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モテ期

 ネクロマンサーと、ソウルテイカーの違いを見せ付けられ、私はただただオッサンを見直していた。

 だって、まさかある程度まで弱らせるだけで操れるとか思ってなかったんだもん。

 オッサン曰く、カンストしてから覚えるスキルの効果らしいんだけど、カンストがなくなった今、そのスキルを覚える冒険者が大勢……あ、ソウルテイカーって職種は一般冒険者には選べないんだった。

 そりゃそうなるよ。

 弱らせただけで操れるんならPVPし放題だし。戦争だってもっと増えるだろうし。とにかく、治安に良くないわ。

 まぁ、今は物凄く助かったんだけど!

 今後ソウルテイカーをどうするのか、大きな課題になりそうね。

 あー、そうじゃなくって!今は光の女神主催の、闇の女神最大の就任イベントの真っ最中だっての!

 とりあえず初期村周囲に他のレイドの気配はないから、ここはマエストロのゴーレム2体に任せて大丈夫かな。

 「レイドが現れたらスグに連絡してくれ」

 ゴーレムを召還したマエストロに声をかけると、マエストロは丁寧にお辞儀を返してくれた。

 「仰せのままに」

 ちょっと大袈裟だとは思うけど、突っ込み入れてる時間もないし、このまま行くよ?良いよね?

 通信機でレイドの場所を確認してみると、あちらこちらで討伐に成功している冒険者達がいて、パーティー募集もしていて、盛大にイベントを楽しんでいるようだった。

 だけどマップを見るとまだまだレイドは存在していて、ゆっくりと確実に町に向かって前進している。その目的地は首都ではなく、元光の神殿、現闇の神殿がある町。アオリやマヤ、レオナ達のいる町。

 残っているレイドが一気に来たら、恐らく冒険者達に勝ち目はないだろう。

 「レイドの群れに突っ込む!オッサンは弱ったレイドを片っ端から仲間にしてくれ」

 さぁて、行こうか。レベルもなにも関係ない。ただレイドの注目を私に向けられればそれで良い。1体でも多くのレイドの足が町に向かわなくなるだけで良い。

 「女神様、無茶です!」

 やかましい。

 そんな事は私にだって分かっている。だけど、守りたいんだからしょうがないんだ。私は、この世を守る盾でありたい!って、これレオナの受け売りじゃないか!

 守れる何かがあるのって、凄く・・・生きているって感じがするよ。ニートで、引きこもりだった私にはなかった感情。

 「光属性が相手なら、私が1番強い!」

 もうね、負ける気がしないよね。例えるなら、ボス戦の前にファンファーレが鳴っている様な感じ。あ、これ絶対勝てるイベントだ。そう分かってから始まるイベントCGを見ている感じ。

 「女神が倒されると世界はどうなる?自重すると言う考えは持っていないのか?」

 頭の中で闇の女神が冷静に語りかけてくる。

 確かに、多くの魂を費やし、ソウルテイカー達が命をかけて蘇らせた闇の女神の命を冒険者達の盾にしようだなんて可笑しいのかも知れない。

 だけど私は敵の注意を逸らす為に突っ込む。

 GAMEOVERが嫌なら、闇の女神自身が主人格として現れて私を止めてみろ。倒されたくないと言うのなら、闇の力を解放して自分で戦え。

 「光属性が相手なら、お前が1番強いだろ?」

 まぁ、それは相手にも言える事なんだけどさ。

 闇の女神の属性は当然闇。闇の弱点は光。お互い弱点同士だから与えるダメージは大きいけど、受けるダメージも大きいという同じ条件。

 そうか、だから闇の女神は表には出て来ないのか!

 主人格が私なら、この体は人間。ヒューマンは闇と、光属性に対する耐性がある。

 あぁ・・・駄目だ。

 ますます負ける気がしない。

 バイクを召還して乗り込み、後ろにオッサンを乗せてレイド達の群れに突っ込む。勿論ヘイトを唱えつつSHOCK WAVEを四方に放ちながら。

 闇属性の乗っかった攻撃でレイド達の注目は私に集まり、

 ズズズズズ。

 大量の砂埃を上げながら方向転換して、バイクで疾走する私の後ろを着いてくる。

 少しでも立ち止まれば囲まれて一斉攻撃を受けてしまうだろう。そうなればいくら光耐性があるとはいっても2次転職を終えたばかりの私では数秒ももたない。

 いや、今はレイド討伐に成功した冒険者が援護に来るまでの足止めをするだけを考えれば良い。

 後ろに乗っているオッサンは、振り落とされないようにしながら時折魔法攻撃をして、どこから現れたのかゴーレムも2体現れた。

 それでも敵の数は多いから余裕なんてものは何処にもなく、通信機でアオリに連絡を入れる事しか出来ない。

 「アオリ、そっちの様子はどうだ?」

 声を出して思ったのは、私ってば、今物凄く楽しそうに喋ってるって事。余裕も何もないのに、立ち止まれば女神諸共倒されると言うのに、それでもどうしても勝てるって信じてるから頭の中では余裕なんだ。それでいて必死に何かを守れているって充実感?

 「えぇ!?女神様!?」

 後は、この妙に自信なさげなイケメン君が、今どんな顔で話してるのかな?って・・・そうじゃないだろ私!

 アオリはアオリで戦ってる最中だと思ってたけど、通信機の向こう側から聞こえてくる音に戦っている気配はない。

 「手が開いたらレオナ達をこっちへ誘導してくれ」

 レオナならレイドのヘイトを引き受けてくれるだろうし、アカネが入ればそんなレオナをサポートしてくれる。とは言ってもレイドはこの数、まずは1体レオナに任せてある程度弱らせたらオッサンの術でレイドを操って・・・それを繰り返していけばアカネのMPが枯れるまでは耐えられるだろう。そうなる前に他の冒険者達もここに集まってくれたらイベントクリアしたも同然!

 「え・・・あの、サヤさん?」

 なんだ?その情けない声は。もしかして町に他のレイドが接近しているのか?

 確認するために通信機に視線を落とすが、町の中にレイド反応はないし、町の周辺も平和だ。

 まさか、レイド反応がなくなった事でスクラッチタイムに入ってしまったのか!?まだ緊急イベント中だと言うのに!?

 「レオナは今何処にいる?」

 だとしても、どうにか出来る自信はある。

 「アイテムの補充と整理をする為に倉庫にいます」

 なんだ、スクラッチタイムじゃなかったのか。だけど倉庫整理が出来るまで待っている時間が惜しい。

 「町の近くにまでレイドが来ているから討伐に行ってくる。と、大声で言ってくれ」

 倉庫内に響き渡るような大声で言う必要はないし、ただレオナの耳に入れば良いだけなので大声である必要もないのだが、アオリがやけに深刻そうだから少し肩の力を抜いてもらおうと思って。

 それに、恥ずかしがっている声が聞きたい・・・じゃなくて!

 「あ・・・えぇ?あ、あの・・・町の近くにレイドが・・・その、討伐・・・」

 物凄く、物凄く声が小さいぞ?

 「女神様!攻撃が来ます、備えてください!」

 レイドが放った魔法攻撃を交わし、崩れたバランスを整え、そこをまた魔法攻撃が来る。こうなってしまったら運転に集中しなければならないから、通信を切るしかなくなってしまった。

 随分と中途半端になってしまったが、アオリはちゃんとこちらに向かってくれるだろうか?

 まぁ、緊急イベントでレイド討伐報酬を出す限り冒険者は集まってくるだろう。誰も来なくともマエストロのゴーレムとソウルテイカー達だけでも何とかなりそうではある。もちろん時間はかかるのだろうが・・・。

 「他のソウルテイカー達はこっちに向かってるのか?」

 後ろで振り落とされまいとしているオッサンに声をかけると、

 「各地で仲間にしたレイドと共に」

 と、物凄く心強い返事をしてくれた。

 なら私に出来る事と言えば冒険者やソウルテイカー達の到着まで時間を稼ぐ事。ちょこちょこっと攻撃してレイドのHPを削って、皆が来るまでに1体位は操れるまで弱らせたいかな・・・なんて欲を出しても良い事はないか。

 ズゥゥゥン。

 少し離れた場所から砂埃が上がり、そこで戦闘が始まったようだ。するとまた別の方から「へイト」を唱える声がして、1体、また1体とレイドの注意が私から逸れて行く。

 冒険者達は誰も何も言わなくても大人数パーティーを組み、編成をして、強化されたレイドである事を掲示板で伝え合い、レイド1体1体の弱点やレベルまでもがまとめられ、そのレイドに1番効果的な冒険者達で組まれたパーティーが討伐に当たっている・・・。

 弱ったレイドを操ろうとするソウルテイカーに、経験値が欲しいから倒させろと文句を言う程。

 私達がしゃしゃり出なくとも、冒険者はしっかり町を守れたのかも知れないな。

 これからはあまり出過ぎないで、冒険者が存分に力を発揮出来るサポートだけしよう。今回で言う所の経験値獲得チケットの発行とか、緊急イベントの開催と・・・初期村の守り。

 今回のごたごたが一段落着いたら初期村に引っ越そうかな?それとも初期村の警備兵を増やすか・・・。

 両方だな。

 ガラガラガラ。

 パァァン。

 スゥー・・・。

 あちらこちらでレイドの姿が消えていき、また数体のレイドの注意が私から逸れる。

 バイクを止めても何も着いて来なくなった所で町に向かい、光の神殿内へ。そこで各地から報告された被害状況などに目を通し、新しくレイドが沸いていないかの確認をして、緊急イベントに参加した冒険者の数と発行したスクラッチ券の数を照らし合わせ、最後の1体となるレイドが消えた所で緊急イベント終了のアナウンス。

 「光の女神がまだ何か仕掛けている可能性があるから、次のメンテまで注意を怠らないように。今日はお疲れ!」

 闇の女神っぽく締めの挨拶をして酒場で酒でも・・・と思った所で周囲に集まっていたソウルテイカー達から女神様コールがあがった。

 グルリと取り囲まれては酒場にも行けない。

 「闇の女神様万歳!」

 それは分かったから!しかも私女神様じゃないからね!元廃人プレーヤーな人間のままだからね!

 どうにかして移動しようとしている私の前に、キラキラとした目の2人組がやってきて軽く頭を下げてきた。

 アオリと、マーヤ。この2人は主人格が私だと知ったらどう思うだろう?ガッカリするだろう・・・折角復活させた闇の女神ではないのだから。

 この2人の前でだけでも、闇の女神が表に出て来てくれたら良いのに。それっぽい、なんか偉そうな事でも言ってくれたら良いのに。

 「女神様・・・サヤさん、お疲れ様」

 え?今サヤって呼び直した?

 女神じゃないってバレてるの?それなのに、どうしてまだキラキラした目を向けてくれるの?

 「やるわね、サヤ・・・これからよろしく・・・」

 マーヤまで・・・。

 良いの?私はマーヤを1時間もしないうちに放棄したんだよ?これからよろしくって・・・ありがとう。主人格は私だけど、これから精一杯闇の女神としてこの世界を守るよ!

 「闇の女神様万歳!」

 「女神様万歳!」

 今、私は今までの人生の中で1番注目されているし、感謝されている。間違いなくコレはモテ期・・・なのかな?

 いやいや、モテ期ってこんな感じじゃないよね。

 異世界と言えば・・・恥ずかしげもなく言うならば、ハーレム。いや、別にハーレムを望んでいる訳じゃないのよ?本当に。だけど、想像してたモテ期と違い過ぎるのよ。

 って事は、結局モテ期なんて何処にもなかったって事ね!

「くっそw」

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