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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
若き冒険者
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若き冒険者3

 サイストック全域に点在する、警備部隊が存在を感知していない区画。そこに暮らす人間や、そういう連中を対象としたローダーと呼ばれる輸送業者、そして――我が社も例外ではなく――大概はローダーと兼業の都市モグラも利用するのがこのリフトだ。


 この階層間リフトの利用には、一度ずつ料金を支払うか、或いは定期券を買う必要がある訳だが、俺たちのような商業利用においては一度ずつそれをしている訳にもいかない。よって事前にリフト運営委員会にしかるべき金額を前払いし、顔パスの許可をとる必要がある。

 これで通常はリフト前で待機している係員に利用料を支払う形となるところをモーラー・アルファの社員証を提示するだけで素通り出来るという訳だ。


「気を付けてくれよ。二層のこの辺りは最近騒がしいからな」

「ありがとう」

 古株の係員の忠告を受けながらリフトに乗り込み、年季の入ったコンソールで下へ。

 その見た目からは意外なほどに静かでスムーズな滑り出しで世界が上に送られていく。

「CPよりオールアルファ、再度確認だ。今回我々が請け負っているのはあくまで偵察だ。少年たちの安否を確認し、ハンツ・エージェンシーに報告する。それで連中の救出チームが動く。分かっているとは思うが……決して無理はするなよ」

 ボディカムの分=最悪の場合裁判資料になる録音の分、言えない言葉はある。

 だが、それでも伝えるべき内容を伝える言葉が無い訳ではない。我が社におけるこの状況での「決して無理はするな」とはつまり「助かる見込みがなければ見捨てろ」の符丁だ。


「……アルファ1了解」

「アルファ2了解」

 俺たちの仕事は偵察、安否確認だ。

「死んでいました。救出不要です」と伝えるのは職務の放棄には当たらない――反応と、一瞬表情を硬くした様子を見るに、アルファ1は心からそれに納得している訳ではなさそうだが。


「……よし、到着だ」

 その葛藤を打ち切らせるように、俺はあえて口にした。

 リフトは古ぼけた工場の屋根から中に入り、遺跡のように朽ちて放置された、何に使うのか分からない機器の後ろに降りた。

 正面のロックが解除され、今や蜘蛛の巣の一大ベッドタウンと化しているその大型の機械の前へと降りていく。

 階層間シャフトは警備部隊から認識されないエリアに設置されるが、工場一棟が丸ごと認識されていないとは、よほどLDの仕事ぶりは適当だったようだ。


 機械の陰から前方を伺う。警備部隊はここを認識していないだろうが、用心に越したことはない。

「クリア」

 埃っぽい廃工場を入り口側へ。本来は車両ごと出入りできたのだろう正面入口は赤錆の壁と化したシャッターで塞がれていて、その横の、ドアがなくなった職員通用口から外に出ることになる。

「……」

 その通用口から見える街並み=前回までのC2バンカー周辺と違い、こちらはより一層雑多だ。

 リフトから見えたこの廃工場のような、サイストックが放棄されるよりも前から朽ちるに任せていたような古い工場や倉庫が並ぶエリア。おそらくあまり流行っているエリアではなかったのだろうという事は、放置された――特に弾痕や爆発の形跡もない――車両や、所かまわずに残された落書きが物語っている。陰鬱で薄暗い印象を与えるのは、恐らく隙間なく空を覆う一層の床だけが原因ではないだろう。


 目指す配送センターはこの区画と、ここで働いていた人間が暮らしていたのだろう居住区画との境目辺りに位置する。まずは正面に伸びている片側二車線の道路をここからも見える突き当りまで進み、その向こうの区画を迂回するように回り込んだ先にある。

「CPよりアルファ、ドローンでそちらの先導を行う。正面に見えている道路を突き当りに向かって前進せよオーバー」

 社長からエルマさんに替わっての指示にも特に変更はない。

「アルファ了解。前進します」

 エリカが応じ、周囲の敵影を確認して外へ。俺も後に続き、今しがた自分たちがいた工場の並びに脅威はないかを確認する。

「後方クリア」

 伝えると同時に、進行方向に対して同様の確認を行っていたエリカが動き出す。

「前方クリア」

 互いに問題が無いことを確かめてから移動開始。先行するドローンも何も見つけていないようなのでひとまず気を張り詰める必要はなさそうだ。お互いにローレディポジションに移行して、一定距離を保ちつつ移動する。気を張り詰める必要はないが、完全に気を抜ける状況でもない。力まずリラックスした警戒――言葉にするのは難しいが、その微妙な状態を維持する。


 そのまま、バゲットの断面みたいになったアスファルトの道を突き当りまで進む。

 ここの区画に入るつもりだったのか、頭をこちらに向けたまま横転している10tトラックに辿り着き、それに身を隠しながら進行方向=右折の安全を確認しようとした、まさにその瞬間、インカムにエルマさんの声が響く。

「アルファ、進行方向にガードメカが展開している。いや……」

 一瞬の沈黙。

 声の調子から推測:その続きは決して良いニュースではない。

「反対側にもガードメカを確認した」

 案の定。

 どうやら丁字路で挟み撃ちだ。

 後ろに下がるか?だとして、隠れられそうな場所はない。


「まだ見つからない。アルファは至急正面のビルに隠れろ。敵の反応はない」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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