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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
目覚めし者の夢
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目覚めし者の夢19

「なっ、なんだ!!?」

「下がって!」

 エルウィン氏がパニックになる寸前のところで後退させたのだということは、彼の泣き出しそうな叫び声で明らかだった。


 距離は近い。奴に搭載されたFCSと、銃塔に並んでいる12.7mm連装機銃の精度を考えれば、高々50m程度の距離など、目の前に立っているのに等しい。

 加えて、銃塔の左右に張り出した戦闘ヘリのようなスタブウィングには84mm無反動砲が左右二門ずつ。無人機という性質上作戦中の再装填が難しいのを搭載数で補ったという事だろうそれは、外で使用していなければ入口を吹き飛ばしてもまだ三発は残っているはずだ。


 誰でも分かる話:彼我の戦力差など考えるまでもなく逃げる以外にない。


 だが同時に、ただ単に後退すれば安全と言う訳でもない。このプロムナードの一番後ろまで下がっても射程外には出ないだろうし、そこまで行けば袋小路だ。

 来た道を戻って室内に入ればまだチャンスはあろうが、それだって後ろから追手が来ない事が前提だ。

 そしてなにより、現状唯一の脱出ルートは、吹き飛ばした入口からのしのしと入って来たマクロファージの向こう側なのだ。

「ッ!その階段を上に!」

 脳の戦闘用の部分が瞬時にそこまで情報を纏めて、数秒前に通り過ぎていた二階に登る階段を後退中に見つけるとその指示を反射的に出した。


 と、同時に彼に見本を示すように自ら先頭に立ってその階段を駆け上がる。

 幸い、その階段は奴の場所からは足場で登っている人間の姿が見えず、登り切った先の二階通路もまた、胸位まである落下防止用の壁によって伏せていれば下からは分からない。

 左手側は前後に伸びていて、一階と同様その通路に面した店舗が並んでおり、対して右手側には同様に対岸を走る通路に通じる連絡橋が伸びている。


「ッ!!」

 そこに登り切り、姿が見えないように頭を下げた瞬間、左手前方からやって来た同じ様な姿勢の人影と目が合った。

 敵か――目が合った瞬間、お互いにそう認識した。

 だが即座に彼の目が俺の後ろに向いて、そしてその後ろの人物が声を発したことで衝突は回避されることとなった。

「同志!」

 エルウィン氏の声に、目の前の男はハッとした様子で動きを止める。

「味方か……」

 直後、重々しい銃声が轟く。

 二挺の12.7mmが火を噴き、恐らく発見されたのだろう哀れなレジスタンスたちを薙ぎ払っていくのだというのが、音を聞いただけでなんとなく想像できた。

 一秒程度の銃声。そしてそれが止んだ後の、奴が砕けたガラスや床のタイルを踏みしめる音。


「下の仲間が……ッ!」

 目の前にいた男はあと少しで叫びそうな声を何とか押し殺してそう吐き出した。

「仲間がいたのか?」

「襲撃を受けて直ぐに動いた。俺たち防衛隊は連中の兵器に対抗するための装備を納めた武器庫に向かって……」

 武器庫があったらしい。連中の兵器に対抗できるというが、彼らが今までに持っていたものなど精々ハンドガンやショットガンだ。いわばこの国で法的に個人での所持が許可されているものだけで、とてもではないがマクロファージの装甲を破れる代物ではない。


 だが、少しでも生存の役に立つものなら考慮に入れる必要はある――その考えはエリカも同時に辿り着いたようだった。

「その武器庫というのは――」

 言いかけたところで、目の前の男の背後からもう一人が這うようにしてやって来る。

「行くぞ同志」

「ああ」

 現れたその男=野戦服の上下に頭に巻いたバンダナ。背中にはそれが彼らのいう武器庫から引っ張り出して来た対抗策なのだろうというのは誰の目にも分かるRPG。

 タンデム弾頭のHEAT(成形炸薬弾)を装填したそれは、その長大さ故に奴から隠れて移動するのには、今持ち主がそうしているように伏せているしかないだろう。

 だが当然、発射するには目の前の落下防止用の壁より上から撃つ必要があり、つまり立ち上がらなければならない――施設制圧、非対称戦を想定した大型無人兵器の目の前に、だ。

 つまり、あまりに無謀だ。


「待って――」

「これは我々の戦いだ」

 呼びかけをそう遮って、二人は奥へと向き直る。

 誰も止めることはできない。恐怖に震えながら――ではなく、開き切った瞳孔に爛々とした輝きを宿らせたその男たちに一切の説得など意味がない。

「……隠れよう」

 なら、俺たちに出来るのはそれだけだ。

 奴らに近づかない。流れ弾を受けたり、バックブラストに巻き込まれないように。


「恐れてはいないな」

「勿論だ」

 二人は二人だけの世界で言葉を交わし、それから叫ぶ。

「「真実のために!」」

 そして立ち上がり、RPGを担いで一直線に走り出し――猛烈な掃射の中に消えた。


「……ッ!!」

 彼等は消えてしまった。倒れたり、崩れ落ちたりすることもなかった。

 機械制御による12.7mmの正確な射撃は、ただ二人の人間を消し飛ばすことなど造作もなかった。

 彼等にとってきっと幸いだったのは、自分の体がどうなっているのかさえも理解することなく、彼等は消えたのだということだ。その凄まじい銃弾の威力と、彼等自身を酩酊させた正義感及び薬物によって。


「クソッ!」

 彼等は消え去った。一階と同じように並んでいる店舗の前に広がっているこの通路の一部と共に。

 残っているのは――それをそうだと認識してしまうのを無意識的に避けている――いくつかの“破片”と、ボロボロに壊れて崩れ落ちた部分の手前に転がったRPGだけ。

「うわああああああ!!!!」

 そして、目の前で見知った相手が消し飛んだことでパニックになった護衛対象。


「あっ――」

「やめろ!!」

 立ち上がって駆けだそうとするエルウィン氏を咄嗟に飛び掛かって床に押さえつける。

 だが、僅かに遅かった。

 爆音と同時に視界を駆け抜けていく一筋の影。

 それが84mm榴弾であるという事を理解するより先に、頭上から衝撃と爆風、そしてそれによって破壊された天井が容赦なく降り注いでいた。


 機銃で直接狙うよりも爆発とそれによる破片に巻き込んだ方が効率的――恐らくマクロファージのAIが下したのだろうその判断は、極めて正しいと言わざるを得なかった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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