怒気術、炸裂?
逃げない俺を見て、なすりつらけれると思ったらしく陽キャパーティーはにやりと笑った。
(素直に助けて下さいって言えば考えてやったんだけどな……あぁ、俺ってFランクと思われているのか)
それなら助けを求める訳ないよね。
「Fランのおっさん、悪いな。俺達の明るい未来の為、犠牲になってくれ」
戦士風の青年がニヤニヤしながら、声を掛けて来た。着慣れない金属鎧の所為で速度は出てないし、付けまくったアクセサリーがジャラジャラと音を出していてオークを惹きつけている。
「って事は、オーク退治の依頼は俺がもらっても良いんだな?」
後からごねられるのは、面倒だ。きちんと了承を得ておきたい。
今の時期若い雄オークはコミュニティ造りの為、一族から離れる。立地の良い場所で仲間とコミュニティを作り、雌オークを待つ。そこで子供を作れたオークだけが、一族の元へと戻れるのだ。
「良いぜ。くれてやるよ。まあ、精々時間稼ぎをしてくれよな」
魔法使いも走っているけど、ローブが足に絡まって、こちらもスピードが出ていない。しかも遠目からでも見える派手さなので、オークの視線から外れる事はない。
雄オークは自分の強さを証明する為、冒険者の装備を強奪する。戦士のアクセサリーや魔法使いの派手なローブは格好の餌食なのだ。
「ちょっと待ってよ。私みたいな美人がオークに捕まったら、やばいでしょ!?」
神官少女は俺と目が合うと、露骨に視線を逸らした。助ける対価に身体を差し出せとでも言うと思ったんだろうか?
残念ながら、俺にはセリュー様とソレイユ様の加護がついている。下手な事したら、お二方から叱られるのだ……ちきしょう。
それとオークが他種族の雌を襲うって言うのは迷信です。彼等はオークっぽいオークが好きなのだ。ただ他種族とはいえ雌の臭いがしていると、雌オークが寄って来なくなる。
だから血眼になって追い払おうとするとの事。そしてオークに襲われたって、事件の殆んどが幻術を使った猿人の仕業らしい。
「逃げて下さい。オークに襲われますよ」
例のアーチャー君だけが、俺に逃げる様に言ってくれた。彼だけでも助ける価値はある。後の三人はおまけだ。
「大丈夫ですよ……やっぱり、そういう事ね。さてと、どうしようかな」
神官が置いて行った依頼書はこう書いてあった。クルミの木の近くにオークがコミュニティを作り始めたので、追っ払って欲しい。
そう、オークを倒して欲しいとは一言も書いていないのだ。
「凄い……オークの攻撃を全部交わしている……でも、なんで反撃しないんですか?」
だってオークも被害者なんだもん。独身彼女なしオークが、結婚を夢見て仲間とコミュニティを作っていた。餌となるクルミの木が側にあるベストポジションだ。
仲間と色んな話題で盛り上がったと思う。
そこに陽キャパーティーが現れて、突然襲い掛かってきた。
オタクをカツアゲするDQNみたいなもんだ……どう考えても、俺はオークの味方なんだよな。確かこの辺の森は国有地だし。
(まずはオークを大人しくさせないとな)
こいつ等は、雄しかいない。ならあれを使うか。
「我が悲しみを汝らにも与えん。愚痴級。それは虚無。それは悲しき男の嘆き。自分で自分を慰めし、悲哀なり。訪れよ!賢者の時間……沈静!」
俺の手から放たれた黒い霧がオーク達を包み込む。
カームは敵を捕縛したり、暴動を鎮圧したりする時に使う魔法だ。今回は怒気術に乗せる事でパワーアップさせてみた。
(おうおう、オーク共が、しょげ返って体育座りしておるわ……カームを使ったのが、おっさんだったから心に響いたみたいじゃの)
ベーロウはそう言うと、楽しそうに笑った。オーク君、良く見ておきな。これが三十路独身おじさんの寂しさだぞ。
(うっさい!オークは被害者だからな。殺す必要はないだろ)
ふと見ると、アーチャー君がこっちを見ている。
これは名乗らなきゃいけない流れだ。この空気でモブ・ボッチはきついな。
(本名の方がまずいじゃろ。それに偽名でギルド登録は法違反だぞ)
ですよね。俺が邪神騎士だとバレたら、パニックになりかねない。なによりまた無茶振りの嵐が来てしまう。
「……あのお願いがあります。僕に戦い方を教えて下さい。僕の名前はコぺルタ・サングリエ。コペルと呼んで下さい」
コペル君はそう言うと、頭を下げて来た。俺は青い森亭の依頼を片付けたら、ここを出て行くつもりだ。
「私は弓を使うのは得意じゃありません。でも戦いのイロハなら伝える事ができます。それで良かったら、パーティーを組みましょう」
コペル君の父は猟師をしているそうだ。身近に弓があった事もあり、アーチャーを志す様になったそうだ。
「兄がいますので、僕は家を継ぐ事は出来ません。学校にも行っていないので、冒険者になって生計を立てようと思ったんです」
剥ぎ取りや荷物持つの雑用をする事を条件に、リア充パーティーに加入させてもらったそうだ。
「あの三人は良いとこの子供なんですか?」
戦士の剣はかなり高級な物だったし、神官や魔法使いになるのは一定の学力が必要だ。
神官の場合は修道女になって修行するって手もあるけど、あの子は違うと思う。
「確か南東にあるオルグイユ伯爵領から来たって聞きました“ジュマン様に、あんな奴等より私達の方が優れているって認めさせるんだ”って言ってました」
ジュマン……どこかで聞いた事があるような……オルグイユ伯爵とは会った事がないので気のせいだと思う。
「そうですか……猟師ならオークのコミュニティにぴったりな場所知りませんか?」
コペル君の案内でオークを新しいコミュニティ候補地に連れて行った。理想的な場所だったらしく、オークは何度も頭を下げてきた。
◇
無事、依頼達成。コペル君が受付けに達成報告をしてくれたので、スムーズに処理してもらえた。俺はきちんとオークをクルミの木から追い払ったので、依頼達成である。
そして向かうは青い森亭……の裏口。
「あのもう閉店時間なんですけど……」
現れたのは清楚な美人さん……これはひょっとしてひょっとするのでは。
(ソーレを追い払ったら、好感度上がりまくりなんじゃないか?)
マリアさんと違って、この人は未婚の筈。ビッグチャンスの予感だ。
「ご主人様に頼まれてイチゴを採って来たんですよ。これを渡してもらえれば分かります」
ブーンさんから預かってた木片を女性に手渡す。デート代はたんまりある。ソーレも怖くない。これはフラグ確定でしょう。
「はい。お待ち下さい……お父さん、お客様―」
わくわくしなら待っていると、やって来たのは娘を伽に出すと言った男性だった。




