9-人思耽
今回は完全に登場人物紹介です
夜。
もうすぐに5歳となるエルゲンは屋敷の生活に思いを馳せていた。
年齢の更新、誕生日、ある種の節目となる今、自身の思考の整理の一環だ。
(最初は言語の習得から始めたのだったな)
その時から何かと縁があったのがリジェンダ=サイブールだ。
エルゲンより5つ年上で髪は銀色のショートヘアの少女。
まだ言語が理解できなかった頃、本を読み聞かせ。その後は修練仲間といったところか。
将来は俺の護衛になるらしい。
そのために騎士学校の近衛特科に入学して以降は、それ以前に比べて一緒にいる時間は少ない。
とはいっても休日や、修業後に屋敷にやってくるので疎遠とは無縁だが。
実際にそういった時間に魔活法と硬剣法を教えさせている。
リジェンダについては改めて何か考えることもないだろう。
長く一緒にいるから、自然とリジェンダについての知識はついている。
リジェンダは、まぁ従順だということは評価できる。
腕っ節も、おそらくは悪くない。もちろん年齢を考えればの話だ。
それでもエルゲンには及ばないが。
(リジェンダといえば、あの男か)
カイン=サイブール。
屋敷での立場はギュンターの護衛であり、リジェンダの父親。
リジェンダと同じ銀髪の男性。年齢は、見た目30過ぎといったところだ。
アーガネルト家との関係はそこまで堅苦しいものではないようで、屋敷ないでも気を楽にしているように見える。
護衛としてはどうかと思うが。
この男は実のところ共にいた時間はかなり長い。
屋敷の庭での修練に、カインはリジェンダを指南していたからだ。
とはいえ直接の関係性は深くない。
こいつについてわかる事は剣の腕がたしかだということ。
直接戦った事はないが、接近戦だけという状態ならばエルゲンを上回るだろう。
前述したように、この男とはそれなりに長い時間共にいた。
だが、最近になってその環境は変わった。
いつも家を開けて、たまにしかもどらないギュンターの護衛についたのだ。
それまではギュンターが家をあけている時は屋敷にいたのだが。
尤も、こいつの役職を考えればこれが正常なのだろう。
こいつ自体何かをたくらむような人間ではなさそうであるし、放っておけばいい。
(人物評でまっさきに浮かぶのが血縁でもないこの二人か。家族で印象に残っている人物と言えば・・・・・・)
ギュンター=アーガネルト。
エルゲンの父親だ。
年齢は知らんが茶髪で顎鬚のせいか40ほどに見える。
例の件で知ったがこの狸、エルゲンよりも魔術の腕が優れている。
魔術で戦えば、俺が負けるかもしれん。
だが、それでこそ利用価値があるというものだ。
そしてそれはギュンター自身も望んでいる。
それは父親としてはどうかと思う思想ではあるが、俺の好みだ。
そういえばこいつの仕事とはいったいなんのだろうか。
責任が重大であるらしく、家を長くあけることもある仕事か・・・・・・。
それに加えて、たしかこいつは俺が2歳になるころからこの仕事を始めていたはずだ。
これが凡愚の事であるのならば俺も気にしないのだが、ギュンターは油断ならない人物だ。
もうじきその仕事が終わるとはいえ、頭から追い出せるほど気楽にはいかんな。
(油断ならないとはまた違うが、奴はな)
使用人、ケイト。
金髪の20代半ばほどに見える女性。
彼女は完璧だといっていいだろう。
使用人として優秀なスキルを持ち、エルゲンにも従順だ。
リジェンダと違って、俺にまとわりついてくることもなく、しっかり距離感も守っている。
だが、彼女にはやや不気味な点がある。
どうにも俺を妄信しすぎているし、あの奴隷を見る時の目が何かおかしいのだ。
それが害意ではなく、どちらかという好意的な視線なのがなお気味が悪い。
ギュンターと違い、俺をどうにかできる能力があるわけでもないからほうっておいているが。
(不気味とは違うが、奴は何をやっているのか)
エルゲンの母。イルマ=アーガネルト。
はっきりいってエルゲンはこの母のことをほとんど知らない。
2歳から3歳の頃はギュンターと共に仕事に行っており、それ以降は妊娠して屋敷にこもっている。
エルゲンも屋敷にいるのだが、彼女はエルゲンを避けており接触は皆無といっていい。
ちなみにイルマもギュンターやカインと共に、仕事に向かっている。
本人は若干不本意そうであった。
(そういえば、わすれかけていたが)
最近増えた屋敷の住人。リム=アーガネルト。
イルマが生んだエルゲンの妹で、年齢は3歳下だ。
このリムに関しても、エルゲンはほとんど知らない。
今だって忘れかけていたところだ。
どうもイルマがエルゲンと接触させたくないらしい。
前に聞いたことがあるが、ケイトやリジェンダもあまり接触させてもらえていないらしい。
世話もほとんどイルマが行っているとか。
まぁ、いい。今は母にしても妹にしてもエルゲンの興味の対象外だ。
(最近増えたといえば、あいつだな)
奴隷、そして使用人見習い。フィリア。
基本はピンクブロンドだが毛さきは白いという髪をもった、見た目は俺と同じ程度、実年齢はリジェンダと同じ程度という少女。
最初はほとんど死に掛けており、人間にすらみえない腐肉塊だった。
それを治療できる証明をしたのが彼女の一番の意義だろう。
以降は使用人見習いとして、元気にしている。
能力面に特筆することは何もない。
フィリアを教育しているケイトは、前述しているとおり俺を妄信しているふしがある。
それでもしっかり現実を見ているのは、評価できる事だが。
(屋敷内の人間の関係は悪くない、か)
エルゲンは別に良い関係を築きたいわけではないのだが。
まとめてみれば、屋敷でのエルゲンの立位置は悪いものではない、むしろ良いだろう。
普通はエルゲンのような子供を見れば嫌悪しそうなものだが、変わり者ばかりだ。
エルゲンに不利益はない。
これからも彼らには役に立ってもらおう。