領主様は知り合い?
やっぱり地元人に案内してもらえると快適だ。鍛冶職人の腕なんて初見じゃ分からないし。
「サングリエの子倅か。今日はどんな用だ?」
鍛冶屋にいたのは老いたドワーフ。鍛冶に疎い俺でも分かる位、職人オーラを放っている。
「今日はお客さんを連れて来たんです。ボッチさん、この人には祖父の代から世話になっているんですよ」
猟師の家系だけありコペル君は鍛冶屋との繋がりが深いようだ……モブ・ボッチって名前に疑問持たないのかな。
「モブ・ボッチだぁ!?その剣は……まさかあんたは!」
流石はドワーフ、ベーロウを見て俺の正体に気付いたらしい。
「初めまして、モブ・ボッチと言います。今日はお願いしたい事がありまして、お邪魔させて頂きました」
ドワーフに向かって目配せする……これって見ようによっては、おっさんがおっさんに向かってウインクしている様にも見えるよな。
「話を聞きましょう。でも、条件があります。その剣を見せて頂けますか?」
ドワーフの目はベーロウに釘付けだ。いわば本物の神様が作った剣だ。
(ベーロウ、あの人の腕は合格か?)
でも本人に許可をとらないとまずい。竜族だけあり、ベーロウはプライドが高いのだ。
(合格じゃ。はよ渡せ)
鞘ごとベーロウを手渡す。一度本職に手入れしてもらいたかったから、ありがたい。
「お願いします。そして作って欲しいのは小さい鉄の玉です」
大きさとイメージをドワーフに伝える。
イメージは種子島に使う弾だ。確か溶けた鉄を転がせば出来る筈。素人考えだから、口を挟まないけどね。
「分かりました。ちょっと、待っていて下さい」
有り難いけど、敬語は止めて下さい。コペル君が怪しんでいます。
◇
研ぎ&鉄弾が出来上がるまで、必要な物を買いに行く事にした。
「携帯食と飲料水。それに防具を揃えたいですね。コペル君も防具を買って下さい」
俺の防具もそうだけど、コペル君の防具も買っておきたい。コペル君が今着ているのは、厚手の布の服。動きやすいだろうけども、防御力は皆無だ。
「僕はアーチャーだから大丈夫ですよ」
金が心配らしく、コペル君は遠慮をしてきた。コペル君は俺に戦いを教えて欲しいと頼んできた。戦いを教えてもらうには冒険者学校に入るか、弟子入りするのが普通である。どちらも無料ではない。学校には授業料がいるし、弟子は雑用をこなさなきゃいけない。
今回の場合は依頼料の取り分を多くするか、顎で使いまくっても文句を言われない案件なのだ。
鍛えて欲しいと言われた若者に物を買ってあげる独身で彼女のいないおじさん……字面だけ見ると、腐臭を感じてしまう。
「相手はスピアゴートなんですよ。俺は死体を担いで山を降りたくないんでね」
なにしろ今回戦うのはスピアゴートだ。あいつらの角の前では、布の服なんて紙きれ同然。本当は金属鎧を着せたい位だ。
「し、鹿狩りは何度もした事があります。それにスピアゴートを見た事ありますけど、襲われた事なんてありませんよ」
俺は食糧確保の為、こっちの世界で鹿狩りをした事がある。基本は待ちだ。通り道で待機して、鹿を狙う。
「最近魔族が出没しているとの話を聞きます。今のスピアゴートは危険ですよ。人を見つけたら、突進してくるでしょう。下手すりゃ串刺しです。冒険者として生き残りたきゃ、臆病で我儘になれ。あいつ等はお前が思っている数倍ずる賢いんだぞ」
嫌われても構わない。コペル君にも家族や恋人がいる筈。その人達の為にも、この気持ちのいい若者を死なせる訳にいかない。
「生意気言ってすいませんでした……防具屋はこっちです」
コペル君が謝ってくれたけど、気まずい。さっきの言動は完璧にパワハラ上司じゃん。
防具屋で中級者向けの革鎧を三点購入。一個はコペル君用で、もう一個はローテーション用……革鎧って汗を吸うと地味に臭くなるんだよね。
スピアゴート対策の鉄の弾もゲット。鉄の弾はスポーツドリンクが入っていたペットボトルに入れておく。これで戦闘はなんとかなる。
◇
やばい。気が重くなってきた。雨とか降らないかな。
「それじゃ行きますか。道案内をお願いしますね……あの岩山なんですよね」
目的地は遥か彼方に霞んで見える岩山らしい。遠いし、見ただけでけわしさが伝わってる。
「そうですよ。五時間もあれば着くと思います」
五時間も歩いて、そこから山登りですか……さっき偉そうな口を叩いたから、情けない所は見せられない。
「コペル君は冒険者としての目標とかあるのかい?」
教え導く者として弱気な姿は見せられません。見栄も張り通せば、事実になる。
「強くなって領主様に、ミー様に会ってお願いしたい事があるんです!」
ミー様?ここはカーゲ子爵領だよな……ミー・カーゲ子爵?
「ミー・カーゲって猫人のミー・カーゲ……様?」
姉さん、王宮騎士しているんじゃなかったっけ?カーゲ姓はピューラファイに多い苗字だから、そのパターンは想像しなかった。
「十年前に爵位を授かったんですよ。救世主パーティーにいたメンバーが、いつまでも王宮騎士じゃしめしがつかないって」
いや、王宮騎士も十分高給取りですよ。貨幣価値で換算すると、軽く俺の月給の十倍はもらえる筈。
(当時から姉さんは獣人からの支持率が高かったもんな。ミーを貴族にする事で、獣人の不満を解消したのか)
「俺は、はこっちの方面に久し振りに来たんですが、ミー様の治世はどうなんですか?」
手先が器用でアクセサリーとか作っていたけど、政治には無関心だった気が。
「工業を発展させて、領の経済を潤してくれました。確か王宮騎士時代に政治の勉強をなされたと聞きました。ただ人手不足で大変だとお伺いしています」
そりゃ、そうだ。今まで家臣なんていなかったんだし……昔馴染みの為だ。馬鹿にお灸を据えてやりますか。




