スリーカード3
「どうも」
時計を見ると11時ちょうど。
画面の向こうのスキンヘッドの人物=依頼人が時計を見て話し始める。
「どうも、お世話になっています」
この辺のやり取りは日本と大した違いはない。
俺たちも一緒に挨拶を交わし、それから本題へ。
「単刀直入に行きましょう」
そのスキンヘッドの依頼人=現ドルニエ商会社長のカプシス氏は、そう言ってから画面端にワイプを設定し、そこに一層の地図を表示してから始めた。
「まず今回の依頼は、うち……というより我々商店街全体からの依頼と言った方が近い――」
その言葉に従ってワイプの地図が北西にズームされる。
商店街と言っても、ドルニエ商会が属するそれは一般的なそれとはいくつか異なる点がある。その一番の点といえば、その立地がサイストックの一層であるということだろう。
サイストックは暴走AIに率いられた警備部隊が跋扈する巨大な廃墟だが、それでも人がいない訳ではない。
それこそついさっき荷物を届けたような住民や、野良モグラと俗称される、一攫千金を夢見てか、或いは何らかの事情で普通の仕事が出来ない者達による、サイストック全域で金になりそうなものを探している者達や、諸々の事情でこの地を訪れる者達。そうした者達を相手に商売をする業者がいくつか集まって形成されたのが、サイストック商店街と俗称され、また彼らが自称する組織だ。
ワイプに示されているように一層北西部のある区画に集まった彼らは、この町に関わっている連中であれば理由を問わずに取引する。
「我々商店街の位置する一層の直下には未だ警備部隊がうろつく二層がある訳だが、この二層に、最近不審な人物がうろついているという情報が、常連筋からもたらされた。最初はただの野良モグラかと思ったが、そうだとすると不自然な点がいくつかある」
サイストック商店街は誰とでも取引する。それ故に多少後ろめたい品や、脛に傷のある人間もやって来る。
だが、そういう連中を受け入れる商店街でも例外は存在する。
明確に自分たちに害をなす存在――即ち警備部隊と、取引する気のない犯罪者。
盗品さえも逃げ道が確保できれば問題にしない彼らにしても、いやだからこそ、外から流入する厄介な勢力には敏感になるのだろう。
ワイプがズームし、一層を貫通して二層の姿を映し出す。
その二層の見取り図に浮かび上がる赤い点が三つ。それが不審人物の目撃情報がもたらされた場所なのだろう。
「それで、我々にその調査を?」
社長の問いに、カプシス氏は小さく一度頷いた。
「……うちが出せるのはここにいる二人。それでよければ」
「ああ。そんな広範囲じゃない。それで十分。あんたの所なら実力も問題ないだろう」
少しこそばゆい評価に俺も小さく会釈する。
「で、いつ入ります?」
「できれば明日の朝には始めてほしい」
明日は元々大した仕事は入っていなかった。つまり、これで決まりという訳だ。
社長もスケジュールを確認。即座に同じ結論に至る。
「了解しました。……それで、どうしたいので?」
どうしたい。その一言で意図は伝わっている。
「実は、近々査察が予定されている。故にあまり大ごとにせず、早期解決を図りたい。調査結果によっては、他の都市モグラも雇い入れての掃討を依頼することになるかもしれない。この前の、例のブローカーの時みたいに」
例のブローカーが誰の事を指しているのかは当然分かり切っている。
そして恐らく依頼人は、そのブローカーが生み出した人物が今回の依頼によって動くことを知らないのだろう。
「査察ですか……」
「今の担当者がうるさくてね。前のように野良モグラから買い取ったプサイのアイオーンクラシックよりマシな付け届けが必要になっている」
サイストック商店街も何者にも縛られない完全に自由な存在ではない。
むしろその逆で、地元警察は無論の事、国家警察局=アシュファーラ版FBIのようなものから派遣されてくる捜査官と上手くやっていかねばならないのだ。
勿論、彼等の中には「こんな廃墟を放置していると犯罪の温床となる」という意見を持つ者も多い。
だがそこは上手く出来ているもので、国家警察局内には「国内に散って潜伏するか、或いは海外逃亡の危険があるぐらいならあえてサイストックを残しておき、その手綱を握っておくことで情報屋兼狩場として活用するべき」という一派もおり、商店街としては彼等を味方に付けておく必要がある。となれば、彼等にいい顔をしておくのは必然だろう。
国がとても手を出す余裕がないが故に放置されているサイストックであっても、心証を良くしておくに越したことはない。
プサイと言えばアシュファーラの誇る高級腕時計メーカーで、中でも本物のアイオーンクラシックとなると、完品なら俺の新卒の頃の年収位はする。
成程野良モグラが絶えない訳だ。そんなものを拾えれば一発逆転も夢ではあるまい。
しかし、それよりもいい付け届けとなると、後はもう実際に役に立っているという姿を見せるしかない。
商店街は犯罪を助長するのではなく自治組織として仕事をしている――その実態を示す必要がある訳だ。
「……」
では、その為の調査で望ましい結果が出なかったら?まあ、それは俺たちの考えるべきことではないだろう。
――少なくとも、社長はその辺も分かっている。
「では、今回はまずは調査という事で」
「ああ。そうなる」
話をしながら、社長は片手で端末をいじる。
「ではこちらが契約書とお見積もりになります。よろしければこちらにサインと登録コードを」
この業界の商習慣――というか恐らくこの国での商習慣。
昔ながらの記名押印に加え、官公庁に提出する登録コードを記載することで間違いなく契約内容に合意したと証明する。
送信された契約書にはしっかりと、我々が依頼されたのはあくまで疑惑のある場所の調査のみであり、それ以上は本契約ではカバーしないと明記されている。
つまり、何も見つからなかった場合に付け届け用に誰かを仕立てるにしても、或いは別の何かをするにせよ、うちは一切関与しないという事。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




