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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
若き冒険者
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若き冒険者2

 ブリーフィングを終え、装備品の準備――と言ってもセットアップの変更点など、エリカがアンダーレイルに単発式ソードオフ・ショットガンをマウントしていることぐらいだろうか。

 マスターキーと俗称されるように、施錠された扉に対し錠を破壊して侵入することを目的に装備しているこれは、ほとんど切り落とされた銃身と一発だけの薬室以外には何もない。


 後はいつも通り、それぞれのプライマリーにドットサイトとフラッシュライト。諸々の装備品も、俺がバールを追加すること以外は同様。このバールの役目も相方のマスターキーと同じだ。二通りのドアブリーチャーを用意するのは素早く破壊するか、静かにこじ開けるか、目的によって使い分けるため。

 今回ハーストは使用しない。あくまで俺たちの役目は偵察であって要救助者の救出ではないし、目標地点とそこに向かうルートはかなり入り組んでいて、無事に上下移動できるようなスペースを確保するのは難しい。

 このため、安全なエリアから階層間リフトを用いて降下して向かい、帰りもそれを使う事になるだろう――何もなければ。


「馬鹿な奴ら」

 ひとしきり支度を終え、支給された写真のコピーを手札のように広げながら改めて目を通して漏らす、正直な気持ち。

 それを聞いていたのかいないのか、同じく支度を終えたエリカがぼそりと呟いた。

「……随分愛されているんだね」

「え?」

「はるばるアーテルベルクからここまで逃げてきた子供達を探してさ、私たちと、ハンツ・エージェンシーに払う報酬だって、多分安くはないだろうし、それだけかけてでも連れ戻したいって、親ってそういうものなのかな?」

 もう一度写真に目を落とす。彼女の言うようにアーテルベルク=聖オリビエリ学園のあるこの国の首都からは電車を乗り継いで3時間はかかる。そこの生徒という事は、通学圏内にある家からもそれぐらいの距離だろう。

 それだけの時間と手間をかけて、数日前から行方が分からない連中を追いかける――馬鹿な子ほどかわいいという奴なのだろうか。


「……さあ」

 言いかけて自分の両親の顔が頭に浮かんだ。

 あの二人だったらどうしていただろうか。

 多分親父は怒り狂うだろう。どうして家出などという意味のない事で時間を浪費するんだ。サッカーの練習に充てるべき時間を無駄にするな、とかそういう感じで。

 母親は泣き喚くだろう。どうして家出などという意味のない事で時間を浪費するの。勉強に充てるべき時間を無駄にするな、とかそういう感じで。

 ――探すか見捨てるかは想像出来なかった。ただの人形には、家出なんてする気も起らなかったから。


「……そうかもな」

 だからそれ位しか答えは用意できなかった。

 そう言えば、エリカの家庭はどうなっているのだろう――頭に一瞬だけ浮かんできたその疑問は、これまた一瞬だけ尋ねようか否かというステージに達して、即座に否定された。

「……」

 他人にやられて嫌な事は他人にもしない=これまでの人生で学んだ数少ない道徳。

 だから俺も他人の家庭についてとやかく言うつもりはない。高校生ぐらいの娘をサイボーグ化してドンパチさせている家庭の話など、特に。


「そっか」

 そんな俺の頭の中など知らない彼女の声。

 それきり、話は終わった。

 別に今回の依頼人の家庭にだってこれ以上の詮索は不要だ。

 大切なのは、報酬はしっかり支払われる事。そして場合によっては最悪の報告をしなければならなくなった時、痛くない腹を探られるような隙を見せない事だ。

「ボディカム、動作チェックしておくか」

 サイストック侵入前にもすることになるだろうが、今の段階で知っておかねばなるまい。

 最悪の場合、こいつの存在がその後の人生を大きく左右することになる。俺たちが見殺しにしたなんて言われないように。

 ――愛していようがなんだろうが、親という生き物は簡単に狂うんだ。その狂い方が人それぞれなだけで。


 支度を終え、いつものようにワンボックスに乗り込んで現地へ。今回は社長も同行するようだ。

 最早顔なじみの検問を越えてたどり着いたのは、これまでとは異なる第一層の一角。

 何軒かのバラックが立ち並び、その前にぶらぶらしていた浮浪者が見慣れない車両とそこから降りてきた武装した人間に胡乱な目を向ける中での作戦開始。

「……あんまり歓迎はされてなさそうですね」

 車両を降りるところで漏らした感想は、同時に今後の行動方針を尋ねる事にも繋がった――大人しくいくか、人払いをするか。

「構わず素通りしろ。あれは連中の普段の態度だ。我々もすぐに予定のポイントで待機する」

「「了解」」

 俺たちは答えながら下車。

 じろじろとバラックの影からこちらを伺っている連中は、成程襲い掛かって来るような様子はない。


「予定通りだね」

「ああ、行こう」

 彼等に対して一瞥してから小さなバラック街を突っ切る。

 その間、俺もエリカもトリガーに指はかけずとも、プライマリーはスリングに任せずグリップに手を乗せておく。

「……」

 ジロジロ伺う連中がバラックに隠す面積を増やす。世界一わかりやすい抑止力の図だ。

 彼等のバラック街を抜けてすぐ、目的の階層間リフトに到着した。

 四隅をシャフトで支えられ、トタンの天井と覆いで囲まれただけの極めて簡素なエレベーター。ビルの中に入っているような箱型のものではなく、ただ床板が上下するだけのそれは、立体駐車場の車用のエレベーターを彷彿とさせる形だ。


「アルファ1よりCP。12号リフトに到着。これより第二層に向かいます」

 答えたのはエルマさんではなく社長。今回は二人でCPとしての任務に就く――より正確に言えば、依頼人への随時の報告と協議を行うために自分で現場に赴いているという形だが。

「了解した。今回の作戦では領域内の全リフトの使用許可を得ている。必要になったものは全て現場の判断で使用可能だ」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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