…?どういう...?」
「私はあなたを心から信頼してるわ。この依頼は私1人では限界がある、エディに協力してほしいの。この事はちゃんと依頼主にも事前に許可は頂いているわ」
「はっ、それは勿論です。私はリリアン様一筋ですから喜んで…いえ、当然協力するに決まっております」
「ええエディならそう言ってくれると思ってた。それと私の依頼主は…」
「リリアン様の依頼主…それは」
「私が前まで護衛として使えていた方よ」
「…まさか…」
「そう、そのまさかの現皇后様よ。正確に言えば皇后様と皇太子殿下よ」
***
森への中を歩くリリアン様を眺めながらエディは考えていた。
まさか、その怪しげな依頼主が皇后と皇太子とは。
皇帝は知らないのか?
それにリリアン様に依頼するとは…確かにリリアン様は帝国で5本の指に入るくらい魔法が優れておられる。
一番はカーマイン団長、二番はモーブ副団長…そしてリリアン様。
上位2人の不審な行動を調べるともなればリリアン様にと言うのも頷けるが。それどころか謹厳実直、質実剛健、不撓不屈の精神を持つリリアン様に依頼するという皇后や皇太子の気持ちは良くわかる、が、そんな危険な事をリリアン様に頼むとは…
エディは元々はリリアンの護衛であった。
リリアンは侯爵家の次女、普通ならば魔法騎士団などに所属など許されないお方だ。
しかしリリアン様は幼少の頃から稀有な魔力を持っていた。その才能をご自身の凄まじい努力で更に伸ばしていき15歳になるとその魔力は帝国でも無視できない程となっていた。
リリアン様は貴族の狭い世界に綴じ込もっている様なお方ではなかった。自身の魔法を世に役立てたいとご両親を説得しようやく魔法騎士団へと入団出来た。まぁ、国からの要請も後押しとなったのだが…
それに焦った俺は元々苦手だった魔法を極めるためにお嬢様の護衛を1度辞退させて頂き、一年間伝説の魔道師と呼ばれる幻の隠者を探しだし弟子にしてもらいみっちり修行させてもらった。
修行中に何度死にかけたか…その度にリリアンお嬢様の顔を思いだし甦ったのだ。会えない寂しさにひそかに作った自作のリリアン人形を懐に入れて俺は頑張った。お嬢様の元へ戻るために…
修行の成果もあり魔道を極めた俺は帝都に戻り魔法騎士団への入団試験を受け晴れて合格を果たした。
入団式に俺を目にしたリリアン様が喜びよりもドン引きしたお顔をされていたが俺は気にしない。
お嬢様の側にいるためなら俺はどんなことだってしてみせる。魔道を極めたといってもまだまだお嬢様には適わない…守れるようもっと上を目指さないと。
***
「エディ!見てここ」
「どうしました?」
「ここ、これ血よね…?しかもちょっとどころではないわ、相当…この量は致死量よ…」
「しかし、遺体などみあたりませんが。それに動物かもしれませんよ?全て食された後とか…」
「たとえ動物だったとしても残骸くらいはあるでしょう。全く何もなく血の後だけあるなんて変だわ」
「ならば誰かが遺体を埋めたか、持って行ったかの二択になりますね」
「血痕媒体」
そう言うとリリアンは残されていた血の後に触れ魔法を発動した。リリアンの手のひらが淡く金色に光りそして収まっていく。
「エディ…これは、人間の血ではないわ。純粋な動物の血でもない、獣人の血よ」
「獣人がここで殺されたということですか?」
「それはまだわからないけど、獣人なのは確かよ。後この血はネコ科の獣人ね…それも大型ではなく小動物の部類」
「さすがリリアン様、血痕からそこまでわかるとは」
「エディだってそのうち出来るようになるわよ、それよりこのルーンの森の近くにパームシベット族の村があったはずよね?」
「ええ、情報によれば確かに村が存在してます」
「…そこまで行ってみたいわ」
「それは無理です。いくらなんでも獣人王国の許可がなければ不法入国になります…それに勿論帝国の事前許可も必要です」
「わかっているわよ…でも行かないと何もわからないわ。1度戻って計画を練り直す必要があるわね」
そう言いながら血痕がついた土ごと魔法で取り出しハンカチに包むとエディと共に森を後にした。
***
帝都に戻るとリリアン様はハンカチに包んだ血のついた土を魔法研究所へと持っていき詳細な調査を依頼した。
「これは?土ですか?」
「ええ、その中に含まれている血痕の詳細を知りたいの」
「それと、この依頼には箝口令が出ているわ。秘密厳守でお願いね」
そう聞いた研究所員は目を見開きゴクリと唾を飲み込んだ。
「し、承知しました…」
「その血は魔法で調べた所、獣人の血だという事まではわかっているわ。ここで調べてもらいたいのはその獣人が何の種族かって事」
「!!!まさか、獣人…ですか?そんなはずは…本当ですか?」
「それは間違いない、リリアン様がお調べになったのだ疑うのか?おい…」
そう言って所員を睨み付ける
「エディは黙っていて...とにかく頼んだわよ。出来れば早急にお願いね」
「わ、わかりました。ですが最低でも3日はかかります」
「了解したわ、では3日後にまた来ますね」
リリアンがそう言って微笑むと所員は顔を真っ赤にしもじもじしながら俯いた。
エディが鬼の形相になって所員へと掴み掛かろうとしたがリリアンが魔法を使い無理矢理引きずって一緒に研究所を出る。
「リリアン様!!むやみに微笑むなどおやめ下さい!」
「何よ、私は笑ってはいけないの?」
「リリアン様はただでさえ妖精と見間違えるほどの美しさなのです、そこに笑顔がプラスされればどんな美丈夫だろうとイチコロなんですっ!先程の小者所員なんて完全に信者となったでしょう」
さっきの所員にたいしてずいぶんな言い様だわ…
「エディのその大袈裟なフィルターはいつ剥がれるのかしら、どうみても平凡で地味な見た目よ?」
「…ご自分がわかっておられないとは嘆かわしい」
大袈裟ではないのだ、リリアン様はそれはそれは見目美しいご令嬢なのにご本人はわかっておられない。
髪から発光しているのかと思うくらいの輝く金の髪、染み1つない真っ白な肌、吸い込まれそうな翠眼…どれ程美しいか…まぁ、もし美しくなかったとしても俺の気持ちは微塵も変わりませんがね。姿形をかえようともリリアン様はリリアン様なのですから。
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