目覚めし者の夢4
次に口を開いたのはエリカだった。
「随分大量の輸送っすね」
コニDA-1000はその名の通り最大積載量は1000kgを誇る大型機だ。写真の個体は二機ともある程度の装甲を纏っているが、それでも積載量は900kgはあるだろう。
それを二機。見たところほとんど限界まで積み荷≒食料品や薬品、日用品等を積み込んでいる。
となれば、受取人は一人暮らしではないはずだ。
「気になってね、この部隊を追尾した。そしたらこれ……」
そこで出てくる三枚目。DA-1000を連れた一隊が検問ゲートのような場所をくぐるところだ。
周囲の様子からして恐らく二層だろうそのゲートには先程の写真には写っていなかった人物が立っており、武装したその人物が通過する一隊を監視しているように思えた。
そしてその人物のすぐ横、普段は閉じられているのだろう金属製のゲート扉に大々的に記された見慣れないマーク=針が下を向いたコンパスと『PoC』の文字。
そして、二機のうち一機のDA-1000の増加装甲に書かれた文字=104という数字は、先程の写真を見るとそちらにも同じもの。
「このコンパスのマーク、調べてみたらこれが『ゆりかごの党』のマークだった。そして、ここに荷物を運びこんでいるのは商店街のコンウェイ・ロジスティクスだと判明した」
さらに彼女は俺たち全員を改めて一瞥。
「更に商店街の記録その他をロズに依頼して調べたところ、コンウェイ・ロジスティクスは定期的にこのゲートのある場所に大量の物資を搬入しているらしいという事もまた、明らかになった」
このサイストックの独特の商習慣という慣習の一つに「同業者には秘密を言わず、かつ秘密を乞わない」というものがある。
つまり社内で秘密にするべきことはべらべら喋らない――これだけ聞けば当たり前だが、同時に他の者達は相手から秘密を聞きだすような真似をしてはいけないというものだ。
だがこれが独特の商習慣という奴で、この辺りでは聞き出すのはNGだが、調べ上げるのは構わないという暗黙の了解があった。
ここまでの話で分かる事だが、彼女はその商習慣に従ったのだ。
「そしてこの搬入先。周囲の状況や写り込んでいる店舗、何より最大にズームしてやっとわかるぐらいだけど、この電信柱に残っている番地から、ゆりかごの党の拠点と思われるこの場所の位置はおおよそ特定できた」
めくられる写真。
その下に敷かれる形になっていたサイストックの地図に再び全員の視線が注がれる。
そしてその状況の中で、エルマさんの指は赤丸のつけられた電波塔の比較的近くに位置するショッピングモールとそこに隣接する駐車場を指した。
「周囲の環境から、ここがレジスタンスのキャンプである可能性が高い。地図を見てもらえば分かる通り、電波塔からもそう遠くない」
地図上の二つの点を、彼女の指が往復する。
その仕事ぶりに対する社長の評価は、即座に最大の賛辞でもって示された。
「でかした!流石は我が社の情報担当」
彼女がその立場にあることを俺が知ったのはつい最近だった。
普段は事務方や、必要に応じて俺たちに指示や情報支援を行ってくれる人だが、本業はこうした情報収集だ。
何しろ元内務省内調三課。冷戦時は多岐に渡る任務を帯びていた内務省の中でも、国内の政治結社や過激派などの監視を担当していた部門の出身だ。こうした調査、それも陰謀論にかぶれた怪しげな集団の調査は得意中の得意だろう。
「……もしもし?お世話になっております。私モーラー・アルファ社の――」
この情報を基に、社長は早速依頼人に確認の電話を入れる。後は向こうのゴーサイン一つで、俺たちの次の仕事の内容が変わることになる。
「――はい。はい。では失礼いたします」
それから一分以内で結論が出た――俺たちの想定した通りの方向に。
「依頼人からゴーサインが出た。明日朝からキャンプに向かい、件のエルウィン・ファム氏に接触。同時に電波塔についても調査を行う」
午後はそのためのブリーフィングと装備のセットアップ、そして状況を想定した訓練が行われる。
装備に関しては前回とほとんど同じだが、今回サイレンサーは必ずしも必要ではない。
今回は潜入を前提とする作戦ではない。その代わり、ブリーチング用の装備は必要になってくる。流石にレジスタンスのキャンプにこじ開けて侵入することはないとは思うが、電波塔に関してはその限りではない。
といって、電波塔そのものに使う状況は想定していない――勿論、必要になればその限りではないが。
使用する対象は電波塔の近くにある旧ナリヤマ損害保険のサイストック支社だ。
ここの屋上から、虎の子の偵察用多機能ドローン及び各種の観測用装備を利用して電波塔内を調査。それでDJナックの正体が分からず、かつ許可が下りた場合のみ電波塔へ訪問することとなる。
侵入する場所が放棄されて久しいとはいえ上場企業のオフィスである以上ある程度のセキュリティを考慮し、以前と同じようにエリカはマスターキーを、俺はバールをそれぞれ装備。
と、そこで気になったことを社長に確認しておく。
「……これ、レジスタンスの連中にどう説明します?」
連中にとってみれば、ゆりかごの党は大切な存在だろう。その放送を行っている電波塔に、場合によってはドアをぶち破って突入しますというのは中々にリスキーな話だ。
「今回のルートは障害物や建造物内を移動する可能性が高い。それ故の装備だと言っておけ」
「了解です」
嘘ではない。一層から階層間リフトで降りた先でもバラック群を抜けていくことになる。正直あまり通りたくないルートではあるが、厄介なことにその周囲に広がる警備部隊の重点警戒エリアに触れないようにするにはそのルートが一番確実なのだ。実際、先程の画像にあったローダーたちもここを通っている可能性が高い。
「分かっていると思うが」
そしてその点は社長の重々承知だ。
「一応重点警戒エリアではないとはいえ、付近には常に警備部隊が駐留している。何かあればすぐに報告しろ。いつもの事だが安全第一だ」
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




