第1話
空き地のテントで1人一心不乱にラブレターを書いている厳つい男がいた。
この春高校生になったばかりの男、天王寺隼人である。
「出来た!『いずみ』ちゃん待っててくれよ。ーーさて、今は……ってもう朝か、一晩中書いてたんだな。登校前に何としてでも渡さないと」
昨日の夜から書き続けていたラブレターを鞄に仕舞い、制服に着替えるとテントを飛び出し通学路を駆ける。
彼女を待ち伏せるためだ。
彼女の通学路は詳しくは知らないが、初めてみた合格発表の日には近くのバスに乗っていた。
つまり、そのバスを待っていれば降りてくる確率が高いということだ。
ふふふ、この俺に、抜かりはない。
近くの路地裏からバス停を観察する事約20分。
来た。友達と会話しながらバスを降りてくる。彼女だ。
相変わらず可愛いぜ。綺麗な黒髪に天真爛漫な笑顔。俺のタイプのど真ん中だ。
歩いている彼女の制服のポケットからヒラリと何かが落ちる。
どうやらハンカチか何かのようだ。
「ついてるぜ、話をするいい口実だ」
駆け寄り落ちていた布を拾い上げる。
布を握り締め、チャンスを与えてくれた神に感謝する。
「あの~、何かありましたかい?」
しゃがんで変なポーズをとっていたからなのか背後からお婆さんに声をかけられた。
「おう、大丈夫だ。安心してくれ。これはさっきの女の子の物なんだ。俺がちゃんとかえ…ん?」
「ア、アンタ」
手に持っていたものをお婆さんに見せつつ説明しようとして気が付いた。
握り締めていたものがハンカチでは無いことに。
「パ、パ、パンティ~!?」
思わず天王寺は顔が引きつるのを感じる。
「こ、この変態めが!」
「これは違っ……あっえ?何でパンティ~」
馬鹿な、どうなっているのかなサッパリ分からんが取り敢えず逃げるしかない。
全力で前に向かって走り出す。
「へ、変態じゃ~!下着泥棒じゃ!み、みんなアイツを捕まえとくれ~!」
「違うんだって!」
お婆さんの声に反応した、近くのチラシを配っていたお兄さんがタックルしてくる。
「捕まえたぞ!」
「離せ、違うんだって」
「嘘をつくな!現行犯じゃないか」
くそっ、話にならない。
「伊達に喧嘩に明け暮れてる訳じゃないんだ。なめるなよ!」
チラシ配りのお兄さんを強引に振りほどく。
そのまま近くの路地裏に向かって行き、適当な場所で身を隠した。
息を整えつつこれからを考える。
「とにかく彼女に下着を返さないと、俺は変態扱いのままだ」
下着とラブレターを渡せば、彼女から誤解を解いて貰うと同時に感謝され、彼女もゲットの一石二鳥。
やるしかない。
まだ、俺を探しているようだがこの町の裏道はよく知ってる。見つからずに行けるし、ここから校舎までの道のりは多くはない、校舎に向かえば途中で会うだろう。
隠れた場所から出て、再び駆け出す。
しばらくすると校舎と共に、校舎に向かう彼女の後ろ姿も見えた。
息をあらげた男が女の子に駆け寄るのは怪しさ満載だが追われている以上仕方ない、彼女の近くまで行くと、声を掛けると同時に鞄から紙を取り出してパンツと共に彼女の前に差し出した。
「い、いずみちゃん!これ貴方の落とし物です!それとこれ読んで下さい!」
一瞬ポカンとしていた彼女だったが、パンツと手紙を手に取る。
「えっと古着・下着買います?し、下着……こ、これ私の……」
し、しまった!。渡したのはラブレターじゃない!。あのお兄さんが配ってたチラシじゃないか。いつの間に紛れ込んだんだ。
そんな事を考えているうちに、顔を真っ赤にした彼女が校舎に走り去る。
「変態!」
弾けるような音と共に頬に痛みが走る。
彼女の友達からのビンタだった。
残されたのはヒリヒリとした痛みと赤くなった頬だけだった。
ポンッ。
打ちひしがれている俺の肩に後ろから誰かが手を置いた。
「や~少年、話聞くよ?」
振り返るとニコニコしたお巡りさん達がいたのだった。




