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オシラサマの娘についての記述――奥州神蚕連続変死事件レポート――  作者: 十凪高志


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第13話 栗下林太郎の個人メモ 01

捜査記録 個人メモ 栗下林太郎


 連続変死事件を洗った。

 以下、被害者一覧。


 厚楽良子(43) 酒卸売業者 世田谷 顔面縦方向変形

 斉藤義彦(38) ビール業者 港区 顔面膨張

 山村パターソン(35) 配信者 中野 顔面横方向変形

 三上小五郎(41) 移住支援業者 新宿 口角変形

 佐々々木紀律(47) 怪談作家 高円寺 顔面平坦化

 

 被害者は五人。

 全員に共通点がある。

 一、遠野と何らかの関係がある。

 二、NPO法人ヤママユ会との接点がある。

 三、死因が同じ。顔面変形による神経系壊死。外傷なし。既知の病理なし。


 しかし。

 上の判断は「偶然だろう」で終わった。

 まあ、そうなるわな。

 遠野に関係する業者など腐るほどいる。岩手の物産を扱っている業者を全部洗ったら東京だけで何百件になるか。NPOとの取引記録も、ヤママユ会だけではない。複数の団体と取引していた被害者もいる。遠野との関係も「どぶろくを仕入れていた」「ホップを仕入れていた」という程度で、どれも薄い。

 ただ。

 五人全員、死に様が同じというのはどう考えても偶然じゃない。

 顔面変形による神経系壊死。外傷なし。既知の病理なし。

 これが五回連続で起きている。

 上はそこを見ようとしない。

 あるいは、見たくないのかもしれない。


 まあ、現代社会というものはそういうものだ。物的証拠、理論、因果関係こそが最重要視される。

 現場の刑事の勘、なんてものが重視されるのは刑事ドラマぐらいだ。

 それでいい、そうあるべき、なんだがな。

 どうにも、なんというか。



 さて、件のヤママユ会についても調べてみた。

 正式名称、NPO法人ヤママユ会。岩手県遠野市に活動拠点を置く。最も本拠地は長野県だが。

 設立は十二年前。代表は鍋倉玄条(57)。

 活動内容は天蚕、つまりヤママユガの養蚕文化の保護と継承。遠野の伝統工芸である養蚕文化を保全し後世に伝えるという名目で補助金も受けている。

 ウェブサイトは綺麗に整っている。SNSの更新も頻繁だ。活動報告、体験イベント、地元の学校との連携。見た目はクリーンそのもの。

 しかし金の流れが不自然だ。

 NPOの規模にしては潤沢すぎる。補助金だけでは説明がつかない収入がある。

 どこから来ているのか、現時点では不明。

 噂ではカルト宗教との関係があると言われているが、具体的な団体名はまだ掴めていない。

 現時点では違法性は確認できない。手が出せない。

 だが、刑事の勘がきな臭いと言っている。

 それでも勘で動けないのが法治国家の限界だ。

 くそっ、歯痒い。



 そうこうしているうちに新しい変死者が出た。

 小野寺剛介52歳、男性。牧場経営者。死因は顔面変形による神経圧迫。

 そして住居は……遠野市。

 東京と離れているので、最初は誰も関連付けしていなかったが、偶然耳に入った。

 犯罪性の無いただの変死。いや、変死に「ただの」とつけるのもおかしい話だが……小野寺の死に犯罪性は無かった。


 しかし、死体の状況が酷似している。

 死に顔は確かに他の連中と違っていた。

 馬に蹴飛ばされたように、顔面が蹄鉄の……U字の形に陥没していた。だが、打撃痕ではなかった。あくまでも変形だった。

 そして……遠野の馬をふれあいのためと格安で引き取り、そして……肉にして売っていたという。


 ここで馬、というのが引っかかった。

 遠野と馬には深い繋がりがある。南部馬の産地として名高いし、昔から馬と人の関係が色濃い土地だ。

 民話の類でも、遠野には馬に関係した話がいくつもある。

 なんとなく、この男の死に様は偶然じゃない気がした。

 もっともそんなことは捜査記録には書けない。


 同じ死にざまの人間が出た。これを突きつけて、遠野に行く許可を上に取った。

 上司は、好きにしろといった感じだった。

 この連続変死事件を重要視していない。それはある意味ありがたくもあった。



 遠野での捜査は難航した。

 というより、地元がそもそもおおごとにしようとしない。


「神様の祟りだべ。そういうもんだ」

「昔からそういう話はある。警察が来てもどうにもならん」


 そういう反応だ。どこに行っても同じだった。

 怒っているわけでも、隠しているわけでもない。ただ、そういうものだと思っている。

 ふと、長野の諏訪地方にある御柱祭を思い出した。

 七年ごとに開催される諏訪大社の神事だ。毎回死傷者が出る。それでも続ける。地元の人間は誰も止めようとしない。神事だから、という一言で全て終わる。

 行政も警察も、事実上手を出せない。いや、行政や警察すらも手を出そうとしない。そういうものだからだ、次は注意して死なないようにしよう、という感じだ。

 そして遠野でも同じことが起きている。

 顔が曲がって死ぬのは神様の祟りだ。だから大事にしない。警察が来ても迷惑そうな顔をされる。

 田舎ってのは怖いもんだ。

 都会とは別の論理が動いている。法律より先に、土地の論理がある。



 ヤママユ会と小野寺の接点も確認できた。

 やはりつながっている。

 だが、それは「馬肉を売った」程度のものに過ぎなかった。

 その程度では証拠にならない。動けない。


 現地の聞き込みで面白い話を聞いた。

 以前このNPOが地元の職人に桑の木を提供していたらしい。その職人が誰かの依頼でオシラサマの人形を作ったという。

 オシラサマの人形。

 山村パターソンの現場に落ちていたものと同じだ。

 繋がっている。

 確実に繋がっている。


 現時点では証拠としては弱い。だが、捜査というものは地道なもんだ。ひとつひとつ糸を手繰り寄せていき、一つの大きな証拠にしていくパズルのようなものだ。

 俺を舐めるなよ。



 以上、現時点のメモ。

 上への報告書は別途作成する。

 ただしこのメモは報告書には書けない内容を含む。


 「顔が曲がって死ぬのは神様の祟り」


 そう言って片付けたい気持ちはわかる。

 説明がつかないものには、そういうラベルを貼りたくなる。

 しかし俺は刑事だ。

 説明がつかないものを、説明がつかないままにしておくわけにはいかない。

 たとえ、説明がついた結果が——俺の常識の外にあったとしても。


                  栗下林太郎

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