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邪神騎士、巻き込まれる

 この世界の薬草には、様々な薬効がある。呪いを解いたり、傷を治したりとかなり万能だ。……なんで草がそんな力を持っているのか。

 ちなみに薬草という種別はない。植物の中でマナを溜め込む性質を持った物を、薬草と呼んでいるのだ。それらを特定の素材と混ぜる事で、独自の薬効を発揮するのである。


「今回採って来るのはピルークか。確か草原に咲くんだよな」

 薬草を探すコツはただ一つ。マナの濃い場所を探す事。ただマナの濃い場所には、魔物もよく出没する。だから冒険者に採集依頼がくるのだ。


「向こうの方にマナが濃い場所があるぞ。あの白い花が咲いている所じゃ」

 流石は邪竜様、簡単にマナの濃い場所を特定してくれる。俺だと鑑定を使いながら、絞り込まなきゃいけない。


「助かるよ。ところで龍族のみんなは元気か?」

 俺の持っている剣には邪竜ベーロウの力と人格が宿っている。本体は別の場所で暮らしており、剣と意識がリンクしているらしい。


「龍族は、長命で頑強じゃ。病気や怪我と無縁じゃよ……お前がまだ独身と聞いて、皆も呆れておったぞ。かみさんから伝言じゃ“自分はモテない駄目男なんて諦めて、努力をしない男に惹かれる女はいません。傷付きたくないからって、動く前から諦めていたら何も変わりませんよ”だそうじゃ」

 ベーロウは既婚者だ。奥さんはソレイユ様に仕える白竜。俺も何回か会った事があるけど、ベーロウは奥さんにベタ惚れしている……なんで既婚女性の駄目だしって、こんなに的確なんだろう。


「耳に痛いお言葉でございます。仕事に追われて、自分磨きを疎かにしていたもんな」

 平日はへとへとになるまで、お仕事。休みは体力回復と称して、だらけていた。


「親しい女子は一人もいなかったのか?」

 これは難しい質問だ。なにを以て親しいとするのか?職場で普通に話す人はいるけど、プライベートでは一切関わりがない。


「強いて言えば、よく行く弁当屋の娘かな」

 日常的にラ○ンとかで交流しているのは大崎姉妹しかいない……もっとも親父さんの方が頻繁にやり取りしているんだけど。


「なんだ。ちゃんとおるではないか。心配して損したわ。それで、どんな女子なんじゃ」

 ベーロウは、安堵の溜め息を漏らしたかと思うと、期待のこもった眼差しで見てきた……過剰な期待は止めてください。普通の男性なら大崎姉妹はカウントにはいらないと思います。


「年は十七で双子の姉妹だ。あの子達が五歳のころから通っているから、もう十二年の付き合いだよ」

 ベーロウは、失望の溜め息を漏らしたかと思うと、憐れみのこもった眼差しで見てきた。仕方がないだろ!後いないんだもん。


「十七ってお前、犯罪じゃぞ……客への愛想笑いを勘違いしていないか?逆に嫌がられていないか、心配になってきたわ」

 手を出していないし、はなから相手にされると思っていないから無罪です。


「ちゃんとバレンタインにチョコもらったし、買い物にも一緒に行ってますー」

 桜のは、手作りなんだぞ……今年も義理のみでした。


「それって常連へのサービスじゃろ。買い物はナンパ除けと荷物持ちだと思うぞ……ちゃんと現実を見ような」

 運転手って役割もありますー……駄目だ、泣きたくなってきた。


「そこ位しか親しい異性いないんだって……さて、採集を始めるか。確かハサミがあったよな」

 収納空間から軍手とハサミを取り出し、採集を開始。鑑定のお陰で高品質の薬草を選別できる。

 質が悪くても薬草は、薬草だ。残す事で種の保存につながる。


「他には何か採集していかんのか?今の時期なら野イチゴが取れるぞ」

 野イチゴか。当たり前だけど野生だから、酸味が強い。舌の老化なのか売っているイチゴでも、酸っぱく感じる俺は遠慮したい食物だ。


「野イチゴは単価安そうだよな。でも、来たついでだし採っていくか」

 数が取れれば青い森亭に売りにいけるかも知れない。買ってもらえるかは別で訪問する理由にはなる。

 青い森亭は剣苺を欲しがっていた。ランクの低い物を買ってもらおうとする冒険者は少なくない。つまり野イチゴを持って行けば、青い森亭の主人と自然に接触出来るのだ。


「数が取れたら転移させてもらうぞ。カミさんの作るイチゴジャムは絶品なんじゃぞ」

 さらりと奥さん自慢ですか。羨ましくなんてないんだからね。


「イチゴはあった、あった。さて採るか……今のは悲鳴じゃないか!?」

 普通の人はこんな所に来ない。来るとしたら、冒険者だ。他人の依頼や戦闘には、むやみに手を出さないのが暗黙のルールである。

 これにはきちんとした理由があるのだ。素材や報酬の取り分でトラブルになるからだ。


「おい、あそこにいるのはギルドにいた小僧達ではないか?」

 ベーロウの言った通り、ギルドで俺に絡んだ陽キャパーティーがオークと戦っていた。遠目で見いても劣勢だと分かる。

 せっかく、アドバイスしたのに派手な恰好のままだ。アーチャー君が忠告したけど、聞く耳をもたなかったんだと思う。


「あー、この時期のオークは群れで行動するって知らなかったんだろうな……でかいイチゴ発見」

 オークの数は全部で五匹。統制も取れており、確実に陽キャパーティーより強い。


「あの態度ではギルド職員のアドバイスもきちんと聞いておるまい…どうでも良いが、こっちに来るぞ」

 ベーロウの言う通り、陽キャパーティーがこっちに向かって来ている。そしてそれを追うオーク。

(俺にオークをなすりつけるつもりか。まだ甘いな)

 戦闘に備えて、ベーロウを鞘から抜く。


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