魔王見学!質問タイム!
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「さあ、着いてきてくれ。少し歩くが、ここからならそんなに遠くない」
俺たちは立ち上がり、歩き出した博士の後を黙ってついていく。
後ろから博士を眺める。
今にも消えてしまいそうな弱々しい小さな背中だ。一見すごい人には見えない。
でも、確かにあの背中は色んな重荷を背負いながら戦い続けた人の背中だった。
その事実を思うと、言葉にならないものが胸に残った。
「それにしても博士はすごいですね」
「すごい?私がか?」
博士は心底理解できないといったような表情を浮かべた。
「その通り!博士はすごいのです。あなたは見る目がありますね!」
「いやいや、HIRARI。それは身内びいきというものだ。私などただ年齢を重ねすぎただけの凡夫にすぎない。非凡な私では結局なんにもなすことができなかったのだから」
博士は自嘲するように呟いたのに対し、
「そんなことないわ」
「ええ、そんなことありませんわよ」
即座に俺の母とトリカがそう返した。
「自分では気づいていないようだけど、あなたはある種不可能を可能にしているわ。頑張り続けるのも、生き続けるのも、どちらもとっても難しいことよ。わたくしが言うのもなんだけど、あなたはもっと自信を持ちなさい」
「諦めないっていうのは、立派な才能よ。きっとあなたが諦めていたら、HIRARIさんもすぐに諦めていた気がするもの」
うん、俺もそう思う。二人が俺の言いたいことを上手く言語化してくれた。
「…ハハハ、あなたたちにそう言われると、本当にそう思えてくるよ」
「もう、なんで博士は私が褒めても素直に受け取らないのに、他の人に言われると嬉しそうにするのですか」
「そりゃ、HIRARIは何をしても私を褒めてくれるからな」
「全て本心ですのに、心外です!」
…なんか、二人の幸せそうな表情を見てるとさ、「この二人には一生そうやってイチャイチャしていてほしい」そう思わずにいられなかった。
「おっと、そうだった。私は話すのがあまり得意ではない。先程の説明も、きっと過不足なく話せてはいないはずだ。まだまだ歩くことになるだろうし、その間に質問を受け付けよう」
「あ、じゃあ俺から超基本的なことをいいですか?」
「ああ、もちろん」
「語った話を雑にまとめると、博士と始祖さんと魔王のお陰で現状の宇宙はどうにかなっている。それで、現状をなんとかするために俺たちに頼りたいみたいな認識でいい?」
「だいたいそのような感じだ」
「うん。それが分かれば俺はいいや。俺からの質問は以上だ」
まだ色々理解が追いついていないところもあるけれど、細かいところなんてどうでもいいんだ。頼られたなら頑張る。それくらいの気楽なスタンスの方が、俺らしいからな。
「ねえ?そもそもなんで私たちに魔王を壊して欲しいって頼んだの?」
「それはだな。おそらく私の寿命が近いんだ。もう数日の間に、私は死ぬだろうからな」
死ぬ前にどうしても決着をつけたいんだと、まるで朝起きて家族に挨拶するような表情でそう語った博士は、自分の現状を述べだした。
最近鮮明に死の足音が聞こえてくる。眠る時間が長くなり、いくら眠っても目の下のクマが消えなくなった。おそらく死期は近い。理論上は無限に生きていられるはずなのに、理論では片付けられないほど長生きしてしまったのだろう。
そして、博士が死ぬと魔王は暴走する可能性が高い。なので、博士の死はある意味タイムリミット。
俺たちが来なければ博士の死がトリガーとなり、この惑星ごとチリにする爆弾を始祖さんに爆発させてもらうつもりだった。そこまでやっても魔王が破壊できるかは分からないが、氷に対処できない博士たちができる手段はこれしかない。
もちろんできればそんな手段を取りたくない。
だから、運命なんてものともしないような俺たち勇者一行に頼んだ。
そういった事を続けて話してくれた。
「博士は死にません。私が決して死なせません。お願いですからそんなことを言わないで下さい!」
「ごめんな、HIRARI」
あの博士の顔は、自身の死を完全に受け止めている顔だ。きっと本当に寿命が近いのだろう。
「少し湿っぽい空気にさせてしまったな。すまない。さて、改めて質問を受け付けよう」
博士がコホンと咳払いして、強引に流れを変えると、ウツギが手を挙げた。
「ねえ、うちからも質問いい?」
「ああ、どんな質問でも大丈夫だ」
「宇宙の滅びって、具体的にはどういうものなの?うちにはそれがしっくりこないのできればもう一度説明してくれない?」
「そうだな。説明が難しいが……まず、何もしないとどうなるかを話そうか」
博士は、前提として魔王の死は宇宙の死だと語った上で、説明を始める。
何も手を打たなければ魔王が暴走し、宇宙も共に巻き込んで暴走――全てを巻き込んで宇宙はこの世から消え、無となる。
要は、人も惑星も星もなんにも存在しない、ただの宇宙に塗り替えられるのだ。
一方で、魔王を破壊した場合には、宇宙は滅びずに全てのエネルギーが停止し、時が凍結したような状態になる可能性が高い。
もっとも、その停止に至るわずかな時間で、Eエネルギーによって歪められたいくつもの宇宙のルールが元に戻るのではないか――それが博士の見立てだった。
「なるほどねえ。宇宙の滅びについてもなんとなく理解したわ。それに、魔王を壊すと男女比が元に戻る可能性があるってわけね。うん、うちからの質問はもうないわ」
「はいはーい!僕もしつもーん。なんで二人でずっと戦ってきたの?誰かを頼ればよかったじゃん」
「それはできない」
「なんで?博士が犠牲になる必要なんてないじゃん。こんな大きな事、みんなで取り組めばいいのに」
「ふふふ、お気遣いありがとう。でも、私は犠牲になったとは思っていないよ。私は私のやりたいことをやっていただけだ」
「……」
「おっと、質問に答えてなかったね。その回答だが……この惑星の全てはEエネルギーで成り立っている。それは、私がクチナシがこだわったこのエネルギーを信じたからだ。ただし、Eエネルギーが不安定なのは確か。いわばこの惑星は、どこもかしこも時限爆弾のスイッチがあるようなものなのだ。そんな惑星に人間がやってくると、変な奇跡が起こり、不都合が起こる可能性は極めて高い。誰でもいいからと呼ぶわけには行かなかったのだ」
「…そう」
「だから私は最低限ルールを設けた。せめてこの星間断絶を突破してやってくるような――それこそ運命をものともしないような人なら、協力しようとね」
「だから、僕たちに頼んだんだ」
「ああ、概ねそうだな。他の理由としては、君たちが若いことも理由の一つだ。これは運命の糸計画で判明したことなのだが、運命に大きく影響を与える人というのは特徴があるんだ。若者特有の勢いと、湧き上がる勇気と自信を持つ。そんな人が奇跡を起こす可能性が高い。だから、私のような老兵にはもう運命をどうすることもできないというわけだ」
「ふーん……でも、最後の結論だけ違うと思うなあ……だって、僕のおばあちゃんは言ってたもん。『老兵には老兵にしかできない役割がある』って。だから、博士にしかできないこともきっとあるんだよ」
「…ふふ、そうかもしれんな。さて、質問は以上かな?」
「これは質問ではないのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、ヨヒラ君。何かな?」
「私はあなた方二人が調べ上げた全てのデータを参照したいと思っています。ですので、禁書庫のデータにアクセスする権限が欲しいのです」
「ああ、もちろん構わないよ」
「ありがとうございます」
「さて、と。さあ、そろそろだ」
色んな扉を開き、ワープし、たどり着いたこの場所。
ここが地球の中心に一番近い場所。
「これが最後の扉だ。これを開けると、氷に包まれた空間に繋がっている。くれぐれも氷には触らないようにね」
さらに博士は「気を強く持つように」と注意したのち、慣れた手つきで扉を開けた。
そして、そこには――この空間には身悶えするほどの闇が立ち込めていた。
目の前には黒くて巨大な氷。こんな氷、見たこともない。
周りを見ると、みんなや、この空間に慣れているはずの博士や始祖さんまで顔を真っ青にして、ブルブル震えていた。
多少余裕がありそうなのは、俺とクスネくらいか?俺は多少ゾワッと背筋が冷えた程度だな。
「この氷については何度も調べたが、ついぞ完璧に正体が分かることはなかった。分析できた一部の氷の成分構成は、負の感情エネルギー、消え去った魂の残滓、エネルギーの残滓、エイリアンの汚染物質などだな」
「博士の予想としてはこの氷はどんなものなんだ?」
みんなが大変そうなので、俺が代表して質問する。
「正体が分からない以上、Eエネルギーに関するものの可能性が極めて高い。あれは今でも謎が多いからね。ただ、Eエネルギーは不完全だということは分かっている。よって、私はこの氷をEエネルギーのデメリット、負の副産物のようなものではないかと私は予想している」
「Eエネルギーのデメリットねえ…」
なんかその予想、絶妙にしっくりこないな。なんでだろう?
「これは私では壊すことができなかった。ただ、ウツギ君。Eエネルギーでできた無敵のバリアを壊し、勇者と呼ばれている君ならば、もしかしたら壊せるのではないだろうか?」
確かにウツギの進化した黒炎ならば、この氷は壊せるのかもしれない。
けど、なんだろうな。
(この氷、壊すのではなく、溶かしてやりたい)
理由は分からない。ただ、そうすべきだと感じていた。
「そして、目をよく凝らして見てくれ。分厚い氷に覆われてはいるが、奥がぎりぎり見えないか?あれが魔王の正体だ」
次回予告:ハーレムは痛い




