若き冒険者19
「こちら回収チーム、間もなくそちらに到着する。コールサインはブラックドッグだ」
「こちらアルファ1、了解しましたブラックドッグ。アルファは両方無事です」
返答しつつ起き上がり、先程エリスが駆け下りていった目の前の瓦礫を同じように下っていく俺たち。
バスの天井を伝って一層を踏みしめると、既に動かなくなったエリスが数mの距離で倒れていた。
仰向けで、両手足を投げ出した死体。その死に顔はここからでは分からない。
同じものを見たのだろうエリカの表情は物悲し気で、小さく横に振られた首がその心情を表していた。
「……」
相応の末路。俺に言わせればそれ以外の言葉はないが、まあどんな感想を抱くかは人それぞれだろう。
とはいえ、やはり彼女はプロだ。ここで感傷に浸っている場合ではないという事はしっかりと分かっている。実際にそうしていた時間は精々一秒かそこいらで、すぐに目の前の状況に意識を戻している。
「CPよりアルファ、市民ホールからLD兵の増援がそちらに向かっている。先程の戦闘で所在が割れたようだ」
その言葉と同時に、こちらに向かって走って来る人影が目につく。
敵は見えているだけで六名。お互いの間に遮るものはない。
「この裏だ!」
咄嗟に背後のバスの裏に回り込む。これで誤魔化せるとは思えないが、少なくとも体を晒しているよりはずっとマシだろう。
車体に身を隠し、その状態で乗車口の付近から向こう側を覗く。連中は散開しつつこちらに向かってくる。
と、エンジン音と共に先程の声がインカムに響いた。
「ブラックドッグよりアルファ、状況は分かった。そちらの横に着ける」
それへの返事より彼らの駆るピックアップトラックが振り向いた先に現れるのが早かった。
荷台以外を金網装甲で覆ったそれは俺たちの隠れているバスのすぐ横に、ボンネットを迫るLD兵に向けて停車すると、荷台に据え付けられた汎用機関銃で掃射を開始する。
「乗れ!」
運転席からの、響き渡る銃声に負けない叫び声に応じると、俺たちは他の回収チームの手に助けられながら荷台によじ登った。
「よし回収!」
「了解!出すぞ!!」
運転席の叫び。直後に大きく揺れて、トラックがUターンして走り出す。
180度後ろを向いた時に振り返った先には新たに追加されたLD兵のうち、立っている者は一人も見えなかった。
少年たちを探す任務はこれで終了だった。
予想していたのとは違った形だったが、俺たちの任務は、つまり俺とエリカとエルマさんの任務はこれで終わりだ。
だがラディコス社長はそうではなかった。むしろその後の方が忙しい事態になっていたのだという事は、その後の騒ぎと契約当初の金額よりもだいぶ多い報酬、そして数日後に公表された“真実”によって明らかになった。
少年たちは仲間割れはしなかった。
ガンマニアの集まりであった三人の少年は、遂に好奇心を抑えられずに実物を手に入れてしまった。彼らの好奇心と興奮、そして若き冒険心は、まるでジャングルや大海を前にしたようにこの巨大な都市の廃墟に吸い寄せられていった。
仲間同士で示し合わせて出奔した三人はそれぞれの銃を手に冒険の旅に出て、そこでこの無法の廃墟に潜伏していた犯罪者集団の存在を知った。その集団が銀行強盗を計画していると知った彼らは正義感からその計画を阻止するべく立ち向かい、銃撃戦の末見事に強盗団を潰走せしめた――自らの命と引き換えに。
以上が、公表された事件の全容である。
この三人の勇敢な少年ガンマンの活躍はちょっとしたニュースとなった。
銃を不法に入手したことに関しては勿論問題になった訳だが、それもそのセンセーショナルな英雄譚がフィーチャーされるまでの間の事だった。
――何より、遺族たちのほとんどはその話に納得していたのだ。エリスの父親の思惑通りに。
「あの子がやったことはね、銃を手に入れたのは、それは悪い事でしょうけど、それでも私はあの子を愛しています。あの子は私の誇りです」
涙ながらにインタビューに応じたアマダ夫人のこの言葉は、その後何度もテレビのワイドショーやネットニュースなどでも取り上げられることになった。
その嘘八百の物語が、その時一緒に取材を受けていたもう一人の遺族と、彼と共謀した都市モグラによって描かれたものだと知っているのは、俺たちだけだ。
「なんか、釈然としない……」
いつもの訓練を終えてから、その何度目か分からないニュースを見ながらエリカが呟いた。
エリスの父ジュリアーノ氏は「大切な息子を失ったショックに苦しみながらも気丈に振舞う善き父」として取材に応じる姿で今や有名人だった。
あの一瞬の勘当宣言と、その後の徹底した事実の隠蔽について知っているのは俺たちだけだ。
「まあな……」
お陰で会社は随分儲かったようだし、俺たちも臨時ボーナスに与れた。俺としてはそれだけでこの事件について黙っているのに十分だ。新居への引っ越しと当座の新生活の予算が確保できたのだから。
「でもまあ、いいんじゃないか?」
「?」
だがだからと言って、相棒がもやもやを抱えたままというのもあまりよろしくないだろう。
「遺族が本当のことを知ったら、もっと辛い事になっていたかもしれないし」
つまり、おたくの息子たちはマンハントとやらに興じて調子に乗った挙句、相応の最期を迎えましたなどと知ったら……という事。アマダ夫人など卒倒してしまうかもしれない。
「愛しい息子でいさせてやろう。誰も損をしない」
「まあ……、それもそうかもね」
そう言うと、彼女は自分の中で折り合いをつけるように太ももをポンと叩いて立ち上がり、シャワー室へ向かっていった。
(つづく)
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