表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影を繰り  作者: まぐろしすてむ
一章 夢現の住人
6/12

「第五幕︰ミヤコの魔術師」

ちょっとキッカリに間に合いませんでした。くそぅ。

五月九日。

昼間こそ過ごしやすい温かさに覆われていたこの街も、この夜は少し肌寒い程に冷えていた。その寒さは俺たちの住む所には無い高層ビルの無骨さを助長させ、昼間の来る者拒まずな歓迎ムードをすっかり逆転させて俺を迎え入れる。


倉間市にとってのメトロポリス。

夜のミヤコに一人で来るのは、これが初めてだった。



「ハラツカ防衛軍の再興じゃねーか!うはーー!!」



昼間に学校で事件の調査協力を頼んだ時の、一茶の上擦った声と顔がふと脳裏に浮かんだ。

その場に幸樹もいた為に二人にはすぐ話を出来たが、今日も薫には会えなかった。学校には居たという話を聞けたので、とりあえずは良しとしよう。


特にあてもなくミヤコを散策する。

時刻は先程日付を回り、五月十日の深夜1時を迎える所だ。

記憶が正しければ、そろそろココでも奴の魔術が発動していておかしくない。前回のような遅れを取らないためにも、臨戦態勢である事は必須の条件だ。

呼吸は安定している。

今ならいつでも影を展開できる――――――。






視線の端、空が瞬いた。

それが魔術によるものだと即座に判断した次の瞬間、思考が停止した。

小さい。とてもじゃないが、仮説に立てたような町を覆えるような大きさの代物ではない。それどころか…


こちらに、向かってきている。

結界などではなく攻撃の為に練り上げられた魔力の、

集めるのでない、人を殺す為の力の塊――――!


着弾まで一秒と無かった。

なるべく遠くへ転がり出て、申し訳程度の影を張る。

クソ、結局蛇の時と同じ展開だ。

…しかし。


「派手に弾けたりは…しないか。」


それは地面を大きく抉ってみせはしたものの、範囲を重視した破壊をもたらす事はしなかった。それによく考えれば、コレは随分とヘンテコな軌道で飛んできた。

追撃も無い。


「流れ弾…誰かが戦っている?」


嫌な予感がする。

当初の予定は無視し、それの飛んできた方向へ走る。


何発か打って当てるようなタイプなら、そう遠くからは飛ばして来ていないハズだ。


「ハァ………ハァ、っぐ…!」


ずっと研ぎ澄ましていた神経を放棄して走り出したせいか、幾分肺が痛くなるのが早い。身体にも酸素が回りづらい感覚がする。

しかし、今はその痛みも置いていくように進む。



もしかすると、コレに関わった時から危惧していた、最悪の展開になっているかも知れない――。




[-INTRUDE-]


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やはり来たな、影の魔術師。」



足が止まる。

目の前には堂々と立ち塞がった、全身を白で覆った年の変わらぬであろう少年。


初めて見る顔の筈だが、彼がこちらに向けてくる視線は、まるで因縁めいた何かを匂わせてくるような鋭いものだった。

それが何かの合図にならないよう祈りながら、私は尋ねる。


「誰なの?」

「本堂月乃。俺も魔術師だ。」


本堂月乃。本堂。

確か、ここ倉間市に居を構える西日本でも名高い魔術師の名家だ。おじい様から話は聞いている。

私は魔術師じゃない、と言い返しても良かったが、ここは堪えて、本堂の目的を探る事にする。


「あなたもアレを追ってるの?」

「そうさ。アレはいわば魔術連合から滲み出た膿のような者ではあるが、それなりに出来る奴でもある。だから、この俺が直々に引導を渡してやろうとしてるのさ。」

「そう。私もその魔術師を追ってるの。……ねぇ、目的が同じなら、少し手を貸して貰えないかな。」


血の気の多い彼をなるべく刺激しないように、明るい調子を崩さずに少し詰め寄った。




どうやらそれが、彼の機嫌を損ねたようだ。

――いや、今にして思えば彼はハナからそうするつもりだったのだろうが――

次の瞬間、頭の横を一瞬で敵意の塊がすり抜けて、背後に大きな傷を穿つ。


「この件にこれ以上影使いが介入する事は、俺が断じて許さん。…次は耳を抉る。」


撃鉄を起こすかの如く、機械的に二発目を構える。

間違いない、次は本気で当ててくる。



本来なら、ここは逃げるべきだろう。

逃げて、関わりを断ち、何も無かったことにすれば、まだ何も、誰も傷つかない。



しかし、それでも進み始めた人がいる。


「ここに、第二角の名を持って顕現せよ。」


ひとりにしないと決めた人。孤独な約束を、必ず「果たさない」ようにしようと決めた人。


「その力は、我が影を持って万象を成す――!」



私は逃げない。私だけ、もう逃げない。

私は何より、先輩と並んで歩いていきたいから――!



力の増幅を察知してか、二発目がすかさず飛来する。

現在の間合いは約二十メートル。姿勢を低く保ったまま突進し、すれ違うようにそれを躱して、一歩、二歩。


間合いを一気に、残り二メートルにまで詰める。

駆け引きは迅速に。攻撃はより丁寧に。

大丈夫。このスピードなら、私だって――――!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


殆ど止まらず走り続けて、ようやくそれは見えた。

戦闘機を執拗に追う戦艦の掃射のように、薙ぎ払うような光弾が飛び交っている。


そしてもう一つ感じるのは、自分にもあるモノによく似た感覚。どうやら、遅かったらしい。


「ったく、無茶しやがる…!」


少しでも高台を目指して、近くの建物をよじ登った。



見つけた。やっぱり涼香だ。

飛びかかる光弾の雨を、縫うように躱して走っている。

しかしその姿は、もはや本当に走っているのか分からない程に俊敏で、いつ見失ってもおかしくない程だ。



長倉家。

彼女の家は四条家よりも上位にあたる影術の家系だ。

しかし現在、かつての名家の威はなりを潜め、ただ一人の跡取りとなった彼女は現在、四条家の庇護を受けながら京都で暮らしている。


確かに彼女は跡取りとしてマトモに影術を習っている影使い。影の質も、俺なんかでは足下にも及ばない。


しかし、彼女は魔術師なんかと戦う為ではなく、思い出のある自分の家を守るために家督を継いだのだ。

だから彼女を守るのは、何よりも俺がやらなくてはならない使命の筈だ。

四条家としても。そう彼女に約束した、一人の男としても。


気付けば身体は宙にあった。やるべき事を見据えたのなら、もはや止まっている訳にはいかない。


光弾を放つ間、奴は背後を向いている。今なら――。


この影は、同じくその名を冠するそれとは別物だ。

特定の空間一面に影を広げて覆ったように、自分の辺りの空間のみへ、身体から滲み出すように影を展開し続ける事も可能である。


涼香はコレを体表に一切出す事無く、それどころか自らの筋肉に循環させる事で俊敏に動くらしい。


俺が出来ることは、いつものように造る事だけ。

この一撃にも、俺が持つ最強の業物を用意する――!


「影質は深層。属性は黒……象るは…「槍」!!」


右手を背後へ伸ばす。

うねりは細長く渦を巻き、次の瞬間には明確なカタチとなって右手へ握られた。


完成度は抜群。威嚇用には申し分ない精巧さだ。


建物を飛び移って奴へ迫る。もう少しだ。


魔術師がこちらに気付く。攻撃を中断すると、俺の方へと向き直り―――――口の端を上げ、視線を返してきた。



「…!あのバカ!!」



その背後には、攻撃の中断をチャンスとばかりに突撃してくる涼香。

魔術師は得意げに、決して彼女には見えない位置で指を掲げる――――――。



「ボカン。」



奴の背後が眩い光を発した直後、奴だけを避けて熱線と爆風が起こった。


煙の横が歪む。そこからは…。

影を体内で留めたことが仇になったか。

恐らく殆どの爆風を真に受けた涼香が転がり出て、屋根の端からその姿を消した。




「~~~~~~~~~~~!!!!」




あらゆる感情が臨界点を超える。もう、止まらない。



握っていた槍を、更なる影で覆う。

とびっきりの貫通力の殺意を込めたそれを、ためらう事無く投げ飛ばした。

イントルードしてみました。

たまには目線が変わるのも、ね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ